ケーススタディー: 東京富士大学 経営学部 教授 山川悟様 (2018年4月号掲載)
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東京富士大学 経営学部 教授
山川悟氏
■PROFILE・・・広告会社のマーケティング部門において、広告計画、販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わった。専門はマーケティング論、創造性開発(プランニング、事業モデル開発)、コンテンツビジネス論。
ブランド・顧客価値向上につながる」
あちこちで、通常レベルを超えた消費者行動が指摘されています。「商品を使う人」「情報の受信者」という従来の見方とは異なる、新しい顧客像が立ち上がってきたのです。
消費するだけでなく、商品を通じて何かを表現したり発信したりする顧客に対して、企業はコミュニケーションのあり方を見直す必要があるのではという問題意識のもとで書いたのが『応援される会社』❶です。本書では、何かを「応援」するための顧客行動を「応援消費」「応援経済」という概念を使って分析しています。
ブランド愛顧行動を【図1】のように5つに分類しました。
「称賛・推奨」は、松下幸之助さんの「感動した1人の客は25人の客を連れて来る」という言葉にあるように、ファンが自発的に広告してくれたり、ブログを書いたり、営業活動をしたりする行動を指します。
本書の中で、ファンによるSMAPへの応援メッセージ広告について取りあげました。韓国では、好きなアイドルの誕生日や結成記念に、駅貼りポスターやサイネージ掲出をするファンが絶えず、現在ではすっかりファン発の広告❷として定着しています。動画サイトを通じた勝手広告など、広告の主体が企業側ではなく、ファン側にシフトしつつある点をまず指摘したいと思います。
次に、宮城県仙台市の郊外にある「主婦の店 さいち」というスーパーの事例を紹介しましょう。1日平均5000個のおはぎを売るお店としても有名で、常連の主婦が私設ガイドを買って出ることでも知られています。こうした好きなお店やブランドのためならと自発的に協力し、労力を惜しまないというのが「代行・協力」です。
「提案・開発」は、商品や企業行動に対して顧客から逆提案を行うというもので、新用途を発見する「ユーザーイノベーション」もこれに当たります。
人気アニメ「タイガー&バニー」と、健康機器メーカーのタニタによる体組成計のコラボ商品❸が話題になりましたが、このアイデアはもともとタニタの公式ツイッターのフォロワーからの提案がきっかけでした。その後、アニメ制作会社からタニタに接触、コラボが実現していきますが、企業間の動きがツイッター上で実況されたことも極めて今日的な出来事でした。
「寄付・供与」はその名の通りで、経済的な応援行為のことです。アニメ映画「この世界の片隅に」が、原作のファンなどから制作資金として約3900万円をクラウドファンディングで集めたのは記憶に新しい話です。
「求道・学習」行動は、最近でいうと「どん二郎」❹がそれに当たります。日清食品のカップ麺『どん兵衛』にアレンジを加えて、熱狂的なファンをもつ人気ラーメン店「ラーメン二郎」の味を再現する試みです。考案者が“二郎道”を究めたいという思いでまとめた書籍(『世界一美味しい「どん二郎」の作り方』)も出版されました。
応援されるブランドを【図2】のように整理してみました。まず「崇拝型」ですが、かつてはアップルのスティーブ・ジョブズ、最近ではダイソンのジェームズ・ダイソン会長もレジェンドと呼ばれ、多くの尊敬を集めています。経営トップと顧客がカリスマと信者のような関係にあり、その企業が応援されていくというパターンです。
2つ目が「愛着型」。客の価値観やライフステージが変化しても、常に同じ場所にいて、ほっとさせてくれる会社です。地域密着型の企業や、長年にわたってデザインを変えないようなブランドをイメージしてください。
