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ケーススタディー: 佐川急便様 (2019年3月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

佐川急便
人材戦略部 部長
三宮加代氏(写真左)

経営企画・広報部 広報課 係長
小泉友紀氏

佐川急便、ダイバーシティ推進のトップランナー
女性向け社内報で「多様な人材活用を」
話題の「佐川女子」写真集や表彰制度も
青と白のストライプの制服を着た「佐川女子」を街中で見かけることが増えてきた。従業員の約7割を男性が占める佐川急便で、女性が働きやすい職場づくりが加速している。だが、現場の末端にまで女性活躍推進の取り組みを浸透させることは容易ではない。その女性躍進の旗手が女性従業員向けの社内報「WAKU・WAKU・WOMAN」だ。「SAGAWAの女子力」に磨きをかけながら、多様な人材活用のトップランナーとしてPRにも力が入る。
「男性職場」のイメージが強い物流業界ですが、佐川急便では約3000人の女性ドライバーが活躍しています。同社を傘下に持つSGホールディングス(SGHD)の女性活用を推進するプロジェクトの成果です。初めにその施策である「わくわくウィメンズプロジェクト」から教えてください。

三宮: 圧倒的な男性職場である物流業界の企業風土を変え、企業イメージの向上を目指そうと、現在SGHDの会長を務める栗和田(榮一氏)が強いメッセージを発信しました。その具体的施策として女性従業員の活躍を推進するため、2011年に立ち上げたのが「わくわくウィメンズプロジェクト」(WWP)になります。

まず、グループ内の女性従業員10人からなる準備委員会を立ち上げ、主にハード面の見直しについて検討を行いました。小泉も私もこの準備委員会のメンバーとして全女性従業員(被保険者のみ)を対象にした婦人科検診の費用補助制度を導入したり、性別による役割分業意識を変えるため制服を廃止したりするなどの提言をしました。

グループの全従業員の大半を占めているのが佐川急便です。佐川急便自体が変わらないとグループは変わりません。私は当時、事業会社に出向中でしたが、異動により佐川急便に戻り、人事労務企画課で女性活躍推進という大きなミッションを与えられました。

佐川急便でも2013年2月に「さがわワクワク委員会」が発足し、6月には委員会で決められた方針や施策を具体的な形にしていく「女性ワクワク推進課」を人事部に設けました。「さがわワクワク委員会」では、荒木(秀夫)社長(現SGHD社長)に委員長に就任していただき、トップ以下、会社全体としての取り組みがスタートしました。

佐川急便には、通常の社内報とは別に、女性に特化された社内報があるとお聞きしました。

三宮: 佐川急便では13年から本格的に女性活躍推進に向けた取り組みをスタートさせましたが、そのメッセージを現場のすべての従業員にまで、どう浸透させていくのかという課題に直面しました。

当社には歴史のある社内報「HIKYAKU」がありますが、営業やドライバー向けの内容でしたので、女性たちが会社の方向性を認識し、エンゲージを高めることができるような女性専用の社内報「Waku−Waku」を同年7月から毎月発行することにしました。当初は全12ページ構成でしたが、現在は24ページに増えテイストも変わってきています。

最近、力を入れているテーマは何ですか?

三宮: 当初は「女性が働きやすい環境づくり」に重点を置いていました。現在では企業風土の改革をスピードアップさせるため、「女性の管理職を増やしていこう」ということで、「キャリア形成」をメインに据えています。

「女性活躍推進」については、今では国が押し進める政策でもありますが、自社の課題や目標の共有が最も大切だと考えます。女性に限らず、従業員の多様性を積極的に取り入れることで、企業文化の変革、物流業界のイメージを上げていくことを目指しています。

現在、注力しているテーマは、女性の定着率をどう上げていくかです。長く働ける環境をつくるためには、企業風土の変革が必要です。誌面を通じて、従業員の定着率向上にも貢献していきたいと思っています。

私自身この業界に入る前は、女性が働いているというイメージを持つことができませんでした。WWPの活動スタート時の女性従業員は15%ほどだったと記憶しています。中でも現場は、男性特有の阿吽の呼吸で仕事が引き継がれていくので、女性が入る余地がほとんどありませんでした。そこを変えていきたいと考え、改革を進めていきました。

表紙だけでも、ポップなファッション誌風からキャリア誌風に変わりました。

三宮: 一昨年に、プレジデント社さんの雑誌「PRESIDENT WOMAN」にご協力いただき、「Waku−Waku」から「WAKU・WAKU・WOMAN」にリニューアルしました。

現在は、社内メンバー3人を中心に社外からも人材を入れ、プロジェクトチームを組み制作しています。女性のキャリア形成ということで、社内では所長クラスなどの上位職や、社外で成功されている方も積極的に取りあげるようにしています。

「WAKU・WAKU・WOMAN」は男性従業員も読むことができますか?

