新聞・雑誌のクリッピング、広報効果測定・報道分析のデスクワン

TEL:03-3813-7661お気軽にご相談ください

トップ > 広報効果測定サービス > インタビュー(ケーススタディー) > 2022年3月

ケーススタディー: 最終回

取材ノートは19冊に。積み上げると高さ13センチ近くになりました

本連載最終回、取材ノートから振り返る

名物広報からSNS「中の人」まで多士済済
「格闘する発信者たち」に幸運あれ!

1998年4月号からスタートした本連載「ケース・スタディー」は今回で最終回となります。企業を中心に業界団体や自治体、時には大学にまで範囲を広げ、広報・PRや宣伝担当、経営者、研究者のインタビューをお届けしました。筆者が担当になったのは2013年2月号からで今回を含めその数110回。最終回は過去にインタビューした中から、印象に残ったエピソードや裏話を取材ノートから振り返ります。
「名物広報」たち

私にとって広報といえば、この人の顔が真っ先に浮かびます。故人となられてしまいましたが、元VAIO広報の朝倉美和さんです。朝倉さんには2015年5月号で登場していただきました。

「VAIO」は元々ソニーが販売していたPCブランドでしたが、2014年に分社化されました。ソニーが好きで入社したという朝倉さんから取材中に出たのが「ソニーを見返したい」という言葉でした。専門誌で「VAIOの名物広報」として知られていた朝倉さんは、「私は常に自社製品の魅力だけをPRするようにしています。メディアによって情報提供の仕方を変えることはありません」と広報はいつも「直球勝負」。製品を「我が子」と呼び、「一番のVAIOファンは私」と言い切りました。朝倉さんのVAIOへの愛情と熱情、忘れません。

「名物広報」はメディアといった社外に人脈を持っているだけでなく、とびきりの社内の事情通であることを忘れてはいけません。テレビのクイズ番組などで「京急博士」と言われた飯島学さん(2016年3月号)もその一人です。

飯島さんの広報「鉄学」として、「普段は表に出ない職員の思いを私がつないで表に出していく。様々な職員をつないでいくことが広報の使命」と語ってくれました。イベントなどで黄色のヘルメットとチョッキ姿で登場することも多い飯島さん。安全対策担当時の上司から譲られたものだといいます。裏方として鉄道を支える人の思いも背負っていることがうかがえました。

埼玉県人のソウルフード、山田うどんの広報、江橋丈広さんも名物広報として外せません(2018年9月号)。ももいろクローバーZの高城れにさんのラジオ番組にもゲスト出演するなど、後にも先にもトップアイドルと一緒にラジオ出演する広報は江橋さんくらいでしょう。

そんな江橋さんですが、ある時、テレビ局からの出演依頼のファクスを受け取ったばかりに、「テレビ局との窓口になり、挙げ句の果てに『広報担当』としてテレビデビューしてしまいました」というユニークな人でした。「山田うどんにいいイメージを持っていなかったですね」と語り、広報として「山田者」と呼ばれる熱狂的なファンと触れ合ううちに「山田うどん、いいじゃん」と考えが変わっていったと言います。

「山田うどんが偉そうにならないように、敷居の高い存在にならないような言い方を心掛けています」と話す江橋さんは、多くの人を引き付けてやまない山田うどんそのものでした。

広報活動が映画に!ドラマに!

新垣結衣さん主演でテレビドラマになった「空飛ぶ広報室」。舞台は航空自衛隊航空幕僚監部広報室。テレビディレクターと元戦闘機乗りのパイロットの2人が新しい夢を見つける姿を描き話題を呼びました。

同室広報班の赤田賢司さんは取材の冒頭でこう言いました。「取り扱い“商品”は航空自衛隊」。この意味を読み解くために赤田さんの言葉を追った取材でした(2013年5月号)。「スポットCMは打てないけど、番組に協力すればいい」と取材やテレビ番組への協力は惜しまない姿勢に驚きました。ドラマの担当としてロケ地を駆け回る最中で、サービス精神旺盛な赤田さんは撮影の裏話も聞かせてくれました。

アニメやゲームといった空想上の構造物をつくったらいくらかかるのか、そんな難題に取り組み自社のウェブコンテンツとして発信したのは、前田建設工業の「ファンタジー営業部」です(2013年7月号)。

このユニークな取り組みを知ったのは「演劇ぶっく」でした。劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠さんと前田建設広報グループ長の岩坂照之さんの対談を読み、インタビューを申し込みました。「異業種なので大変盛り上がりまして」と岩坂さんがすごく照れていたのを覚えています。

「ファンタジー営業部」はまず書籍化され、次に舞台化、ついには映画にまでなり2020年1月に公開されました。「こそっと前田建設のホームページで始めた」ものを専門紙のコラムで取りあげたのが最初のメディア露出だったというのが信じられないくらい、転がって転がって大きくなっていった広報活動でした。

社会貢献活動

メディアに大々的に取りあげられなくとも、企業の地道な活動が社会の共感を呼ぶことは珍しくありません。企業の社会貢献活動も多く紹介しました。

中でも2014年2月号の富士フイルムの「写真救済プロジェクト」が印象に残っています。震災から3年、海水や泥で汚れてしまった写真を洗浄して持ち主に返すプロジェクトは、写真を扱う企業として何ができるのかという問いに向き合った記録でもありました。

プロジェクトリーダーの板橋祐一さんとサブリーダーの吉村英紀さんにお話を伺い、広報の位下幸太郎さんにもフォローしてもらう形で取材は進みました。リーダーの板橋さんは時折、言葉を飲み込み被災地に思いを馳せていました。エコカーを借りて被災地に入った板橋さんは、避難所のリーダーからこんな言葉を聞いたといいます。「1枚の写真がこれから生きていく支えになる」。この言葉を聞き、「写真の復旧はライフラインと同じくらい意義あることかもしれない」と、プロジェクトの意義を見出したと語ってくれました。