3つ目は「同志型」と名付けました。顧客と同じ目標で歩むという姿勢で、お客様のためには業界の常識と闘うのも辞さない企業です。『応援される会社』ではマザーハウス❺を取りあげました。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げ、バングラデシュでエコバッグを製作体験できるスタディーツアーを主催するなど、自らが描く物語に顧客が参加できるフレームをもっている点が特徴です。
4つ目が「共歓型」で、『よなよなエール』をはじめとするクラフトビールの火付け役となったヤッホーブルーイングが典型です。「超宴」(ちょううたげ)というイベントでファンの代表が着ぐるみをまとってステージに上がるなど、社員と顧客が「一緒に遊ぶ」「一緒に楽しむ」雰囲気があることでも知られています。
現在、働き方改革が叫ばれていますが、ヤッホーブルーイングでは社員の中から「仕事を楽しもう」という気持ちが芽生え、それが外部に伝わることによってフォロワーを増やしていきました。
最後が「賛助型」。未完成でハラハラさせるけれど、手を差し伸べたくなる対象こそが愛され、応援されることがあります。AKB48のような企業ですね。『イチローズモルト』で知られる埼玉県秩父市のベンチャーウイスキー❻は、ロンドンで3月に行われたウイスキー品評会で、2年連続で世界最高賞を受賞するなど世界水準の品質を持つ会社ですが、創業当初は苦難の連続でした。肥土伊知郎社長の「秩父産のウイスキーをつくる」という夢を信じたファンが後押しする形で、醸造所の開設へこぎつけました。
単に「応援」といっても色々なパターンがあり、顧客側も複雑な気持ちが絡み合っているかもしれませんが、どこか自分の会社と近い部分を見つけ、そこをベンチマークにしていただき、ぜひ熱いファンを増やしていってほしいと思います。
社内アイドルの事例はまさに「共歓型」で、社員もお客様も一緒に楽しめ、一つの世界観に顧客を巻き込むコミュニケーションですね。
そもそも広告はイメージアップや、商品を店頭で見た時に名称を想起させるなど、間接的な効果しかもたらしません。現在のような企業と消費者が直接つながる社会においては、「広告が効かない」と嘆く前に、「広告とは何か」ということを突き詰めていく必要があるのではないでしょうか。
私はテレビCMやウェブ広告といった広告の形をとったものが広告なのではなく、広告効果を生むものすべてが広告である、と考えるべきと思っています。
顧客がブランド価値を上げる行動をとっている、その行動こそが「広告」だということを直視してほしいと思います。
金融業界などでよく使われる「顧客基盤」という言葉がありますが、この「顧客基盤」は「顧客数×所得」だけで算定するものではないと考えています。顧客の持つ知識、意欲、想像力、表現力、影響力……それらの総和と考えるべきです。
顧客を「商品購買者」「利用者」という受動的立場から解放して、「ブランド価値を高めてくれる多様な行動をとる人たち」と位置づけ直すことで、企業と顧客のコミュニケーションのあり方は根本的に変わってきます。
近年、そのブランドの大ファンの漫画家やミュージシャン、クリエイターが自らのブランド愛を表現する動き❼が出てきました。ファンはそれぞれ自分の持っている能力や専門性を使って応援します。企業側からすれば、そうした表現力や意欲とか発信力を持っているファンにツッコミを入れてもらい、どんどん「広告」してもらって、ブランド強化につなげたらどうでしょうか。
タニタやキングジムのゆるいツイートにはどんどんツッコミが入りますよね。ファンのポテンシャルを最大限活用するためにも、企業には「あえてボケろ」といいたいですね。
自社のブランド理念と社内制度を上手くリンクさせることも「内部ブランディング」です。
ECサイト事業を行なっているベンチャー企業のクルーズにはユニークな福利厚生があります。「ルーラ制度」という『ドラゴンクエスト』の呪文から取ったと思われるこの制度は、勤続丸7年を迎えた社員に対し、5日間の休暇と旅行代金15万円が支給されます。「ルーラ」の呪文のように瞬間移動し、時間とお金を自由に使ってくださいというものです。発想力を求める会社だということをゲームの呪文を使って表現し、学生をはじめ若い世代を引き付けています。
自社のブランド理念に基づいて人事・研修を行うためにも、人事部門と広報部門との綿密な連携が欠かせないのはいうまでもありません。
