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ケーススタディー: 日本郵便様

日本郵便株式会社
郵便・物流事業企画部 切手・葉書室 担当部長
西村哲氏(写真左)
郵便・物流事業企画部 切手・葉書室
切手デザイナー
中丸ひとみ氏

日本郵便、「ぽすくま」を活用したPR・プロモーション

新聞投書欄から生まれた『1円切手』が話題
デジタル起点に「手紙を書く楽しさ」届ける

「ニューノーマル時代」の企業コミュニケーションはどうなっていくのか。対面コミュニケーションが難しくなる中でも、人と人とのつながりや絆を保持できるのがファンとのコミュニケーションだ。企業キャラクター「ぽすくま」をデザインした新『1円切手』が話題となった日本郵便。親会社・日本郵政のトップが新聞投書欄で、『1円切手』の新デザインを求める投稿を見たことがきっかけで実現した。手紙愛好家の声に巨大企業の動きは速かった。日本郵便は近年、デジタルとアナログを掛け合わせ手紙の魅力を発信しているが、その立役者となっているのが「ぽすくま」と年賀状特設サイト「郵便年賀.jp」の企画に携わったそれぞれの担当者。新『1円切手』でも両者の仕掛け人がタッグを組み奔走したという。「ファン獲得の秘訣は」「顧客に寄り添うコミュニケーションとは」――。“絶妙なコンビ”を自認する2人に聞いた。
「ぽすくま」をデザインした『1円切手』は多くのメディアで取りあげられました。

西村: SNSなどでもかわいい『1円切手』が発行されたと好意的な投稿がされているようです。発行枚数は1億枚以上になります。1シート50枚単位での販売となり、シート数でいえば200万シート以上で、全国約2万4000局ある郵便局などで販売しています。

一部の郵便局において在庫が少なくなっている所もございますが、在庫は十分ご用意しております。ご注文をいただければ直ぐに補充されることになっていますので、安心してお買い求めください。

新『1円切手』のきっかけは新聞の投書欄で、お客様の声から生まれました。

西村: 消費税率の引き上げに伴い、新旧の料金差額を埋め合わせるために『1円切手』の需要が増えていました。新聞の投書欄にも数件、旧料額からの差額1円分の切手にかわいい切手を使いたいとのお声がありました。

『1円切手』といいますと、ご存じの通り前島密さんの茶色いデザインのものが流通しているだけで、色合いやデザインをとても大事にしていらっしゃる方々からの投書をご覧になった日本郵政の増田社長からも検討するようにとのお話があり、日本郵便でも新しい『1円切手』の検討に入り、発行に向けて急ピッチで作業を進めました。

切手は毎年、年間発行計画が発表され、それを基に通常約1年の時間をかけて企画して発行されます。新『1円切手』のケースは異例の対応でしたね。

中丸: すぐにお客様の声にお応えしようということで、大急ぎで進めました。「『ぽすくま』でいく」という指示を受け、すぐ案をいくつか出しました。日本郵便に話があってから数日後には、デザインが決まっていました。

新『1円切手』のデザインを担当されたのが、「ぽすくま」の生みの親でもある中丸さんでした。『1円切手』といえば、お話のように郵便制度の父・前島密氏の肖像が使われています。切手デザイナーとしてプレッシャーはありましたか?

中丸: 「ぽすくま」が選ばれたことに驚きはありましたが、特にプレッシャーはありませんでした。とにかく皆さまに好かれ、使いやすいデザインにすることを心掛けました。

通常切手は5~6色で印刷しますが、この新『1円切手』は、コストの兼ね合いもあり3色という条件でした。そこで、いつものぬいぐるみの実写版だと色の表現が難しいため、再現しやすい線描きのイラストにしました。ちょうど昨年秋のグリーティング切手で「ぽすくま」の和風を基調にした線書きも試していたので、今回、思い切って「ぽすくま」の顔を大きく配置しました。

「ぽすくま」は、ぬいぐるみの森の郵便屋さんという設定で、2012年秋のグリーティング切手に採用されたのを機に誕生しました。

中丸: もともとグリーティング切手は、春と夏と冬のみで、秋だけありませんでした。民営化後、会社としても売れる切手が必要でした。そこで企画会議の場で「秋のグリーティング切手を作り、テーマは人気のあるテディ・ベアはどうか」と提案したんです。デザインしていくなかで「せっかくなら」とテディ・ベアの郵便屋さんを作ってしまいました。こうして偶然誕生したのが「ぽすくま」なのです。

「ぽすくま」を切手にする際には、写真をMacに取り込み、まつ毛を加えたり毛並みを整えたりしました。大事なのが表情です。微笑んでいるように口角を描き加えています。 。

