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ケーススタディー: 山田食品産業様 (2018年9月号掲載)

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かかしの看板でおなじみ「山田うどん」が愛される理由
「ゆるい」「いたって普通」が魅力
著名人とコラボ、ファンからエール相次ぐ

山田食品産業 営業企画部 部長 江橋丈広氏

かかしの看板でおなじみの山田うどん。アイドルやミュージシャン、直木賞作家といった著名人からのエールが相次いでいる。「こちらからは仕掛けていない」というのは広報、宣伝を一手に手掛ける江橋丈広さんだ。「ダサイタマ」「定食」「ラジオ」と江橋さんから出てくるのは、うどん屋らしからぬ言葉が目立つ。しかし、これらのワードをつないでみたら、山田うどんが愛される理由が見えてきた。
山田うどんブーム到来です。きっかけは何だったのですか?

こちらからは仕掛けていないんですよ。元々は北尾トロさんと、えのきどいちろうさんの山田本がきっかけです。

お2人が当時やっていたUstreamの番組の中で、ひょんなことから「山田うどん」というワードが出て、大盛り上がりになったそうです。えのきどさんが「山田うどんは今どうなっているのか」と気になり、「山田うどん」とネット検索をかけたところ、「まずい」というワードが引っかかってきて、空腹だった若い頃お世話になった山田うどんが大変なことになってるぞと。

当時は讃岐うどんブームもありましたし、危機感を感じたお2人は「山田うどん再評価」に乗り出しました。その後、出演したラジオでも話題にしながら、山田うどんの歴史や今を深堀りして、ついには1冊の本にまとめてしまいました。それが2012年に出た『愛の山田うどん』です。

本誌4月度「『応援される会社』著者と考える」でも取りあげた『愛の山田うどん』。ライターの北尾トロ氏とコラムニストのえのきどいちろう氏が中心となって取り組んだ「山田再評価」活動の成果である。「埼玉のソウルフード」というキャッチフレーズはこの本が初出といわれる。「おかげさまで埼玉の食という括りでの取材も多いです」(江橋さん)。回転看板の由来やニューヨーク出店など知られざる山田うどんの歴史を掘り起こした。第2弾『みんなの山田うどん』は2014年に出版された。担当編集者はいずれも、現在ライターとして活躍する武田砂鉄氏だ。
山田本が出るまで、江橋さんは「山田うどんで働いているということに誇りを感じられなかった」とおっしゃっていますね。

山田うどんにいいイメージを持ってなかったですね。「家から近くて通勤に便利」くらいにしか思っていませんでした。

私は埼玉出身ですが、埼玉が好きではなかったんです。「ダサイタマ」世代なので、恥ずかしさもあり埼玉出身であることを隠していて……何の取り柄のないような埼玉、その象徴が山田うどんのような気がしてしまったんですね。

本をきっかけに応援してくれる人が増え、熱い人たちと触れ合っていくうちに「山田うどん、いいじゃん」と変わってきました。そういうきっかけをくださったのが北尾トロさんと、えのきどいちろうさんでした。

主力事業である山田うどんのロゴが変わりました。

ロゴを含め、屋号を新しくするに当たって「山田うどん」とは何かと色々考えました。

うどん屋をうたっているけど、丼物や定食が充実していてラーメンまである。どちらかというと「食堂」の要素が強い。ファミリー層をもっと取り入れたいという思いもある。「ファミリーレストラン」かというとちょっと違う。それならば「ファミリー食堂」がシックリくる、と考えが整理されていきました。

かかしくんも「笑顔でお迎えしたい」という思いから、「への字」だった口元を「逆への字」にして、「ファミリー食堂 山田うどん食堂」と入れました。

私の家の近所にある山田うどんの看板は「山田うどん」のままですが……。

僕がいうのも何ですが、ゆるい感じなんですよ。7月の新店舗のオープンに合わせて、全店が一挙に「ファミリー食堂 山田うどん食堂」の看板へと変わるわけではないんです。

既存店は年に5店舗くらいのペースで、その店の改修時に変えていく計画です。一体、何年かかるのやら。

広報はいつからですか?

