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ケーススタディー: 高橋書店様

高橋書店
日記事業部 編集部
副部長 山内靖久氏(写真右)
広告・広報部
課長 吉越久美子氏

高橋書店の手帳、「競争」ではなく「共創」の精神

「お客様のご要望に応え270種類以上」
SNS世代にマッチ、ウェブ施策にも注力

外からは見えにくいが実は常に動きながら平衡を保ち、わずかながら変化し続けている。「動的平衡」という考え方だが、優れたロングセラーにはまさにこの「動的平衡」の思想が貫かれている。スマホでスケジュール管理する現代においても、毎年話題になるのが紙の手帳だ。「手帳は高橋」というキャッチコピーで知られる高橋書店は、手帳市場で書店シェア40%以上を占める。シンプルで使いやすいフォーマットに、ユーザーの声を聞きながら毎年改良を加えるのが同社のこだわり。「高橋手帳」の長く愛されるものづくりとその広報・PRを“見える化”していこう――。
最近の手帳は、サイズ、レイアウト、始まり月もさまざまです。高橋書店の来年の手帳は一体、何種類あるのですか?

山内: 毎年点数が増え、2020年版では275点になります。近年、需要が細分化しており、それぞれのユーザーのニーズに合ったものをご提供したいということになると、どうしても点数が多くなるのは致し方ありません。

手帳のフォーマットを見ても、ビジネスや日常生活で皆様の書きたいことが多種多様になってきており、バリエーションが豊富になってきたことがまず一つ言えます。かつて手帳といえば、胸のポケットに入るような小さい手帳がほとんどでしたが、現在は書く内容だけでなく、書く量も増えてきました。後でお話ししますが、「ノートやメモ機能がもっと欲しい」というお客様の声が多くなってきているので、サイズも大型化しています。

装丁の色味も材質もまた多彩です。黒色一辺倒は今や昔で、チェック柄もあれば花柄もあります。ビジネス手帳という従来の手帳のイメージから、ずいぶんと変わりました。

手帳も1990年代くらいまでは勤務する会社から支給されるものでしたが、時代の変化もあり市販の手帳が求められるようになりました。こうした動きはここ30年のことです。財布や定期入れなど、自分がお持ちの小物と合わせて、中身、外側とも各自の好みにあった手帳が選ばれるようになりました。

「手帳ブーム」と言われています。デジタルツールがあふれる今、なぜアナログの紙の手帳に引かれるのでしょうか?

山内: デジタルツールが普及したからこそ、紙の手帳のよさが見直された部分があるのではないかとみています。単にスケジュール管理だけでしたらスマートフォンのアプリの方が簡単ですし、便利だと思います。

ですが、企画やアイデアのメモや、ライフログと呼ばれる生活の記録は、イラストや図表を添え自由に書き連ねていきたいですよね。こうしたことは、フォーマットの決まったスマホアプリではなく紙が適していると、手帳の魅力が再発見されてきたのだと思います。それと手書きの効用ですね。忘れにくいという声をよく聞きます。おかげさまで、毎年手帳の販売数は右肩上がりとなっています。

最近はどんな手帳が好まれているのでしょうか? B6判(182×128㎜)が人気とお聞きしました。

山内: そうですね。2020年版を見てもB6サイズが主流で、さらに一回り大きいサイズも人気です。ビジネス誌でメモ・ノート術に加えて、手帳術の企画がよく組まれます。ビジネスでは手帳とノート別々に持つよりも、ノート機能が付加されている手帳を使えば1冊で済み便利だという声が多いです。そのため、最近の手帳には十分なメモ・ノートスペースが必要で必然的にサイズも大きくなってきています。

書籍と異なり、手帳は文字が少なく罫線ばかりなので、参入障壁が低いとお感じになるかもしれません。しかし、実際に作るとなると大変なところがいろいろとあって、見た目よりも奥が深いのです。

当社は出版社で60年以上、日記・手帳を作っていますので、紙や製本などにこだわっています。紙は特注で、製紙メーカーと共同で作っています。薄いながらも裏写りせず、しかもペンの滑りもよく、1年を通して使うので丈夫に作られています。使っていただければ、その良さを実感していただけるものと自負しています。

どの手帳も人気ですが、広報部門のイチ押しというと、『torinco』(トリンコ)シリーズになりますか?

吉越: 『torinco』シリーズは昨年デビューし、今年2年目になります。キャッチフレーズの「手帳は高橋」はビジネスパーソンにおいては浸透し、認知度が上がってきていますが、一方で若い世代に対する働き掛けが課題となっていました。

『torinco』は20~40代の女性を主にターゲットにした新ブランドです。女性向けの手帳というと、ピンクやオレンジといったビビットカラーのカバーが多かったのですが、落ち着いた色合いのニュアンスカラーのバリエーションは見ているだけでも楽しくなります。さらに触り心地もよく、女性のハートをがっちりキャッチすることができました。

2020年版の『torinco』では3種類追加し、6種類計28点のラインナップになりました。ゴムバンド付きが初登場したほか、ウイークリーで使える「レフトタイプ」「バーティカルタイプ」が新たに仲間入りしました。「レフトタイプ」では週間ページの右側はスッキリとしたレイアウトで、1日を3分割しやすいようにドットが入り、例えば朝・昼・夜に分けるなど自分なりにカスタマイズしやすくなっています。

また、今年新発売の『ジョルノ』もフリースペースを広くとっています。2020年版では、お客様に使い方を開発していただけるように大変自由度の高いレイアウトを採用した新作手帳を多数ご用意しました。

