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ケーススタディー: プロントコーポレーション様

プロントコーポレーション
取締役 プロントカンパニー長
ブランド戦略部長
片山義一氏(写真左)
経営企画本部 リーダー 広報担当
山下夏子氏

プロント、コロナ禍のリブランディング

34年目の大転換、新スタイル「キッサカバ」
20~30代ターゲット、昼・夜の「二面性」明確に

コロナ禍でのファンづくりを探る連載企画「ニューノーマル時代のファンコミュニケーション」。最終回は、コロナの影響を最も大きく受けた外食業界にあって、33年間続いた業態を今春刷新し、巻き返しを図るプロントコーポレーションの取り組みを紹介したい。テーマは「新しいファンの獲得」。創業以来、昼のカフェと夜のバーがつながるシームレスな店づくりを行ってきたプロント。だが、「このままではコロナが収まっても戦えない」と新たなブランド戦略を打ち出したのが取締役プロントカンパニー長の片山義一さんだ。逆風の中、リブランディングに踏み切った理由は何だろうか。
コロナ禍のリブランディングとして注目を集めているプロントの「ビッグチェンジ」を仕掛けたのが、片山さんです。リブランディングについてお聞きする前に、この大転換の背景には片山さんのブランド観や問題意識があると感じました。はじめに、これまでのご経験から教えてください。

片山: 大学卒業後、サントリー酒類に入社し、15年ほど外食企業への営業を通じて多くの業態開発に携わってきました。

2017年に社内ベンチャーで渡米し、サンフランシスコで抹茶カフェ「STONEMILL MATCHA」を開業し、行列ができる人気店になりました。これまでの業態開発の知見や米国でのブランドの立ち上げの経験もあり、親会社のサントリーホールディングスから2020年4月にプロントに来ました。

これまでのご経験からたどりついたブランド観が、「何を売るかよりもどこが売るか」だとお聞きしました。

片山: サントリーが好きで入社し、おいしいと思っていた『モルツ』ですが、これがなかなか売れませんでした。営業していて肌で感じたのがブランド力です。この時の経験から「ブランドがつくり出すイメージ・印象がすべての購買決定権を持つ」と考えるようになりました。

では、プロントのブランド力は同業他社と比べてどうだったかと言うと、プロントは30年以上、カフェ&バーを牽引してきたパイオニアですので、よくも悪くも老舗企業だと言えます。コロナ禍で、特に若いお客様にとって古いブランドというイメージを持たれていることに気づきました。

折しもコロナ禍での大転換となりました。なぜこのタイミングだったのでしょうか?

片山: コロナの感染が広がった第1波と第2波が落ち着いた後のお客様の「戻り」を見てみると、他社に比べ、プロントの「戻り」が鈍かったんですね。この原因を突き詰めて行くと、業態の問題だとか、ブランドの認知度、そしてパスタ屋さんだと思われている方が多いというブランドイメージの課題に行き着きました。

コロナ禍ではテイクアウトといった短期的な施策で明日の売り上げを取りに行くという考えも当然ありました。けれども、コロナ禍で露呈した経営課題を解決するためには、アフターコロナを見越した中長期的な戦略を今このタイミングで打ち出す必要があったのです。最低限の投資で最大の効果を挙げる戦略がこのリブランディングでした。

これまでの成功体験を変えることは難しいことだと思います。

片山: 多くの企業が苦しんでいる今、変わろうとする姿勢を見せることで世の中に応援されると言いますか、それがまたニュースになり、社員の士気も高まっていくのではないか、という期待もありました。ただ私はプロントに来てまだ日が浅く、「プロントの何が分かるのか」と言われることは想定済みでしたので、店舗を一つ一つ回りながら、ロジックと熱意と夢を持って、この計画を練り上げていきました。

社内も「何か手を打たないといけない」という雰囲気でしたので、「正解」かどうかは分かりませんが、一つの「答え」を打ち出すことで、社内を同じ方向に向かせることができたのではないでしょうか。

リブランディングにおいて変えた部分、反対に変わらない部分はどこですか?

片山: カフェ&バーは20年、30年前でしたら最先端でした。全く違うものに変わるというのではなくて、自分の強みを活かしながら変わっていきます。

プロントの一番の強みは「利便性」です。働く場所の近く、もしくは駅前にあって昼はランチ、夜はお酒が飲める、これが一つの店舗でできるということはプロントでしか体験できません。朝から晩まで働いている人に寄り沿う――そこはブレずに、後は時代に合わせて表現だけ変えればいいんです。

メインターゲットを20〜30代に置いていますが、その理由は何でしょうか?

