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ケーススタディー: 伊藤忠食品様 (2019年2月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

伊藤忠食品
経営戦略部CSVチーム チーム長
田井聡一郎氏(写真左)

経営戦略部CSVチーム
間野怜名氏

伊藤忠食品の本業を通じたCSV(共有価値の創造)活動
「商業高校フードグランプリ」を主催
「社会と企業とともに新しい価値を」
企業が、事業を行うなかで得られた知見やネットワークを生かし、社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創出し、その結果、経済的な価値も創造する活動はCSV(Creating Shared Value)と呼ばれ注目を集めている。伊藤忠食品が6年前から開催する「商業高校フードグランプリ」は、社会的価値と経済的価値の二兎を追うCSV活動の好事例だ。本業である食品卸売業を生かした教育支援として、地元の食材から特産品を生み出し、地域活性化に貢献することも目的に掲げる。CSV活動を通じ、商業高校、地域、そして企業も元気に――。
「商業高校フードグランプリ」は、商業高校と地域を元気にするイベントとなっています。その狙いについて教えてください。

間野: 商業高校では、2013年度から学習指導要領に「商品開発」が新設されました。この科目は商品の企画・開発だけではなく、商品を流通させていくところまで体験的に習得することが求められています。

食品の卸売業を営む当社は、本業を活かしたCSR(企業の社会的責任)の一環として、食に関わる若い人材の育成、そして地域の食文化継承の2つの観点から商業高校の教育支援を行っています。

その代表例が2013年度から毎年1回開催している「商業高校フードグランプリ」です。フードグランプリは、地域の特産品を使って地場企業と共同開発した食品のナンバーワンを決定する大会です。

適正な裏面表示や価格設定など「継続的に流通・販売可能な商品」「ビジネスの実態に即した商品」などの条件や課題をクリアすることで、商品開発・流通について実践的に学んでいきます。同時に、地域の食文化を地元を越えて、多くの人にPRしていくことも大会の大きな目的となっています。

■商業高校フードグランプリ・・・商業高校に通う高校生が地元の食材を活用しメーカーと共同開発した商品のナンバーワンを決定する大会で、伊藤忠食品が主催し2013年度から開催。18年度は、応募総数39校・54品のエントリーの中から7校・7商品が本選に出場した。平成29年度「青少年の体験活動推進企業表彰」最高賞の「文部科学大臣賞(大企業部門)」を受賞。

フードグランプリはどのようにして生まれたのでしょうか?

田井: 12年に行った当社の展示会で、高校生が作った商品をプロモーションしてもらう場を提供しました。高校生もメーカーさんやバイヤーさんの前で商品を熱心に説明しました。ただ、相手は食のプロで、地元の道の駅や文化祭での販売とは違います。

商品説明もさることながら、食品表示法の視点も重要で、例えばアレルギー表示がなかったり、原材料に占める重量の割合の多いものから表示していなかったりなど、全国で流通する商品としての要件やスペックを満たしていないケースが多かったことに気づきました。

そこで、商品開発について、もっと“流通”していくために必要な条件を高校生に体験的に学んでほしいという想いから、「商業高校フードグランプリ」というナンバーワン決定戦を立ち上げました。リアルな商いというものは学校の教室の中だけでは学べません。大会を通して、流通を含めた商品づくりの厳しさを肌で感じてもらえればと考えています。

従来は貴社の展示会の中で開かれていたフードグランプリですが、17年から一般の来場者にもアピールされています。

間野: 13〜16年度までは当社主催の食の展示会の中で開催し、食品業界の方をはじめとする企業の方しか見ることのできない大会でした。段々とBtoB向けの認知度が上がり、今度は商業高校フードグランプリ自体の認知度を上げようと考え、BtoC向けの認知度拡大を目指しました。大会自体の認知度を高めることで、さらにフードグランプリに参加したいと思う高校生を増やしたいといった想いもあります。

17年度は外部の展示会の一画に出展するという形で開催し、すべてではありませんが、一般の方にもご覧いただきました。そして、昨年度はさらなる認知度拡大を目指し、初めての単独開催として、KITTE丸の内で開催しました。

会場は、一般の方も多く行き交う開放的な空間で、法被姿の高校生が来場者に商品への思いや魅力を工夫しながら伝える姿が見られました。プレゼン審査は関係者のみの公開となりましたが、試食販売コーナーは多くの方でにぎわい、2日間で11,111人にご来場いただきました。

当日はテレビ取材も入り、多くの媒体で取りあげていただきました。また、本年度開催の「商業高校フードグランプリ2019」は、池袋にあるサンシャインシティ噴水広場B1のイベントスペースにて8月30日・31日に2年連続で単独開催いたします。

地元メディアに取りあげられるケースが多いですね。

田井: フードグランプリに出場したといった話題性から高校側からも地元メディアに発信していただいています。例えば、「本選出場に際し市長を表敬訪問」といった記事として、各地域で取りあげていただくことが増えてきました。

今後は、卸売業ならではの教育支援として商業高校を盛り上げながら、甲子園やインターハイなど運動部の全国大会と同じように、商品開発の活動にスポットライトが当たる舞台にしていきたいですね。中高生に商品開発に対してあこがれを持ってもらえるように、大会自体のブランディングにも力を入れているところです。

大会の流れと貴社によるフィードバックはどのように行われていますか?