こうした取り組みを社会に広く伝えたのが広報でした。吉村さんも「『写真を形にして残すことの大切さ』を訴えながら、メーカーとして商品やサービスに反映していくのが我々の使命」と話してくれました。「メーカーの使命」という言葉に強い意思を感じましたし、本業を通じた支援に大いに共感を覚えました。

スポーツ・文化の発信

プロ野球の球団広報に学ぶところは多いと思い、横浜DeNAベイスターズ(2015年11月号)と埼玉西武ライオンズ(2021年10月号)を取材しました。ベイスターズは広報・PR部の河村康博さんに、ライオンズは広報部の服部友一さんにインタビューしました。

熱いファンに支えられるプロ野球。近年ではチームが強いから球場に足を運ぶのではなく、スタジアムで野球を観戦すること自体がエンターテインメントだと、球団広報はフードや演出、イベントなどさまざまな工夫を凝らしています。河村さんは球場に足を運んでもらうために「野球を、スタジアムをひらいていく」という言葉で未来を語りました。服部さんは元アナウンサーらしく「企業主導で継続的に発信し『質の高い露出』を目指す」と話してくれました。

スポーツ選手を取材した後の爽快感は格別です。乃村工藝社所属でリオパラリンピックに出場した西崎哲男さんと西崎さんをサポートするスポーツぶんか事業開発室長の原山麻子さんはまさに名コンビでした(2017年6月号)。写真撮影でもお2人が雑談するカットを使用しましたが、自然でいい表情をされていました。

企業とアスリートを結ぶ就職支援制度を通じて同社に入社した西崎さんは当初、同僚と仕事上の話や普通の会話ができない状態に「お客様みたいやなと思っていました」と一言。ある試合会場で西崎さんにこう話しかけたのが原山さんでした。リオパラリンピックを控え、記録が伸びない西崎さんに「会社として仲間としてできることはないか」と聞いたのです。さらに原山さんは西崎さんに「何が必要かをまとめ、レポートにして提出して」と言ったそうで、それには私もお2人も大笑いでした。

そこから名コンビは東奔西走します。セミナーで実演したり、パワーリフティング部を作ったり社内に仲間を増やしていきました。原山さんは「期間限定の『支援』ではなく永続的に支えていきたい」と強調しました。その原山さんもパワーリフティング部で競技を始めました。もちろんコーチ役は西崎さん。名コンビから発せられる「仲間」という響きが心地よい取材でした。

広報・PRの新潮流

これが広報活動?と思う向きも多かったのではないでしょうか。2017年にクレディセゾンの女性社員によって結成されたアイドルグループ「東池袋52」を2017年12月号で紹介しました。

取材を依頼したタイミングは第3弾シングル「あきセゾン」をリリースした直後でした。企業アイドルというだけでも面白いのですが、筆者の関心は別のところにありました。「東池袋52」の総合プロデューサーの相河利尚さんはおじいさんが大車輪をしたり、女性が頭突きで瓦を割ったりして世間を驚かせた「永久不滅ポイント」のCMを手掛けてきた広告宣伝業界では有名な方です。マス広告でなくなぜゲリラ的なPRなのか興味がありました。若年層には、これまでの広告手法が効かないということで、「PRを含めて新しい施策を打ち出す必要がありました」と明かしてくれました。

2017年5月にリリースされた第1弾「わたしセゾン」で一気にブレーク。公式サイトでプロモーションビデオを公開するとネットを中心に拡散されていきました。取材には、当時圧倒的な存在感でセンターを務めた髙栁茉里さんも同席。特別に12月に出る新曲「雪セゾン」のデモ音源を聴かせてもらいました。サビがずっと耳に残り、思わず「これは素敵すぎる。ずっと続けてください」と懇願してしまいました。

企業の公式Twitterアカウントの「中の人」が運用の秘訣を語ってくれました。企業アカウントを代表する存在といっていいタニタ公式さんへのインタビューも実現しました(2018年12月号)。

「広告でも宣伝でもない、エンドユーザーとの双方向のコミュニケーション」とタニタ公式さんはTwitterをとらえます。140文字のつぶやきで企業イメージを親しみやすく変えていく様子が語られています。取材中は顔出しでのインタビューでしたが、写真撮影ではしっかりお面を用意される周到さ、さすがでした。

ご愛読ありがとうございました

名残惜しいのですが、そろそろ取材ノートを閉じる時が来たようです。インタビューはおよそ50分、文字量にすると2万字ほどになることもありました。それを約5000字にまとめ、最近では4ページで展開していました。

最後にもう一つエピソードを。他人を執拗に否定したり批判するようなコメントや発言する人のことを一般に「アンチ」といいますが、A社もネット上でアンチに叩かれていました。広報はこうした逆風下でも発信しなければなりません。そんな時に「皆さん格闘されていますね」と本連載の過去記事を評し、取材を快諾してくれたのがA社の広報担当さんでした。そして、広報担当さんは出来上がった記事を見て「文章にしていただくことで私自身が大事にしている信念を認めていただけたような気がしました」という感想をメールで送ってくれました。

広報・PRの事例を多くの読者の皆さまにお読みいただくことはもちろんうれしいことですが、記事が取材先の方々の力に少しでもなれたとするなら、これほどの喜びはありません。こちらこそ、ありがとうございました。

いつかまたどこかでお会いできますように。「格闘する発信者たち」に幸運あれ!

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。