ケーススタディー: カルビー様 (2019年6月号掲載)
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カルビー
コーポレートコミュニケーション本部
お客様相談室
室長 駒田勝氏
情報共有で終わらせず商品改善も
簡単に私の自己紹介をしますと、今年4月にお客様相談室の室長に着任しました。相談室で見聞きすることの多くを新鮮に感じるとともに、会社目線で思考しがちではないかと考えさせられる毎日です。。
社長の伊藤(秀二氏)は「お客様の声を聞いてフィードバックして終わりではなく、積み重ねながら循環したビジネスを展開する」という姿勢を打ち出しています。お客様の声こそがスタート地点です。そのお客様の声が相談室にはダイレクトに入ってきます。お客様の声は潜在ニーズでもあるのです。
お客様相談室は「宝の山」です。これから、カルビーがこの「宝の山」をどう活用しているのか、お話ししたいと思います。
当社では「クレーム」という言葉は使わず、「ご指摘」という言葉を使います。
お客様の多くは「クレーム」ではなく、「気づきとして伝えたい」という思いがあるようです。お客様の声は「ご指摘」であり、貴重なご意見として謙虚に受け止め対応しようという意識づけを徹底しています。
コミュニケーター歴10年を超えるベテランも在籍。ノウハウの蓄積は宝だ
「聞かれたことに回答して処理する」というよりも、「お客様の真意を聞き出すためのコミュニケーション」を行っています。そういう意味で、当社では対応者を「コミュニケーター」と呼んでいます。
電話を受けるコミュニケーターが10人、メール担当が4人、手紙は現在、電話担当するコミュニケーターが受け持っています。電話が7割くらいと圧倒的に多いですね。
電話は、まず本社のお客様相談室が受け、問題点と状況を聞き、それを15分以内に詳細なカルテにまとめます。これを、電話をされたお客様が住む地域のお客様相談室のスタッフが確認し、フォローを開始します。そこで、受電から2時間以内に訪問、または訪問のアポを取るということをルール化しています。
自宅訪問させていただくといってもお客様のご希望があればですが、健康被害などリスクの高い事案は基本的に訪問しています。
こうした時間の設定はお客様の安心感につながっていると思っています。お客様対応は、正確さと何よりもスピード感が大事です。現在、電話・メール・手紙に加え、チャットのような手軽でスピーディーなやりとりができるデジタルツールの活用も検討しているところです。
創業以来、当社ではお客様に近いところに工場をつくり、お客様の顔が見えるところで商品を売るという思想があります。お客様との接点の充実を図るなかで、お客様相談室では本社・地域のスタッフと合わせて、きめ細かく迅速な対応をしています。
私は毎日、相談室のスタッフは大変な挑戦をしているなと思っています。というのも、お客様の数行のメールから、お客様の言いたいことは何なのかを読み取る努力が欠かせないからです。
送信時間、商品についてどこまで記入していただいているのか、書かれてあることから読み取っていくのです。返信の仕方も、お客様はロジカルな方か、感受性の高い方なのか、そこまで考えて回答しています。
返信は「お客様に宛てた気持ちのこもったラブレター」だと言えます。したがって、ビジネス文章のように定型というわけにはいきません。コミュニケーターには、「会社視点にならないように、生活者の目線で」とよく話していますが、これもなかなか難しいものです。
相談室の担当者が、毎日お客様の声をピックアップしてメールで全従業員に配信しています。お客様に宛てたメールは、間違いないようにリーダーが承認してから出していますが、社内メールなので検閲もなく、担当者が自由に選んで配信しています。
メールはあえてベタ打ちで送っています。この点がポイントですね。そして、お客様の声とその気づきを書き分けています。添付ファイルもなければ、スクロールするほどの文章の量もありません。メールを開いたら、ファーストビューで内容が理解できるよう工夫しています。
工場でのモニタリング
