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ケーススタディー: OFFICE HIROSE様 (2018年1月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
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OFFICE HIROSE
代表
廣瀬千賀子氏

ベテラン広報の記者を引き付けるコミュニケーション
メディア・社内の関係構築に汗かいて
「伝える」だけでなく「つくる広報」へ
12月にカフェ&バー プロントが鳥取県と共同展開するフェアについて発表した共同会見には50人を超える来場者があった。会見を仕切ったのは廣瀬千賀子さん。西日本高速道路サービス・ホールディングス(NEXCO西日本SHD)をはじめ、プロントコーポレーションで培った広報スキルが身上だ。2016年に「OFFICE HIROSE」を立ち上げて独立し、現在8社の広報に関わる。1紙に絞ったメディア誘致、共同会見では複数のトップを並べてメディアの注目度を高めるなど、廣瀬流が数々の広報活動を成功に導いてきた。ベテラン広報の記者を引き付けるコミュニケーションとは――。
プロント神田店で開催した「朝劇」は、毎日新聞に2回取りあげられました。どんなメディア誘致を展開されたのですか?

大好評だった「朝劇」

「朝劇」の場合、毎日新聞さん1社に絞って行いました。紙媒体の高い信頼性、中でも全国紙への露出効果は抜群だと考えます。記事をご覧になった記者から問い合わせをいただくなど、反響が大きいのは全国紙です。

今回工夫したことは、メニューにモーニングセット(コーヒー、トースト、サラダなど)、夜のバータイムで使えるドリンク券のほかに、毎日新聞朝刊を付けたことです。

「取材をお願いします」だけでなく、お客様に今一度、朝刊を読む習慣の大切さを感じてもらいたいと誘致の際に、お伝えしました。新聞社の側でも購読につながる取り組みでもあるということで、取材していただけたのではないかと思います。

「朝劇」というユニークな試みはどこから始まったのですか?

「朝劇」のアイデアはトップから生まれました。社長の竹村(典彦氏)が知り合いと劇を見に行った時に、劇団員の一生懸命さに感動し、演劇に打ち込む彼らを会社として応援できないかと考えたのが発端です。一方、プロントではモーニング需要獲得が課題でした。朝に新規のお客様に来ていただくための方策として「朝劇」を取り入れたわけです。

午前8時から30分の間に、ショートコント3本立てで、プロントのお店の中で起こった出来事をモチーフにサラリーマンの思いを代弁する話やほっこりする話も織り交ぜながら、お客様に元気をチャージしてもらうのが一番の狙いです。

大好評の「朝劇」でしたが、劇団員が空いた時間にプロントでアルバイトしていただければ、プロントにとっては労働力不足の解消にもなりますし、劇団員にとっても経済的な不安が減ります。これも竹村のいう「劇団の応援」につながります。少し長くなりましたが、こうしたトップの意図をしっかりと咀嚼して発信すれば、広報の言葉に説得力が増すのではないかと思っています。

「メディアとは日頃からの信頼関係が大切」と関係づくりに汗をかくのが廣瀬流です。

プロントに来てまずしたことは、東商記者クラブや外食産業記者会といった記者クラブへの挨拶回りです。

食に携わっていると、ノロや食中毒などの突発的な事故、最近ではSNSでの書き込みといった悪い事態が起こった時のメディア対応、危機管理広報が重要になってきます。万が一、問題が起こっても誠実に情報を提供して、メディアのバッシングを回避できるかどうかは、日頃からの記者さんとの信頼関係に尽きると私は思います。

また、社内での取り組みとしてSNSハンドブックを作成して、画像やロゴの管理や発信のタイミングなど各店舗との共有にも力を注ぎました。

そのほかに、メディアリレーションで工夫されたことはありますか?

プロント広報として次に行ったのが記者懇談会(記者懇)の開催になります。

これまで会社と記者さんとの接点が少なく、トップインタビューもほとんどありませんでした。プロントのブランド価値を上げ、ファンを増やすという意味で、記者懇という仕掛けが必要だと考えました。年頭のオーナー会議の中でトップが前年度の実績や今年度の出店計画などを発表するので、「これを対外的に発信したらいかがですか」とトップに提案しました。

記者懇は、たいてい店舗でバータイムとなる夜に行っています。グラスを傾けながらゲームや三味線のパフォーマンスも入れ、和気あいあいとした雰囲気で進めています。

12月にはプロントと鳥取県による大山開山1300年を盛り上げるフェアの共同記者会見を品川店で開催されました。日頃のメディアとの関係構築が実を結んだ会見になりましたね。

記者会見をPR会社にお願いする企業が多いかもしれませんが、私は広報が主体となって会見をセッティングすることが大事だと思っています。メディアへのお声掛けを外部に全部任せてしまうと、肝心の記者さんの顔が見えにくくなってしまいます。

リリースを送ったら必ず電話をかけて、直接お願いするようにしています。「鳥取県産の食材を使ったおいしいメニューだけでも食べに来て」と、選挙運動のように電話攻勢をかけましたね(笑)。

すると46人という予定が、蓋を開けてみたら新聞、雑誌、ウェブなど50人を超えるメディア関係者の方にお越しいただきました。「出張から帰ってきてすぐ駆けつけたよ」という記者さんもいらっしゃって、「この仕事を頑張ってきてよかった」と思う瞬間ですね。

お会いできたということが大事で、記事にならなくてもいいのです。記者さんと顔を合わせて「最近どうですか」「元気ですか」という些細な言葉掛けが、次の取材につながってくるのですから。

司会も私が台本を書いて行いました。時間は会見、フォトセッションまでで40分くらい、その後の試食会を合わせると1時間半の内容でした。

多くのメディアを引きつけたのは、プロントの商品企画のユニークさにもあると思っています。

今回、鳥取県公式のPRキャラクターのトリピーが来てくれました。商品企画部門ではトリピーに加え、県の私設応援団のネギマンにもオファーを出しました。ネギマンの登場は注目を集めていました。

広報キャリアが豊富な廣瀬さんですが、どのようにスキルを磨いていったのですか?

