ケーススタディー: マース ジャパン リミテッド様
(2017年9月号掲載)
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従業員のコミュニケーション活発に
マース ジャパン リミテッド
広報・渉外部 中村由帆氏
家族経営で非上場企業の米マース社の日本拠点である弊社は、インターナルコミュニケーションに力を入れています。従業員のモチベーションを上げていくためには、社内のコミュニケーションが欠かせません。
このコミュニケーション活性化がオフィスの環境づくりでの大きな軸となります。ご覧の通り、パーテーションが一切なく、従業員の顔が見える風通しのよいオフィスになっています。
2016年5月、現在の品川オフィスに越してきました。ペットがオフィスに連れてこられる環境が珍しいこともあり、以前の目黒オフィスの時代からコンスタントに取材のご依頼をいただいています。
オフィスでは2匹の猫を飼っています。キャットルームはワーキングスペースに隣接しており、広々としたガラス張りです。
以前のオフィスでは、従業員が執務エリア内からしかキャットルームに入ることができなかったのですが、新しいオフィスでは、お客様も入っていただけるように受付エリアにキャットルームを設けました。
太陽光がよく入る部屋なので、猫はよく窓際で日向ぼっこを楽しんでいます。そういえば、春の風に舞い上がった桜の花びらに心を奪われて、それはもう大変な騒ぎでした(笑)。
猫は上下運動を好む動物なので、キャットタワーを設置するなど縦方向の運動ができる環境が望ましいですね。人間の手に届かない場所、猫が避難できる安全な場所をつくることも大切です。
猫は狭いところが好きなので、キャットウォークは猫が2匹並んですれ違えるくらいの幅にして、上部には穴が開いており、人の声が聞こえるような構造になっています。
マースでは、ペットケア事業部のビジョンとして「ペットのためのより良い世界」の実現をグローバルで掲げています。その中には、ペットの同伴出勤やペットがオフィスに居住するといったペットフレンドリーオフィスも含まれ、オフィスにおける人とペットの共生を推奨しています。
ペットは癒しを与えてくれるだけでなく、組織の壁を取り除き、従業員の協調性アップやストレスの軽減につながるといわれています。このような背景から、マース ジャパンでは05年にオフィスを目黒に移転した時から、2匹の猫が暮らし、犬との同伴出勤が可能なオフィスとなりました。
「ちょび」は、とても好奇心旺盛で会議室に人がいるとよく顔を出します。「きなこ」の方は恥ずかしがり屋さんで、めったに来ませんが……。この品川オフィスに越してきて新たに迎え入れたのが「ちょび」と「きなこ」で、2匹とも保護猫になります。
目黒オフィスにも2匹の猫が暮らしていました。うち1匹が保護猫で、2匹とも10歳を超えていたため引退を考えていた時に、オフィス移転の話が持ち上がったのです。
引っ越しによる猫へのストレスを考慮し、初代の猫には引退してもらいました。幸い、同じオフィスに勤務していた方が里親となり、今でも2匹一緒に仲良く暮らしています。
新しいオフィスに迎える猫について経営陣と話をしたところ、「保護猫を迎え入れることは、事業部の理念である『ペットのためのより良い世界』の実現に向けて意義のあることではないか」という結論になりました。
次にどんな保護猫を迎えるか、各種団体や協力会社からお話を聞く中で、公益社団法人 東京都獣医師会の小笠原諸島に生息するカツオドリなどの希少種を野生化した猫から守るために捕獲し、猫を都内の動物病院へ移送して譲渡するという活動(「小笠原ネコプロジェクト」)を知りました。この活動に賛同した私たちは早速、関係団体に連絡を取りました。
猫を迎え入れるためのプロジェクトチームが中心となり猫選びをしていたある日、都内の動物病院にいた2匹の猫と運命の出会いをしたのです。こうして父島と母島で捕獲され、都内の動物病院で馴化訓練を受けた2匹の猫がやってきました。
猫は人に慣れる訓練を受けてきたとはいえ、メディアの方やお客様にご紹介する際に、果たして協力的であるだろうかと思いました。でも、その心配は杞憂でしたね。2匹とも、離島という環境で生まれ、人間と接することも少なかったので、人間に対する警戒心が弱いのか、すぐに人懐っこい猫になりました。
