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ケーススタディー: ファンケル様

ファンケル
広告宣伝部 広告制作グループ
課長 清水仁美氏(写真左)
広告宣伝部 企業広告グループ
課長 岩本浩昭氏

ファンケルのブランドサイト「そこまでやりますチャンネル」

顧客とのデジタルコミュニケーションを加速
多角的な企業価値をコンテンツ化、週1回発信

無添加化粧品や健康食品などで知られるファンケル。コロナ禍で百貨店内の直営店舗の休業もあったが、その影響を感じさせず社内は活気に満ちているのはどうしてだろう。探ってみるとデジタルコミュニケーションで顧客との距離を縮めているという。「正直品質。」を掲げテレビCMを中心にブランドメッセージを発信していたが、企業CMをやめ昨年10月にオウンドメディア「そこまでやりますチャンネル」(「そこチャン」)を軸にしたブランディングに切り替えた。社員のチャレンジ企画から家族の会社参観まで、ファンケルに馴染みのない人でも気軽に楽しめるコンテンツが満載。コロナ禍の発信として注目のオウンドメディアの作り方を「そこチャン」に学ぶ――。
商品CMとは別に、「正直品質。」というメッセージを企業CMを通じてこれまで発信されてきました。

清水: ファンケルは2016年にスタンスメッセージ「正直品質。」を制定しました。当時、化粧品と健康食品事業でそれぞれカンパニー制をとっており、ファンケルとしての一貫したコミュニケーションが不足しているのではという声がありました。

そこで、事業に関係なく共通して世の中に語れる「ファンケルとは」というものをつくろうと「正直品質。」というメッセージが生まれました。その「正直品質。」を企業CMの中で掲げ、当社の「正直で真摯な姿勢」を訴求してきました。

ミニチュアの研究員が登場するものですが、ご覧になったことはありますか?

ちっちゃなフィギュアですよね。どんな意味があるのですか?

清水: ミクロな視点でお客様の「不」を解消していくというファンケルのものづくりの想いが込められています。私たちは世の中の大改革を一気に行えるような規模の会社ではありません。でも、一つ一つを通じて、たとえ小さくてもお客さまの「不」を細やかに解消していくという気持ちは誰よりも強いです。

その象徴としてミニチュア研究員を登場させた企業CMを作り、「正直品質。」の認知を広げていきました。おかげさまで好感度も認知度も上がり、一定の成果はあったと私たちは受け止めています。

CMによって「正直品質。」というメッセージの認知は上がりましたが、同時にファンケルにはまだ伝えきれていない魅力やエピソードがたくさんあり、それをお伝えするのはどうしたらいいのかといった課題も見えてきました。ちょうどそのころ、社長の島田(和幸氏)から「今後の企業広告について少し考えてみてくれないか」と“投げかけ”があったんです。

島田社長から直接、よくこういった“投げかけ”はあるのですか?

清水: すぐその場で答えを求められるというわけではないのですが、「考えてみて」という問いかけはよくあります。社員はみな真面目なのでしっかり受け止め考えますが(笑)。

SDGsやブランド・パーパス(ブランドの持つ存在意義)の重要性が説かれていたころで、コロナ禍も重なりデジタルシフトも進み始めていました。こういった時代背景の中での企業ブランディングのあり方が問われていると感じ、ファンケルの特長や人格といったものがどうしたら生活者に伝わるのか考えました。

テレビCMは広く多くの人に伝えられる手段ですが、その反面、時間とお金をしっかりかけて一つのメッセージを伝えていくことになり、コンテンツ量もスピード感も足りません。もっと多角的に、デジタル技術を使って世の中にファンケルのいろんな面を見せていくことはできないかと考えたのです。

商品CMはそのままに、企業CMの放映をやめて、コンテンツを週1回アップするプラットフォームを作ってみようと岩本と相談しながら案を練っていきました。社長も「やってみたら」と背中を押してくれました。

岩本: テレビCMで15秒もしくは30秒で伝えられるメッセージというのは限られています。テレビCMのよさはメッセージを広く多くの方に何度も繰り返しお伝えすることができる点だと思います。「正直」「誠実」といった認知を得た今、もう一歩先のフェーズに入っていこうと立ち上げたのが「そこチャン」なのです。

質の高いコンテンツを毎週更新されるのは大変ではないですか?

清水: 「そこチャン」は始まったばかりでトライアンドエラーだと割り切ってはいますが、正直「週1更新」は苦労の連続です(笑)。CMは4カ月から半年かけて制作してきましたが、「そこチャン」は作り方や決定スピード、社内の連携などがこれまでとは全く違います。

「そこチャン」のコンテンツ数はどのくらいになるのでしょうか?

