ケーススタディー: バスクリン様 (2018年11月号掲載)
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株式会社バスクリン
販売管理部営業企画課マネジャー
広報専属 博士(スポーツ健康科学)
石川泰弘氏(写真左)
販売管理部営業企画課リーダー
バスクリン銭湯部部長
高橋正和氏
社内部活動「銭湯部」からコラボも相次ぐ
石川: 自然由来の原料だけを使用した薬用入浴剤『バスクリンマルシェ』=写真上段=と、インドの伝承医学「アーユルヴェーダ」に基づき弊社が初めて手掛けたバスソルト『アーユルタイム』=同下段=を発売しました。
このお披露目として9月に発表会を行いました。新しいカテゴリーの商品は入浴剤のマーケットのすそ野を広げる試みでもあります。
発表会では今話題の先生のセミナーも同時開催しています。専門家の立場から入浴のよさを発信していただくとともに、弊社の製品への理解を深めてもらうのが目的です。昨年は2013年度のイグノーベル賞を受賞した帝京大学の新見正則先生、今年は順天堂大学の小林弘幸先生に登壇していただきました。
石川: ライターさんが雑誌にも個人のブログやインスタグラムにも記事を書く時代になりました。最近ではインフルエンサーへの情報提供にも力を入れています。
石川: バスクリンは06年にツムラから分社化された後、08年にツムラグループから独立しました。私が広報になったのは分社化された時からになります。
ツムラから独立直後にリーマン・ショックに見舞われました。激変する環境の下で、残った社員はみんな必死でしたね。食べていかなればならないのですから。私は当初、経営企画兼IR・PR担当でしたが、独立後に取材が増えてきたこともありPR専属になりました。
PRを本格的に始めるに当たり、温泉入浴指導員と睡眠改善インストラクターの資格を取りましたが、会社や商品のPRをどのように効果的にやっていくかと考えた時、「人」を立てた方がいいと考え、自ら「お風呂博士」と名乗ったのが始まりです。
自分が全部答えられるようになれば効率的に仕事ができます。情報は正確でしかも深い知識に基づいたものでなければいけません。「博士を名乗るなら、本物の博士になろう」と順天堂大学大学院に通い研究を始めました。社内留学制度を活用し同僚にも助けてもらいながら5年かけ博士号(スポーツ健康科学)を取りました。
石川: スポーツ選手との関わりは、12年のロンドンオリンピックからになります。このころ弊社はオフィシャルパートナーとして日本レスリング協会さん、日本トランポリン協会さんと公式スポンサー契約を結びました。
ちょうど、『きき湯ファインヒート』が世に出る直前で、『きき湯ファインヒート』をレスリングの代表選手に使ってもらいながら、様々な入浴情報を提供し選手のコンディションに役立てようと「きき湯 ゴールドサポートプロジェクト」を展開しました。
その後の活躍はご存知の通り、吉田沙保里選手、米満達弘選手、伊調馨選手の金をはじめ5選手がメダルを手にしました。
発売当初の『きき湯ファインヒート』は温浴効果を高めて血流をよくする炭酸ガスが通常の『きき湯』より約3倍(現在は4倍)入っていました。
デイリースポーツさんの取材で私が選手に愛用されていることや商品についてお話したところ、伊調選手を支えた「マル秘入浴剤発売へ」という記事にしてくれました。記事がTBSさんの「朝ズバッ!」で取りあげられ、その後も同じようなかたちで新聞、テレビで露出が続きました。弊社が初めて関わった五輪でしたが思いもよらぬ反響に社内も大いに沸きました。
石川: オリンピックが開催される時はトレーニングルームをはじめ、温水と冷水の交代浴が行えるリカバリープールも備えたハイパフォーマンス・サポートセンターが現地に設置されます。ロンドンオリンピックを機に入浴の大切さや入浴剤の効果的な利用方法を理解してもらうために何度も国立スポーツ科学センター(JISS)やナショナルトレーニングセンターに足を運び、トレーナーやアスリートにもお話させていただきました。
実際にトップアスリートに『きき湯ファインヒート』を利用してもらったところ、そのよさが選手同士の口コミで広がり、使う選手が増えていきました。時間をかけて競技団体や選手、そしてサポートするJISSとのコネクションを構築していったので、最終的に製品を購入していただき、施設への設置につながりました。そしてメディア公開時に商品(入浴剤)を露出することができました。
