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ケーススタディー: CSR48様 (2019年1月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

CSR48 総監督
リコージャパン
コーポレートコミュニケーション部
社会貢献推進グループ
兼 広報グループ
太田康子氏

企業のCSR・サステナビリティ部門担当者たちの
アイドルグループ?!
CSR48「女性らしく、やわらかく伝えたい」
SDGsの17のゴールを卓上カレンダーに
「本業とプライベートの境界線はありません」。その語り口に、社会のさまざまな課題に対して、凛として立ち向かう姿が見て取れる。リコージャパンでCSR・広報に携わる太田康子さん。2年越しでCSR部門への異動をかなえ、現在は東日本大震災の被災地の町おこしにも奔走する。そしてユニークなのが太田さんが総監督を務める「CSR48」の活動だ。アイドルさながらのカレンダーやイベントを仕掛けてCSRをやわらかくPR。オンもオフも社会課題解決に関わる、新しい働き方とは――。

さまざまな業種・業態のCSR担当者やCSRに関心のある女性が集まったCSR48に大きな可能性を感じます。最近では「サステナビリティ」(持続可能性)という言葉もよく聞きます。まず、CSRの範囲から教えてください。

私は「社会貢献推進グループ」という部署に所属していますが、CSRの範囲は幅広く、社会貢献はその一部にすぎません。コーポレートガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令遵守)といったことから、働き方、ダイバーシティ(多様性)といった人に関わる部分もあります。また、環境対応という大きな柱も別にあります。

リコーグループのCSR室は、日本企業で初めてのCSR専門部署として、国内のCSR元年といわれる2003年に設立されました。今は、従業員だけでなく地域やNGOといったステークホルダーと協働して生物多様性保全活動を行うなど、当時よりも更に進化してきています。近年は「サステナビリティ」という考え方なくしてCSRを語れません。

SDGsとは・・・Sustainable Development Goalsの略で持続可能な開発目標のこと。国連に加盟する世界193カ国が合意した17の目標、169のターゲットのこと。貧困や、気候変動等の、先進国にも途上国にも存在するさまざまな共通の社会課題について2030年までに達成すべき目標が設定されている。
CSR48には、立ち上げから関わっていますね。

社外のCSR勉強会の懇親会で意気投合した女性メンバーで「CSRに興味を持ってもらうにはCSR界のアイドルが必要では」と盛り上がったのが、ちょうどAKB48が話題になっていた時でした。

その後、都内のCSRコンサルの会社に勤めていた黒井理恵さん(初代総監督)を中心に十数人のメンバーが集まり、2012年3月にCSR48を結成しました。

CSR48を立ち上げた時、太田さんはまだCSR担当ではありませんでした。

震災ボランティアを機に、仕事で復興に携わりたいと、当時の復興支援室へ異動をしたいと思うようになりました。CSRの部署は少数精鋭のところが多いと思いますが、異動希望を出しても、すぐには通りませんでした。

当社にはRICOH JAPAN AWARDという社内表彰制度があり、その「社会貢献賞」を受賞したことが後押しになって、ようやく希望がかないました。CSR48結成から1年半後のことでした。

プライベートの活動がさまざまなところで本業に活きているということを感じます。社会貢献賞を受賞したのは、会社とは関係のないボランティア活動の中から出てきたアイデアを本業に絡めて実現したものです。当時、販売代理店でつくる「リコー会」の事務局をしており、その講演でお世話になった、元プロ野球オリックスの打撃投手の奥村幸治さんとの出会いが大きかったですね。

奥村さんご自身の少年野球チームを率いて、いわきに来てくださり、私の人脈を活かして東北3県の野球チームをいわき明星大学に呼ぶことができました。そこで諦めないことの大切さを学ぶ講演会を実施し、親善試合で交流を深めることができました。

太田さんのように、CSRの部署に異動希望を出しての配属されることは珍しいのでは?

そうですね。私の場合、東北の復興支援に携わりたいという思いが明確でしたし、構築してきた現地での人脈や、企業の横のつながりがこれからの仕事に生かせるという自信がありました。ただ、CSR48のメンバーの中からは「異動でCSRの部署に来たものの、何から手を付けていいのか分からない」という悩みを聞くこともあります。

もともとソーシャルに関心があれば別ですが、通常の人事異動で配属されるケースがほとんどで、担当者は途方に暮れてしまうのも分からなくはありません。CSRという部署は、社内外の調整役や発信などマルチな役割を求められます。私は「CSRこそコミュニケーション能力が高い女性にうってつけの仕事」と、よくメンバーたちに伝えています。

