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ケーススタディー: AOKI様

AOKI
広報室 室長
飽田翔太氏

AOKIの『パジャマスーツ』、ロイター通信の報道がブームの火付け役に

コロナ禍の新生活様式にスピード対応
広報室長自らリリースなどにモデルで登場

総務省の家計調査によると、2001年に1万円を下回った1世帯当たりの背広服の年間支出額は、2019年には4716円にまで落ち込んだ。そこに追い打ちをかけたのが新型コロナの感染拡大。テレワークの浸透でスーツを着る機会が減少するなか、AOKIの『パジャマスーツ』は、20年11月の発売から1年で販売数は累計7万着を超えた(21年12月10日現在)。この現象自体が異例のことだが、ヒットの要因も異例ずくめと言っていいかもしれない。開発期間は通常より大幅短縮の約5カ月、発売後の商品名変更、ブームの火付け役は海外メディアによる報道――。そして、リリースやPOPのビジュアルに登場するのは飽田翔太広報室長だ。コロナ禍のピンチをチャンスに変えた『パジャマスーツ』の広報活動を追った。
『パジャマスーツ』が絶好調です。はじめにヒットの要因をどう分析されていますか?

累計販売数は7万着を超えました。今AOKIでご提案を最も強化している商品ですので、売り場の一番目立つところで提案しています。

一言で言うとヒットの要因は「スピード感」ということになります。お客様のニーズをいち早くヒアリングし、関係各所が一丸となって商品を具現化するための企画を進め、しかもスピード感を持って発売したということに尽きると思っています。

『パジャマスーツ』投入の背景は?

商品企画上の市場環境の背景を少しご説明しますと、最近では温暖化・ヒートアイランド化ということが世界的に騒がれています。春と秋が短くなって夏が伸びていくなかで、一つの商品をできるだけ長く着用したいというご要望が増えています。SDGsや服装の自由化の流れもあります。こういった市場環境下で、ビジネススーツに対するお客様ニーズは大きく変化しています。

そんな時に新型コロナウイルスが到来してオフィスで働いていた方がご自宅で仕事をされるようになりました。オンラインで仕事をする場合もあれば、家事をすることも外出することもあります。テレワークの中でもさまざまな着用シーンが出てきます。

そういった時にどういったビジネスウェアを着ればいいのか分からないというお客様の声が、AOKIの全国約600店舗の中から聞こえてきました。こうした声にお応えしたいと『パジャマスーツ』の企画がスタートしたのが2020年5月末から6月頃になります。

コロナ禍で大きく変化するニーズに合わせ、商品化までの期間が短くなっています。

コロナ禍になってスーツを着られる機会が減り、AOKIも2020年度ではスーツの販売着数が前年よりも約15%減少しています。新しい商品をご提案していかないと生き残れないという危機感を持っています。

そんななかで、まず当時社会的に不足していたマスクをご提供しました。それが『ダブル抗菌・洗えるクールマスク』です。20年3月くらいから本格的に企画を始め5月には商品を出しました。オンラインで発売したところ、瞬く間に注文が殺到し、サーバーがダウンするほどの大きな反響をいただきました。お客様が今欲しいものをスピーディーにご提案することの大切さを会社全体で学びました。

例えば、11月に企画しているのは翌年の秋のスーツです。このように通常1年くらい前から企画がスタートしますが、コロナ禍という状況下では、「今お客様が欲しているものをできるだけ早くお届けしたい」と考えました。商品企画チームだけでなく、営業、販促など関連部署が同じ思いをもって一体となって進めていかなければ、このスピーディーな発売は難しかったと思います。

コロナ以前から異業種からの参入もあり機能性スーツ市場が活況化していました。『アクティブワークスーツ』もまた『パジャマスーツ』と並ぶヒット商品になりました。

『アクティブワークスーツ』は、『パジャマスーツ』に少し遅れて2021年2月に発売しました。両者は完全にコンセプト・ターゲット層が違います。

『パジャマスーツ』は、リモートワークを含めてご自宅でリラックスしたシーンでも着れるスーツですが、『アクティブワークスーツ』はより気軽にスーツの装いを楽しんでもらえるように、そして多能工にご着用いただけます。言ってみれば『パジャマスーツ』はカジュアル寄りで、『アクティブワークスーツ』はビジネス寄りの商品となっています。

『ダブル抗菌・洗えるクールマスク』『パジャマスーツ』の反響を受けて開発したのが『アクティブスーツ』で、スポーツウェアのような機能性に加えスーツ専門店の強みを活かした立体縫製で仕上げています。そしてコロナ禍でのスピード感は『アクティブワークスーツ』の発売にもつながっています。12月くらいから企画して2月に出しているので、開発から3カ月程度で発売にこぎ着けたことになります。

『パジャマスーツ』は、当初20年11月に発売した『ホーム&ワークウェア』の一つとして打ち出されました。『パジャマスーツ』という絶妙なネーミングはどこから出てきたのでしょうか?

