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ケーススタディー: 三英様 (2016年9月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
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<写真左から>
 三英
 技術顧問
 尾山弘善氏

 執行役員 事業副本部長
 栗本典之氏

三英の卓球台『インフィニティー』 リオ五輪で「メイド・イン・ジャパン」発信
水谷選手のメダルも後押し
「震災からの復興」−思い込めて
リオデジャネイロ五輪での大奮闘で、日本中を感動させた卓球日本代表。 水谷隼選手の日本初となる個人でのメダル獲得をはじめ、女子団体、男子団体とメダルラッシュを後押ししたのは日本製の卓球台だった。卓球台・遊具の老舗メーカーの三英(千葉県流山市)が提供したリオ五輪公式卓球台『インフィニティー』。“無限の可能性”を秘めた日本のものづくりが詰まった芸術品のような卓球台だ。幅152.5センチ、長さ274センチ、高さ76センチの卓球台をめぐる「もうひとつの五輪」に迫る。
水谷選手にメダル獲得は「あの台のおかげ」とまで言わせた卓球台『インフィニティー』に注目が集まりました。

栗本: ラリーが真骨頂の水谷選手がリオでは、さらにスピードが上がり、力強く感じました。水谷選手はラリーの中で上、横、下回転と様々な回転をかけながらコースを打ち分けていました。水谷選手がリオで思い切り戦えた要因の一つに弊社の台を挙げられ、とても光栄です。

弊社の台ではありませんが、世界選手権や五輪といった大舞台で「台のあの部分を狙え」などと選手間でもそういった声が飛び交うことがあるそうです。予想したバウンドでなく、イレギュラーな跳ね方をする部分があるということですね。

この点は台の構造に関係があります。後ほど触れますが、それほど卓球は繊細なスポーツだということです。

弊社の台はバウンドの均一性、平滑性といった点は他のメーカーに比べ優れているとの評価をトップ選手からいただいています。日本卓球協会の公認卓球台として全日本選手権で40年以上にわたり使われています。水谷選手は全日本で8回優勝していますし、普段から弊社の台で練習されているので球の跳ね方など三英製の台に熟知しているということだと思います。

■三英: 1940年に松田材木店として設立。世界選手権、バルセロナオリンピックでの公式用具スポンサーなどの実績を挙げた。2016年のリオデジャネイロオリンピックでの公式用具スポンサーに選定され、卓球台『インフィニティー』で脚光を浴びた。

『インフィニティー』はパラリンピックでも使われました。

栗本: 戦術の変化によって台の形も変わってきました。最近では選手がより踏み込んで打つようになりました。脚が台に当たり怪我をすることもあると聞きます。弊社の台は、車いすでも脚にぶつからないよう設計されていており、パラリンピックでも使用されました。

脚部の木目や流線型はまるで芸術品のように感じました。

尾山: 「木製の脚で作りたい」という社長の三浦(慎氏)の強い思いがありました。しかも斬新なものということで、有名な工業デザイナーで『ウォークマン』をデザインされた澄川伸一さんにお願いしました。

『インフィニティー』は3つのものづくり力が融合してできたものと思っています。1つ目は澄川さんのデザイン力、2つ目は構造・機能を熟知した三英の技術力、3つ目の脚部の曲線美を再現してくれた、成形合板の技術で世界的に有名な天童木工さんの製造力があって成し遂げられました。

東日本大震災への思いも込められたそうですね。

尾山: 木製の脚、しかも斬新なデザインの曲線美を表現するためには、どうしても単板を積層した成型構造体にする必要がありました。その材料として岩手県宮古市という震災エリアで育ったブナ材を使いました。

ブナは木に粘りがあり曲げ物には適しています。何よりも少しでも震災に遭われた方々の復興への思いを取り入れたいと思いました。

『インフィニティー』で最も苦労された点はどこでしょうか?

尾山: 脚のデザインをいかに具現化するかということに尽きます。

初期のデザインは曲面を生かしたスリムなものでしたが構造的に揺れ、振動など問題がありました。そもそも木は加工後も生きています。今回のような曲げ物ではどうしてもスプリングバック(曲げ戻り)が起きます。木が暴れるのですね。木をなだめるように、何度も試作検証を繰り返しました。

時には構造力学を得意とする建築設計事務所に相談に行ったこともありました。デザインの立場、機能・構造の立場、製造する立場、3者が満足いく形を見出しました。それが『インフィニティー』なのです。

卓球台のテーブルについても弊社が長年培った技術、独自の工法で作り上げたものです。

弊社でも汎用品では、細かく木片を砕いたものを集めたパーティクルボードを採用していますが、木片と木片との間にわずかな隙間が生まれ、反発性が均一でなくなる場合があります。それが想定外のバウンドを生み、選手を戸惑わせるのだと思います。