実は移転から数カ月、取材をお断りした期間がありました。迎え入れた猫が新しい環境に慣れることを優先させていただいたからです。
当初は、キャットルームに入る人数や時間を制限するなど、時間をかけて新しい環境に慣れるように配慮しました。また、私たち従業員も猫たちと仲良くなる時間が必要だったためです。
猫がオフィスに来るタイミングで社内イベントを開催しました。猫を迎え入れるためのプロジェクトチームが主体となって猫の名前を募集し、候補の中から全従業員による投票を行い、「きなこ」と「ちょび」という名前に決まりました。
猫の名前を発表する時はキャットルームの前で命名式も行いました。このように、猫をトピックとした社内コミュニケーションの場を提供し、盛り上げていきました。
その時はまだキャットルームへの出入りが制限されていたので、キャットルームの外からみんなが写真を撮ってお祝いしました。中には、ガラス越しだというのに猫を何度も見に来る従業員がいて、理由を聞くと「キャットルームに自由に入れる前に、少しでも仲良くなりたいから、猫に顔を売っているのだ」と話していました(笑)。
ペットがいるメリットについては研究結果にもありますが、私たちの体感として、ペットがいるかいないかで社内のコミュニケーションの量が全く違います。
普段、仕事で関わりのない人であっても、犬を連れてくる人がいれば「かわいいですね」と、つい声を掛けに行ってしまいます。自然とその人の周りには人だかりができています。動物好きな従業員ばかりなので、みんなに「かわいい」と言ってもらえて飼い主も犬もまんざらでない様子です。
犬は日中、一人でお留守番をしながら、寝ていることが多く、オフィスに連れてくるとエネルギ―を使うのか、帰ったらぐっすり寝てくれるのだそうです。
営業部門ではこんな変化もありました。現オフィスに移転してから、お客様が弊社のオフィスにお越しになって商談するということも多くなったというのです。
そうしたお客様がオフィスにいる猫をご覧になって、「うちの社でも猫を飼ってみたいのですが」とご相談を受けることもあります。「入居後でなくペットを飼うことを前提に移転先を選ぶ」「猫にストレスのない環境づくりを」といったアドバイスをさせていただいています。
他の企業の方にも配慮して貨物用のエレベーターを使って連れてきますが、エレベーター内ではケージなどで頭からしっぽまですっぽりと覆われた状態にするのがルールとなっています。
その日オフィスに連れてくることのできるペットの頭数を全体で3匹までとしています。これは、同時にオフィスに来たペット同士の相性が悪い場合でも、お互いが視界に入らない場所へ隔離できるスペースを考慮してのことです。
猫の毛などが原因で、アレルギー症状を引き起こす人もいます。猫が移動できる範囲をキャットルームと隣の会議室に限っており、そこに近寄らないようにしながら共存できるよう気を配っています。
一方、犬は場所が変わっても飼い主さんが近くにいればハッピーという感じでこちらも見ていて心が和みます。膝の上にのせて作業したり、社内の会議にも連れて行ったり、席を離れるにしても誰か犬好きな人間が代わりに面倒を見るというケースが多いようです。
マースではボランティア活動を推奨しています。弊社では、従業員自らがボランティア活動に参加して汗を流すということに重きを置いています。その一つが、保護犬のシェルターでのボランティア研修です。
そのほかにも盲導犬育成のための募金ボランティア、地域の清掃活動もしています。ボランティアを通じて従業員同士の接点も生まれ、それが業務にも生かされているということを実感しています。
このオフィスでは、ペットを介してのコミュニケーションが、本当にたくさん生まれています。最近では小さい頃から動物に触れる機会が少なくなっているとも聞きますが、オフィスにペットがいることは人間にとってもさまざまな効果をもたらしているのです。
ペット、飼い主、ペットを飼っていない人にとっても利点があります。ペットは安らぎを与えてくれ、ストレスを緩和し、生産性、やる気を高めると同時に、ペットと飼い主が一緒に過ごす時間が増えることでオフィスでの幸福度が高まります。
引き続き、動物と一緒に暮らす楽しさに加えて、メリットや効果についてもお伝えしていきたいと思っています。キャットルームを受付エリアにレイアウトしたことで、「猫を見にオフィスにお越しください」とお誘いしやすくなりました。お客様とのコミュニケーションもさらに活発になるのではと期待しています。