20年11月のリリースでは『ホーム&ワークウェア』として出しましたし、当初はそれでスタートしましたが、コンセプトは初めから「パジャマ以上・おしゃれ着未満」ですので、ニュースや店頭のPOPにも「パジャマ」という言葉が入ってはいました。また、お客様からも「パジャマみたいなスーツ」といった声も上がってきました。社内でそういった声を共有しながら「それなら『パジャマスーツ』という呼び名に変えてしまおう」という方針が出たのが20年12月初頭だったと思います。

方針が出た翌日か翌々日だったか、売り場のPOPはまだ『ホーム&ワークウェア』のままでしたので、緊急対策として『パジャマスーツ』の文字を上に貼り付け、提案の方法やセールストークも変更しました。

また、リリースも「パジャマスーツ」という文言に書き換え配信することになりましたが、メインビジュアルの写真がありません。文章だけでリリースを出すわけにはいかず、写真を私で取り直すことにしたのです。すると、その週にロイター通信さんから取材が入り、一気に話題になっていきました。

モデルを立てる時間がなかったというわけですね。

「時間がなかった」というマイナスの感じではなくて、「今これを提案しないといけない」と、むしろポジティブにとらえました。いい商品であっても世の中に広まらなければ意味がありません。どうすればメディアの取材が獲得できるか、今話題の商品であることを認知してもらうにはどうしたらいいのか。それにはまずは『パジャマスーツ』というワードがついてすぐのタイミングで世に出すことだという思いがありました。

スピーディーなPRが必要であれば私自身の写真を使ってもらい、リリースを書いて取材を受けた方が、誰か他の人のスケジュールを調整するよりも断然速いのです。当然しっかりと準備して年明けから動くこともできたのですが、一日も早くと心掛けていましたね。

当時は毎日『パジャマスーツ』のことしか考えていませんでした。リリースを手にメディアにファクスを1件1件流したり、テレビの記者さんにPRをしたり、当時広報は2人(現在は3人体制)しかいませんでしたので大変でした。

『パジャマスーツ』関連の取材はこれまで50件以上になるでしょうか。過去にこんなに取材を受けた商品はなかったと思います。テレビ、新聞、雑誌などでの露出は国内外で21年春の時点で計1000件を超えていました。

モデルをされましたが、ポージングも決まっていますね。

前例がないのでとにかくやるしかありませんでした。素人なので親しみやすい印象を持ってもらえるように心掛け、『パジャマスーツ』をお客様にご提案する気持ちで取り組みました。POPのビジュアルに従業員が使われているケースはやはり珍しいのではないでしょうか。会社にとっても貴重な経験だったと思います。

お話にもありましたが、『パジャマスーツ』はロイター通信での報道をきっかけに海外メディアの注目を集め、20カ国あまりで紹介されました。世界的な通信社がなぜ目を付けたのでしょうか?

リリースを出して2、3日間は国内のウェブ系のニュースで取りあげられたくらいでしたが、ツイッターでは『パジャマスーツ』という名前がキャッチーだったのか随分と話題になっていたんです。

海外には日本よりもテレワークの普及率が高い国がありますよね。特に米国は80%を超えていると言われています(2015年、米WorldatWork統計)。世界的な通信社にとってテレワーク用のスーツが新鮮に映ったのではないでしょうか。コロナ禍に対応した「とがった商品」として20カ国あまりで紹介されました。

そして、“逆輸入”という形で国内メディアに相次いで取りあげられました。

ロイター通信さんの報道を受けて、1月12日に配信したのが「世界中で話題騒然!20ヵ国以上で報道されたAOKIの『パジャマスーツ』はかつてないほどの着用シーンを実現!」というタイトルをつけたリリースです。このリリースを持って国内のメディアさんに売り込んでいきました。

キー局を中心にテレビ局さんにキャラバンをかけました。キャラバンは通常の商品でもやっていますが、『パジャマスーツ』ではさらに強化して行いました。

もちろん商品力があるからだと思いますが、これほどまでにメディア誘致に力を入れたのはなぜですか?