金額サポートだけなく、人間関係が構築できたことがよかったと思っています。
高橋: ハイパフォーマンス・サポートセンターは日本で選手が使用している設備やアイテムをそろえ、安心して調整に臨む施設ですので、運動生理学の専門家である石川が単なるプロモーションではなく、選手に役立つものとしてしっかり説明できたという側面がとても大きかったと思います。「お風呂博士」ならではの取り組みが実を結んだ形です。
石川: 実は入浴剤を年間通して使っていただいているお客様というのはそんなに多くはありません。4割くらいでしょうか。まだまだ嗜好品の域に留まっています。
入浴剤を入れたら残り湯はお洗濯に使えないのではないか、風呂釜によくないのではないか、そんな誤解も根強くあります。残り湯を洗濯に利用できるよう色素を工夫していますし、浴槽や風呂釜を傷める成分は配合していません。
最近では入浴せずに、シャワーだけで済ます方も増えています。私は「まずはお風呂に入りましょう」というメッセージを発信しています。お風呂を好きになってもらい、それからバスクリンのファンになっていただければありがたいですね。
高橋: 弊社には製剤研究のベテラン、香りのベテランなど様々なベテラン社員がいます。そこに新しい人材が入ってきてミックスされていく、今はそのような組織にフェーズが進んでいます。
石川: 4年くらい前くらいでしょうか。若手が各職場に入ってきました。
高橋: 私は12年に転職でバスクリンに入社しました。弊社の前身である津村順天堂は、日本で初めて入浴剤を開発した企業で、入浴剤には120年の歴史があります。バスクリンの歴史をひもとけばひもとくほど、社内に蓄積された優れた技術や知見を継承していく必要性を感じるようになりました。
社内を見渡すとベテラン社員が多く、皆お風呂好きなんです。「お風呂っていいよね」という共感をベースにして、何か社内が一つにつながっていけないかと思ったことが銭湯部立ち上げのきっかけです。若手が集まって社内に新風を起こそうという、そういう取り組みもありますが、私は先輩方と一緒になって社内をつなぐ活動にしたかったんです。
『バスクリン ゆずの香り』は60回以上のテストを繰り返したということを銭湯で一緒に浸かりながら直接聞きました。先輩方の経験を受け継ぎ、アップデートしていくのは私たち若手社員の使命です。
高橋: 『バスクリン』のルーツを探っていくと、入浴剤が広まったのは銭湯という場所からであったことを知りました。高度成長期、内風呂のついた戸建て住宅や公団住宅が増え、一般家庭に内風呂が浸透しましたが、それ以前は銭湯が一般的でした。しかし、銭湯はこの20年でその数を約4分の1に減らしたというデータもあります。
石川: 実はスーパー銭湯の数も伸びていないんです。
高橋: 原点の一つと言える銭湯のよさを見直そうと、15年4月に4人で立ち上げて現在メンバーは10人ほどになります。最近では「タイミングが合う方なら部員以外でもどなたでもご参加を」と呼びかけています。今年も新入社員が来てくれたり、つくば研究所から駆けつけてくれたりすることもありました。
お風呂はいいですよね。裸の付き合いというか、部署の垣根もなく、話が広がりアイデアが生まれるきっかけにもなります。仲間と銭湯に入り交流するほかに、「東京銭湯―TOKYO SENTO―」というウェブで様々な発信をしています。
「会社のルーツ」とも言える銭湯を守りたいという思いは、会社の枠を超えて他の企業など社外の共感を生んでいきました。
石川: 『弊社も属する大塚グループの「大塚社内報」でも連載し、銭湯部の認知度が高まってきました。セミナーもそうですが、1社だけでものが動く時代ではなくなりましたね。
高橋: 昨年10月には、東急ハンズ池袋店と豊島区の銭湯がコラボした「ハンズ湯」に銭湯部も協力させていただきました。ハンズ湯オリジナルの銭湯グッズの販売をはじめ、『きき湯』と大塚製薬さんの『ポカリスエットゼリー』がもらえるプレゼントも好評でした。
今年4月には、朝日新聞社さんの“毎日血圧(BP=Blood Pressure)を測って健康な生活を送ろう”という「BP365運動」に弊社が賛同しているのが縁で、オムロン ヘルスケアさんをはじめとした他社の協賛を得て「BP銭湯WEEK」というコラボ企画に取り組みました。
突然ですが、お風呂に入ると血圧は上がる、それとも下がると思いますか。
