早朝新聞クリッピング 広報効果測定・報道分析

(社)日本パブリックリレーションズ協会加盟

株式会社デスクワン お問い合わせ

ケーススタディー: 全日本空輸様 (2016年10月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

全日本空輸
客室センター 客室訓練部
訓練推進課 リーダー
浅野元美氏

全日空の“OMOTENASHIの達人”コンテスト
チーム・個人でCA接客スキル競う
「チームANA」でブランド強化
羽田空港近くのANA訓練センター。普段は緊張感漂うセンター内だが、コンテストのある日は応援団の熱気と声援に包まれる。今年も9月から12月上旬にかけて、全日本空輸(ANA)約7500人の客室乗務員(CA)の中から最も接客スキルの高い“OMOTENASHIの達人”を決めるコンテストが行われている。笑顔や身だしなみ、手際のよさ、「日本らしさ」が感じられる細やかな配慮などが審査対象だ。グループを挙げホスピタリティー向上に取り組むANA。「チームANA」による接客力アップは、企業ブランドの底上げにつながっている。
“OMOTENASHIの達人”コンテストが今年も9月から予選が始まりました。

コンテストはチーム部門と個人部門の2本立てとなっています。

チーム部門の予選は10月13日が最終日と大会も佳境に入ってきました。個人部門は予選を行わず、客室センター員による投票で選ばれた9人が12月2日の決勝大会に出場します。チーム部門は昨年は30チームでしたが、今年度は20チームになります。

当社では2020年に向けて事業規模を拡大する中、近年CAの採用を増やしています。また、様々な資格者の養成もスピード感をもって実施する必要性が高まっています。通常の訓練を優先するため、コンテストのための場所の確保が難しいのが悩みの種で、今年度はチーム数を絞りました。

チーム部門のエントリーは先着順となっており、例年、コンテストの周知を5月初旬に行っていますが、今年度は4月早々に「周知はいつ出るのか」という問い合わせを受けました。意気込みを持ってエントリーしてくれるCAも増えてきて、運営側としてうれしく思っています。

今年で4回目となるコンテストですが、どんな目的があるのですか?

2012年度から“OMOTENASHI”を合言葉に取り組みを始め、徐々に浸透してきました。そんな中、「おもてなし」を体現しているCAの技術や経験を客室センター全体でシェアしようという機運が出てきました。CA自らが超えるべきハードルを設定してチャレンジする、それが“OMOTENASHIの達人”コンテストです。

コンテストでは役員がお客様役を務めるなど社を挙げて取り組んでいます。

実は今年度から予選のお客様役はグループ内から公募しました。昨年度までは、主に社内でこちらからお声掛けをしていました。

コンテストの存在は社内には知られるところとなりましたが、今年度は「チームANA」を深化させ広くグループの社員にも知ってほしいと考え、グループ内の周知媒体で呼び掛けました。初めての公募で不安もありましたが、ありがたいことに約100人の定員を確保することができました。

ある予約担当者が「国際線でのCAのサービスを体験することは貴重な機会で、この経験を日常業務に生かしたい」と話してくれました。コンテストに出場するCAもこのようなグループの一体感をあらためて感じたことと思います。今年も決勝大会では、社長をはじめ役員がお客様役兼審査員を務める予定です。

サービススキルコンテストは元々、空港で働く旅客係員部門などで行われていました。CA部門で実施する狙いは何ですか?

2008年から旅客部門ではスキルコンテストを実施しています。まず旅客部門の担当者から話を聞いたり、スキルコンテストにオブザーバーとして参加させてもらったりして、出場者が普段通りのチェックイン業務ができるように、緊張をどう和らげているのか、コンテストをどう盛り上げていくのか、運営側の配慮や工夫について学んできました。

旅客部門のスキルコンテストと同様、人的サービスの質を上げていくことが最大の目的です。これは初回から変わりません。実際のフライト同様、仲間と助け合いながら、お互いに成長していけるかどうかも欠かせない要素です。

頑張っている人を組織がしっかり評価する風土、周囲のCAを互いに認め合い、ほめ合う文化をコンテストをきっかけに根づかせていきたいとも考えています。

コンテストでは毎回、個性豊かな応援団や教官の仮装が風物詩となっています。

仮装した教官のルール説明は決勝大会でしか行っていませんが、応援は予選から年々パワーアップしています。揃いの衣装を着ながら「あの課には負けられない」といった課同士の熾烈な応援合戦も繰り広げられています(笑)。

上司や仲間の熱い声援が出場者の緊張をほぐし、普段通りのパフォーマンスを引き出しています。

コンテストの会場となる訓練センターですが、ここに来ると皆さん気が引き締まるのではないですか?

