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ケーススタディー: 京浜急行電鉄様 (2019年5月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

      京浜急行電鉄
      運輸営業部
      営業環境デザイン課 主査
      戸川雅也氏(写真右)

      広報部
      報道課 主査
      金子貢平氏

京浜急行電鉄、創立120周年を迎え発信力アップ
「錯視サイン」、社会課題の解決に一役
貸切イベント列車で「沿線の魅力PRを」
床面に描かれた矢印が浮かび上がって見える。京浜急行電鉄が1月、羽田空港国際線ターミナル駅に設置した案内サインだ。目の錯覚を利用したもので、全国紙の一面・社会面で紹介された。現地でのメディア対応を行ったのは、「錯視サイン」担当部署の元広報マン。「社会課題への対応をアピールできた」と語る。2018年に創立120周年を迎え発信力を高めるなか、「特別貸切イベント列車」や人気アニメとのコラボなど話題も多い。社会課題への対応、多彩なイベント、ルートはそれぞれ違うが、目的地は同じだ。「京急を知ってもらい、沿線PRにつなげたい」――。
東京の空の玄関口に登場した「錯視サイン」は、新しい誘導方法として注目を集めました。導入の理由から教えてください。

目の錯覚を利用した案内サイン(写真下)やフォトスポット(同左)のほかにも、羽田空港国際線ターミナル駅では、世界的錯視研究の第一人者である明治大学の杉原厚吉特任教授の生み出した“立体作品”の展示会も期間限定で行われた。

戸川: 設置した場所は、羽田空港国際線ターミナル2階の品川・横浜方面行きホームへ向かう改札の先になります。

ここは改札を抜けて右側にエレベータがありますが、改札から直進するとエレベータが死角の位置にあることから、エレベータの前を通りすぎてしまい、スーツケースなど大きな荷物を持ったままエスカレータを利用するお客様が多くいらっしゃいました。

訪日外国人の方も増えており、昨年にはエスカレータで落下したスーツケースが人に当たる事故もありました。事故防止と、エレベータのご利用を促すことを目的として設置したのが、錯視サインです。

目の錯覚を利用した案内サインについては聞いたことがありません。

戸川: これまでエレベータのご利用を促すために、立て看板やフロアシートを設置してきましたが、あまり効果がありませんでした。

今回、文字通り「枠にとらわれず」に、場所を取らずかつ目立つものということで、目の錯覚を利用した「錯視サイン」を思いつきました。錯覚を利用したトリックアートは、エンターテインメントではおなじみですが、それを公共の案内サインに活用することは鉄道事業者初の取り組みになります。

錯視サインは全国紙の一面・社会面で報じられるほど、メディアの関心度が非常に高かったのですが、どのような広報活動を展開されましたか?

金子: 1月28日にリリース配信と、設置場所となる羽田空港国際ターミナル駅で、お披露目・説明会を行いました。来場メディア数は23社に上りました。当社では、こうした現地説明会や内覧会を頻繁に開催しています。

リリースと説明会の段取りは広報の私が行い、現地でのガイドは戸川にお願いしました。設置者として現場を熟知し、広報経験もある戸川にはもってこいの役でしたね。

※現地説明会が行われた1月28日の夕刊で、朝日が一面、日経が社会面で報じた。翌29日朝刊では産経の社会面で記事化された。そのほか、地元紙、スポーツ紙を含めると、1月には新聞7紙に掲載された。
メディア誘致はどのように行ったのですか?

戸川: 最近では、社会課題に取り組むという視点を大切にしています。お客様の安心・安全に関わる案件なので、普段からお付き合いのある社会部の記者さんにもお声掛けしました。

金子: 社会的な関心というと、まさに、錯視サインがそうでしたね。私も広報として、こうした社会的な視点をリリースにいかに盛り込むか、日々考えています。

錯視サインは、問い合わせや反響も多いようですね。

戸川: 空港を管理する会社や警察の方、大学の先生などから非常に多くの問い合わせをいただいています。駅員からはサインを設置してから「お客様のエレベータ利用率が格段に上がった」と聞いています。

壁から電車が飛び出すトリック仕掛けのフォトスポットを同駅に設けましたね。ユニークな企画を繰り出す「京急さんらしい」と感じました。

戸川: 錯視サインを手掛けた業者のピアニジュウイチさんは、エンターテインメント向けに3DCGの技術に絵画の技法を組み合わせた錯視効果を表現する「トリックビジョン®」を使ったフォトスポットを数多く手掛けられています。

業者さんとしても初めての試みである錯視サインとは別に、日本の玄関口である羽田空港国際線ターミナル駅でも気軽に写真撮影していただこうと設置しました。こういった錯視効果はカメラを通してみると一層その効果を発揮するようで、皆さまにご利用いただいています。