通常の商品ですと、主要媒体のテレビCM、DM、チラシ等に広告を出すのですが、『パジャマスーツ』は出していませんでした。できなかったというのが正しいのかもしれません。『パジャマスーツ』は発売当初はまだお客様からの認知度も低く、かけた経費を回収できる見込みが立たなかったのです。

まずはリリースを出してPRを軸にマーケティングを進めていきました。ですので、広報としては責任重大でしたね。とにかく1件でも多くの取材を獲得してPRすることを心掛けていました。

結果的にこれだけのヒットにつながったのは広報の力だけではないと思っています。商品企画チームも20年の秋、そして21年の春、秋とスピード感をもってラインナップを拡大し、素材の調達から取引先との交渉まで尽力しました。それは他の部署も同じで『パジャマスーツ』のための社内が一致団結して全力投球した成果だと思っています。

実際に『パジャマスーツ』を店頭で試着してみましたが、とても柔らかい素材ですね。

パジャマのリラックス感とスーツのきちんと感をいかに両立させるか。そこが商品開発では最も苦労した点になります。

発売当初は、ハリのあるダンボール構造のダンボールニット素材と、ストレッチ性が特徴のメランジジャージー素材の2種類をご用意しました。スーツをリラックスして着ていただける素材は何なのか追求しました。

洗濯にはポリエステルが最適で、保湿性を高めるためレーヨンを入れ、ソファーで寝転がってリラックスできるようポリウレタンも使い、膝が抜けないように、ヨレヨレになってはいけないのでナイロンで強度をつけました。大きくこの4つの素材で『パジャマスーツ』はできています。

飽田さんは、日経クロストレンドの「マーケター・オブ・ザ・イヤー2021」に選ばれました。

ご評価いただいたのは『パジャマスーツ』で、私は……恐縮の極みです。

今の時代、スピーディーにPRするということが重要でありキモであるということを実感しました。営業、商品、販促の各チームが一丸となっていただいた賞だと思っています。私自身、ビジュアルとして前に出て宣伝させてもらっていますが、その裏側には本当に愚直な作業の積み重ねがあります。私一人でできることは限られています。そこを忘れないでいたいと思っています。

『パジャマスーツ』の取材をお断りした記憶がないほどで、いつ取材が入っても対応できるように広報もまたチーム力でカバーし合ってきました。キー局だけでなく地方局も行きましたし、どのメディアに対しても同じ熱量で臨んでいたら1年が過ぎていました。

小売業の広報・PRは商品がなくては何もできません。『パジャマスーツ』という皆さまに支持される商品のPRができることは広報冥利に尽きると言っていいと思います。

いい商品があっても取材をしていただけないことの方が多いのです。「商品がいいのは分かったけれど、それは世の中の関心事ではない」と言われることは日常茶飯事です。ところが、『パジャマスーツ』はコロナの影響で働き方が大きく変わった中での商品でしたので、PRをすればするほど露出が増えるという結果が出ました。

2021年10月には『パジャマスーツ』をはじめとするカジュアルウェア領域の新戦略を発表されました。
10月に開催された『パジャマスーツ』の記者発表会。AOKIホールディングス青木彰宏社長(左から3人目)は「秋冬は品揃えを前年の10倍に増やして訴求を強める」と述べた

AOKIの発表会で初めてオンライン配信を取り入れました。100名ほど入る会場でしたが、感染対策を加味しますと、50名ほどしかお席をご用意できなかったので、リアルだけでなくオンラインでも配信しました。

『パジャマスーツ』のジャケット、パンツ、インナーを含め前年の約10倍にラインナップを拡充します。『パジャマスーツ』はこの1年間、「リモートワークスーツ」としてご提案を強化してきましたが、カジュアルとしての「お出かけ着」として使っていただいている方も多くいらっしゃいます。そういったことを受けて、2021年秋・冬からカジュアルシーンでも着れる素材を使ったアイテムを増やしました。

共生地のジャケットとパンツを合わせると、さまざまなシーンでコーディネートを手軽に楽しめます。「テレワーク」だけでなく、「旅行」「お出かけ」「おしゃれ着」などのワードで幅広いシーンでの提案をしていくことで、カジュアルスーツという新しい市場をさらに拡大していきたいと思っています。

「紳士服のAOKIさん」というのが消費者のイメージだと思いますが、今後は「ライフ&ワークスタイルのAOKIさん」への転換を図っていくということでしょうか?

「郊外型紳士服専門店」という認知が根強いと思いますが、実はレディースの売り上げが全体の20%を超えています。レディースの比率を今後30%にまで拡大し、お客さまの生活に寄り添った「ライフ&ワークスタイル」という業態に進化していきたいと考えています。そのためにも3年を目途にカジュアルウェア領域の売上高100億円を目指してまいります。

もちろんスーツ市場に対しても、高機能で高品質なテーラードスーツにより一層磨きをかけていきたいと思っています。

<株式会社AOKI> 設立:2008年4月1日
機能性スーツがブームとなる一方、気になるのがAOKIの祖業でもあるテーラードスーツの展望だ。「緊急事態宣言が明け出社回数が増えたことでスーツをお買い求めになるお客さまも多いです。成人式、入学式、入社式などきちんとしたシーン、ビジネスのあらゆるシーンに、まだまだテーラードスーツを必要としていただけると思っています」と飽田室長は力を込めた。
※数値等のデータは掲載当時のものです。
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