CSR担当者1人で問題を抱え込まずに、組織を超えて集まれば大きな力になりますね。

CSR48が、CSR部門に来て戸惑いを感じている女性たちの「駆け込み寺」のような存在になっている部分はありますね。

CSRという仕事は、今までの内容や手順を踏襲すればよいというわけではありません。ステークホルダーの関心事は変化していき、正解が見えづらく道を自ら作っていかないといけないという難しさがあります。

社内ではなかなか分かってもらえないことも多いですが、CSR48の中だと「それいいじゃない。こうしたらどう」と共感してもらえるだけでなく、新たな気づきをもらえることがあります。これこそグループの持つ力で、担当者としてやる気がわいてくるのです。社内で孤立しがちなCSR担当者のモチベーションを上げ、いかに維持していくかが大切だとつくづく思います。

CSRは直訳すると「企業の社会的責任」になり、CSRレポートも「堅い」「自分には関係がない」と思われることも少なくありません。

CSR48では「握手会」と呼ぶイベントを行ったり、卓上カレンダーを作ったり、「楽しく伝える」ことをモットーにしています。思わず「何だろう」と興味を持っていただける仕組みを大事にしています。CSR48のブログのバナー写真は相当インパクトがあるみたいです。

背景が黒色で印象的ですね。プロのカメラマンに撮っていただいたとか?

正しいことを正面切って伝えるだけではなくて、一瞬立ち止まらせるような、注目してもらえる仕掛けも必要だと思っています。

黒という色は高級感を表し、ブランドの価値を上げる、ブランドを訴求する色でもあります。CSRは企業のブランド価値を高める活動ですので、そこも表現できればと思いました。

プロのメイクさん、カメラマンさんに撮影をしていただきました。あえて笑顔にしなかったのは、凛とした女性像というものを大事にしたかったからです。毅然とした態度で、社会に横たわるさまざまな問題に向き合いたいという思いを込めました。

CSR48の活動では、CSR・環境にフォーカスしたビジネス情報誌「オルタナ」への連載も大きな柱となっています。

メンバーが書かせていただいているWebコラムでは、ジェンダーや健康経営といったメンバー自らが書きたいと思うテーマを取りあげています。

「オルタナ」の連載は、編集長にCSR48について取材をお願いするメールを送ったのがきっかけです。CSRの担当者にとって勉強会やセミナーなどを通じたインプットはもちろん、外部に発信していくというアウトプットも重要なことだと思っています。

昨年はセミナーやイベントでの登壇が多かったですね。

18年3月に渋谷ヒカリエで開催された「HAPPY WOMAN FESTA 2018」では、CSR48企画のトークセッションを行いました。

女性の生きづらさのリアルについて語ってもらい、会場に足を運んでいただいた方が多様な生き方があることを知り、エンパワメントになればと思いました。CSR48というフィルターを通し、今後も広く一般の方に様々な情報をお伝えできれば嬉しいですね。

最近では、国内の女性誌として初めての試みとして、一冊丸々SDGsを特集した「FRaU」1月号が話題になりました。18年は、SDGsについて「広報会議」でも大きく取りあげられたほか、学生の就活の指標としても注目を集めた年でした。

「日経エコロジー」が昨年から「日経ESG」に誌名が変わったのも、いまや「環境(E)」だけでなく、「社会(S)」や「ガバナンス(G)」を意識した取り組みを進めることが、企業の経営基盤の強化に欠かせなくなってきたということだと思います。

実は大企業では「CSR部」といった「CSR」を冠した部署は少なくなってきており、「サステナビリティ」が付いた部署名が増えてきました。100年先を見越し、新規ビジネスを立ち上げる時に何を指標としていくのか。広く環境・社会・経済の観点からこの世の中を持続可能にしていくという「サステナビリティ」を抜きにして、企業活動を考えることができなくなってきています。

バイタリティーあふれる太田さんですが、ご自身のキャリア形成について教えてください。

私は北海道出身で、当時の北海道リコーに入社しました。10年前に希望を出して、東京のリコー販売に転籍しました。東京でチャレンジしたいという気持ちが強くなり、関連会社へ転籍という、あまり例がない形で上京してきました。

もともと学生時代から人権問題に関心があり、学んだことを学園祭で展示したりして発信もしていました。

キャリア観を一変させ、さらに社会問題の解決に向かわせた出来事はあの東日本大震災でした。

2011年3月の東日本大震災は、私の人生のターニングポイントになりました。発生直後は移動手段がなく、すぐに現地へ行くことができず、6月になってようやく、ボランティアバスで福島県いわき市に入りました。この時見た光景が忘れられません。見渡す限りの瓦礫、それとヘドロがたまった臭い……。自衛隊や警察もすでに撤収してしまい、瓦礫の山を地域で片づけなければいけませんでした。

