ケーススタディー: ロッテ様 (2019年4月号掲載)
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ロッテ
ロッテノベーション本部
パッケージ・デザイン企画担当
パッケージ企画課 主査
小垣美津子氏(写真左)
パッケージ・デザイン企画担当
デザイン企画課
伊與田千恵氏
「世界にひとつ」のデザインで話題集める
小垣: 新しい印刷技術との出会いがありました。1枚の絵柄をもとにランダムに拡大、縮小、回転させて無数のデザインパターンができるという「HP SmartStream Mosaicソリューション」ですさらに今回、印刷を行った『HP Indigo 20000デジタル印刷機』は、製版の必要がなく、多種多様なデザインをデータから直接プリントすることができます。
「版」を用いた従来の包装印刷ではこうした多様なバリエーションの印刷は難しかったのですが、『HP Indigo 20000』なら、小ロットでも、これまでのオフセット印刷に近い品質で作れるようになったのです。この2つの技術を活用すれば「商品1つ1つに違ったパッケージをつくることができる」と思いました。
私はパッケージのアイデアが浮かぶと、すぐに試作品をつくっています。『キシリトールガム』でも、この印刷技術を使ってライムミントの緑色のパッケージにマーブル模様を施した試作品をつくり社内を回っていたところ、『キシリトールガム』のブランドチームの担当者の目にとまったのです。ブランドチームでは、『キシリトールガム』発売20周年に合わせて何かできないかと模索していた時期だったと言います。本当にタイミングがよかったです。
伊與田: 周年の「20」という数字にかけて、活躍されている20組の20代の若者たちと新しい未来をつくり上げるプロジェクトでした。パッケージのデザインのもととなるイラストには、フィギュアスケート選手の羽生結弦さん、女優の土屋太鳳さん、小松菜奈さんらにご協力いただきました。
難しかったのは、入稿できるサイズにするためにデータを調整する作業でした。クオリティを担保しながら、パスを減らすなどデータが重くならないようにすることに気を遣いました。
小垣: 大々的に20周年をアピールして、それで終わりではなく、何か形に残る企画にしたかったですね。インパクトのあるパッケージで『キシリトールガム<Xミント>』を訴求し、それによって『キシリトールガム』のよさを若い世代に知ってもらうきっかけになればという思いがありました。
まず、元となるデザインを20枚準備し、コンピュータがその一部をランダムに抽出します。さらにそのデザインを拡大、回転することにより、200万種類以上というか、無数の異なるパターンが自動生成されます。無限に広がる未来というコンセプトにぴったりでした。
伊與田: 1人だけでなく、いろんな人と関わることで関係性や世界が広がっていく……そんな思いも込め、パッケージのもととなったパターンは1つのデザインからだけでなく、複数のデザインからも抽出するようにしました。むしろ、そこを狙いました。
小垣: 『キシリトールガム』のパッケージはメタリックカラーで、奥歯をシンボライズしたマークやロゴも広く認知されています。このフォーマットを崩さずに、1つ1つパッケージを変えるというのは今までにない挑戦でした。社内では異論もありましたが、あえてトップブランドの『キシリトールガム』でチャレンジすることに意味があるとチームを挙げて取り組みました。
伊與田: 周年だからこそ、挑戦できたというのはありますね。商品パッケージに着目した企画だったことはユニークですし、『キシリトールガム<Xミント>』という商品に携われたことは、私の大きな財産となりました。
小垣: 『Fit's』のパッケージですが、もともとミシン目のアイデアを今販売している9枚入りの板ガムでやりたかったんです。
市場調査で板ガムのデメリットとして多く挙げられるのが「開封後に中身がバラける」というものでした。包装紙と箱を部分的にくっつけてガムを固定すれば、取り出した後にバラバラになりにくいと考えました。ただ、板ガムの包装機の改良の都合などで、実現できませんでした。
