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ケーススタディー: 西武ライオンズ様


西武ライオンズ
広報部 リーダー
事業担当
服部友一氏
1988年、千葉県生まれ。大学卒業後、鹿児島読売テレビにアナウンサーとして入社。その後、事業会社の広報、PR会社を経て、2019年10月1日に西武ライオンズに広報として入社

西武ライオンズ広報、元アナウンサーからの転身

メットライフドーム改修、内覧会に込めた思い
企業主導で継続的に発信し「質の高い露出」を

2017年12月に着手した大規模リニューアルが今年3月完了したメットライフドーム。埼玉西武ライオンズの本拠地だ。開幕前に新ドームのメディアへのお披露目をどうするか、広報の服部友一さんは悩んでいた。新型コロナが再び猛威を振るっていた時期だった。感染対策に万全を期したうえで行われた内覧会。「あらためてメディアを通じて伝えることの大切さを知った」と言う。服部さんは元地方局のアナウンサ―で、テレビ局退社後は一貫して広報に携わっている。止まらないコロナ感染、逆境下の五輪開催と社会の「分断」も進むなか、広報にとって難しい1年だった。「取材する側」から「取材される側」へ。服部さんに聞く、伝わりにくい時代の伝え方とは――。
最寄りの西武球場前駅を降りると、すぐ目の前にメットライフドームがあり、駅構内のポスターやフラッグなどライオンズ一色で観戦への気持ちが高まります。はじめに、ライオンズでの服部さんのお仕事について教えてください。

当社は西武鉄道、プリンスホテルといった西武グループの一員です。西武球場前駅を降り立つと球団歌も聞こえてきますし、大きなロゴも目に入ってきます。改札を出ればボールパークが広がるというのは西武ならではの強みだと思います。

ライオンズ広報は大きく2つに分かれています。1つは「チーム広報」で、試合やキャンプなどに帯同してチーム周りの情報を発信しています。もう1つが私の担当する「事業広報」で、それこそチーム周り以外のすべてと言っていいかもしれません。

コロナ禍で現在チケットの販売上限を設けていますが、こうしたチケットの情報をはじめ、グッズの販売情報やイベント情報、これからお話する球場の改修など会社の事業戦略を発信する仕事で、一般企業の広報と同じようにプレスリリースも書きますし、記者発表会や内覧会も行います。

ライオンズ広報になったきっかけは?

出身は千葉ですが、大学時代からこの所沢にライオンズの試合を見に来ていました。球場改修のプロジェクトは約180億円を投資する大きなプロジェクトでしたので、この大きな仕事に携わりたいと、思い切って求人に応募しました。

話が前後しますが、新卒で入ったテレビ局でアナウンサーをされていました。
「かごピタ」でMCを務める服部さん㊨(提供:鹿児島読売テレビ)

小中学生の頃からテレビ局への憧れがありました。高校生の頃にアナウンサーという職業を意識し始めましたが、きっかけは高校野球でした。地元・千葉のテレビ局では毎年、夏の高校野球応援番組がありました。その番組に出演させてもらったことがあったんです。MCの姿を見て「アナウンサーという仕事もいいな」と思うようになりました。

大学でメディア関連について学び、就活ではテレビ局を中心にマスコミ業界をたくさん受けました。その中で拾ってもらったのが日本テレビ系列の鹿児島読売テレビ(KYT)だったのです。

KYTでは情報番組のMCも担当されました。

KYTの開局は平成に入ってからになります。同局には開局以来、平日のローカルワイド番組がありませんでした。KYT初となる情報ワイド番組が「かごピタ」で、その初代MCを担当させていただきました。入社4年目に運よく回ってきたという感じでした。

実は私、それまでの下積みが長かったのです。入社3年まではほとんど記者で、メインの業務は夕方のニュース原稿をつくることでした。サツタン(警察担当)もしましたし、行政取材もしました。「かごピタ」が始まってからも並行しながら記者業務をしていました。ローカル局で人も多くおりませんので取材も原稿作成、撮影などもすべてやっていました。

情報番組のMCをさせてもらいロケでもいろんな所に行くことができました。自分で取材し原稿を書き撮影もして本当にいろんな仕事をさせてもらいました。

「かごピタ」最後の出演日がKYTの最終出勤日になりました。

その日は6月24日の金曜日でした。今でも日付を覚えています。番組の最後に挨拶させていただく時間をもらいました。挨拶にならないくらいの大号泣……濃密でしたね。

最初に入った会社でもありますし、5年3カ月を過ごした鹿児島に対して、故郷に近い感情を持っていましたからね。そこを離れるのは勇気がいることで、この先の不安も大きくなって感情が溢れ出てしまったのだと思います。

「広報」という仕事を意識されたのはいつですか?