片山: 社会人になってお酒も飲めるようになって「プロントがちょうどいい」というようなポジションをつくっていきたいですね。今トレンドを生み出しているのがこの20〜30代です。例えば「横丁ブーム」がそうですね。トレンドを意識しながら、ターゲットを常にこの20〜30代に設定する。そうすれば40代、50代になっても彼らは「懐かしいな」と戻ってきてくれます。

ブランドのターゲッティングは、常に同じ世代に置くということが重要で、これがブランドを老化させずに業態としても長続きする秘訣だと思います。

これまで長くプロントに親しんできた40、50代へのアピールは?

片山: 確かにロゴは20年ぶりとなる変更ですが、店舗はいつも通っている場所にありますし、いつものコーヒーはあります。年配の方は、この「いつもの」を大切にされています。「愛着あるお店はほとんど変わりません」と私は言っています。ただ、若い人に刺さるような見せ方を最低限施しただけなのです。

そういう意味ではリブランディングとしては中途半端に映るかもしれません。これまで「ゼロイチ」からの立ち上げばかり手掛けてきたので、今回のリブランディングのように、今ある資産を活用しながら変えていくことの難しさを今ひしひしと感じています。

新プロントの目玉である夜の「キッサカバ」について教えてください。

片山: 先ほど、「横丁ブーム」のお話をしましたが、もう一つ「酒場ブーム」というのが近年トレンドとしてあります。餃子居酒屋ではなく餃子酒場と、新規出店の業態は「酒場」がほとんどのように感じます。その「酒場」ですが、懐かしいものを今風に焼き直したのが、私が言うところのカタカナの「サカバ」です。若い人には新しく、年配の方には懐かしく、すべての年代の方が同じように楽しめます。

繰り返しになりますが、プロントの赤茶色のレンガや木目調のバーカウンターのオーセンティックな部分を活かすには、喫茶と酒場を合わせた「キッサカバ」が今打てる最良、最短、最低投資の手法でした。「あのプロントがこんなにも変わった」とお客様に、こうした変化を面白がっていただき、そしてスマホで写真を撮ってもらい、それがSNSに上がっています。「話題になる」というのが大事で、これだけでも以前のカフェ&バーのプロントに比べて、「キッサカバ」が来店目的になっていると私は思います。

昼のカフェと夜の「サカバ」と店の雰囲気がガラリと変わります。片山さんはその「二面性」を「千と千尋の神隠し」戦略と呼んでいますが、お客様の反応はいかがですか?

片山: 戦略の肝は「意外性」です。1月からテスト運営を行っていますが、店の前を通行される方がよく立ち止まってくれます。

プロントはビルの2、3階に出店しているのではなく、店前通行量の多い場所に出店しています。店舗自体が「看板」であり「媒体」の役割を持っているので、お店に興味を持っていただくことが重要です。

愛の反対は無関心と言いますよね。コロナ禍で無関心になりかけていたところに、強烈なインパクトを与える。少なくとも関心を持っていただきたい、そしてお店に来ていただいて、料理でも飲み物でもお店の内装でもいいんです、どこか興味を持っていただければまずは及第点です。

関心から興味へ、それが愛にまで昇華すれば、「ファン」ということになりますね。4月から5月まで販売した季節限定ドリンク『リッチストロベリーミルク』は、若者の間で話題になりました。

片山: 今後、新しいお客様を「ファン」に変えていくことが大事になってきます。これまでのプロントでも若者向けの尖った商品を出していました。「何を売るかよりもどこが売るか」に戻りますが、この『リッチストロベリーミルク』をこれまでのプロントで出してもこれほど興味をそそらなかったと思います。

『フラペチーノ』が飲みたいのではなくて、スタバの『フラペチーノ』が飲みたい。パンケーキが食べたいんじゃなくてBillsやEggs’n Thingsの『パンケーキ』が食べたいんです。ブランドというものを介して味わいながら「私ってイケてるでしょ」とSNSに上げて完結するのが、今という時代だと思います。モノ消費でなくコト消費で、モノだけ売ってもメニューだけ変えてもダメで、この一連の消費行動を考えないといけません。

リブランディングに合わせてSNSも強化されたのでしょうか?