「ぽすくま」は誕生してすぐブレークしたというよりも、地道に認知を広げていったように思います。

中丸: 初めは主に切手だけでの展開で、CMに使われているわけではなく、広く皆さまに認知されている存在ではありませんでした。ですが、切手の中で「ぽすくま」はトップクラスの売り上げを続けていました。そこで、もっと「ぽすくま」を活用していこうと着ぐるみを作り、2014年くらいから手紙振興のキャラクターとして各種イベントに登場するようにしたのです。

また、7~8年前から申し込みのあった幼稚園に「ぽすくま」のお手紙ごっこ遊びキットを無償でお配りしています。こうした地道な活動を通じて「ぽすくま」のことを覚えてもらい、小さい頃から手紙に親しんでもらえればと思っています。

中丸さんは昨年のオンラインによる期間限定カフェや手紙振興イベントなどで「ぽすくま」と一緒に登場されることも多いですね。

中丸: 普段お会いできない皆さまとイベントでお会いして感想やご意見を直接伺うことは私にとってエネルギーの蓄積にもなります。秋のグリーティング切手として初めて登場した9月を「ぽすくま」の誕生日とし、JPタワーのKITTEアトリウムで毎年イベントを行っています。始めた当初は数百人と少なかったのですが、今では1日で4000~5000人の集客があります。

2012年にスタートした頃は、郵便局にあまり馴染みのない30~40代の方やお子さんをターゲットにしてデザインしていましたが、それに加えてありがたいことに、今では10~20代、50代以上のファンも増えてきました。

広島市と高知市には「ぽすくまと仲間たち」の世界観をテーマにした郵便局があるのですが、東京からわざわざ広島や高知の郵便局に足をお運びになる女性ファンもいらっしゃるほどです。

昨年の「ぽすくまカフェ」に癒されたお客様も多かったのではないでしょうか?

中丸: 東京・青山にあるロイヤルガーデンカフェ青山さんとのコラボで、「ぽすくま」の世界観を体験できるカフェを10月に4日間限定で開催しました。コロナ対策に万全を期したうえでの初めての試みでした。

カフェ開催前の9月には、「ぽすくま」の公式YouTubeチャンネルで「ぽすくまのバースデーパーティー2020」をオンライン生中継しました。オンライン中継も初めてで、この中でカフェの告知もし、私が視聴者の方のご質問にお答えするコーナーもありました。

毎年約50件ほどの特殊切手が発行されていますが、切手デザイナーは日本でたったの8人とお聞きしました。

西村: 切手・葉書室にはデザイナー8人のほかに、プランナーが4人います。プランナーは企画全般を担当し、検討を進めて参ります。ロイヤルティーや使用許諾といった細かな調整も行います。そのプランナーとデザイナーがペアを組んで一つの切手が作られていきます。

グリーティング切手のテーマとしては植物が多いですが、実際植物園などに足を運ばれスケッチされるそうですね。普段、切手のデザインで心掛けていることは何ですか?

中丸: ちょうど、これから小石川植物園に行きます(笑)。切手に用いる絵は美しいだけでなく正確性が求められるので、監修をお願いしている東京大学の先生に一枚一枚、それこそ雄しべ雌しべの数から葉の裏側に至るまで隅々まで考証をしていただいています。正確さはもちろん必要ですが、図鑑にあるような絵を目指しているわけではありません。購入されるのは女性のお客様がほとんどなので、先生と相談しながら、やさしいタッチに仕上げていきます。

デザイナーによって考え方や仕事のやり方は様々です。私は、どんな方でも使いやすく気持ちも込めやすいデザインを心掛けています。手紙を送るというのは切手だけでは完結しません。レターセットを買ったり、相手の気持ちを思ったり、いろんな思いがあってようやく完成すると思っています。ですので、切手が主張しすぎず、いろんな意味で余白を持たせるということを常に意識しています。

最近、ユニークな形状やかわいらしいデザインの切手が増えています。

中丸: シール式切手で変わった形にも挑戦したり、シートの中でストーリー展開してみたり、担当の花の切手も今までにない表現方法にしてみたりと、制限のある中でこういった企画をするのも私たちの仕事の面白さの一つだと思っています。

『年賀葉書』は近年発行数が減少しているとのことですが、2021年は人気アニメ「鬼滅の刃」のデザインが話題となるとともに、コロナ禍で「つながり」が求められ注目を集めました。

西村: 年賀状のトレンド自体は、メールやSNSといった他のコミュニケーションの浸透により下がっている傾向はありますが、今回のコロナ禍における巣ごもり生活で時間に余裕があることもあってか、「相手のことを想って年賀状を書いた」というご意見を多数いただいています。また、お正月に会っている人に対しても今回は年賀状で済ませたという方も多くいらっしゃったのではないでしょうか。

西村さんは、手軽に楽しみながら年賀状が作成できる特設サイト「郵便年賀.jp」の仕掛け人です。

西村: 従来は年賀はがきを販売した後は、お客さまご自身で年賀状作りをご自由に行ってくださいというようなスタンスでした。そうではなく、年賀はがきを購入いただいた後に楽しく作成していただくために、様々なコンテンツをご用意したのが「郵便年賀.jp」という特設サイトです。

