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ケーススタディー: 船橋屋様


株式会社船橋屋
企画本部 広報室
広報・ファンコミュニケーション担当
月岡つきおか紋萌あやめ

元祖くず餅 船橋屋のTwitter、「伝える」から「伝わる広報」へ

露出増やすより、お客様に直接情報を提供
『くず餅』愛と親近感、「ファンに寄り添う」

次代の広報を担う「旗手」は何を感じ何を考えているのか――。苦しい状況が続くコロナ禍の今、発信力を高めることが広報・PRの「ニューノーマル」につながっていく。リアルイベントが開催できない状況でも「攻めの広報」を展開する企業がある。中でも目覚ましい活躍を見せるのが広報歴2~5年ほどの新鋭だ。今月からスタートする連載「広報2021 次代の旗手」の第1回目は、創業200年を超える亀戸の老舗くず餅店「船橋屋」のTwitter担当で入社3年目の月岡紋萌さん。ファン1人1人との丁寧なコミュニケーションが身上だ。コロナ禍前は5000人ほどだったフォロワー数は今や約6万人。船橋屋の「中の人」はなぜファンの心をとらえているのか。
200年を超える老舗和菓子屋さんの広報に注目が集まっています。前回、2013年8月度で「老舗和菓子屋が広報を立ち上げる時」というテーマで取材させてもらいました。広報担当は初代から数えると、月岡さんで何代目になりますか?

私で4代目になります。2019年度入社で現在3年目ですが、今年になって広報室を立ち上げ室長の亀田(優奈氏)と私の広報2名体制になりました。広報に異動になったのが亀田が産休に入ったタイミングで、入社して10カ月後でした。

広報室の役割分担は、亀田が広報戦略やメディア対応を主に行い、私はSNSをメインにファンとのコミュニケーションやブランディングを担当しています。ファンコミュニケーションといってもマーケティングに寄りすぎるのではなく、今いるお客様との接点づくりを心掛けています。

老舗の強みは長くブランドを愛してくださるお客様がいらっしゃるということだと思います。新しいファンをつくるというのではなく、今いるファンの方々にもっと喜んでもらうということを第一に考えています。ネットを通じて会話を楽しんでもらったり、船橋屋のことをもっと知っていただいたり、ブランディングに近い仕事だと感じています。

船橋屋 1805年に創業し、2021年で創業216年目を迎えた関東風のくず餅屋。船橋屋の『くず餅』は、「小麦澱粉」を450日乳酸発酵させて蒸し上げる和菓子唯一の発酵食品。近年『くず餅』を発酵させている発酵槽から「くず餅乳酸菌®」を分離・培養することに成功。その後、乳酸菌を使った『飲むくず餅乳酸菌』や化粧水などを開発。2021年3月には「くず餅乳酸菌®」をテーマにした新業態店舗「BE:SIDE」をオープンし注目を集めた。

㊧船橋屋天神前本店 ㊨唯一の発酵和菓子『くず餅』
Twitter黎明期を第1世代、東日本大震災後に企業アカウントの「中の人」を知らしめたのが第2世代とするなら、デジタルネイティブ世代で企業ブランドの向上にTwitterを駆使する現在は第3世代と位置づけることができそうです。その第3世代を代表するアカウントとして船橋屋さんに着目しました。月岡さんはTwitter担当に立候補されたそうですね。

ありがとうございます。店舗では、216年続く老舗としてのブランドイメージを大事にしながら、お客様に寄り添う接客を行っています。その丁寧な接客のような形でSNSができないかと思い手を挙げました。入社2年目のすぐのことでした。

広報になりメディア対応やアプローチに力を入れて取り組んでいましたが、それが思うようにいかなくなったのがコロナの感染拡大でした。通販もありますが、船橋屋としては店舗でのお土産販売とイート・インがメインです。従来通りメディアを通じて店舗への集客を図るというのは、コロナ禍の世の中とズレているのではないかと考えるようになりました。

緊急事態宣言が発令された昨年4~5月にはプレスリリースの配信を一旦休止し、メディアへのアプローチを控え、今いるお客様に直接情報を届けようとTwitterに力を入れるようになったんです。

フォロワーとの距離の近さ、フレンドリーな投稿が共感を呼んでいます。

ベースになるのはファンとのコミュニケーションを楽しむ場としての運用で、そこはブレずにやってきました。日頃のコミュニケーションに加えて、キャンペーンも大事にしていています。

ファンは自分の好きブランドがキャンペーンをしていると、友人や周囲の人に広めてくれます。キャンペーンは単に新規のフォロワーさんを増やすというだけではなく、ファンの方自身が発信する機会にもなっています。私がフォロワーさんを増やしているのではなくファンの方がファンを増やしてくださっています。