以前はアパレル関連の仕事をしていて、転職で山田うどんに入りました。まず、工場で蕎麦の製粉工程を5年ほど経験しました。それから工場の通販業務を3年くらいでしょうか。その後、本社の販売促進に移り、現在は営業企画部で販促のほか、広報・宣伝周りを担当しています。

いつの間にか広報の役回りが僕の仕事になっていました。ファックスを受け取ったばっかりに……。

年明けのキャンペーンでバタバタしていた、ある年末のことでした。1枚のファックスが流れてきました。たまたま通りがかったのが僕だったのです。ファックスは、テレビ朝日の情報番組「シルシルミシル」のプロデューサーさんからの出演依頼で、すぐに電話したんです。

話がトントン拍子で進み、ファックスを最初に受け取ったということで僕がテレビ局との窓口になり、挙句の果てに「広報担当」としてテレビデビューまでしてしまいました。このことが既成事実となり、社内で「これからは江橋が広報・宣伝」という流れが出来上がってしまいました(笑)。

テレビ朝日系列で放送されていた情報バラエティ番組「知って見て得する情報バラエティ シルシルミシル」(2008年10月8日〜11年9月28日)。11年3月9日放送分で山田うどんが特集された。
「仕掛けていない」にも関わらず、新しい屋号のニュースが、日経と地元紙の埼玉新聞で紹介されました。14年には朝日で夕刊一面のトップを飾るなどメディアに頻繁に取りあげられています。

実を言うと、埼玉新聞さんと日経さんに「山田推し」の記者の方がいらっしゃいます。記者の方がおっしゃるには「山田を記事にすると、ネット受けする。ヤフートピックスにまで飛び火してバズる」のだそうです。今回の「屋号変更」のニュースは、まさにそのケースですね。

朝日新聞さんの場合は、山田本第2弾『みんなの山田うどん』に収録された直木賞作家の角田光代さんの山田うどん小説がラジオドラマになったことを受け、山田うどんブームをまとめた記事でした。

ラジオドラマの経験はとても面白い経験でした。番組内のCMは、当時コラボさせていただいていた吉田山田さんに山田うどんの歌を作ってもらいました。

日経新聞(埼玉版)、埼玉新聞で記事化され、埼玉新聞の記事は「ヤフトピ」にも掲載された。
男性2人組の音楽ユニット。NHK「みんなのうた」で放映された「日々」などヒット曲多数。TBSラジオクラウド「吉田山田のポッとでなふたり」(毎月第2・第4月曜日22時)など放送中。
プレスリリースといったメディアへの働き掛けも一切行っていないのでしょうか?

1人ではそこまで手が回らないのが現状です。「何かネタはありませんか」と埼玉新聞の記者さんがたまたま電話をかけてくださったので、「近々屋号を変更しますよ」とお話したのがきっかけで、屋号変更の件は記事にしていただきました。

待てよ、そういえば僕が唯一リリースを書いたことがありました。昨年12月の新業態「県民酒場 ダウドン」のオープンの時です。その時は自分でリリースを作りました。

リリースは配信会社を通すケースも多いと思いますが、私の場合これまで取材でお世話になった記者の方の名刺やメールを見返して直接送ったところ、新聞と電子媒体の12社が取りあげてくれました。その記事を見たという媒体からも問い合わせをいただき、露出が露出を呼びました。

普段、メディア誘致など全くしていないので、いい経験になりました。

吉田山田さんをはじめ、著名人との企画はすんなり通るものなのでしょうか?