日本郵政グループ民営化の2007年に、2008年用の年賀はがき販売に合わせオープンしましたが、1年目で1億PVと大きな反響をいただき、おかげさまで直近では5億PVにまで伸びました。

2018年公開の「ニッポンの名字」は、ツイッターでトレンド入りするなど話題を呼びました。

西村: 「ニッポンの名字」については、自分の経験もきっかけになっています。私の周りに少し変わった名字の人が何人かいて、年賀状に相手の名前を書く際に、「どこの出身の人なのだろう」といった相手のことを考えることが結構ありました。

自分の名字を入力すれば、日本で何人、都道府県別だと何人、さらに名字がどういう謂れがあるのかを簡単に調べることができるコンテンツで、かなり反響がありました。約2000万回程度の利用があり、テレビの情報番組でも取りあげられました。

最終的に、年賀状を書いてみようと思っていただけるような、ちょっと「変化球」の仕掛けを毎年用意しています。遊び心のあるデジタルコンテンツをアナログの年賀状と絡めながら、そのよさをアピールしています。

LINEなどSNSとの連携も進めてきました。

西村: 中丸と一緒に取り組んだのが、「ぽすくま」のLINEでした。「ぽすくま」のLINEから年賀状も簡単に作れますし、荷物の受け取りの日時指定ができるなど、日常使いができるようになりました。中丸が先ほど申しましたが、「ぽすくま」の親しみやすさというものと、デジタルの便利さをうまく融合させた形です。

現在、LINEでの「ぽすくま」のお友達は約1500万人にまで増えました。日常のLINE上でのメッセージのやりとりに、皆さまに親しまれている「ぽすくま」のスタンプを使っていただくことで、少しホッとできる時間を持っていただけたらという思いでスタンプの開発を行いました。

「ぽすくま」のLINEスタンプを手掛けられた際、喜怒哀楽を表現するスタンプと、実写風の「ぽすくま」の間で試行錯誤された経験があるそうですね。

西村: LINEのスタンプは感情を表現するものですが、当時の「ぽすくま」はぬいぐるみベースでバリエーションが少なく、手と足を動かすだけではなかなか感情が伝わらないというか、どれもかわいくなってしまって、中丸と随分調整しました。最終的には吹き出しをつけることで乗り切りました。

「ぽすくま」はどこから見てもかわいいです。デジタルの「カチっ」とした部分を、「ぽすくま」の「ほわー」とした雰囲気で包むと、身近なサービスであることが訴求できるのではないかと個人的に思います。

中丸: 分かります。「ぽすくま」は新しすぎず、安心感があるのが、当社のイメージに合うように思います。当社はサービス面で常に新しい技術を取り込んでいますが、そこに「ぽすくま」が組み合わさると、ギスギスしない、何か安心感も一緒に提供できるような気がしています。

コロナ禍でリアルイベントやリアルなコミュニケーションが難しい状況ですが、最後に今後手掛けていきたいこと、日本郵便のファンづくりなどをお聞かせください。

西村: 若い世代の方々にとっては、私たちが売りとしているアナログなものが、むしろ新しいコミュニケーション手段として新鮮に感じるようです。デジタルとアナログの良さを組み合わせれば、新しい体験ができコミュニケーションもさらに楽しくなるのではないかと思います。

コロナ禍だからこそ、人とのつながりを求めている方は多くいらっしゃると思います。あえてかわいい切手を買って、相手のことを想ってお手紙を書いてみるというのも新しい体験になるかもしれません。今まで培ってきた「デジタルを起点にアナログの手紙を送る」という流れを活かした新サービスの企画を引き続き行ってまいりたいと考えています。

中丸: 切手のデザインでも申しましたが、「余白のある」「押しつけがましくない」ということは、「ぽすくま」に対しても言えることで、「ぽすくま」自体が前に出すぎるようなキャラクターであってはいけないと思っています。気が付くとそばにいるような、寄り添うような存在になってほしいですね。

今回、「ぽすくま」が『1円切手』にもなったということは、ある意味、切手にまで「寄り添う」ことになったということでもあります。ファンだけでなく、皆さまに寄り添うキャラクターに育てていきたいと思います。

<日本郵便> 設立:2007年10月1日
「郵便年賀.jp」を立ち上げた初年度から1億PVを超えたのは、ポケットティッシュの存在も大きいかもしれない。西村さんは、「サイトの告知ではリリースのほかに、ポケットティッシュが最も効果的でした。赤いパッケージに『郵便年賀.jp』と印刷したところ、多くの方にサイトの存在を知っていただきました」と話す。中丸さんは「私も『ぽすくま』で新しいことに挑戦してきましたが、彼もアイデアマンで新しいことを次々と仕掛けています。2人が組むとすごいんです」と笑う。
※数値等のデータは掲載当時のものです。
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