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ケーススタディー: ビクセン様 (2017年11月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
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ビクセン
企画部 広報宣伝課主任
広報担当
藤田彩香氏

ビクセンの“星空の広報”、異業種コラボでブランド認知度アップ
「宙ガール」「スターパーティ」を軸に
モノづくりとコトづくりで「星を見せる」
「宙(そら)ガール」「スターパーティ」……。思わず空を見上げたくなるようなキャッチコピーが躍る。これらのコピーは、光学機器メーカーのビクセンが仕掛けるマーケティングから生まれた。ここ数年 、「モノからコトへ」という発想の転換が自社ブランド構築に欠かせないキーワードとなっている。いち早くコト売りに取り組む同社は多彩なイベントを通じて、星を見る楽しさを伝えている。モノとコトの双方をリンクさせながら異業種コラボを展開する“星空の広報”とは――。
天体望遠鏡の国内トップメーカーとして、モノづくりと並行して行っているのがイベントを通じたコトづくりです。いち早くコトマーケティングに着目したのはどうしてですか?

もともと天文ファンといえば、シニア男性が中心のマニアックな世界で、天体望遠鏡や双眼鏡といった製品に対しても「使い方が難しそう」というイメージが根強くありました。天文に興味を持つ若い人が増えなければ、年々、市場は縮小していきます。

そこで当社は、星を見ることのハードルを下げ、親しみやすいものにしたいと考えました。それが「モノづくり×コトづくり」というマーケティングです。メーカーとして、消費者の嗜好に合ったモノを売ることは当然ですが、当社のビジョンである「星を見せる」コンテンツを提供するコト売りにも力を注いでいくことにしました。

各地で「星空観望会」を開き、ビクセンファンを増やしています。

そもそも、潜在的に星を見たいと思っている人は多いと私たちは考えています。星を見たいという気持ちを顕在化させるには、まずは星に興味を持ってもらう必要があります。

以前から、星好きの人が集まるイベントに協力していましたが、星を見るのが目的ではないイベントで星を見せたらどうだろうと初めて参加したのが、富士山麓で開かれる朝霧JAMという音楽フェスでした。

音楽を聴きながら、仲間とキャンプしながらワイワイやっているところにブースを設け「望遠鏡をのぞいてみませんか」とお誘いすると多くの人が集まってくれました。

これを機に星を見せるイベントに確かな手応えを感じ、“星を見せる”というイベントの事業化に至りました。

当社のイベントには3種類あります。“星を見せる”というコンテンツを事業として提供するイベントのほかに、話題性のあるイベントを企画し、メディアに取りあげてもらうことで企業や商品の認知度を上げる広報イベント、それから量販店などで行い、商品購入を促進する営業イベントです。

12年に観測された金環日食を機に盛り上がった天文・宇宙ブームも追い風に、3つのイベントの相乗効果もあり、ビクセンという名前が多くの方に浸透してきたと感じています。

「宙ガール」をキーワードにしたPRがヒットしました。女性をターゲットにしたのはなぜですか?

天文市場のすそ野を広げるためのカギは女性が握っているという思いがありました。朝霧JAMで、天体望遠鏡で土星の輪や月のクレーターを見て童心に帰ったように感動する女性が予想以上に多くて……私たちの思いは確信に変わりました。

女性が興味を持つと、彼氏や家族を連れてきてくれます。結果的に多くの層に興味を持っていただけるのです。ちょうど「森ガール」「山ガール」など女性の動きが活発になっていた時で、「星をもっと身近に」というコンセプトをもっと分かりやすく伝えるために「宙ガール」と言葉を作り、2009年から提唱し始めました。

PRには「宙ガール」の代表としてタレントの篠原ともえさんにもご協力をいただき、最近では「宙ガール」も定着してきました。

異業種とのコラボも積極的に仕掛けていますね。

15年7月に、原宿で「サマーバレンタインパーティー2015」を開催しました。

「サマーバレンタインデー」は、メリーチョコレートカムパニーさんの七夕の星に願いを込めて大切な人に星型のスイーツをプレゼントしようというキャンペーンで、七夕に合わせて「スイーツ×宙ガール」で何かできないかとお話をいただきました。そこでスイーツ好きな男性が集まり活動している「甘党男子」さんも巻き込み、女性向けのイベントを企画しました。

当社も星にまつわる甘いエピソードを募集するサマーバレンタインキャンペーンの入賞商品として、ショコラカラーの世界に一つしかないオリジナル天体望遠鏡を作ってプレゼントしました。

異業種コラボでは各社リリースを出すので、1社ではできない幅広い発信が可能となります。普段お付き合いのない業界のお客様にも当社を知ってもらえるという点が最大のメリットです。

最近では、東京スカイツリーさんと「名月鑑賞会」というイベントでコラボしました。するとテレビの情報番組等でイベントが取りあげられ、当社についても触れていただき、コラボによる効果を実感しました。

今、広報・PRで力を入れていることは何ですか?