岩本: 11月9日時点で14種類104コンテンツになります。2020年10月にサイトがオープンし、これまで計300万PVと、多くの方にご視聴していただきました。2020年12月にデジタル広告の配信を開始し、サイトUI(ユーザーインターフェイス)の改善も既に2回行い、お客様に来てもらって楽しんでもらえるようなサイトづくりをしています。

お二人の役割分担について教えてください。

岩本: 清水のチームがコンテンツを制作して、私のチームがプラットフォームという“ガワ”を作ったり、YouTubeやSNSなどへのデジタル広告の配信をしています。また、「そこチャン」に込めた想いやサイトの面白さを伝えるためのタイアップ広告も展開しています。さらに、ただ動画を見ていただくだけでなく、広告配信などを通じ、ファンケルの商品に興味を持ってもらえるようなプラスアルファの取り組みをしています。

「プラスアルファ」と言いますと?

岩本: コンテンツは見せ方と、広告配信するかしないかで反響が大きく変わってきます。

昨年10月から11月にかけて配信した「FANCL号が行く」というドローンを飛ばして当社の施設をめぐる見学動画があります。銀座スクエアの見学動画をご覧になった方に、「ファンケル銀座スクエアでカウンセリングを受けてみませんか」と呼びかけをしてカウンセリングを募集する導線を作りました。

また、当社の人気アイテム『洗顔パウダー』の泡が実際に卓球の球を受け止められるのかという「泡ピンポンCHALLENGE」という動画が話題になりました。この動画を通して泡のよさは伝わったと思いましたので、「実際に使ってみませんか」というキャンペーンをしました。見て終わりではなく、もう一歩踏み込んでもらえるような取り組みを行っています。

清水: コンテンツとリアルな体験の施策を紐づけることで、もっとファンケルを好きになってもらいたいという狙いがあります。

コンテンツ制作はどのように行っているのですか?

清水: 広告代理店様と一緒にアイデアを出し合いながらコンテンツを作っています。社員が出ている動画が多いので、社内の調整など、広告代理店様に頼りきりでなく協業している感じですね。「そこチャン」は、お客様はもちろんのこと、ファンケルを知らない方にも見て楽しんでもらいたいと思っているので、そういった方にはどんな“癖づけ”をしたらいいのかといったアイデアやアドバイスをいただけるのは広告代理店様との協業の強みです。

社員が登場する動画が多いのが「そこチャン」の魅力ですね。

清水: コンテンツには多くの社員が出演しています。実は今、ダイエット企画を進行中ですが、社員が頑張っていますよ。

岩本: その1人はまさに「そこチャン」の担当者で、体を張ってコンテンツを作っています(笑)。

「泡ピンポン」のアイデアはどういったところから生まれたのですか?

清水: 広告代理店様からいただいたアイデアは、『洗顔パウダー』の泡立て方をコンテンツにしたらどうかというものでした。生クリームと『洗顔パウダー』では泡の質はどう違うかという内容でした。ファンケルを知らない方が見て面白いかどうかを重視していたので、もっと面白いものをとディスカッションしていって、広告代理店様の方から「卓球選手と洗顔パウダーの泡対決」のアイデアをいただき、「それいいですね」と即決しました。こうして「泡ピンポン」という企画に昇華していきました。

動画を視聴しましたが、強いドライブをかけたピンポン球が本当に泡にくっついたのには驚きました。

清水: 「やってみましょう」と言ったものの、強い打球を泡が受け止めるのかどうか半信半疑でした。制作スタッフが実験で泡に向かってピンポン球を投げてみましたが、こればかりは実際に卓球の経験者がやってみないことには……。撮影当日はドキドキで、企画が成り立たなかったらどうしようと不安でしたが、見事にペタッと受け止められ大成功でした。

岩本: 「泡ピンポン」は企画自体が面白く、SNSでも多くの反響がありました。チャレンジ動画以外に最近では「学べる健康食堂」という料理系コンテンツの中の「オクラ」編が人気がありました。

それとYouTube広告では、サプリメントの粒を落とし続ける摩損度試験機を撮影した「ただアレするだけの機械あつめてみた」シリーズの反応が良かったですね。

社内の受けはどうですか?社員の方が登場することでインナーコミュニケーションにも効果があるのでは?