テレビでの仕事は5年目くらいで「中堅」という立場になり、原稿や放送に自分の色が出せるようになってきて楽しい時期でした。そんな頃、ある企業を取材したところ、すごく熱意のある広報さんに出会いました。その広報さんは自分の会社の商品やサービス、ソリューションが大好きで、世に広めたいと一生懸命なんですね。どこからこの情熱がわいてくるのだろうとその人に引き込まれていく自分がいました。

取材していると広報さんの熱をもらうというか、こちらに思いが乗り移るというか、そんな瞬間がありますね。

そうなんです。取材という行為自体、まだまだアナログな部分が残っているのではないでしょうか。情とか熱とか……人と人の付き合いの中でいい記事が出来上がっていきます。双方に意見が違う場合もありますが、話しながら一致点を見出していく、そういった充実したやり取りがありました。

その広報さんとの出会いがきっかけとなり、自分のキャリアを考えるようになりました。「かごピタ」がスタートして1年余り、ここで投げ出すのは無責任ではないかという自問や葛藤もありました。ですが、報道という仕事は、毎日違うネタを扱うことも多くなります。中には本当に伝える価値のあるニュースなのか疑問に思うこともありました。それならば、継続して自分の好きなことを発信する仕事の方が自分には向いているのではないか、広報という仕事をしてみたいと考えるようになっていきました。

その後、事業会社、PR会社で広報のお仕事をされ、現在、ライオンズの事業広報を担当されています。2017年12月から進めてきたメットライフドームの改修が3月に完了し、服部さんは一大イベントの内覧会で広報に奔走されました。コロナ禍での開催となり、ご苦労もあったかと思います。

内覧会は3月8日に行いました。ちょうど緊急事態宣言が発令されていましたので、難しい判断になりました。オンラインでの開催も検討はしました。ただ、改修が球場だけでなくエリア全体にわたっていましたので、オンラインですべての情報を伝えきるのは困難だと思いました。

これまで私も記者レクや説明会をオンラインで行った経験がありますが、オンラインですと一方的な発信になりがちで、コミュニケーションが取りづらく、こちらの伝えたいことがうまく伝わらないと感じることもありました。社内で協議し、最終的には感染対策を万全に講じたうえで実施しました。密にならないように時間や班ごとの取材にし人数を分散するようにしたり、私たちの説明も最小限にするなどの対策を取りました。当日のメディアの来場者数は90社141人に上りました。

広報歴は約6年になりますが、これほど大規模なメディアイベントは初めての経験でした。スポーツ紙、一般紙、通信社、テレビなどメディアと呼ばれるところはほとんどアプローチできたのではないでしょうか。ただ、マスコミと違い専門メディアに対しては内覧会へのお声掛けはしましたが、後日あらためて日を設け、専門性の高い内容も含めて事業担当者に取材していただきました。

内覧会は広報活動において大きなポイントでした。ペナントレースが始まる3月26日でプロジェクトとしてはひと区切りになりましたが、もっと出していける媒体があると思いましたので可能な限り露出を図るべく取材対応させていただきました。改修関連の取材はその後、5~6月くらいまで継続的に獲得しました。


西武ライオンズ取締役オーナー後藤高志氏㊨と埼玉西武ライオンズ監督の辻󠄀発彦氏。竣工式の後、メディア向けの内覧会が行われた
改修プロジェクトへのメディアの注目度の高さがうかがえます。

マスコミ以外に地元メディア、ウェブメディアの取材も多かったですね。情報を届ける先として一番はライオンズファンになりますが、メットライフドームは野球だけでなくコンサートや大型イベントで使用されることが増えています。スポーツ系のメディアに限らず、多くの方々に知っていただける機会だと考えました。個人的にはテレビでの露出の獲得に力を入れました。

メディア誘致に際して具体的にどんな取り組みをされたのでしょうか?

メディアにいた時の経験を活かして、テレビ局にプランを持って売り込みました。例えば、切り口の提案を複数用意しました。往年のライオンズファンの方で西武球場からの変遷に詳しい方をご紹介するという切り口がまず一つ。その方のインタビューを通じて球場の移り変わりなど、ドキュメンタリー風にしていただけるような企画です。

もう一つは経済的な切り口と言いますか、昨年から完成ラッシュが続く所沢の再開発事業にドーム改修事業を位置づけました。所沢駅の大型商業施設「グランエミオ所沢」(第Ⅱ期)やポップカルチャー発信拠点の「ところざわサクラタウン」、「西武園ゆうえんち」のリニューアルと開業が相次ぎました。

ドームの改修だけですと、単発ニュースで尺も短くなりますが、周辺情報を加えたことで長尺かつ西武グループとしても「質の高い露出」になったのではと思います。また、すぐに放映や露出に結びつかなくても、事前アプローチや内覧会にご参加いただいたことで、後日の放送などにも活かしていただけました。

テレビでも新聞でも一つの商品だけを紹介する記事は現在あまりないのではないかと思います。自社だけでなく他社を含めて業界の情報としてメディアに提案することをお勧めします。その際には、取材の構成やストーリーをイメージしてもらえるような資料を作りプレゼンすることが大事になってきます。

コロナ禍の広報ではオンライン施策も欠かせません。メットライフドーム改修では、ファンに対してオンラインでも積極的に発信をされていますね。

3月26日の開幕戦から、バーチャル空間にメットライフドームをつくった『LIONS VIRTUAL STADIUM』を始めました。コロナの影響で完成した一部施設が6月くらいまでお客さまに開放できない状況でしたが、すべてをファンの方に見ていただきたいと、このコンテンツを立ち上げました。バーチャルとはいえ、スマホなどで気軽に視聴いただけるのはオンラインの強みですね。

「取材する側」から「取材される側」へ変わり、メディアと広報で「伝える」ということに何か違いを感じることはありますか?