ファンコミュニーケションの醍醐味ですね。

そうです。ファンをベースにした考え方が根底にあります。そもそも船橋屋の商いの基本にそうしたファンを軸にした考え方があるのです。キャンペーンも拡散のためでなく、ファンの方に喜んでもらいたいという目的で行っています。

コロナ以前は5000人ほどだったフォロワー数は6万人に迫っています(9月6日現在)。

ありがたいことに反応が少しずつ増えてきました。ただ、フォロワー数がすべてではなくあくまでも指標ととらえています。私が増やしたというよりは、Twitterの運用方針を変えたということです。商品の情報発信に加えて、ファンの方とのコミュニケーション重視に方向転換していったことが船橋屋のブランディングに合っていたのだと思います。

企業がTwitterをやるとなるとお知らせの場、広告の場として捉えることも多いかもしれません。これも一つの考え方だと思いますが、元々Twitterというのは「こんなことがあった」とか人と人が会話する場所だと考えます。そんな場に企業の宣伝や広告ツイートが入ってきたら、鬱陶しいと思われるのも仕方ありません。宣伝も必要としてくれるところに届けばいいのですが、そうでない人にまで入り込んで行くのはどうかなと思います。

毎日きちんとお客様に挨拶して会話しながら、さり気なく「こういう商品が出ます」というのとでは全く違うと思うんです。そうすると「気になっていたから買おうかな」というお客様も出てくることがあります。発信の仕方は大事ですね。

投稿数を増やしたからといってフォロワー数が増えるわけではありません。そこに重きを置いていません。あくまで日頃お客様とやりとりするなかで、「私が言いたい」というのではなくて、「お客様の方から知りたい」という時に催事や商品情報をお知らせするようにしています。「もし気になる方がいたらどうぞ」いったテンションですね。

Twitterを担当され6月で1年が過ぎました。日々の投稿では、ご苦労もおありかと思います。

1日10投稿しないといけないなどと自分に負荷をかけてしまうとキツくなってしまいます。それがまたお客様に伝わってしまうのもTwitterだと思います。休みの日にも投稿しなければならないということはなくて、それを許してくれる会社があってこそなんですが、気が向いたら投稿しています(笑)。

当社の工場は衛生面から一般公開していませんが、取材で工場に入った時に動画を撮影したことがありました。後日、その動画を「Web工場見学」と題して、職人による作業工程を紹介する投稿をしました。「何か発信しなきゃ」と思わずに、1人の『くず餅』ファンとして『くず餅』の舞台裏をお伝えしたら皆さん喜んでくれるかな」という思いからでした。

「広報も『くず餅』ファンの1人」を公言されることはすごくいいですね。広報は会社やブランドへの愛がないとできません。

船橋屋としてはそこを大事にしています。『くず餅』愛や船橋屋への思いが誰よりも強いということが当社の広報の条件だと考えています。「『くず餅』がめっちゃ好き」という熱がメディアにもファンにも伝わっていけばいいですね。

メディアに対してもファンになってもらうという気持ちで取材対応しています。まずは会社への思い、『くず餅』愛があればこそで、それからメディア戦略を練り、広報スキルを学んでいけば船橋屋にしか出せないものがつくり出せると信じています。

コロナ禍でもテレビのロケをはじめ、取材が相次いでいます。昨年度は300件を超えたそうですね。

『くず餅』でもいろんな切り口を用意して、メディアに合わせたアプローチを心掛けています。例えば、『みずくずもち』という商品があります。常温で20分もすると状態が崩れてしまうため、賞味期限は20分しかありません。この賞味期限の短さを切り口にPRして、多くの取材につなげました。

コロナ禍で新しいメディアへのアプローチが難しい状況です。亀田をはじめ前任がつないできたメディアとの縁があるからこそ、多くの露出につながったのだと思います。今後はSNSと広報を絡めながら、いろんな相乗効果が生まれていくといいなと思っています。

表参道に3月にオープンした「BE:SIDE」も注目を集めています。

昔からのお客様に「『くず餅』を食べると体の調子がいい」というお声をいただくことが多く、専門家の協力を得て調べたところ、乳酸菌が見つかりました。この『くず餅乳酸菌®』を体験できるのが「BE:SIDE」です。『くず餅』がおいしいだけでなく、体にいいということをもっと知ってもらうためのお店で、『みずくずもち』は「BE:SIDE」で出している若者に人気のある商品なんです。

3月のオープン前にはメディア向けに内覧会を開きました。皆さんにお店を知っていただく大きな機会でしたので、取材時間を分けるなどコロナ対策に万全を期した上で実施しました。お越しいただいたメディアは20媒体ほどになり、テレビやウェブ記事で紹介していただきました。