高橋: 実はお風呂に入ると「下がる」が正解です。銭湯に設置された血圧計で血圧を測ると効果が一目瞭然でした。「入浴は血圧を下げ、良質な睡眠を促します」というメッセージは弊社だけでなく、オムロン ヘルスケアさんと一緒に発信することで、より大きな効果が期待できます。イベントでは「お風呂博士」による「お風呂と睡眠と血圧の関係」の講演もありましたね。
石川: 入浴に関心のなかった方が、別の接点、ここでは血圧という“入り口”から「面白そう」と入ってきてもらうような仕組みがコラボにはありますね。
高橋: 若担会でオムロン ヘルスケアさんの広報担当者と「健康産業同士、何かできたら」というゆるい会話からスタートした企画でした。今回のコラボにより、良質な睡眠を促す入浴の仕方をお伝えすることで、血圧に伴うリスクを軽減できるというメッセージを効果的に発信できたと思います。
マスマーケティングで顕著ですが、一方通行のコミュニケーションではうまくいかない時代です。受け手側がより「自分ごと」に感じてもらえるよう、「共感」をキーに他社も含めて課題解決に取り組んだ方がメッセージを効果的に届けることができる、そんなケースになったと思います。
高橋: 私は主要ブランドのマーケティング・プランニングをしていますが、どこが「共感」されるポイントなのかを業務にも落とし込んでいます。バスクリンというブランドを例にとると長い歴史を持つがゆえに、ユーザーの年齢層も上がっています。次の世代への認知が課題です。
元々は家族の健康と幸せを願うブランドとして愛されてきた商品です。そこで、30、40代のファミリー層に向けて、もう一度バスクリンというブランドに親しんでもらおうと、「バスクリンのうた」を作り、伝えることにしました。「バ・バ・バ・バ・バスクリン……」と、子どもから大人まで親しみやすいメロディーが受け、今SNSで話題になっています。
「一方通行のコミュニケーション」がそっぽを向かれてしまっているというのは、届けたい相手に、その人が必要な情報を提供していないからだと思います。情報は、その情報を必要としている人に届けなければいけません。そのためには、どんなメディアが考えられるのか、ユーザーの「共感」を引き出すにはどんな手法を使ったらいいのか、PR担当として日々知恵を絞っています。
新発売の『アーユルタイム』では、ホットヨガスタジオのLAVAさんとコラボしました。11月からLAVAさんの特設サイトでトップインストラクターが考案したお風呂でできるヨガの紹介など、ヨガに親しむ方のライフスタイルに取り入れたくなるようなご提案をしています。
石川: 広報としては「正しくて本物の情報をお伝えする」こと、これに尽きます。
ブランドは企業がつくるのではなく、「消費者がつくる」「消費者とつくる」時代に変わりました。高橋が言ったように、必要な情報を必要とする人に対してタイムリーに伝えることが大切だと思います。
『きき湯』はテレビパブリシティーを積極的に活用してヒット商品となりましたが、今はニーズも多様化し、商品がヒットするための方程式は「これ」というものがありません。その情報を必要とする人がどんなメディアを使っているのか、それがマスなのか、インスタなどのSNSなのか、タッチポイントを見極めてピンポイントで情報を届ける仕組み立てが欠かせません。
高橋: 2020年東京オリンピックを控え銭湯部の取材を受けて感じるのは、銭湯は日本らしさ、日本の文化として括られる傾向があり、弊社としても発信の好機ととらえています。
石川: お風呂のよさを粘り強く訴求していきたいと思っています。入浴剤を使っていただく人を増やすために、シェアも大事ですが、業界全体でパイを広げていく取り組みをしていかなければなりません。
地元開催のオリンピックです。日本選手のメダル量産が期待されていますが、その強さの秘訣としてお風呂や入浴剤に光が当たり、海外選手を通じて、それぞれの国の一般の方にもお風呂や入浴剤の使用が浸透したらと、期待も膨らみます。
高橋: 「日本のお風呂文化の世界遺産登録を目指す」と色んなところで話をしています。最近では銭湯部の活動が採用広報にもなり、インナーコミュニケーションや企業PRという枠に収まらなくなっていることを感じます。
バスクリン社がどんな会社であるのか、どんな会社を目指すのか。そういったメッセージを発信する際、広報、マーケティング、人事など他の部署との連携を深めていく場面も多くなっていくと考えます。多くの点をつなぐ役割を銭湯部でも、本業のPRでも果たしていきたいと思っています。