最近「宙ガール」と2本立てで訴求しているのが、「星仲間」が集まって、星を見上げながらおしゃべりや食事を楽しむ「スターパーティ」です。「目指せハロウィンパーティー」と私たちは意気込んでいます。

ただ星を見るだけでなくて、そこにプラスアルファの要素を加えたら盛り上がること請け合いです。星をモチーフにした料理を作り、星をテーマにした音楽を聴きながら、天体望遠鏡で星を眺める。星をかたどったアクセサリーを身に着けてくるというのでもいいのです。

ハロウィンで仮装することが当たり前になったように、「満月の日だからパーティやろうよ」と、星を見ることが習慣化していったら何だか気分がウキウキしませんか。

広報としてどんな点にやりがいを感じますか?また、これまで一番印象に残っている企画にはどんなものがありますか?

小さい頃から大好きな星と関わり、人と人とをつないでいくことができる、このことが一番うれしいですね。自分が一から手掛けた企画が段々と形になって、実を結んだことにやりがいを感じています。

会社も私自身もチャレンジする姿勢で取り組んだのが、「宙(そら)コン」でした。「宙コン」とは、街コンジャパンを運営されているリンクバルさんとの共同企画です。

星空の下や光の演出によるロマンティックな雰囲気の中で、星や宇宙の魅力を語らいながら出会いを見つけるイベントで、今年は“宙コン@スターパーティ”と題して春夏秋と開催しました。異性だけでなく、同性の「星仲間」を探しに来られる参加者も多いです。

「宙コン」というキャッチーな言葉を使ってリリースを配信したところ、メディアの食いつきがとてもよく、当社に興味をもっていただくきっかけにもなりました。メディアの興味を引くキャッチコピーには常に心を砕いています。

天体望遠鏡に加えて、双眼鏡で星を見るという新しい概念を浸透させました。

皆さん「双眼鏡で星が見えるのか」と驚かれます。当社の双眼鏡『ソラプティLite H8×21WP』は、女性が親しみやすいように、軽いことに加え、ピンクやブルーなど5色ありとてもカラフル。倍率は8倍です。

月のクレーターの存在が分かりますし、「すばる」(プレアデス星団)も見えます。また、コンサートやハイキングといった普段使いにも重宝すると大変好評です。

一方、とっつきにくいというイメージがある天体望遠鏡ですが、イベントで体験されると皆さん「欲しい」とおしゃいます。おかげさまで、双眼鏡、天体望遠鏡以外にも、星をかたどったアクセサリーの「宙(そら)ジュエリー」や天体や星をデザインしたステーショナリーなど周辺グッズも好調です。

イベントを通じ地域活性化にも取り組んでいます。

長野県阿智村を筆頭に、まちおこしの一環として「星を見せるイベントを一緒にやりませんか」というご依頼を多くいただいています。地方では手に取るように星を見ることができ、それを観光資源にしたいと考える町や村は多いです。

当社は阿智村と15年に地域振興に関する連携協定を締結し、天体望遠鏡を使った星空観望会を行っています。阿智村では「日本一の星空ナイトツアー」と題し、星を見せることをエンターテインメント化しています。ゴンドラに乗って夜空の散策を堪能でき、山頂では星空鑑賞や光の演出を楽しめ、大人気となっています。

7月には「星取県」を掲げる鳥取県のイベントに協力させていただきました。鳥取県は県内すべての市町村から天の川が見えるほど、美しい星空が見える所です。このイベントで当社は星空観望会を行い、大山の星空をご案内しました。

今後、手掛けたいことや藤田さんがビクセンで描く夢について教えてください。

私は満天の星を見た時、自分が宇宙にいるということを感じます。日常から一瞬で非日常に行けるワクワク感や感動をお伝えしたいです。

星を見るには「高価な天体望遠鏡や双眼鏡がいるのでは」「星に関する知識が必要では」といったようなお声をまだまだ耳にします。もっと気軽に星を見ることができるように、ハードルを下げるような広報を心掛けています。

会社帰りに空を見上げてみませんか、というのでもいいのです。「今日の月はどんな形をしているのだろう」と、月の満ち欠けに興味を持つだけでも日常生活に一つ楽しみが増えるのではないでしょうか。

引き続き、異業種コラボに取り組みながら、「スターパーティ」のPRに力を入れていきます。星を見ることをもっと普段の生活に落とし込んでいく、そんなお伝えの仕方ができればと思っています。

<ビクセン> 創業:1949年10月
所沢本社に隣接する工場では、天体望遠鏡が職人の手で丁寧に作られている。ハイエンドモデルなど「機種によっては組み立てから検査まで1人で行っているものもあります」と藤田さん。生産ラインのような流れ作業ではなく手間暇かけたモノづくりが息づいている。