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ケーススタディー: 大林組様 (2016年5月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

大林組
CSR室 社内広報課長
「マンスリー大林」編集長
松下令子氏(写真左)

CSR室 担当部長
「デイリー大林」「季刊大林」
編集長
勝山里美氏

特集・広報誌を考える/上
大林組社内報「マンスリー大林」「デイリー大林」
紙・ウェブ併用、社員と会社つなぐ
仕事への意識と行動の変革促す
インナーコミュニケーションを活性化させ、仕事への意識と行動の変化を促す。そんな役割を担うのが広報誌だ。東京スカイツリー®や虎ノ門ヒルズなど、時代や文化の象徴となるプロジェクトを手掛けてきた大林組。紙媒体の社内報「マンスリー大林」とウェブ社内報「デイリー大林」は、会社の動きや現場で働く仲間などを取りあげ、「読んで、考え、行動する」ようなコンテンツづくりに心を砕く。社内報が社員を変えていく――。今号から上下2回で、挑戦する広報誌を紹介する。


社内報「マンスリー大林」は創刊50年余の業界屈指の老舗社内報です。毎号見開きで現場写真を掲載するなど紙媒体ならではの表現にこだわっています。

松下: 「読めば元気になれる社内報」をうたい、社員が読んで共感し、仕事への意識と行動の変革を促していくことを目指しています。

中身はおおまかに、会社の動向や当社事業の社会的な意義を伝えるというトップダウン的な要素と、社員や他部門の紹介という水平展開もしくはボトムアップ的な面で構成されています。

編集方針としては、多角的に伝えること、できるだけ社員を登場させること、写真を効果的に使うこと、社員が読みたくなる記事を用意すること、内容が本店・支店、技術職・事務職などに偏らないよう、公平性を意識して取り組んでいます。

ウェブ社内報「デイリー大林」とのすみ分けは?

松下: それぞれの長所を生かしたコンテンツづくりをしています。「マンスリー」の人気コーナー「現場レポート」では、見開きで写真を使いスケール感を伝えています。

紙媒体の長所はパッケージとして、いろんな記事が集まっている点にあります。どの記事でもいいのですが、社員が読みたくなる記事を多く載せていきたいと思っています。

社内報は社員の手元に届けられるので、個人と会社をつなぐ役割を果たしています。ですから、会社の方向性やトップのメッセージを伝える記事はしっかり扱うようにしています。昨年4月、中期経営計画(中計)を発表しました。直後の5月号では見開きで、社長のメッセージとともに中計のポイントを解説しました。

3月号の「現場レポート」で取りあげた岩手県釜石市の「復興道路」では、トンネル内を高湿度に保つシステムの紹介もありました。社員に自社技術を伝える意味は何ですか?

松下: ゼネコンでも建築と土木では使われる技術は全く異なり、すべての技術に精通している社員はなかなかいません。「現場レポート」で技術を紹介する意味はそこにあります。社員からも「もっと技術に関する情報を与えてほしい」という声が多いですね。

「竣工工事の紹介」でも必ずそこで使われている技術に触れるようにしています。他の現場のエンジニアから「うちの現場でもこの技術が活用できるのではないかというヒントを与えてくれる」と言われます。

「マンスリー」では第一線の現場で活躍する社員だけでなく、縁の下の力持ち的な存在についても光を当てるようにしています。「ここに人あり仕事あり」というコーナーです。多種多様な業務を担当者の思いを通して紹介しています。大林組をしっかり知ってもらうには多角的な視点での編集が不可欠です。

「復興道路」もそうですが、社外向けの公式ホームページ(HP)でも公開し、社会に向けても大林組の技術をアピールしていますね。

勝山: 当社は技術の会社ですので、社員が自社技術について知っておくことは大切です。社会に役立つものならば当然、社外にも積極的にPRしていかなければなりません。

とはいえ技術広報は一般向けとは言いがたく、現場の思いなどをストーリー仕立てにしたり、技術の適用例を具体的に示したりして、HPを通じて一般の方にも分かりやすく当社の技術をお伝えしています。

技術の見せ方に知恵を絞るのは、社内報も同じです。社員にとっても人物を絡めて技術を紹介すれば、技術を知るだけでなく、どのように仕事を発展させていけばよいのか、日々の仕事のヒントも提供することができます。

2010年にウェブ社内報「デイリー大林」を立ち上げたきっかけや「デイリー」の役割は何ですか?

勝山: 編集者2人をメインに、「マンスリー」のメンバーにも記事を書いてもらうなどして、毎営業日更新しています。「マンスリー」にある社員の声を紹介する「THE VOICE」というコーナーの募集を「デイリー」でも行うなど相互補完の関係は密接です。

「デイリー」以前にも社内イントラで、大きな現場の起工式など社内のトピックスを月に数回掲載していました。インターネットが浸透してきた中で、もっとタイムリーに情報が伝達できるのではないかと考え、ウェブ版の社内報を展開してみようとスタートしたのが現在の「デイリー」です。「マンスリー」は誌面が限られており、厳選した情報しか載せることができないので、その漏れを拾っていくのも「デイリー」の役割です。

「デイリー」の強みはやはり速報性です。4月14日に発生した熊本地震ではその日に当社でも対策本部を設置し、被災地の派遣などに着手しましたが、「デイリー」は発生直後から、熊本地震関連情報として会社の動きを逐一伝えました。

ウェブならではの取り組みはありますか?