岩本: 社内でもすごく反響がいいですね。コンテンツは、登場する本人だけでなく周りの関係者の協力なくしては作れません。社員が出ていることで社内の「そこチャン」に対する認知が上がってきています。

社員は「ファンケルのこういったところがいいよね」となんとなく思っていてもなかなか言語化できない部分が多いのではと思います。それをコンテンツにすることで、あらためて私たち社員もファンケルの魅力に気づく、再認識する、そんなサイトになっています。そういった意味で、インナーブランディングに寄与していると思います。

社内からも「あのコンテンツ面白かったよ」と声を掛けてもらうことが増えてきました。いろんな場面でいい効果が出てきています。

また、ファンケルファンになってくれているお客様があらためてファンケルの良さを知るツールにもなっているのではないかと思います。

清水: 「ファンケル会社参観」というコンテンツでは工場で働く社員とその家族の3組を紹介しました。工場で働く社員のもとにお子さんがやってきて、社員の案内と解説でお子さんが工場見学をしていきます。ファンケルの正直で誠実なものづくりや社員の「仕事を通じて世の中をよりよくしたい」といった想いが伝わればと企画しました。

出ている社員には、「ファンケルで働いている想いを自分の言葉で家族に伝えてほしい」とだけ説明しました。お子さんが途中で親(社員)への手紙を読むシーンがあるのですが、これは社員には内緒にしてサプライズで行いました。その時の社員の驚いた表情がリアルでよかったですね。

当社は研究開発型企業ですので、工場や研究所が想いをしっかりと発信することは大切なことだと考えています。お客様にとっても作っている人の顔が見えると安心感を持ってもらえると思います。

「新入社員が密着!ファンケルの社長」では島田社長も登場されています。放送朝礼のライブ配信の場面もありました。社員とのやりとりから、非常にフレンドリーなお人柄が伝わってきます。ちょっと気になったのですが、台本はないのですか?

清水: 企画の趣旨を最小限伝えるだけで、台本は用意してません。社員のリアルな様子を切り取るようにしています。

社長に対してももちろん台本はありません。素のままですね。公開前に出来上がった映像を見て「これで面白いのか」と聞かれ「面白いです」と答えました。社長は「俺も面白いと思う」と(笑)。

ファンケルって「真面目で堅い」という印象を持たれがちではないでしょうか。自分で言うのも何ですが、当社は柔軟性があってチャレンジ精神も旺盛といったところもあります。真面目だけれども親しみやすさもあって、そういうところが社長の動画を通じてお見せできたのはよかったと思います。

本社ビルにある撮影スタジオ
「そこチャン」は広告代理店との協業ですが、本社にはスタジオがありますね。

岩本: 社内で一部の静止画と動画の撮影と編集をしています。「そこチャン」は高いクオリティーでしっかりとしたものを出していきたいので広告代理店様との協業で行う一方で、もっと手軽にスピード感をもってお客様に伝えたいものもあります。

例えば簡単な商品紹介やECサイトの操作手順などのHowTo動画は、自社で制作するようにしています。最近では、ファンケルの情報誌に掲載する画像や公式のSNSの画像なども自社で撮影したものがあります。

「そこチャン」を今後、どのようなサイトにしていきたいとお考えですか?

清水: 生活者にとって「人に語りたくなるファンケル」であってほしいと思っています。そこに来ていただくには自分たちから出かけて行く必要があります。そのためには広告配信だったりSNSの発信だったりメディアも活用していかないといけません。

「人に語りたくなるファンケル」――そのきっかけに「そこチャン」がなれたらいいですね。そのためにも「ファンケルってこんな会社だよね」と生活者の皆さんに語ってもらえるようなコンテンツを作っていきたいと思います。

当社の魅力をお伝えできる、もっと面白くて、もっと伝わるコンテンツを出していきたいですね。今後、企業ブランディングが再びテレビCMに回帰することもあるかもしれません。時代やその時の課題に合わせて柔軟に対応していきたいと考えています。

岩本: テレビCMから「そこチャン」にステップアップしたと私はとらえています。先ほど清水が言いましたが「そこチャン」は現状のままでいいのではなく、常に進化しながらそのあり方を模索しないといけないと思っています。

私たちの目的はファンケルの多角的な魅力をお客様に知っていただくことです。他社にないファンケルならではの情報発信をし続けたいと思います。

<株式会社ファンケル> 設立:1981年8月18日
「デジタルコミュニケーションはこの1年で急激に加速しました」と広報部の陣内真紀さんは話す。製販一貫体制を敷き、オンラインショッピングに業界でいち早く取り組んできたファンケル。「通販でもともとお客様とコミュニケーションをとっていたことも大きい」と岩本さんは指摘する。顧客とのデジタルコミュニケーションの土台は既にコロナ禍以前にできていた。コロナ禍で不便さを感じるかという質問に対し、「便利になったことも多い」と清水さん。在宅勤務も増えて「働き方改革が実感できる」との声も上がる。通販、直営店舗や卸販売、と多様な販売チャネルで、対面のコミュニケーションが制限されたとはいえ、「コロナ禍でもしっかりとお客様とのコミュニケーションはとれている」と3人は口を揃える。
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