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ケーススタディー: 神奈川県立川崎図書館様
 (2017年7月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

神奈川県立川崎図書館
科学情報課 司書
高田高史氏

神奈川県立川崎図書館、社史を“広報”する
「百社百様」1万8000冊公開
フェアや講演会で積極的に発信
国内屈指の社史コレクションを誇る神奈川県立川崎図書館社史室。約70平方メートルの空間に約70連の書架が並び、約1万8000冊を業種ごとに公開している。司書の高田高史さんは「最近の社史はコンテンツ、デザインともに『百社百様』」という。厚くて字がびっしりという社史のイメージはすでに過去のものだ。「社史フェア」「社史ができるまで講演会」など社史を“広報”してきた高田さん。社史のトレンドから社史の作り方まで、高田さんとたどった県立川崎図書館社史室の6年史――。
県立川崎図書館は科学と産業に特化した図書館ですが、国内有数の社史コレクションを誇る社史室はどのように生まれたのですか?

神奈川県立川崎図書館(川崎市川崎区)は、公共図書館としては小説などを所蔵していない大変ユニークな図書館です。京浜工業地帯の中心地である川崎という立地を生かして「自然科学・工学・産業」を重点的に扱う図書館を目指し、1958年に2館目の県立図書館として開館しました。

設立当時は、川崎駅周辺に市の図書館がないこともあり、一般向けの図書の貸し出しもしていましたが、80年代になると川崎市立の図書館も充実してきたので、図書館のあり方を見直し、98年にあらためて科学と産業に特化した図書館としてリニューアルしました。

なお、当館は、かながわサイエンスパーク(川崎市高津区、KSP)への移転が予定されています。

リニューアル時の目玉として「社史1万冊を公開」と掲げてできたのが社史室です。社史室の設置によって、それまで書庫に入っていた社史が公開されました。開館の翌年に商工資料室を設け、企業関係の刊行物として、社史や製品カタログといったものまで収集してきました。

社史は非売品が大半なので寄贈していただきながら、少しずつ数を増やしてきました。その後、社史が特殊コレクションとして独立し、現在はおよそ1万8000冊を所蔵し、質・量ともに全国最大級のコレクションとなっています。

高田さんと社史との関わりについて教えてください。

社史担当になったのは東日本大震災のあった2011年からです。昭和の頃の社史は重厚なものが多かったように思えます。ただ、現在はそうした社史だけではなく、ビジュアルで分かりやすく会社の歴史を紹介する広報ツールのような社史も増えてきました。

どこに向けて作るかで社史は全く違ってきます。今年も「社史フェア」を開催しましたが、本当にいろんな社史があると実感させられました。

お話に出た「社史フェア」など社史を発信するさまざまなイベントを仕掛けています。高田さんが初めて手掛けたのがミニ展示「社史にみる企業キャラクター」でした。

科学と産業に特化した図書館という性格上、ユーザーが限られてしまうという傾向があります。公共図書館としてもっと多くの方にご利用いただくためには、図書館の存在をもっと広報していかなくてはなりません。

この企画を出したのは社史の担当になる前で、11年7月から11月までミニ展示という形で「社史にみる企業キャラクター」を開催しました。私たちにわりと身近な存在である、企業のキャラクターを通じて社史に親しみを持ってもらおうという試みでした。キャラクター自体を知ってもらうのではなく、それを呼び水に、社史の世界に踏み込んでみませんかという思いがありました。

このキャラクター展に興味をもっていただいたことが、同年9月からの神奈川新聞での連載コラムにつながりました。連載では、企業キャラクターだけでなく、いくつかのテーマを切り口に広く社史の魅力を紹介しました。

「社楽」ではさまざまなテーマで社史の魅力や社史室の情報を伝えています。

「社楽」は当時の上司から「社史室でも刊行物を作ってみたら」と勧められて始めたものです。私としても気軽に情報発信できる場所が欲しかったこともありました。館内で配布しているほか、当館ホームページからもご覧いただけます。12年1月から今年6月末まで、70号を発刊しました。

発刊当時は神奈川新聞の連載とかぶっていましたが、新聞ではより広く社史の面白さを知っていただき、「社楽」では実際に図書館の社史室をもっと使っていただきたいというように書き分けていました。

70号ではある企業の社史編纂室を取材させていただきました。作業中の社史編纂室は、部外者が立ち入りができないことも多く、なかなか取材の機会を得られませんでしたが、ようやく実現できました。古い資料は酸性紙対策のため中性紙の紙の箱に入れる保存方法など、企業資料の保存の実践例をお伝えすることができました。

東洋経済オンラインでも全7回のコラムを連載されました。ネタに困るということはありませんか?