ボランティアは1回行っただけではダメだと、何度も通わなきゃと思いました。東京からバスや車を乗り合わせていく仲間ができ、そういう仲間が企業で活躍している人ばかりで、彼らと一緒に活動していて「こんな働き方もあるんだ」と気付きました。「こういう仲間と進んでいけば、社会をよい方向に変えていけるかもしれない」。そう思ったんです。

現在は地域おこし活動を通じて、東北復興に関わっています。

ボランティアと地元の方々との間に生まれた絆が形となったのが「水風戦」でした。雪合戦の「雪玉」を「水風船」に持ちかえて投げ合うスポーツで、いわきでのボランティアがきっかけとなって生まれ、全国にじわじわ広がっています。

私は現在、「水風戦協会」の広報担当理事として、各地の大会に際してルールブックの提供などのサポートをしています。

本業とCSR48、水風戦協会理事と「3足のわらじ」になります。

どれも好きなことをしているので、忙しいといえば忙しいですが、大変だとは感じませんね。

リコージャパンでは、お客様の経営課題を解決するお手伝いをするために、自分たちのCSR活動の実践事例を提供しようと、CSR報告書をもとにした勉強会を全国で行っています。SDGsに関する自社の取り組みを紹介することで共感していただけたり、課題解決のヒントにつながっています。

リコーが本業を通して社会的課題を解決しているというストーリーをお客様に伝えることができれば、リコーのファンが増えるという効果もあります。

リコーには創業の精神「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」があり、それが全ての活動のベースになっています。例えば、従業員の生活の質を上げるにはどうすべきか…など、SDGsを難しく考えずに、企業の創業の原点を振り返ってみることで、見えてくることもあると思います。
CSR活動を社内外へ浸透させるために、どんな取り組みをしていますか?

リコーグループでは、毎年6月の環境月間に、社員一人ひとりがそれぞれのエコアクションを考え、これを「エコ宣言」としてデータベースに登録する「グローバル・エコアクション」を実施しています。

中でもリコージャパンの登録率は70%を超えグループの中でも突出しています。社内ではこの「エコ宣言」を含め、法令遵守、社内ルール・マナーを守っているかなど、毎月第1週に「CSR−Weekセルフチェック」を役員や人材派遣スタッフも含めた全社員で行っています。

CSR48に話を戻すと、毎年好評のカレンダーですが、19年度も制作されるのでしょうか?

もちろんやります。4月始まりのカレンダーで、17年度からSDGsをテーマにしてします。15年度は東京名所シリーズで、16年度がサイボウズさんの社内、17年度が原宿周辺の公園などで撮った写真を使い、購入いただく方を飽きさせないように工夫してきました。

18年度は学士会館で撮影し、古い建物を残していきたいというエシカルな思いを込めつつ、歴史と重厚さを活かしたノスタルジックなイメージに仕上げました。

CSR48の今年の目標は?

特に年度の方針などを決めてはいません。それは女子会というスタイルを大事にしているからです。わいわいガヤガヤの中で、あるメンバーが投げてきたボールに、別のメンバーが投げ返す、そうした中からやりたいことが見えてきます。

CSR48にはNPOで活躍しているメンバーもいます。以前、子どもの貧困というテーマで勉強会をしましたが、企業だけでなく、多様なメンバーがいるからこそ出てきたテーマだと思います。今年もどんなテーマが出てくるのか楽しみです。

CSR担当者の「3大お悩み」というのがありまます。「トップのコミットメント」「効果測定」「社内浸透」は、広報と重なる部分も多いのではないでしょうか。CSRの「R」はレスポンシビリティです。ステークホルダーのさまざまなニーズに応え、そして情報開示が欠かせません。

広報とも連携し、発信していくという責任を常に感じています。CSR48としては、やわらかくCSRをお伝えするということに変わりはありません。社会をよりよくするために、一歩を踏み出してみませんか。

<CSR48> 結成:2012年3月
リコージャパンでCSR報告書を使った勉強会の講師として各地を回っている太田さん。「支社だけでなく、地場企業もできる限り訪問しています」と話す。「その地域特有の悩みや課題を肌感覚で知ることができ、地域に寄り添いながらSDGsについてお話できるからです」。その活動が地方紙で取りあげられたこともあるという。「メディアを通して、CSRの活動を知ってもらえます。反響があると、やりがいを感じますね」と語る。