相生産業高のプレゼン。
オリジナルソングもユニーク

間野: 予選における1次審査は事務局・当社営業担当によるメンバーで試食審査を行い、商品の味やパッケージの創意工夫など審査項目を設けて評価しています。2次審査では、当社の品質保証部がパッケージや表示が正しく記載されているか、食品表示法の視点から審査します。1次、2次審査の結果を総合し各地域ブロックで最高得点校が本選へと進みます。

本選では、試食審査、プレゼンテーション審査を通して、大会協賛企業の食品メーカー様をはじめとする審査員により、大賞を決定します。ほかにも、来場者の投票で決まる来場者賞やプレゼンテーション優秀賞などがあります。

フィードバックにつきましては、希望する高校に対して、評価点や課題点をお伝えしています。さらに、本選出場校に対しては、当社の品質保証部による食品表示についての講義を行います。また、グランプリ大賞受賞校には副賞として協賛企業様によるマーケティング授業を提供しています。

大会を通じて生徒たちの反応は?

間野: 大会後に、本選出場校に対して、大会に参加してみての感想などアンケートを行っています。回答の結果を見ると、「グランプリに参加して新たな学びはありましたか」という問いに対して、回答者すべての生徒が発見があったと回答してくれました。新たに学んだこととしては、「商品の値段が高い」「キャッチコピーが長すぎる」など食のプロの意見を知ることができたことと回答している生徒がいました。

また、「大会に参加してよかったですか?」という質問に対して、回答者全員が「とても良かった」と回答してくださいました。なぜ良かったと思ったのか理由はさまざまで、「他校の活動を知れたこと」「メーカー様の講義など専門家の意見を聞けたこと」「コミュニケーション能力が身に付いたこと」など、好評をいただきました。

18年度の大賞に輝いたのは、兵庫県立相生産業高校と地元メーカーなどがコラボし出来上がった『ふりカキ』でした。

間野: 牡蠣を加工する際に出る濃厚なエキスがこれまでは廃棄されていたことを知り、活用法を考えた結果、カツオフレークに牡蠣のエキスを浸み込ませ、ふりかけに仕上げたのが『ふりカキ』です。乾燥した牡蠣身も入っており、牡蠣の風味もしっかりと味わえます。

地元名産である牡蠣を地元の子どもたちがあまり食べたことがないということから、子どもたちに地元の食文化をもっと知ってほしいとの思いが生まれ、ふりかけを開発したそうです。

パッケージのデザインも、同高の生徒がイラストを手掛けています。そのほかにも、キャッチフレーズや応援ソン グの歌詞を校長先生が発案されるなど、学校を挙げて取り組んでくださったことをうれしく思います。

フードグランプリ出場商品はどこで買えるのですか?

田井: 『ふりカキ』は1月に大手GMS様で発売され好評でした。商品によっては、地元の道の駅などで販売されています。

当社はメーカー様を紹介し、小売店様の売り場で展開させてもらうというプラットフォームを活かしたマッチングを行っています。販売機会の支援とともに、これまでの関係、メーカー様やバイヤー様との関係性も活かし新たな協業の形を生み出していければと思っています。

当社のBtoC向けのECサイトで、フードグランプリ受賞校の商品の一部を売り出すという試みを始めました。店舗では期間や数量を限定したスポット販売が多いため、こうしたECサイトの活用も今後の課題です。

フードグランプリに出場した高校生が実際に入社されたとも聞いています。

間野: 当社主催の展示会でフードグランプリを開催していた頃に、熱心に商品説明をする高校生を見た当社の営業をはじめ現場担当から高校生を採用したいといった要望を受けました。人事総務部と連携して、高卒採用を2016年度より22年ぶりに再開しました。

実際にフードグランプリの本選を経験したといった社員もおり、今では合計26名の高卒者が当社で活躍しています。

田井: フードグランプリはあくまでも食を担う若い人材の育成が目的でリクルーティングを直接の目的として開催していませんが、高卒採用につなげられたことは、とてもありがたいことだと思っています。

CSV活動は、社内理解がカギだと言われています。

田井: 社内理解の一つの手法として社内勉強会などもありますが、まずは体験することが一番ではないでしょうか。

当社ではフードグランプリの予選審査の審査員、本選のスタッフとして、社内の営業をはじめとする他部署の協力のもとフードグランプリを運営しています。また、営業が取引先の小売店様を大会に招待することで取引先様からも大会や商品に興味を持っていただき、販売につながったといったこともあります。

実際に大会の現場を見てもらうこと、体験してもらうことでCSV・CSRの社内理解を図っています。

最後に、今後の課題と展望などお聞かせください。

田井: 高校生の開発商品の味だけでなく、商品化までの思いやストーリーをぜひ知っていただきたい。大会後も地元で長く愛される商品に育つよう、「商品の育成」という視点も欠かせません。

CSV活動のような社会と寄り添う姿勢を積極的に発信している企業だけが存続できるという個人的な想いもあります。業界全体で若い人材を育成する、そういう場所をこれからも大切にしていきたいですね。

取引先様からも地域のために頑張っている高校生を応援したいという声をいただいています。フードグランプリを食品業界全体のCSVのプラットフォームとし、多くの企業様、団体様と一緒に取り組みを推進してまいります。

<伊藤忠食品株式会社> 創業:明治19年2月11日
伊藤忠食品が卸売業としての強みを生かし、教育支援として推進するフードグランプリ。「自社のブランディングにもつながる」と田井さん。展示会のCSVコーナーだけでなく、小売店や百貨店で高校生開発商品が販売されるケースも増えてきた。「まだ知られていない商業高校のユニークな商品があります。今後も発掘していきたいです」と田井さんは話す。