『インフィニティー』の天板はパーティクルボードでなく何層にも積み重ねられた積層材で作られています。一枚板だと湿気を吸って反ってくるので、積層材を13層ほどパズルのように組み合わせ、一枚の天板に仕上げています。そうすることで隙間が生じることがなく、湿度や経年で天板が反り返ることも防ぐわけです。

この工法は実用新案を取っており、他のメーカーが真似できないものです。

思わず吸い込まれそうな台の色も話題になりました。

尾山: これも社長の三浦の発案でした。日本ではブルー、ヨーロッパではグリーンのテーブルが多く使われています。見方によってはグリーンにもブルーにも見える色が「レジュブルー」です。40種類の色から選びました。選手にも試打してもらい、プレーしやすいこの色に決めました。

この色には大震災からの復興の中で芽吹く「新しい生命」というメッセージも込めました。

栗本: 実はリオ五輪大会組織委員会からは天板の色を茶色にしてほしいと言われたのです。ブラジルのナショナルカラーの緑や黄色とも合い、緑とも青ともいえるような「レジュブルー」を当社では押し通しました。

結果的にフロアマットの緑とも合い、色のコントラストはよかったと思っています。

『インフィニティー』は数多くの媒体で幅広く取りあげられました。メディア誘致はされたのですか?

栗本: 弊社のホームページにニュースを発信しているだけで、メディアへの働き掛けはほとんどしていません。ですが、弊社では世界規模の大会ごとにアピール部隊の「GOチーム」を立ち上げて、卓球を盛り上げる取り組みに力を入れています。メンバーは社内や関連会社の中から希望者を募り、20数人になります。

「GOチーム」は14年に東京で開かれた世界団体選手権で初めて結成されましたが、一般の方へのアピール不足が課題として残りました。その反省もあってリオに向けてのPRには期するものがありました。

まず、昨年7月にビーチで卓球を楽しんでもらおうと逗子海岸で水谷選手にもご協力いただきイベントを開きました。リオでは台のメンテナンスだけでなく、三英がオリジナルデザインを施したデザイン柄入り台「ピーテーブル」をリオの会場のレクリエーションエリアに設置し好評でした。

メディアばかりでなく、近隣の中学校の校長先生が取材に来られ、学校便りに記事を掲載していました。

尾山: 私が対応させていただいたのですが、校長先生は何度も弊社に足を運ばれ、熱心にものづくりの姿勢やチャレンジ精神について取材されていました。

メディアを通じて、卓球台の露出する機会を非常に多くいただくことができました。選手だけでなく、卓球台のデザインや機能、製造過程にまで興味を持っていただけたのは初めてのケースです。

リオに続き、東京でも五輪の公式サプライヤーに選ばれました。最後に今後の課題と意気込みを教えてください。

栗本: 「GOチーム」が引き続きPR活動の中心となります。東京五輪では新たに東京五輪の「GOチーム」を発足させます。自国開催でもありますし、社内などからも「やりたい」と多くの手が挙がるものと期待しています。ボトムアップで様々なアイデアが出てきてほしいですね。

今回ありがたいことに多くのメディアから取材をいただきました。弊社始まって以来のことで、取材の調整には苦労しました。メディア対応に注力するため、広報部門の設立などが課題だと認識しています。

日本の選手の中には、東京五輪を担う若手もたくさん育ってきています。男女とも次は一番いい色のメダルを狙える位置にいるのではないでしょうか。本当に楽しみです。

尾山: 卓球を知らない方々も「リオで使われた卓球メーカーですね」と声を掛けてくださるようになりました。「SAN−EI」の知名度は非常に高くなったと感じています。

五輪は世界の一流選手が集う4年に1度の祭典です。品質・機能など全ての面で最高のものを提供する責務があります。まずは脚のデザインを多くの方の知恵をお借りしながら進めていこうと思っています。天板もさらにグレードアップしたものを提供したいですね。

われわれには「これで完成」ということはありません。「世界に認められる卓球台」を目指して常にチャレンジしていきたいと思っています。

<株式会社三英> 設立:昭和37年7月16日
「卓球は明るいスポーツ」とイメージは浸透しつつある。91年に世界選手権千葉大会の公式サプライヤ ーとなり、卓球台をグリーンから鮮やかなブルーに変えたのが三英だ。最近では女性向けブランド「Wapper」も立ち上げた。「卓球は世界では有数の競技人口を誇り、国内でも幅広い層に人気です。卓球を楽しんでもらうためにウエアーなど小物にも力を入れています」と栗本さんは話す。