デイリーで配信しているので件数は1日3件までで、従業員の習慣づけにもなっているようです。最近アンケートを取ったところ、95%以上が毎日見ているという回答がありました。
また、2年前から相談室に寄せられた声を工場の従業員と共有し、自分ゴトとしてとらえるための取り組みを行っています。相談室のメンバーが全工場に出向き、実際にお客様とのやりとりを録音したものを工場の従業員と相談室のメンバーが一緒にモニタリングする試みです。工場の従業員にとっては、自分たちがつくっている商品に対してお客様の生の反応を聞くことのできる貴重な機会となっています。
お客様の声を傾聴する伊藤社長
2014年から毎年、AAO(安全、安心、おいしい)活動を実施しています。その中で、社長をはじめ役員もお客様の声を直接聞くようにしています。
昨年、アンテナショップ「カルビープラス」の従業員も初めてこのモニタリングを体験しました。
公式サイト内のお客様相談室のページに「お客様の声に学びました」というコーナーを設け、実際にお客様の声から生まれた商品や改善した事例をご紹介しています。
『じゃがりこ』は、カップサイズしかありませんでしたが、相談室に「持ち運びに便利でコンパクトなサイズにしてほしい」という声が寄せられました。そこで、ひと口サイズでチャックの付いた『じゃがりこbits』=写真=を出したところ、大変好評だったというケースもありました。
相談室には「ご指摘」ばかりでなく「ご相談」も寄せられます。「ご相談」というのは、「こんな商品があればいいのに」「この商品はどこで買えるのか」といった声です。いただいたご意見は社内の関連部署に伝え、商品開発やサービス改善につなげています。
お客様の声は企業ナレッジとして蓄積し、デジタルデータとして社内で活用できるようにしています。このデータをどう生かすかはマーケター次第ではありますが、この情報の蓄積は「宝の山」そのもので、今システム化されつつあります。
すべての従業員が生き生きと働くことができる環境をつくらないと、企業の成長が見込めない時代です。企業によってはお客様相談室のような部署をアウトソーシング化しているところもあります。
当社ではほぼ100パーセント内製化し、会社としても重要部署と位置づけ、相談室のスタッフの社員登用も積極的に進めています。
お客様相談室は「ファンをつくる部署」という役割も担っています。お客様相談室、広報部、食育チームからなるコーポレートコミュニケーション本部では「ファンとの絆づくり」を掲げており、当社の活動はファンの支えなくしてありえません。
ファンの方々はカルビー愛が強く、当社の商品を知り合いに熱心に勧めてくださったり、カルビーのことを従業員以上によくご存じです。そして、私たちのこともしっかり見ていただいています。
ダイレクトにお客様と接する相談室や食育チームは、対応を一つ間違えると、お客様が離れていってしまいます。カルビーで働く一人一人が「自分のお客様」を大切にしていくことがファンづくりにつながっていくと思っています。
本来あってはならないことですが、お客様の安全を最優先に考えて、商品の自主回収に踏み切るという事態に直面することがあります。すでに商品が出荷され市場に出回っており、お客様の口にも届いている状況だと、「絶対に2人目の被害者を出さないために、何をすべきか」を最優先に考えてアクションを起こすということを肝に銘じています。
手元にある情報はすべてオープンにし、いち早くお客様にお伝えすることが最も大切です。商品を回収するという事態であっても、カルビーを応援してくださるファンの方が多くいらっしゃいます。本当にありがたいことです。
私たちはお客様に対して何ができるのか。この問いはカルビーの哲学になっています。いつもお客様の顔を思い浮かべ行動する、そんな人間臭いお客様相談室でありたいですね。
私もお客様の電話に出ることがあります。時折、お客様から「私は素人なのでよく分かりません」という言葉をいただくこともあります。大いに反省するのですが、ついついカルビー目線でお答えしている証拠なのですね。社内用語や社内論理は、お客様には伝わりませんよね。
言葉遣い一つとっても、お客様にとって分かりやすいかどうか、常に「お客様目線」で考え、行動していきたいと思っています。