ケーススタディー: UPQ様 (2016年7月号掲載)
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株式会社UPQ
代表取締役
中澤優子氏
■Profile
1984年生まれ。中央大学経済学部卒業後、カシオ計算機で携帯電話・スマートフォンの商品企画に従事。退職後の2013年に、秋葉原にカフェを開業。現在もケーキ、パンケーキ等の商品企画から製造、経営を続ける。14年にはハッカソンに参加し、IoT弁当箱「X Ben(エックス・ベン)」を企画・開発。同年、経産省フロンティアメイカーズ育成事業に採択された。15年7月、株式会社UPQ代表取締役に就任した。
“驚き”を世の中に生み出したい
発表会は「こんな製品をつくりました」と、ようやくお披露目できる場なので、ものづくりをしていて一番魅力的な瞬間として楽しみにしていました。来場メディア数は約20媒体になりました。
メディア受けを意識したわけではないのですが、結果的に、「IoT製品ではなく既存の家電、家具領域でのベンチャー」「2カ月で24製品」「メーカー出身」「30歳の文系女性」「ほぼひとりで立ち上げた」といったキーワードを中心に注目いただいたようです。
イベント主催者側より、「DMM.make AKIBA」で産まれた製品を対象としたブロガーイベントを開催したい、ということで打診いただきました。メディア向けの製品発表会とは全く違う層の方に出逢うことができました。
あえてニュースの少ない時期だったことに加え、商戦期でなくても「よいもの、面白いものであれば売れる」と考えたからです。
ECサイトでいつでもモノは売買できるなど、売り方も買い方も変わってきていますし、UPQはいまの時代に生まれたベンチャーなので、古い考えや過去のセオリーにとらわれすぎる必要はないと考えました。
メディアに対して、UPQから意図的に何か仕掛けるということは、現状一切行っていません。お声掛けいただいたものに順番に真摯に対応している、という状況です。
日経新聞に関しては、最初はウェブ向けでお声掛けいただきました。インタビューの内容を受けてウェブから本紙での掲載に切り替えていただいたようです。掲載当日に知り合いから「一面に載ってるよ」と聞いて驚いたほどです。
もちろんスケジュール的にお受けできない取材もありますが、ひとつひとつの取材を丁寧に、分かりやすい言葉でポイントをお伝えしていることは、工夫と言えるかしれません。
製品を企画している私自身が、製品の魅力についてじっくり説明できることは、プラスに働いていると考えています。広報に伴う事務作業は別の担当者を置くことで、製品やブランドのPRに力を入れることができる状況をつくっています。
苦労する点は、スケジュールが被ってしまった依頼は、どれか一つを選ばないといけないことでしょうか。
メーカーのエンジニアの方など、励まされるとおっしゃってくださる方は多いですね。
初めは、2ちゃんねるやツイッターなどで「文系でものづくりも知らない奴がメーカーを気取って、中国製品の色変えだけのチープなブランドだ」といった批判も少なくなかったのですが、取材記事を読んでくださったり、TV放映をご覧になってくださったり、またイベントなどを通じて、次第に当社のブランドコンセプトを理解していただき、応援してくれる人も増えてきているのを日々感じています。
UPQとしてのスタンスは、当初から一切変えていないにもかかわらず、ブランドを確立していく中で、このような変化が現れることに、世の中の反応は実に面白いなとマーケティングの実例としてみています。
他社の発表会に「熱さ」がないとは思いません。メーカーの中にいるメンバーにとって、お披露目の場は非常に大切な瞬間ですから。
家族にも友達にも言えないまま、「きっとこの製品が出たらみんな驚くぞ、がんばろう!」と長い間、新製品を粛々と開発し、それをようやく世に問えるわけです。「熱い」思いがないわけありません。
ただ、多くの場合、プレゼンターと開発者は別であったり、体裁を整えられた危なげないプレゼン資料で、しかもプレゼンのストーリーまで用意されたりするので、少し「機械的」になってしまうことも多いのかと思います。私は、プレゼンの上手さよりも「生の想い」が届くように意識して発表会に臨んでいます
ものづくりは、自分にはないスキルを持つ人たちと議論を重ね、スキルを持ち寄り、そして今までにない「驚き」を世に生み出すという難題を超えるために知恵を絞るということ、そして、自分を含めたつくる側の人たちだけでは成り立たず、買う側の人もいて成立します。こうした関係の中で、全力で知恵比べをし続ける感覚が癖になっています。
今の日本のものづくりに足りないものは、この感覚を得るための貪欲さだと思います。時代がものづくりにとっては厳しくなってきた、という一種の言い訳とともに、昔は皆が持っていた貪欲さが失われかけているのではないでしょうか。
まず、既存のメーカーのように一商品の大量生産を目指すのではなく「小ロット、売り切れ御免!」のものづくりができるという私たちの小回りの良さを忘れずにいたいと思っています。その上で日本だけにとどまらず、世界でも売れるように新しい知恵を絞り続けたいと思います。
また、スペック競争や価格競争、逆にデザイン重視で価格を上げる、ということではなく、商品の本来の力を引き出せる商品企画、開発を続けていきたいと考えています。