ケーススタディー: そごう・西武様 (2018年10月号掲載)
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そごう・西武
百貨店事業部営業企画部
広告・宣伝担当
吉元誠治氏(写真左)
社長室 広報・CI担当
高田依子氏
1週間で35万回再生、露出230件超す
たという。「テスト」「東大生」「動画」はどのように結びついてい
ったのだろうか。
吉元: 世の中の母の日に対する固定観念を崩し、潜在的なニーズを掘り起こしたいと考えていました。そんな時、目にしたのが母の日に何もしていない人が約半数いるという市場調査でした。
例えば、バレンタインは友チョコや自分へのご褒美チョコなど変化しながら市場が拡大していますが、母の日はどうでしょうか。判で押したように「お母さん、ありがとう」というメッセージやカーネーションのビジュアルです。こうした「当たり前」や「常識」を覆し、縮小傾向にある母の日を活性化させたいという想いが企画の出発点です。
まず取り組んだのはポスターでした。母の日に参加したくなるようなポスターにしたかったのです。
参考になったのが、私の出身である広島・呉の夏まつり「海上花火大会」(2017年)のビジュアルでした。SNSで話題になったのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、花火の写真ではなく、若い男女、父と子といった花火を見に来た2人のイラストにキャッチコピーがつき、5パターンありました。
ある1枚には「地元の花火。友だちには会った。あいつにはまだ。」というコピーが付いていました。「友だちに会いたいな」と久しぶりに花火大会に行ってみたいという想いをくすぐられましたね。
この異色のビジュアルには、何か行動を起こさせる力を感じ、「母の日を変えたいんです」と、この制作チームにポスターを依頼しました。上がってきた1枚が、電車の中で男性がぽつんと座っているイラストに「去年は、なにもあげなかった。もちろん母はなにも言わなかった。」というコピーで、母の日に何もやらなかった方に刺さるようなポスターでした。
ポスターは全部で6種類作っていただき、これを従来通りの店舗等への掲示で終わらせず、SNSでも発信しました。
吉元: ツールにはインパクトが必要でした。アーティストとして幅広い層に支持される木村さんが初めての絵本を出版されるニュースを見て「これだ」と、すぐに連絡を取ることにためらいはありませんでした。
「母の日に行動を起こしていない人を動かしたいという企画です。来店のきっかけになるようなツールをお願いします」と木村さんにお話ししたところ快く受けていただきました。後で木村さんから「どんなイラストか見てもいないのに、お話をいただいたので驚きました」とおっしゃっていました。
吉元: 母の日のアンケートをもう一度見てみました。すると、母の日に贈りたいものとして花やお菓子といったギフトが挙がる一方で、母親にとっては、感謝の言葉がうれしいという声が根強いことに気づきました。
私たち小売業が、一番のターゲットである母親の欲しいものに十分にアプローチしていなかったんですね。コミュニケーションによって親子の絆を深めたい。そのツールとして出てきたのが「母の日テスト」です。
吉元: 私自身の反省もありました。広島に住んでいる母にカープのチケットを贈って一緒にマツダスタジアムに行こうと誘ったことがあります。幼い頃に親子でカープ戦を楽しんだ思い出がよみがえり、喜んでくれるだろうと思っていたのですが、実際は違いました。
母は高齢ということもあり、外出すると野球観戦の楽しさよりもトイレの心配の方が大きいというのです。母親の“今”に対する理解が足りなかったんですね。もっとコミュニケーションをとって親子の絆を強くすることが、母の日に参加することにつながるのではないかとあらためて思いました。
「母の日テスト」の中には、こんな問題があります。母の年齢、干支……ここまでは結構分かるかもしれません。「あなたの母の好きな食べものを書きなさい」という問題はどうですか。一緒に暮らしていた10代の頃なら知っているけれど、今はどうなんだろうと不安になってきませんか。
母親のことを一生懸命考えないと問題には答えられません。この考えた時間こそが価値のある贈り物になりますよね。そして、書いた以上は答え合わせが必要なので、母親とのコミュニケーションの場が生まれます。テスト形式のメッセージカードにして店頭でも配りました。
今回挑戦したことは母の日に何も行動してこなかった人たちへのアプローチです。そのアプローチを通じて、そごう・西武に馴染みのないお客さまにも関心を持ってもらいたいと考えた時に、まだできることがあるのではないかという思いが沸いてきました。そんな時、同僚の一言がヒントになりました。