吉田山田さんとは13年からのお付き合いです。先方の企画で吉田山田のお2人と山田社長が対談したのがきっかけです。

対談は吉田山田さんのオフィシャルサイトにも掲載されました。コラボはWin−Winが肝です。ポスターで彼らに新メニューの紹介をしてもらう代わりにCDを紹介する枠を設けたりして、双方にメリットがあるように話を持っていけば、うまくいくのではないでしょうか。山田うどんの店内放送も彼らにお願いしました。

広告代理店さんが間に入ってコラボが始まったのですが、いつの間にか吉田山田さんのお2人とマネージャーさんと僕が仲良くなってしまって、直接やり取りするようになってしまいました(笑)。

著名人といえば、トップアイドルである「ももクロ」さんとは切っても切れない間柄です。

ももクロさんは、マネージャーの川上さんの存在が大きいですね。

13年4月20日のTOKYO FM。今でも日付をしっかりと覚えています。この日たまたまラジオを聴いていました。番組の中で、ももクロさんの「私たちのパワーフードは山田うどんの『パンチ』です」という言葉が突然聞こえてきたのです。すぐにマネージャーの川上さん宛てにお礼の手紙を出しました。

数日後川上さんから直接電話をいただいて、「今度一緒に何かやりましょう」と温かい言葉を掛けてもらいました。その年の夏のライブに「会場で『パンチ』を売ってくださいよ」というお誘いをいただき、それから、ももクロさんの大きなライブには欠かさず出店しています。

「ももいろクローバーZ」のマネージャーの川上アキラ氏。『みんなの山田うどん』によると、川上氏は学生時代に山田うどんでアルバイト経験があり、「ももクロに必要なことは、全て山田うどんで学んだ」と明かす。
山田名物のもつ煮込み『パンチ』。毎週土曜17時〜17時15分の文化放送「高城れにの週末ももクロ☆パンチ!!」、インディーズデビュー曲「ももいろパンチ」など、『パンチ』は、ももクロにおいて頻繁に登場するワードだ。
夏ライブ『Momoclo Mania 2018』での出店も大盛況でしたね。山田うどんはライブ前のスタミナ源としてモノノフ(ももクロファン)の間でもおなじみです。

本当にありがたいですね。私も店頭で『パンチ』を売っているんですが、好きなものを全力で追いかけているファンは、みんなキラキラしています。私のようなおっさんも多いんですが、キラキラと輝いている愛すべきおっさんたちにいつも元気とエネルギーをもらっています。

社長も毎回駆けつけ、容器を片付けたりしています。ももクロさんをはじめ、吉田山田さんのファンの方にも山田うどんの認知はかなり浸透してきました。ライブへの出店は店舗を出していない地方にお住まいの方に、山田うどんを知っていただくいい機会となっています。

ライブへの出店に加え、ラジオが宣伝の場となっています。ももクロさんのラジオに、山田うどんのCMを入れなかったのはどうしてですか?

番組を始めるに当たり「15分の番組の中でCMを入れるくらいなら本編で尺を使ってください」とお願いしました。

川上さんも「さすがにそれは……」と戸惑っていましたが、「それなら番組の中でメンバーに山田うどんさんのメニューを食べさせよう」とできたのが「ごはんの時間」というコーナーです。メニューの紹介を山田うどんの「中の人」が行い、アイドルが実際に食べるという名物コーナーはこうして生まれました。

そもそも、番組の成り立ちからして規格外でしたね。川上さんとの雑談の中で「ラジオでもやります?」と持ち掛けて、あれよあれよと実現しちゃいましたから。

もともと僕の中でラジオCMを作って定期的に流すよりも番組スポンサーになった方が何か面白いことができそうという構想はあったのですが、こんな番組になるとは思いませんでした。

ラジオ局も相当驚いたみたい。普通は番組が初めにあって、そこに企業がスポンサーとして乗っかるじゃないですか。それが企業とアイドルがラジオをやることを決めて、その後にラジオ局に話を持ち込んだのですから。でもこの1件だけですね、山田うどんから何か提案させていただいたということは。

ももクロさんのラジオのスポンサーは今年3月で終了しましたが、今でも江橋さんは「差し入れ担当」として番組に登場しています。

「今さらタイトルも変えられないし、番組として定着してるから基本の流れは変えない」と番組関係者からありたがいお言葉をいただきました。今でもお友だちとして月1回差し入れを続けています。

山田裕朗社長の記事も増えています。社長はよく「早い・安い・うまい・腹いっぱい」「カロリーのK点越え」を強調されていますね。

セットメニューの場合、通常のお店ならご飯物1人前とうどん半分、または、うどん1人前とミニ丼のようになっていますが、山田うどんは違います。

山田うどんのセットメニューは両方とも1人前で出てきます。このボリューム感を「シルシルミシル」で「カロリーのK点超え」と言われて以来、社長も気に入っているようでよく使います。

社長インタビューのほとんどに立ち会っていますが、社長のメッセージがメディアにうまく伝わるように、言葉選びなどで手助けをすることも広報として大切なことだと感じています。

ほかに広報としてどんな点に気を配っていますか?