山下: ロゴを変えてから新しいトーンで、4月にインスタグラムを開設しました。ツイッターもこれまでフォロワーが約6000人ほどでしたが、この4月からてこ入れをし、今では1万人を超えました(6月末現在)。まだまだですが、2カ月間でここまでフォロワー数を増やすことができました。

片山: よく皆に言うのですが、「街のないところには線路は引けない」という言葉があります。「街をまずつくろう」、街づくりがブランディングで、そこから導線を引いてお客様に来てもらおう。その導線がSNSであり、広報・PR活動だととらえています。

リブランディングに関する露出は多かったですね。メディア戦略は?

片山: 驚きをつくるということを意識しました。夜の「サカバ」では暖簾を掛けるのですが、これもその1つです。「二面性」「暖簾」と言われると、プロントを知る人でしたら、一度話を聞いてみようとなるのではないでしょうか。

しかもテイクアウトの取材が続くなか「コロナ禍での挑戦」で、メディアにとって新鮮だったのではと思います。

山下: 「リブランディング」というキーワードを前面に出すことにこだわり、「スイーツ」「お酒」といった切り口でインフルエンサーやマイメディアを持つ方をメディア内覧会に誘致したことが大きなポイントでした。

ミレニアル世代がターゲットでしたので、口コミ力のある方に積極的にアプローチしました。これまでのメディア向けの内覧会や試食会とは大きく変わりました。ファンがファンを呼ぶように「メディア+ファン」への広報・PRというスタイルが今後、主流になっていくのではないかと思っています。

内覧会は緊急事態宣言が一度解けた時期ではありましたが、1メディア当たり3人に制限させていただき、取材時間も細かく区切るなど感染対策には万全を期しました。ありがたいことに100人以上のメディア関係者にお越しいただきました。

内覧会では暖簾をかけるパフォーマンスも行ったようですね。

山下: テレビやSNSでは動画のシーンが必要です。「二面性」の転換の部分は、大きな訴求ポイントでしたので、パフォーマンスを行いアピールしました。

片山: 「ロゴが変わりました」「メニューが新しくなりました」といってもメディアはあまり興味をそそられないんじゃないでしょうか。おいしさを伝えるために、面白さや意外性など「見せ方」を工夫しないと難しいと思います。

例えば、『タコサンウインナー』を夜の「サカバ」で提供していますが、ごく普通のウインナーです。それを「サカバ」の雰囲気で出して楽しんでもらうということで、「コト消費」を作り出しています。昼と夜でガラッとお店が変わる、こうした「物語」についても発信しました。

コロナ禍でのリアルな研修も難しいなか、社内には新しいブランドをどう浸透させているのですか?

山下: イントラと、毎朝社内メールでニュースを発信しています。教育チームでもシステムをいち早く導入して、メニュー説明やサービス・マニュアルも一部動画で配信しています。

片山: 今、「キッサカバ」の接客をドラマ仕立ての動画で覚えてもらうという試みを始めました。店舗の従業員教育も楽しみながら学んでほしいというのが目的です。インナーブランディングにおいても「伝えたか」ではなく「伝わっているか」に重きを置き、そこにこだわっています。広報・PRもそうですね。まさに「伝わっているか」に重点を置いています。

直営店を中心に夜業態の「キッサカバ」への切り換えが進みますが、リブランディングの現時点での自己評価と今後の展開について教えてください。

片山: 現時点ではまだ0点です。ビジネスとしてしっかりと投資を回収して初めて評価できるのです。ですので取りあげていただくのはありがたいことですが、私は失敗の場合の覚悟を背負ってメディアに出ています。このチャレンジ自体は「ようやったかな」くらいには思います。ここからが勝負です。

経営の成功とブランドの成功は違います。リブランディングが成功したかどうかは、そのブランドを身に着けてくれるかどうか、つまり、私が着ている新しいロゴの入ったTシャツを皆さんが着てくれるようになれば成功だと思っています。同じカフェでもスタバのTシャツやDEAN&DELUCAのトートバッグなら買うじゃないですか。このプロントのTシャツやバッグなどを世の中の人が身に着けてくれる日が来るまで、プロントというブランドを育てていきたいです。

<プロントコーポレーション> 設立:1988年2月1日
プロントのリブランディングについて、リリース発表よりも早く、実はプロントのFC店でアルバイトをする娘のTシャツから知った。黒地に白抜きの「PRONTO」の文字。新しいブランドカラーに込めた思いを知りたくて広報の山下さんに取材を依頼した。既存顧客の居心地のよさは変えず、新しく20~30代を取り込むブランド戦略。コロナ禍で「応援される」要素も加わり、顧客のファン化につながっていく取り組みとして注目される。
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