『みずくずもち』のフォルムがかわいいことと、ドリンクにお抹茶を合わせると、本格的な和の雰囲気が味わえるということでインスタグラムに上げてくださった方も多かったですね。こちらから仕掛けたわけではありませんが、10~20代のZ世代に受け入れられたことは想定していなかったので驚きました。

月岡さんは採用にも関わっていらっしゃいますね。

広報と採用両方を担当しています。採用でも船橋屋ならではの取り組みがあります。例えばインターンシップを他社さんは会社説明会の場や採用の前段階として位置づけるところが多いと思いますが、当社は学生さんの実になることをしたいと考え、外部のコンサルの講師を招いて講義をしていただいています。

内容はマーケティングとプレゼンテーションの2つで、実は、就活においてもマーケティングとプレゼンテーションの考え方が役立つという切り口でお伝えしています。学生さんの「企業の選び方が分からない」「内定をどう獲得したらいいのか」という悩みに船橋屋が答えたいという狙いがあります。私もインターンシップで初めて船橋屋を知り興味を持ちました。中に入って船橋屋の魅力を多くの方にお伝えすることができたらと思って入社しました。

採用でも広報でも相手に寄り添うということを大事にしています。ですので、就活生に有意義な場を提供できればとインターンシップの内容を考えています。SNSはともすると、やること自体が目的となりがちです。とりあえず更新すればいいと思ってしまうこともあります。会社説明会で学生さんに社会人になって大切なこととして、「目的を持つ」といったことをお伝えしていますが、自分でも思い返して、相手に何を届けたいのか考えるようにしていますね。

2021年9月2日の投稿。今年の「くず餅の日」は、約3時間にわたりトレンド入りするほどフォロワーと一緒に盛り上がった
今年の9月2日の「くず餅の日」は盛り上がりましたね。当日は、Twitterのトレンド入りも果たしました。

「くず餅の日」の取り組みとしては、「くずもちくん」デザインの『くず餅』を販売したほか、ハッシュタグキャンペーン、ツイート強化タイムを設けて「一緒に盛り上げてくださったら嬉しいです!」と呼びかけを行いました。私が想像する以上に多くのファンの方や他社の企業アカウントさんが『くず餅』を購入して写真やツイートをアップしてくださったり、船橋屋に関するエピソードやメッセージを投稿してくださったりしました。

その結果、「#くず餅の日」が3時間近くトレンド入りし、Twitterからの通販サイト流入も通常の15倍以上になりました。投稿数の多さももちろんですが心がこもった投稿も多く、目頭が熱くなりました。

社外広報についてお聞きしてきましたが、社内に向けての発信についてはどうお考えですか?

当社ではインナーブランディングや社内広報にも力を入れています。社員満足を第一に考え、部署を横断した「組織活性化プロジェクト」で社内報を毎月制作しています。私も含めプロジェクトのメンバーは現在10人で、毎月12ページの冊子とネットの両媒体を出しています。

プロジェクト自体は2007年からあるものですが、広報だけでなく社内みんなで社内報をつくることで社内広報、社内活性化の意識や視点を持つようになりました。こうした社内の取り組みをもっと社外に伝えていきたいと思っています。何かファンの方に向け発信できるツールがあればSNSを飛び出して挑戦してみたいですね。

あらためて、船橋屋さんのTwitterの反応数が日々増えているのはなぜでしょうか?

最近、社長の渡辺(雅司氏)とも話したのですが、当社のTwitterの反応数が日々増えているのは、船橋屋の元々の成り立ちと関係があるのではないかということになりました。

船橋屋は、亀戸天神の前で『くず餅』を手から手へお届けするということから始まりました。当時から多くの人に売り込むというのではなくて、目の前のお客様に喜んでもらいたい、それが船橋屋の商いであり原点です。コロナ禍で接客・接遇の重要性が再認識される中で船橋屋に注目していただいているのではないかと感じます。

1人1人に丁寧に『くず餅』をお届けする、店舗ではずっと変わらずに行っていることをTwitterでもしていきたいですね。SNSでも会話の距離感はぐっと近くなるように、必要に応じて返答するようにしていますし、お客様に常に寄り添う姿勢は忘れないようにしています。

<株式会社船橋屋> 設立:1952年10月(創業/文化2年)
「Twitterを担当してすぐは、発信が一方的に感じ悩むこともありました。企業側が寄り添うことで少しずつではありますが、ファンの方と相互関係が生まれてきているように感じます」と月岡さん。今ではファンの声が商品開発や発信のヒントになっているとも言う。ファンの存在は「船橋屋を一緒に盛り上げ、創ってくださっている仲間だと思っています」と話す。
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