昨年創立120周年を迎え発信力が高まっています。昨年は人気アニメ「北斗の拳」とのコラボのインパクトが大きかったです。

金子: こちらは駅名看板の企画で錯視サインのようにお披露目式などを行わず、リリース発表のみでしたが、テレビ3社、新聞社9社に取材していただきました。

また、この企画では、特別貸切イベント列車も走らせました。こちらも10媒体に取材していただきました。京急という会社を知ってもらい、何よりも沿線に来ていただくきっかけになるということで、社内で特に異論は聞かれませんでした。


さまざまな企業と協力して運行する貸切イベント列車は人気企画の1つです。

「京急×キリンビール ビール電車」

金子: キリンビールさんとコラボした「京急×キリンビール ビール電車」は取材も多く話題を集めました。「ビール電車」は2016年から毎年開催しています。4回目となる今年も6月3日に実施し、複数のメディアにお越しいただきました。

19年3月には、ANA羽田−ウィーン線就航を記念して、客室乗務員が車内で案内する貸切列車「ANA×KEIKYU 空の旅号」を運行しました。貸切イベント列車は、17年から一般の皆さまにも拡大して、さまざまな用途でお楽しみいただいております。

戸川: 運輸営業部で販売している特別貸切イベント列車は、通勤・通学などでご利用いただいている電車内で同窓会や結婚式など非日常的なイベントをお楽しみいただくとともに、神奈川県南部や三浦半島への誘客を図ることで、より多くの方々へ沿線の魅力を知っていただけることを期待しています。

取材誘致を次々と成功させる秘訣は何ですか?

戸川: 貸切列車を運行するということは、運輸部門の協力がなくては実現できませんが、現場は非常に協力的です。

金子: 広報としても、そうした社内の協力的な姿勢に助けられています。撮影協力にしても他社と比べ、当社は担当部門とスムーズに話ができるため素早い対応ができると自負しています。

戸川: メディア対応も担当部署の協力があってこそ、スピード感を持って行うことができます。この点は当社の強みです。トップ以下、ある意味、全社員が京急をPRしていこうという前向きな社風がいいですね。

金子: 錯視サインでも、説明会後に記事が記事を呼び、多くのお問い合わせをいただきました。テレビ番組等で「すぐ使いたい」というご要望にも戸川と素早く連携し対応させていただきました。

今秋、品川・泉岳寺から横浜・みなとみらいに本社機能が移転されます。あらためて京急をどのようにアピールしていきたいとお考えでしょうか? 

戸川: 京急沿線でも住民の高齢化は大きな課題です。

広報時代に手がけた事例として印象に残っているのが、急な坂道の多い横浜市金沢区富岡西エリアで当社と横浜国立大学さん、横浜市さんと共同で行った電動カートを活用した実証実験です。こちらもよくメディアに取りあげていただきました。

また、横浜駅からも近い日ノ出町では、高架下スペースを活かした宿泊施設やカフェ・バーラウンジなどを集めた日本初の複合施設を開業しました。この事例も多くの媒体で扱ってもらえました。

これらの事例から学んだことがあります。第一報は新聞の社会部発信で、それからテレビへ波及していく、大きな波及力を創出していくという手法です。そのためには「大規模施設がオープンした」ということよりも、地域事情に合わせて沿線の活性化にどうつながるのか、そういった視点を発信することが大切だと思っています。

したがって、中央だけでなく地元メディアへの目配りがより必要となってきます。錯視サインのメディア誘致にも広報での経験が生きました。現部署でも、広報マインドを持って沿線の活性化につながる活動をしていきたいですね。

金子: 現在、横浜の皆さまに京急を知っていただく取り組みに力を入れています。

京急のロゴをあしらった赤とクリーム色のシーバスを18年4月から横浜市内の海上で運行しているほか、陸上でも、みなとみらい地区を周遊する2階建てのオープントップバスを走らせています。バスには「KEIKYU」の文字が車体に入っています。

品川から横浜、横浜から三浦半島、2つの路線の結節点である横浜に本社機能を移転します。位置的に、横浜以南への取り組みがしやすくなります。

1月22日には、開業120周年を記念した式典を京急川崎駅で開催しました。記念式典をはじめ、さまざまな周年の取り組みについてメディアでお取りあげいただき、露出が増えました。引き続き、沿線に暮らす皆さまと連携しながら、地域や街に貢献していきたいと思っています。

<京浜急行電鉄株式会社> 創立:1898(明治31)年2月25日
「広報活動は足で稼ぐ」という京急電鉄。横須賀エリア、横浜エリア、川崎エリアなど地域ごとに担当を分け、きめ細かいメディア誘致を展開しているのが同社の特徴だ。金子さんは「新聞社の支局の記者さんとの関係づくりを意識しています。メールでリリースを送って済ませずに、支局などに出向いてお時間があればご説明させていただいてます」と話す。