ブランドコミュニティは多種多様で一概には論じられませんが、次の3点が重要です。
①マーケティング効果だけを意識しない②参加者に自己表現の機会を与える③コミュニティマネージャーの社内における地位確保。
ここでは、①について絞ってお話します。ブランドコミュニティは企業のものではなく、コミュニティを形成するファンたちが、自分のこだわりやアイデンティティのために何かを表現する場です。売り上げや会員数など、マーケティング効果だけを成功の指標にしてしまうと、参加者たちからそっぽを向かれます。
では何を指標にしたらいいのかというと、3つほどあります。まず、顧客同士が行動する母体やきっかけを与えているかどうか。次に、ユーザー間で商品の使い勝手を研究してみたり、新しい使い方を発見したりするなど、利用文化が熟成・共有される場であるか。最後に、ユーザーから直接励ましの声などをもらうことによって社員のモチベーションやモラル向上につながっているか、です。この3点も大切にしながら運営していくといいのではないでしょうか。
もっともコミュニティとは、いわば「変転する生命体」です。当初の目論見から離れ、次第に違う方向に発展してもやむを得ない性格のものです。特定部署に管理を押し付けるのではなく、全社的に支えるという姿勢で臨めば、経営資産として育っていくものと経営者は認識すべきです。
造語ですが、自社の「社会課題ドメイン(領域)」を定義し、発信していくことかと思います。
これは、企業理念と事業領域の間に位置するコーポレートアイデンティティ(CI)で、どんな人が何に困っているのか、それに対して自社はどのように取り組んでいくのかという宣言となります。
貧困、過疎、震災、温暖化といった大きなテーマもあります。エイジング、情報漏洩、人手不足など、ビジネスに直結するような社会課題もあるでしょう。大企業の場合、これは社会貢献や納税という方法で取り組めますが、中小企業では事業の一環として堂々と展開すべきでしょう。
そしてそれを告知することでレピュテーションを集めるのではなく、その取り組みに顧客が参加できるフレームを提供するのです。商品・サービスの購入というレベルでは飽き足らない顧客が、もっと強い関与によってそうした課題に取り組んでもらえる仕組みづくりが、今日のマーケティングの一つのあり方です。
「生活者」の持つ総合的な面を理解し、能動的なファンを味方につけるような経営への転換が今、求められているのです。
「顧客が主人公」の物語を組み立て発信を
「顧客のファン化」は広報活動の高度なミッションでもある。最近では広報、PR担当者から「ストーリーを活用したコミュニケーションが、受け手の理解を深め、共感が得られやすい」という言葉が頻繁に聞かれるようになった。『事例でわかる物語マーケティング』という著書もある山川氏に、物語的手法をどう広報活動に活かしたらいいのかを聴いた。
「物語」というと、とかく美しく聞こえますが、「開発エピソードの発掘や生産者の声を伝える」ことが物語だと勘違いされている節があります。もちろんそれはそれで効果がある策ではありますが、大切なのは「顧客が主人公」となる物語をイメージできるか、ということです。
企業や社長が主人公なのではありません。典型的な顧客像を1人設定して、その人が主人公となる物語を「越境→危機→成長→勝利」という方程式で創作してみよう、というのが、私の主張する物語マーケティングメソッドです。この流れの中で、商品・ブランドは主人公を支えたり、強化したり、変身させたりする重要なアイテムとなります。
この物語を組み立てることこそ、しっかりした広報コミュニケーションを生み出す基礎工事だと思っています。大変面白い頭の体操になりますので、ぜひ取り組んでみられるとよいでしょう。
『応援される会社』でも触れましたが、私が「応援アフォーダンス」と呼ぶ広報テクニックを紹介しましょう。これは「応援しやすくする」要素を持つということです。サイトやイベントなど、ファンが応援しやすい仕掛けをつくるということでもよいでしょう。
また、情報提供も時と場合によりますが、隙や謎があったり、不完全な方がツッコミを入れてもらえるケースがあります。
コミュニケーションの主体は企業ではありません。