三宮: 女性従業員はもちろん、男性従業員も主任職以上の役職者には配布しています。男性ドライバーからも「私たちにも配ってほしい」と言われることがありますが、印刷部数が計2万部ほどなので数に限りがあり……今後は、イントラでの公開やQRコードとの連携など、デジタル化についても検討していきます。

「佐川女子」の前にブレークしたのが「佐川男子」でしたね。

小泉: 当社では1990年代くらいから、広告などでドライバーを中核に据えたコミュニケーションを展開しています。

お客様にとって、一番身近な存在であるドライバーの人気が高かったこともありますが、ドライバーたちの現場力こそ、サービス業である佐川急便の最大の強みであると考え、そのドライバーを推していこうということで生まれたのが「佐川男子」でした。

そして昨年、「佐川女子」が写真集となり多くのメディアで取りあげられました。

小泉: きっかけは「佐川男子」でした。2018年3月に小学館さんのダイム公式サイト「@DIMEアットダイム」で「佐川男子」が取りあげられた際に、「当社には多くの女性社員も働いていますよ」と編集の方にお話したら、すぐに「佐川女子」の特集を組んでくれました。特集は大変好評だったということで「写真集を出してみませんか」とお誘いを受け実現しました。

現場のモチベーションアップにつなげたいという思いでご協力させていただいた企画で、自薦他薦約550人の応募の中から55人の現役「佐川女子」がモデルとして登場しています。カメラマンの渡辺達生さん、編集者さん、当社の担当者が集まり、書類選考を行った後、2次審査でさらに応募者から動画を送ってもらい絞り込みました。

撮影は東京・大阪・福岡の3カ所で8日間に及び、妊娠中のママさんやLGBT(性的少数者)当事者、聴覚障害を抱えた女性たちが、現場でいきいきと働く姿やプライベートで見せる素顔を撮っていただきました。

写真集を機に、当社の女性活躍推進のお話をするとメディアの方も「佐川女子いいですね」とすぐに反応してくれます。「佐川女子」というワード自体がキャッチーなのかもしれません。

写真集を出してすぐに雑誌やテレビで取りあげられ、メディアの中で「佐川女子」の認知が一気に進んだという感じがしています。写真集と当社の女性活躍推進の取り組みがセットで取材されるケースが多く、相乗効果も出ています。これから一般の方にも「佐川女子」の存在を知っていただければありがたいですね。

2012年に熊本県の八代営業所で佐川初の女性営業所長が誕生するなど、女性活躍推進の取り組みの成果が現れています。現場はどう変わりましたか?

三宮: 3年くらい前から、短時間勤務を積極的に導入し、採用も強化して現場の人数を増やすようにしています。ワークシェアリングの考え方で、1人が長時間働いていた時間を分割して、多くの人たちでシェアすることで、働き方改革を行っています。2年で7000人以上の人員を増員して、現場の意識も変わってきました。

茨城県の潮来営業所は、タイムワークシェアリングという新しい働き方で注目を集めました。ドライバーが集まらず、人材不足に陥っていた同営業所が地域で暮らす女性を雇用するために、女性のライフスタイルに合わせ、朝から勤務の「先発」、午後からの「中継ぎ」、夕方からの「抑え」と、スタッフを3チームに分け、急な欠勤者にも即応できるような仕組みをつくりました。これにより労働環境の改善も進み、口コミで求職者が来るようになりました。

小泉: 女性活躍については様々な機会を通じて、積極的に社内外にPRしています。なるべく女性の写真を大きく使うようにしていますね。当社ホームページの人気コンテンツである「今月の佐川男子×佐川女子」でも頻繁に女性を登場させるなど、至る所で女性の露出を増やして、当社の女性活躍の取り組みを広報的にサポートしています。

女性が中心となってビジネスに関わり業績に貢献した取り組みを表彰する「わくわくアワード」も女性従業員のモチベーションアップにつながっています。

三宮: 「わくわくアワード」は、女性の活躍を推進する取り組みを社内で表彰するイベントです。この名称は今後「ダイバーシティアワード」などに変えて、継続していきたいと思っています。

「女性ワクワク推進課」も17年3月から、「ダイバーシティ推進課」と改称しました。性別や年齢の違いに限らず、国籍、LGBTといった多様性を受け入れる価値観が、真のダイバーシティ実現につながっていくと考えています。

最後に、さまざまな人材が働きやすい職場環境を目指すうえで課題と今後の展望などお聞かせください。

小泉: 19年版『THE 佐川男子 カレンダー』の4月のモデルに、心と体の性が一致しないトランスジェンダーで、女性から男性に性別を変更したドライバーが選ばれました。カレンダーを通じて、社内も含め広く社会に「多様性」への理解が広がってほしいと思っています。個々の生き方はもちろん、会社の姿勢も伝わる、このカレンダーの持つ意味は大変大きいと思っています。

三宮: グループ全体の女性従業員は、WWPを立ち上げた頃と比べ、2倍の約3万人になりました。今後の課題は女性の中から経営に携わる人材を多く輩出していくことです。また、外国人やシニア、LGBTを含めた多様な人材の働きやすい職場づくりも行っていきます。

当社は、従業員の多様な価値観や個性を大切にしていきたいと考えています。例えば、若者とベテラン層の考え方は全く違います。いろんな考え方や価値観が生かせる環境をつくり、個々が自分の強みを活かして活躍し、佐川急便という一つのチームで、社会にこれまで以上に貢献していきたいと思っています。

<佐川急便株式会社> 設立:1965年11月24日
「Waku−Waku」創刊号では、三宮さん自ら表紙に登場し、「女性活躍推進」をアピール。営業所で女性所長も続々と誕生するなど現場は大きく変わった。新卒でも女性の採用が増えているという。「今は4割くらいが女性です。私から見ても企業イメージが本当に様変わりしました」と三宮さんは語る。