広報という仕事の面白さを知ったのは06年にNEXCO西日本SHDの広報になってからです。民営化直後で発信に力を入れていた時期でした。その時の上司に鍛えられて今の私があります。

広報に配属したばかりの私への指示は「会社に来なくていいから全部の新聞社を回ってこい。名刺をどれだけ交換できるかだ」と、これだけです。NEXCOでは新聞、雑誌、テレビなどのメディア対応から、サービスエリアで配布するフリーペーパーの編集長として広告営業まで経験しました。

フリーペーパーの編集長時代に、NEXCO西日本の管轄する米子道が縁で、鳥取県の職員の方と知り合いになりました。今回、全国のプロントで「鳥取県フェア」が実現したことは、ご縁を感じ、とてもうれしく思っています。

独立して気づいたことがあるそうですね。

16年9月にプロントコーポレーションを退職し、広報業務をサポートする「OFFICE HIROSE」を設立しました。

プロントでは店舗開発や商品企画から下りてきたことを発信することが広報の役割で、プレスリリースを書いてメディアにどう売り込むかに知恵を絞りました。ただ、独立したらそうはいきません。待ちの姿勢ではなく自分から動くことでシナジーを生み出す必要があります。

最近は広報だけでなく、営業や販促といった側面も担うことが多くなりました。熟成肉の新技術広報や鳥取県との共同会見のように、これまで培った人脈やノウハウを最大限活かし、点と点をつないでいくことが大きな広報効果を生むということを学びました。

例えば、新メニューでカキフライ定食を出すというネタをメディアに売り込むとしたら、どうしたらいいでしょうか。ありきたりのカキフライではどこも取りあげてくれません。

私ならこう考えます。「ネタに付加価値をつけることはできないか」。1社だけでは取りあげにくいというのなら、「ほかにもこんな事例がありますよ。まとめ記事の中で紹介できませんか」と記者の方に誘い水を向けてみます。それにはネタを自分で面白がって、商品なら競合など、その周辺を徹底的に調べてみる。そこから見えてくるものがあるかもしれません。

最後に今後の目標をお聞かせください。

既にお話ししたように、広報にはメディアに働きかけていくための仕掛けや企画力が問われます。新商品や新サービスの広報でも今話題になっている事柄とリンクさせるようなリリースに仕立てる、そういったことでもいいのです。

これとあれをくっつけたら、どんな広報ができるのか。点と点を結び一本の線にしていく広報スタイルにさらに磨きをかけていきたいと思っています。

――9月に行った産学連携事業で生まれた熟成肉の新技術広報も担当されました。

おいしい熟成肉を作るには手間とコストがかかっていました。熟成肉を作る環境を整えた庫を作るのに約1年、その庫で約100日間熟成させる必要があり、劣化・腐敗のリスクがありました。

そんな中、熟成肉専門店「旬熟成」を展開するフードイズム(跡部美樹雄社長)と明治大学の村上周一郎准教授の産学連携事業により新技術「エイジングシート」が開発されました。

「エイジングシート」は、熟成に適したカビの胞子を付着させたシートを肉に巻き付け、胞子の密度が高い中でカビを安定的に増殖させます。新開発の「エイジングシート」により、熟成期間の短縮と品質の均一化を図れるというもので、日本初の技術になります。

――開発した大学・企業以外に活用例を示したことで、関係するトップ4人が揃った会見となり、注目を集めました。

産学連携の記者会見で、司会を務める廣瀬さん(左端)

フードイズムのブランド認知度を上げるために記者発表という場は好機ではないかと、跡部社長に大学と共同会見を開くことを提案しました。その中で日本初の技術というだけでなく活用例を示し、技術を分かりやすくお伝えしたいと考えました。

そこで、私のクライアントでもあるファーストキッチンに「エイジングシート」で作られた「発酵熟成肉を使って新メニューを作ってみませんか」と企画を持っていった結果、3種類の『発酵熟成肉黒毛和牛バーガー』が実現しました。さらにNEXCO時代の伝手もたどり、中日本エクシスのサービスエリア・パーキングエリアで発酵熟成肉を使ったメニュー提供へとこぎつけました。

会見には跡部社長、村上准教授、土屋恵一郎学長、ファーストキッチンの紫関修社長、中日本エクシスの青山忠司社長にご出席いただきました。各トップが並ぶ会見となり、メディアの関心を集め、新聞だけでなく専門紙やウェブなど様々な媒体での記事化につながりました。

<OFFICE HIROSE> 設立:2016年10月
「社内外の情報をキャッチするためには“ノミニケーション”が欠かせない」というのが廣瀬さんの持論。プロントでは部署ごとに懇親会を設け、社内女子会も頻繁に開いていたほか、外食業界の広報仲間と「昭和歌謡の会」も定期的に開催。「お酒が入れば本音も聞けるし、グッと距離が縮まります」と廣瀬さんは“夜のコミュニケーション”の効用を説く。