「伝える」という行為自体はアナウンサーも広報も同じですが、伝え方の違いはあると思います。

テレビや新聞などメディアは不特定多数の視聴者・読者が対象です。お年寄りからお子さままで誰もが分かりやすいような原稿を書くことを心掛けていました。企業広報となると、伝えたい相手がもう少し細分化されてくるというか、ライオンズでいえば、まず球場にお越しになるライオンズファン、次に西武沿線のお客さまや遠方のファンの方といったように、発信する際は対象をそのつど細かく設定する必要があります。

伝え方一つとっても、テレビか新聞か、それともウェブの露出を狙った方がいいのか、メディアの選定までを逆算して考え、誰にどんなメッセージを伝えたいのか、事業担当と細かく擦り合わせをしています。

コロナ禍で五輪が開催され「分断」というキーワードがメディアで頻繁に聞かれました。国や企業からみてもメッセージが伝わりにくかった1年だったと思います。このような伝わりにくい時代に、どうすれば「伝わる」発信につながるとお考えですか?

大型遊戯施設「テイキョウキッズフィールド」

1回の情報発信だけではダメなんですね。これはテレビでも広報でもそうだと思います。受け手に「伝わる」には、続けることがすごく大事だなと思います。

1回のリリースが露出に結びつくことがあるかもしれません。これは商品・サービス力ももちろんありますが、運やタイミングが良かったという要因も多いのではないでしょうか。メディアが、ある情報を探していて偶然そこに引っかかったということで、ある意味「メディア主導」の発信になりがちだと私は思うのです。メディアが考えていたストーリーのピースにうまくハマる、これも露出には違いありませんが、「質の高い露出」と言えないと思います。

企業視点での「質の高い露出」を獲得するためには、メッセージを発信し続けることが大事です。私は「種蒔き」と呼んでいますが、会社がアピールしたいこと、世の中に働き掛けていきたいことを、どんな小さいことでもいいので蒔き続ければ、伝えたいメッセージがいつか芽吹くと信じています。

私たちがいま一番訴えたいのはドームの「安全性」で、それはまだ皆さんに十分に伝わっていないと感じています。リアルイベントに対する抵抗感などが根強いなか、メットライフドームはこんな取り組みをしているということを細かくお伝えしています。

ドームが安全であるという意識付けは、1回のリリースでとても形成できるものではありません。安全性をPRできることならどんな小さいことでもよくて、露出につながらなくても全く構わないのです。継続して情報を発信し、最終的にお客さまにドームが安全だということが伝わればいいのだと思います。

「質の高い露出」というお話は重要で、その露出が果たして自社のメッセージに沿ったものなのか、広報の側の検証も必要ですね。

種を蒔いて水をやり芽吹かせるということが広報の仕事で、そこに社会性やニュース性を加えることができる広報がプロフェッショナルだと私は考えます。伝えたいメッセージは何かと常に問いながら、それを発信し続けていくこと、そして記事や放送の中にメッセージが出せた時、初めて満足のいく広報活動になるのだと思います。

最後に、今後どんなことにチャレンジしていきたいのか、課題と展望などをお聞かせください。

コロナ禍で球団事業もチケット収入だけに頼らない経営が求められており、当社もさまざまな事業に着手しています。先ほどお話したバーチャルスタジアムもそうですね。球場内の混雑具合や換気状況が把握できるアプリを導入するなど、球場のDX化を進めています。ここ数年、さらに多くの企業さまと一緒に仕事をする機会が増えました。野球興行のほかに第2、第3の柱を立てなければいけないと社内でも共通認識があります。私もこういった新しい取り組みに臆することなくチャレンジしていきたいと思っています。

<株式会社西武ライオンズ(チーム名・埼玉西武ライオンズ) > 創立日:1950年1月28日
広報部は「事業広報」3人、「チーム広報」3人、部長職2人の計8人体制。メットライフドーム改修事業はマスメディアからネット媒体まで幅広い露出があった。「ネット媒体は個人の趣向や好みが反映されターゲット設定もピンポイントである分、メッセージが届きやすいですね」と服部さん。一方で、テレビや新聞などマスコミの役割は変わっていないと言う。「不特定多数に届けられるマスコミも私は重視しています。特に紙の新聞は情報が紙面にまとまっているので、興味のないことも目に入ってくる貴重な媒体です」と話す。
※数値等のデータは掲載当時のものです。
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