その後、封筒型の新しいガム(『Fit's』)開発の話が持ち上がり、それに合わせて新しい包装機の導入も決まりました。新規の設備なら新しい機能が盛り込みやすいのではと見込み、再度ミシン目のアイデアを提案し、『Fit's』に採用されました。
伊與田: 片手で簡単にガムを取り出せることもありますが、若い人たちが感じていた「ガムを噛むと顎が疲れる」というネガティブな声を払拭し、柔らかい食感が若者に受けてヒットしました。
小垣: 非常にうれしく光栄なことです。ただ近年、世の中の風潮として脱プラスチック化の動きが進み、エコ容器や簡易包装にシフトしてきました。このこと自体は歓迎すべきことですが、つくり手としては、凝ったパッケージがつくりにくくなってしまったところはありますね。
そんな時、私たちに何かできることはないかと考え、浮かんだのが「おりがみ」として遊べる包み紙というアイデアでした。
㊤「ロッテ おりがみ部」部員による靴の作品サンプル
㊦「包んでください!キャンペーン!」特設サイト
小垣: そうなんです。包み紙をただ捨てるだけなんて、もったいないですので、「食べた後も遊んでほしい」という発想で、包み紙をおりがみ仕様にすることを提案しました。
『グリーンガム』、『クールミントガム』以外にも『梅ガム』など板ガム7商品のおりがみをつくりました。それぞれのブランドに合わせ、商品のロゴを散りばめてパターン柄になるように、デザイン性にもこだわりながらアレンジしました。
伊與田: おりがみをモチーフにしたのは、おりがみが日本の伝統文化で3世代で遊べるものだからです。世代を超えてガムに親しみを持っていただきたいと思いました。7商品の包み紙を一挙に変えることは、今までにあまりないですね。
小垣: 昨年の秋ごろからおりがみ仕様の商品の生産を始めましたが、在庫がなくなり次第、切り替えていくので、「いつから変わる」というアナウンスができません。
「分かる方にしか分からないかも」と思っていましたが、気づいた方の投稿をきっかけに、おりがみ仕様のパッケージが知られ、ものすごい反響で……。お客様にこうしたちょっとした変化に気づいていただけたことがうれしかったです。
伊與田: SNSに力作がたくさん投稿され、包み紙で、おりがみを楽しんでいただけている様子を拝見し、とてもうれしいです。3月末におりがみ部のサイトを開設しました。ペンギンやコアラ、梅の花の折り方を紹介しています。
小垣: 「こんなパッケージをつくりました。ここが凄いでしょう」と、設計者としてアピールしたくなる、そんな欲求に駆られないと言えば嘘になります。
でも、つくり手のこだわりが強すぎてはいけません。お客様がお菓子を食べるという自然の流れの中でパッケージの存在を感じていただけるような、「さりげないひと工夫」を目指しています。
伊與田: 過剰包装の見直しもそうですが、ゴミを減らすためにデザインに何ができるのか考えていきたいですね。そこはつくる側というよりは消費者の目線を大事にしていくということかもしれません。
最近、ボトルガムに入れている捨て紙を大きくしました。大きくなったことをただアピールするのではなく、親しみやすいキャラクターをつくり「包んでください! キャンペーン!」として、環境美化もさりげなく訴求しています。
対象の商品を購入し応募していただくと毎月100名に、キャラクターである「ガムちゃん」の風呂敷に包んだ、お菓子の詰め合わせが当たります。楽しんで集めていただきたいと「ガムちゃん」の絵柄は35種類つくりました。
昨年くらいからパッケージデザインだけでなく、こうしたコミュニケーションのデザインも手掛けるようになりました。デザインに一貫性や統一性を持たせようという試みです。
小垣: 当社では今、「ロッテノベーション」を合言葉に、開発・デザインや宣伝など部門横断的に連携を密にしながら、新しい価値の創造に取り組んでいます。パッケージの面でもお菓子の楽しさを知ってもらえるよう、お客様に笑顔と喜びをお届けしていきたいと思っています。