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ケーススタディー: 下水道広報プラットホーム様
 (2017年3月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

    下水道広報プラットホーム(GKP)
    企画運営委員
    山田秀人氏

暗いイメージの下水道事業、アイテムとイベントで
明るくPR
「マンホールは世界に誇れる文化物」
業界・自治体の熱意、カードに結晶
マンホールの蓋がブームだ。「マンホールサミット」「マンホールカード」といった仕掛けでブームを盛り上げているのが国や自治体、企業などでつくる「下水道広報プラットホーム」(GKP)。「カード」「サミット」の推進リーダーを務める山田秀人さん=日之出水道機器勤務=は3つの名刺を持ち歩く。マンホール蓋のメーカー、業界団体の日本グラウンドマンホール工業会、そしてGKP。仕事はいずれも広報だ。「マンホールの蓋は世界に誇れる文化物」と熱く語る姿は、マンホールの魅力を伝える“伝道師”である。
日ごろ目立たないマンホールが注目を浴びています。

私の方から逆にお聞きしたいのですが、下水道のイメージはどんなものですか?「暗い」「汚い」「臭い」でしょうか。そうですよね。とはいえ、インフラとして大切なものです。

下水道の印象をよくしたい。そのためには、力を結集して下水道広報に取り組みましょうと国交省、自治体、メーカーなどが集まってできたPR団体がGKPです。GKPで広報をスタートするに当たり、下水道の置かれている状況を知ること、自己分析に取り組みました。私は広報活動で一番始めにすべきはこの自己分析だと思っています。

そこで出てきたのが「暗い」「汚い」「臭い」でした。広報の対象は老若男女を問いません。家庭から出た汚水が下水管を通り、終末処理場に入り、そこできれいな水に処理して川に戻す、これが下水道事業です。

下水道の役割は大きいとはいってもPRの材料としては堅い、面白みがない。小さな子どもや若い女性にどうしたら届くのか、そこから始まりました。

「日本のマンホール蓋は世界に誇れる文化物」とPRを仕掛けています。

小さな国土にこれだけたくさんの都市があり、その都市別にデザインが違います。しかもその都市にゆかりのデザインが入っています。直径60センチの蓋の中には、日本の文化が詰まっています。さらにデザインマンホールは海外からも熱い視線を集めています。

マンホールの楽しさを知ってもらうことで、マンホールって何だろうと探究心が生まれ、それがやがて「下水道は大切である」という意識につながっていけばいいのではないかと考えています。

川越で開かれたマンホールサミットには「マンホーラー」と呼ばれる愛好家が集結。会場の外にはご当地のマンホールが並んだ

1月に川越で開かれたマンホールサミットが大盛況でしたね。

マンホールの楽しさを伝えるイベントがマンホールサミットで、アイテムがマンホールカードになります。マンホールサミットは2014年3月以降、東京・秋葉原で3回、神戸と大和郡山の関西で2回開催しました。

6回目となる今回は1月14日に埼玉・川越で行いました。われわれの予想は700人でしたが、実際には約3000人の方にお越しいただきました。サミットの内容は業界人やカメラマン、ジャーナリストといったマニアがマンホールの魅力を熱く語るトークショーとグッズ販売、マンホール蓋の展示です。

サミットを始めた当初、お客さんが一人も来ないのではないかと心配しました(笑)。それが毎回、会場がいっぱいになり、延々4時間にもなるトークでも途中席を立つ人はいません。愛好者が好きなことを届けようとし、聞いている方もその熱が伝わって楽しんでいただいている様子にうれしいと感じると同時に驚いています。

そして大人気なのがマンホールカードです。

マンホールカードはカード型のパンフレットです。パンフレットは無料ですが、入手するには配布されている都市に実際に足を運んでもらう必要があります。

配布場所は各役所や下水道処理施設、観光案内所です。1つのデザインにつき1カ所で配布するのがルールとなっています。ですので、同じ自治体でも観光案内所と処理場で配布するカードは異なります。

カードのアイデアはどのようにして出てきたのですか?

私は元々、大手玩具量販店に勤めていました。GKPで下水道広報に関わって最初に考えたのは役所内や業界などの内輪ではなく、一般の方をどう巻き込むかということでした。そこで、かつての「おもちゃ屋さんの頭」で考えたのがコレクションカードでした。

最近の子どもの玩具は、携帯ゲーム・据え置きゲーム・カードゲームが大変人気です。その中でマンホールのご当地感を活かすなら、切手やコインのように楽しく収集できるコレクションカードがいいと思ったのです。

カードづくりにおいては徹底した「ユーザー思考」を貫きました。触ってみてどうですか? 意外と硬いでしょう?