『torinco』はSNSから火が付いたそうですね。

吉越: 手帳を自分らしくかわいくデコって(飾って)SNSに上げる「手帳女子」が増えています。そういった「手帳女子」の間で『torinco』が話題になりました。

『torinco』の広告・宣伝では、さりげなく「手帳は高橋」を打ち出しています。当社の手帳の帯広告では、表面に「手帳は高橋」というキャッチフレーズを印刷しているのですが、『torinco』の帯では、あえて表には出さずに裏面に入れています。『torinco』という新ブランドを際立たせたいという思いがあります。書店や量販店の店頭でも専用の什器に入れて目立つ位置に置いていただくようにお願いしています。『torinco』をきっかけに、手帳メーカーである高橋書店を知っていただけたらうれしいですね。

ウェブ媒体でのプロモーションについては、この2、3年で力を入れ始めた部分です。 “映え”を意識する層に向けて、「こうした使い方がありますよ」「適した手帳はこれです」と訴求できるのは、やはりSNSです。もちろん、ウェブに限らず、テレビCMもしっかりやっています。中でも一番お客様にダイレクトに届く「店頭」での施策には力を入れています。

翌年の手帳が並ぶ秋は店頭づくりの最盛期ですね。

吉越: 主に9月の頭から店頭づくりがスタートします。一部「8月後半から」というお店もあります。少しずつ、早まっているようです。

山内: 制作現場は本当に大変です。点数が増え、そのうえ納期が早まっているのですから(笑)。

手帳にはアンケートハガキが入っています。お客様のニーズをつかむために、このアナログのアンケートハガキの効果は大きいようですね。

山内: ありがたいことに、お客様から年間数万通単位でご返信いただいています。ハガキは編集部ですべて目を通し、商品の改良につなげています。線を少し太くしたり、日付の数字を少し大きくしたりしただけでも、「見やすくなりました」とお褒めの言葉をいただきます。ユーザーさんも一緒に手帳を作っている、そんなお気持ちになっていただいているようですね。ものづくりに参加することで、ご自分の手帳にさらに愛着がわいて、また当社の手帳をご購入いただくという好サイクルが続いています。

ただ、ハガキをご返信くださる方の平均年齢が高いのが気になります。忙しい若い方の声をどう反映するのか、課題ですね。

吉越: その点について言えば、若い方はインスタグラムやツイッターで発信されているのでSNSへの目配りを欠かさないようにしています。手帳のシーズンはエゴサーチをかけ、「こんな使い方があるのか」と私たちの方が教えられます。

山内: そうそう。「この欄にこんなことを書くのか」と驚くこともありますね。作る側としては、アポイントといったビジネスユースを想定しがちですが、その日食べたものだったり、ちょっとしたその日の感想だったり、書かれることは実に多種多様で、手帳がどのように使われているのかということが分かるという意味ではSNSは本当に参考になります。

1996年から行われている「手帳大賞」は今年で23回目を数えました。
写真は左から、吉沢亮さん、名言大賞の大賞に輝いた三井恵さん、高橋秀雄社長

吉越: 「手帳大賞」は名言大賞と商品企画大賞の2部門からなるコンテストで、今年は10月24日に帝国ホテルで開催しました。新聞やテレビ、ウェブなど多くのメディアにご来場いただきました。当社の2020年版イメージキャラクターの吉沢亮さんをゲストにお迎えし、表彰式ではプレゼンターをお願いしました。

また、新CMもお披露目し、情報番組やスポーツ紙、ウェブニュースなどで取りあげていただきました。ちょうど、『torinco』を使っていただきたい世代と吉沢さんのファン層が重なり、しっかりアピールできたのではないかと思います。

最後にお二方に、これからの手帳のあり方や展望についてお伺いしたいと思います。

山内: 手帳はお客様の生活を快適に便利にするツールであることには変わりありません。デジタルツールがこれだけ普及し、紙の手帳の使われ方も変わってきました。その変化を踏まえたうえで、紙の手帳はどうあるべきかを突き詰めていく必要があります。デジタルと併用しながら、どういった形の手帳が一番いいのか、ユーザーの皆様とともに新しい手帳を作っていきたいと思っています。

吉越: 私たちのやるべきことは変わりません。手帳を一つ一つ確実にお客様にお届けすること、それに尽きます。そのためには、それぞれのターゲットに合った手法を考えていく必要があります。

デジタルの波が押し寄せてきたときは、手帳業界にどんな影響が出るだろうと一時は危惧されていましたが、逆にアナログの価値が高まって、共存しながら進化しつつあると感じています。時代の変化が速く先を見通すことは困難ですが、当社のCMのコピー「未来を書く。未来に残す。」のように、手帳を通してこれからも皆様の生活に寄り添っていきたいと思います。

<高橋書店> 設立:1954年7月
「『手帳女子』の拡散力は抜群」。そう語るのは広報の多田友希さん。「リリースを作るときは、『手帳女子』に面白いと思ってもらえるような写真だったり、イラストだったり、素材選びも大切です」と話す。多田さん自ら、イラストや絵文字を交え記入例を作成し、メディアで取りあげられるケースも増えてきた。「手帳はお客様自身が予定を書き入れ、年間を通じてお使いいただいて、はじめて完成します。その完成に向けての使い方や楽しみ方の一部を見える化することで、お客様をワクワクさせたいですね」と多田さんは言う。
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