吉元: 営業企画部の同僚の「テスト問題は難しい。東大生でも解けないですよ」と何気ない一言にひらめいたんです。
実際に東大生に解いてもらい、その動画をウェブ上で公開したらどうだろう。ただ、ご覧になった方がすぐに東大生だと分かりませんよね。そこで、クイズ番組「東大王」のメンバーである鶴崎修功さんにも出演していただきました。
東大生には、そごう・西武のCM撮影とだけお伝えしていたので、母親に関する100問のテストという内容に皆さん驚かれていました。時間は30分では足りず15分延長して、その後、答え合わせのため母親に電話をかける姿があちこちで見られました。
吉元: 動画再生は1分を超えるごとに20万回落ちるといわれており、社内の反応も「長すぎる」という意見が出ました。
私は撮影現場に立ち会い、親子のやりとりを目の当たりにしました。「あなたの母があなたを誇らしいと思っていることはどんなことか」という問題があります。息子さんの問いにお母さんの「あなたの存在全部だよ」という声が電話越しに聞こえてきました。台本があったとしてもこんな台詞は書けません。「どうしても5分7秒の尺でないと伝えることができない」と反対を押し切った形です。
今回のプロモーションは「セオリー通り」ではなく、いかに母の日に参加していない人の心に刺さるか、そこを深堀りすることが目的です。動画が広く拡散されるためには、テレビで取りあげられる必要があると考えました。そこで、広報担当の高田さんには無理をお願いしました。
高田: 通常、プレスリリースは1案件につき1回しか発信していませんが、今回の「母の日プロモーション」では3回リリースを出しました。
4月3日に今年のテーマや狙い、木村さんのラッピングツールを紹介する第1弾リリース、4月23日に、動画公開に合わせて第2弾「東大生でも意外と解けないテスト?!」、そして5月1日には動画が話題になっていると数字を出し、「公開から1週間で35万回再生を突破!」というタイトルで配信しました。
実は第1弾リリースを出すという時点で、動画の話を吉元さんから聞いていました。広報としては、プロモーションの肝となる動画の存在を早めにお伝えした方が話題になると考えましたが、吉元さんの「動画はリアルタイムで拡散していくので、あまり早く告知しないでほしい」という要望もあり、4月末まで待ちました。
吉元: テレビで母の日を取りあげるとしたらゴールデンウィーク明けです。メディアが連休前にネタ探しをされる4月末というタイミングが大切でした。
4月22日に、木村さんの絵本が発売される記念として西武池袋本店の三省堂書店さんと一緒に木村さんのトーク&サイン会を開催しました。そして、いよいよ動画の公開です。ここまで伏せておいたのは、このイベントの記事が多く出た翌23日に公表し、記事をご覧になった方から口コミで一気に話題が広がってほしかったからです。祈るような気持ちで告知しました。
高田: 5月1日にTBSさんの「ビビット」で取りあげていただいたことが呼び水となって「母の日テスト」だけで、これまでテレビ14番組、新聞19件、ネット媒体約200件、雑誌などを含めると計238件に上りました(10月1日現在)。一つの企画でこんなにパブリシティーがあったことは近年例がありません。
吉元: 母の日が終わってもお問い合わせをいただいています。動画再生回数も126万回を超えています(10月1日現在)。こんな話も聞きました。娘さんが認知症のお母さんに毎日、問題を出していくとお母さんの機嫌がよくなるというのです。テスト問題が一人歩きして、皆さんのお力になっていることは本当にうれしいですね。
高田: 百貨店で買えるものの多くは今やネットでも手に入るという時代です。まずは、そごう・西武のファンを増やしていくPRや発信の仕方に工夫を凝らしています。その一つが企業のPR動画です。今後も、企業価値やブランドの向上につながる広報活動に力を入れていきたいと考えています。
吉元: 百貨店ですのでモノを買っていただくことはもちろん大切です。皆さんに共感していただいて、その結果、購買に結びつけばいいのではないかと思っています。一方的な発信ではなく、今回の「母の日テスト」のように、ご参加いただけるような企画が世の中に求められています。
母の日の活性化ということを超え、そごう・西武のブランディングにも貢献したという評価もいただきました。来年の母の日に向けてハードルが上がってしまいましたが、多くのお客様にとってメリットのある企画、そして発信を心掛けていきたいと思っています。