社史に関してはネタの宝庫なので、困るということは全くありません。社史はあまり注目されてこなかった分野で、なにがしかのヒントが盛り込まれていると思っています。ヒントが見つかれば、これとこれを結びつけたら面白いのではというアイデアや切り口が次々と出てくるのが不思議です。これは図書館という環境にいたからこそ身に付いたのかもしれません。

膨大な本の中からお客様に必要な情報を見つけ出すのが司書の仕事です。本というのは背表紙に10文字ほどの情報しかありませんが、そこから推察していくことが大切です。例えば、あるキーワードを切り口に書架に並ぶ背表紙を眺め、「何か載ってないかな」とページをめくると、思わぬ発見や手掛かりを得るということがあります。

「社史フェア」も恒例となっています。「社史フェア2017」は過去最大の出展数になりましたね。

今年も6月末に4日間にわたり開催しました。昨年より35点多い247点を出展し来場者数は計226人で、出展数・来場者数とも過去最高となりました。

お客様に感想を書いていただいていますが、「最新の社史がその場でたくさん閲覧できるのがうれしい」という声が一番多いでしょうか。来場者は企業の社史編集担当者が多いようですね。

フェアは2階ホールで行い、私は会期中、ずっと会場で応対しています。お客様から「特色のある社史は」「社史をどう作ったらいいのか」といったご質問をいただきながら、いろんなお話をさせていただいています。

最近の社史の傾向は?紙媒体以外のデジタル化も進んでいるのですか?

「社史フェア」でもお客様にご質問をしばしばいただきましたが、DVDやCD−ROMのようなデジタルメディア化は進んでいません。今年に限れば、むしろ減ったという印象があります。ある一定の時期からほとんど増えていないようです。その年に出された社史の1割程度、しかも本の付録が大半です。

コストや検索の利便性はメリットですが、社史の場合、贈答という意味合いもあり、受け取った側が紙媒体と比べてやや「軽い」と感じてしまうのかもしれません。その場で見られる紙の見やすさという特徴もあります。また、後世に伝えるものなので、パソコンのOSが変わると再生できなくなることがあるというデジタルメディアの不安定さも考えなくてはならないと思います。

社史編纂の工夫や経緯を当事者が語ってくれる講演会も好評です。

「社史ができるまで講演会」は今年7月の開催で6年目になります。現在は社史を作っている方向けの内容になっています。

社史を編纂するということは大変な作業だといつも思います。担当者のほとんどは本を作った経験もなく、何十年に1回の作業なので社内にノウハウもありません。「どうすればいいのか」と途方に暮れる担当者も多いのではないでしょうか。

そういう時に「私が社史をこう作りました」と経験を教えてくれる場があれば助かりますよね。経験者の生の声が聞けるし、講演会を機に、企業の担当者間で交流が生まれるケースもあるようです。

講演を依頼するきっかけはさまざまですが、新着の社史をめくって気になった企業にお声掛けをすることが多いです。図書館に社史を寄贈するため足を運んでくださった担当者の方にお話をうかがい「私だけではもったいない。今の内容を講演会であらためてお聞かせください」とその場でお願いしたこともあります。

業種も含め、いろいろなタイプの社史をご紹介できるように努力しています。

県立川崎図書館のメディア露出が増えています。

全館で積極的に広報に取り組んでいます。社史以外のイベントや取り組みを多くのメディアでご紹介いただいています。

広報に際して、私は「この企画ならこの媒体に取りあげていただけたらいいのではないか」ということを常に考えています。一般紙で紹介されることは広く図書館を知ってもらう絶好の機会です。

それ以外にも、対象を絞った業界紙や、講演に関係する業界や団体などにチラシを送付することもあります。講演の申込みの際には、「イベントをどこで知りましたか」など任意でお答えいただいています。その反応を見ながら、広報先を考えたりもします。

昨年には図書館のホームページにバーチャル社史室を開設しました。また、高田さん個人として、社史室での活動をまとめた『社史の図書館と司書の物語』も出版されました。

『社史の図書館と司書の物語』は、社史室の物語でもあり、自分の仕事の記録でもあります。社史の魅力を伝えたかったのと同時に、自分がやってきたことが参考になればと思いました。

16年5月、県立川崎図書館のホームページにバーチャル社史室を開設しました。社史室の書架を棚ごとに写真を撮り公開しています。全国屈指の1万8000冊を擁する社史室といっても、なかなかイメージがわきません。視覚的に社史室のイメージをつかみやすくしようというのがコンセプトです。

この図書館に一度も足を運んだことのない方に向けて、どうアプローチしていくのかが広報活動の課題だと考えています。特色ある図書館の存在をまずは知っていただき、記憶にとどめてくれれば、必要な時、利用に結びつくでしょう。来館のきっかけを作ること、そんな広報を目指しています。

「社史フェア」や講演会に参加された方が「うちの社史もぜひ図書館に並べてほしい」と社史をご提供いただくという、うれしい反響も増えてきました。県立川崎図書館にある社史を参考に素敵な社史が出来上がり、それをまた図書館に寄贈していただく、この好循環を根づかせていくことが私の目標です。

<神奈川県立川崎図書館> 開館:1958年12月
「社史フェア」のスタッフTシャツや同館キャラクター「かわとくん」のデザインも手掛けた高田さんは、レファレンスの達人である。企業にとって情報の正確さは死活問題。正しい情報をどう集めたらいいのか。「確かな情報を得るためには、複数の資料で裏付けを取ることが必要」と強調する。図書館で調べものをする時には、書架を見て歩くことを勧める。「何気なく手に取った本から、役に立つ情報が見つかったり、興味や関心が広がったりするのは、図書館という空間の持つ醍醐味です。図書館では必ず何か発見があります」と話す。