山田うどんが偉そうにならないように、敷居の高い存在にならないような言い方をいつも心掛けています。

山田うどんは「いたって普通」なんです。「すごくおいしいのでぜひ来てください」というのはちょっと語弊があると思うんです。皆さん、そこは求めていない(笑)。

普通、外食は家でつくれないものを売りにしたり、空間でも非日常性でお客さんを呼んでいますが、山田うどんは違います。家で食べることができるものを出しています。僕はそれでいいと思っています。

全国チェーンの○○さんに向かっては言えないようなことも山田うどんには面と向かって言えるというのでしょうか、山田うどんを友だちのように思ってもらえたらいいですね。

山田うどんが新メニューを出したら、「しょうがないな、山田に行くか」と、友だちに会いに行く感じで来ていただけることが理想です。

経済アナリストの森永卓郎氏がニッポン放送の「垣花正あなたとハッピー!」(6月27日放送)に出演した際、「山田うどんは、すべてが普通……THE普通っていう路線って、他でなかなかやってないんですよ」と語った。「確かに普通です。僕もそこがいいと思っています」と江橋さん。
お話に出ました「県民酒場 ダウドン」も好調です。主力事業のロードサイドの出店は9年ぶりの再開になりました。

「ダウドン」はまだ都内に1店舗(清瀬北口店)ですが、10時〜15時はうどんと丼がメインで、16時〜23時は「うどん酒場」になります。新業態の店舗で山田うどんの挑戦です。

「ファミリー食堂 山田うどん食堂」は従来の店舗に比べ窓を大きく取り、所々にかかしくんをあしらい、ポップで明るい店内になっています。家族連れのお客様にはファミレスのように使っていただいています。もちろん運転手さんやガテン系のお客様も変わらずお越しいただいています。

テレビ出演も取材も基本、「来るものは拒まず」です。メディアにとって、山田うどんは使いやすいのだと思います。広報を僕1人でやっているので、取材がスムーズに運ぶという点もメディアの側からすると、使い勝手がいいのかもしれません。

うどん屋といいながらセットメニューが売りでラーメンもありますし、突っ込みどころが多いといわれます。この夏の新メニューにサラダうどん(『唐揚げサラダうどん』)があるのですが、ヘルシーでさっぱり食べたいサラダうどんに、山田うどんは唐揚げを2個も載せてしまいました。他のお店なら蒸し鶏だったりしますよね。そういうところが僕は大好きなんです。

偶然に偶然が重なり今に至っています。普通の会社員では味わえないことも体験しています。ラジオに定期的に出て自社の宣伝もしながらアイドルにいじられる、そんな広報マンは確かにいないでしょうね。

<山田食品産業株式会社> 創業:昭和10年
A4判10ページに及ぶ「山田うどんの歴史」。江橋さんが創業以来の軌跡やエピソードをまとめた。「社内に資料がなく、当時の会長や専務に聞いて回りました」と江橋さんは語る。かかしくんのLINEスタンプも作りPRに余念がない。SNSでのPRは個人のツイッター(「江橋うどん」)。2013年に吉田山田とのコラボの際、宣伝の場として始めた。「ホームページでもよかったのかもしれませんが、いちいち会社の了承を得るとなると面倒くさくて」と江橋さん。新メニューの紹介のほか、吉田山田や、ももクロのファンとも交流する。「オフィシャルだと全員の方にコメントを返さないと不公平になると思うのですが、そこは個人の発信。返したい時に返しています」とゆるいSNSにも社風がにじむ。