カードは16年4月から4カ月に1回発行しています。第1弾が28自治体30種類、第2弾が40自治体44種類、16年12月には第3弾として46自治体46種類で、これまで120種類40万枚発行しました。

4月から新たに50種類20万枚の配布が始まりました。メディアに取りあげられた数はカードだけで450件にのぼります。カードを発行して1年が経ちましたが、こうした広がりは全く予想していませんでしたね。

カードづくりではどんな点にこだわって制作されたのでしょうか?

カードには集めたくなる仕掛けが施されています。その一つがコレクションナンバーです。

右下には小さい番号が4つ並んでいます。一番右から、全カードの連番、全国9ブロックに分けたブロック連番、県内での連番、 市内での連番となります。

まだあります。同じく右下にはカードの種類が分かるようにピクトグラムを入れています。「世界遺産」「木」「鳥」といったマーク分けがされ、それにも連番を振っています。

現地に行かなければいけないので全カードを集めるのは極めて難しい。そこで地域別やカテゴリーなど、好きなところから自由に集められるようにしたのです。コレクションナンバーについては公表していません。ネットやSNSではすでに謎解きがされていますが……。

ここで私の考える広報のツボを紹介しましょう。一つ目は「発見する喜びを残しておく」こと、もう一つが第1弾、第2弾と段階ごとのリリースで継続的に関心をもってもらうことです。

話を戻すとカードで欠かせないのが統一感です。質、文字のフォントに至るまですべて揃えています。品質の確保やコストを減らすため1カ所で印刷しています。表にはマンホールの写真と設置場所の緯度・経度が記載され、裏ではデザインの由来を紹介しています。

繰り返しになりますが「すべてのカードを同じフォーマットで作る」ということです。われわれが呼ぶところの「鉄の掟」は絶対です。カードにはゆるキャラも入りませんし、特産の記載もできません。

カード効果というか、思いがけない「おまけ」があったそうですね。

カードを取りに来る方の6割が所在都道府県外からというデータが出ています。自治体はカードだけではもったいないと、マンホール地図や観光案内を一緒に配るなど、自分のまちに観光客を呼び込む動きが出てきました。

マンホールカードを通じて、下水道が欠かせないライフラインだという認知が広がるだけでなく、シティープロモーションに一役買うようになったことは思いがけない成果でした。今、下水道に関わる多くの人の熱意が高まっているのを感じ、「やってきてよかった」と思います。

前例のないことで苦労も多かったのでは?

「あなたのまちのカードを作ります。カードをそちらで買ってもらった上で無料で配布してください」。自治体からすると無茶な話で、このコンセプトを理解してもらう必要がありました。

それと第1弾は日本を代表する富士山や大阪城、時計台が入ったカードを集め個性的でバラエティーに富んだラインアップ構成にしたかったこともあり、あらかじめこちらで目星を付けた自治体に足を運び、担当者にお会いしお願いして回りました。その甲斐もあって第2弾ではカードが好評だという話が広まり、自治体の方から申し込みがありました。第3弾で初めて全国から募集し、申請が殺到している状況です。

選考で一番大切にしているのはその自治体のマンホールへの熱意です。熱意をもって継続的に協力していただき、カードがいつもそこにある状態、つまり「定番化」を目指しています。

「定番化」ということで言えば「レアカード」は作りません。カードをキラキラしたデザインにしたり、枚数や期間を限定したりすれば一時的には盛り上がるかもしれませんが、結果的にカードの価値を下げてしまいます。私はゆっくり旅をしながら集めてもらえるようにカードの「定番化」を目指していきたいと思っています。

今後の展望や将来の夢などお聞かせください。

海外の方にも見ていただきたいので英語版カードにも取り組んでいきたいと思っています。また、企業の工場には企業のマンホールがあります。将来的には企業のマンホールカードも作りたいですね。

自治体やマンホールメーカーに限らず、下水道業界の外でも下水道をPRしていただけることを夢見ています。「世界に誇る文化物」であるマンホール、国民全員でこの文化を大事にしていきましょう。

<下水道広報プラットホーム> 発足:2012年6月
昨年、人気アイドルグループのメンバーが作業体験しながらものづくりを学ぶというテレビ番組に山田さんが勤務する日之出水道機器栃木工場が取りあげられた。山田さんも「下水道に一番遠い存在である若い女性にマンホールを知ってもらえました。ツイッターなどで反響があり、認知度がぐっと上がりました」と手応えを感じている。最初にネット上で「面白い」と引っかかるかどうか、そして、企画が持ち込まれた時、制作スタッフにマンホールの魅力を伝え、好きになってもらえるかどうかで番組の出来も広報効果も違ってくるという。「取材はいつも真剣勝負です」と山田さんは語る。