全くその通りで、CAだけでなくパイロットも整備士もこの訓練センターで、汗水だけでなく時には涙を流しながら成長していきます。

訓練は辛く厳しいものです。しかし、訓練センターは自分を成長させてくれる場であり、訓練で得た知識を持ってフライトに戻っていくということは新しい自分になることでもあります。訓練や教育を通じ、このように実感してもらえるようなカリキュラムを提供していかなければならないと思っています。

チーム・個人部門のファイナリストにはピンバッジが贈られます。制服にバッジを付けたファイナリストにはどんな役割を期待されているのでしょうか?

バッジは現在のグレーのジャケットによく映える色合いとなっています。後輩の憧れの存在となり、目指すべきCAとなってほしいと思っています。フライトではいつも同じクルーとは限りません。ですが、初対面であってもバッジを見れば「達人」と分かるので、お互いの距離がぐっと縮まります。「達人」たちに聞いてみると「大変なプレッシャーだ」と口を揃えて言いますが、「自信を持って普段通りの『おもてなし』をしてほしい」と話しています。

「達人」にはサービスの品質向上の牽引役として期待しています。お客様にとってバッジの認知度は高くありませんが、お客様との会話やコミュニケーションのきっかけになってくれたらいいですね。

ベテランCAでもある浅野さんから見て、「達人」CAのすごさはどこにあるのですか?

ずば抜けて高い技術、深い知識を持っている人かといえば、他にもそういうCAはいると思います。ただ、コンテストでファイナリストになるCAは、お客様に向かう気持ち、お客様への寄り添い方が他のCAと違います。お客様がいま何を考え、何を望んでいらっしゃるか、常に考えを巡らせているのが、バッジを付けているファイナリストに共通しているように思います。

またバッジを付けているからこそ、さらなる高みを目指そうと努力を重ねる姿はすべてのCAの手本となっています。

英国SKYTRAX社の「エアライン・スター・ランキング」で、4年連続最高評価の「5スター」を獲得しました。外国人CAも増える中、「ANA流おもてなし」をどう伝えているのでしょうか?

海外在住のCAに対して訓練センターで約2カ月間、訓練・教育を行っています。まずは「ANAブランドとは」から始まり、具体的にどんな「おもてなし」が必要なのかについて教えています。

やはり難しいのは日本独特の文化や作法ですね。多くの外国人のお客様は意思表示を明確にされますが、日本人のお客様は自分のお気持ちやご要望をなかなか言葉に表すことがありません。海外在住のCAは、お客様がおっしゃられたことを確実にこなすことが大切だと考えがちです。「日本人のお客様に対してはそれだけでは不十分」と担当するインストラクターは、そういった認識を正すことから訓練が始まると言います。

「おもてなし」といっても奥が深く、海外在住CAには分かりやすく説明することが大切です。例えば、何かを指し示す場合、きちんと指先を揃えて行うよう指導しています。些細なことかもしれませんが、これが日本の文化でありANAのブランドであると教わりながら、日本の「おもてなし」について身をもって理解していきます。

最後に、いよいよ2020年には、オリンピックが東京にやってきます。「おもてなしのANA」として、今後、どのように取り組んでいきたいとお考えですか?

グループを挙げて「ダントツ品質のプロダクト&サービス」に取り組んでいますが、「ダントツ品質」をどう体現していくのか、私の立場で言えば、訓練や教育を通じて貢献していきたいと考えています。りっぱなマニュアルがあればいい、深い知識があれば、それがブランド強化につながるというのではありません。それはやはり人の力、ブランドを体現できる「人財」育成が求められています。

訓練センターのあり方も変わっていかなければなりません。辛いだけの訓練・教育だけでは個々の成長につながらないのではないかと思っています。時代に合わせた訓練内容の見直しも必要かもしれません。一人一人が経験を積み重ねながら、自己成長のきっかけとして訓練センターを活用できることこそが組織の、グループ全体の成長につながっていくと考えています。

<全日本空輸株式会社> 発足:2012年4月2日
「おもてなし」といえば、ANA総合研究所と東京大による科学的理解に向けた共同研究も話題になった。訓練センター内でもITを使い、ドリンクサービスの際のCAの行動とスキルをひも解いていく実験が行われた。現在、CAを兼務しながら訓練センターで訓練日程などのマネジメントをしている浅野さんも実験には大変興味を持っているという。「サービス自体のスピードはベテランの方が速いのですが、ベテランはサービスを終えた後もお客様を観察し、お声掛けしながら戻ってくることに時間をかけているのが分かったそうです。訓練の中でもこうした分析結果を盛り込んで伝えていきたいと思っています」と浅野さんは話す。