勝山: 会社で何が起こっているのかを伝えるだけではありません。会社が外からどのように見られているのか、社員は知っておくことも重要です。リリースをどう打って、メディアにどう掲載されたのかという情報も「デイリー」では掲載しています。

せっかくのウェブサイトですのでコメント欄に加え、12年から記事に「いいね!」ボタンを設けています。一方的に情報発信するだけでなく、フィードバックができる仕組みをつくることは大事なことだと思います。最近では復興の話題に「いいね!」が大変多く、社員の多くが社会的意義のある取り組みに関心を持っていることが分かり、心強く感じています。

社員の閲覧率が高いのは社長の「Cafe Shiraishi」ですね。トップが自らの言葉で社員に対してメッセージを送るコーナーとなっています。「マンスリー」も「デイリー」も、見なければいけないと思わせるようなコンテンツづくりが求められています。

「マンスリー」「デイリー」とも外部のライターではなく、社員自ら取材され記事を書いています。

松下: 誌面編集をデザイン会社に委託しているほかはすべて自社製作で、基本的に現場写真も「マンスリー」のスタッフが撮っています。

現場に行き話を聞くと心が動く瞬間があります。それをどうしたら伝えられるのかを考えながら、特集や「現場レポート」を書くようにしています。現場取材は窓口部門で終わらせないで最前線まで行って話を聞いてくると、手応えのある記事に仕上がるような気がします。

勝山: 「デイリー」は毎日更新なのでなかなか現場に駆けつけることはできません。本・支店の広報担当者から情報を上げてもらい記事にしています。

「社員にとって有効な情報であるかどうか」が掲載基準です。グループ会社のゴルフ場でトーナメント戦が行われたという情報であれば、どのような業務を行う会社か紹介をし、その上でトーナメントの話に持っていくようにします。そうすれば社員がそのグループ会社を知ることができますよね。社員に知ってほしい情報を記事に盛り込む工夫を常に考えています。

紙に印刷した社内報をやめ電子化する企業もあれば、紙媒体に戻す企業もあるなど、広報誌を取り巻く環境は現在、過渡期にあります。今後の展望や意気込みをお聞かせください。

勝山: 実は今、以前よりもさらにインナーコミュニケーションの重要性を感じていて、「デイリー」をリニューアルしようと考えています。

BtoC企業であれば商品を通じて一般のお客様に企業理念や企業ブランドをお伝えできますが、私たちBtoB企業にはそれはできません。お客様に大林組を伝えていくのは、商品ではなく、営業担当者やエンジニアといった「人」です。「社員一人一人が広報パーソン」と言われますが、社員が会社を体現する存在になることが、会社の価値を上げていくことになるのです。

SNSで企業だけでなく個人も発信する時代になったことも、インナーコミュニケーションの重要性が増した一因でもありますね。このような中、会社が示した方針や方向性を社員に浸透させていくような情報発信の仕方を再考し、「デイリー」は次のステップに進みたいと思っています。

松下: 事実を伝えて終わりではなくて、自分のことととして考えてもらうための工夫は「マンスリー」でも同じです。記事の切り口、見出しも合わせ、どうすれば「自分ゴト」にしてもらえるのかを意識しています。

創業以来受け継がれてきた当社の精神「三箴(さんしん)」という言葉があります。「三箴」は「良く、速く、廉(やす)く」を指す、いわば当社のDNAで、昨年11月号の「マンスリー」で特集しました。歴代の公務監督4人の座談会で、それぞれが「三箴」を自分の言葉で語っていたのが印象に強く残っています。

こうした大林組の歴史に触れる特集は社員からの反響も大きいですね。大林組を知って好きになってもらい、自分にも大林組の“血”が流れていることを感じる、そうすることで大林ブランドを体現した社員として行動するきっかけにしてほしいと思います。

勝山: 社外広報誌である「季刊大林」の編集長もしていますが、社外広報誌の置かれている状況は社内報と同じで、存在そのものが問われています。紙でも電子媒体でも、社員に最もリーチする方法を取れば良いと思います。

どうすれば社員が、会社の方向性に沿って今すべきことをできるようになるかを第一に考え発信していきたいと考えています。

松下: 少しでも大林組のことを知って、一人でも多くの社員が自分の会社を好きになってほしいですね。その誇りを胸に個々人が活動する、そのための役立つツールでありたいと思っています。毎号毎号がチャレンジです。

<大林組> 創業:1892年(明治25年)1月
「紙、ネットともそれぞれ長所があります。会社の方針を説明する場合、画面をスクロールしながら見るよりも、情報が整理され色分けされた紙の方が読者の印象に残りやすいですよね。当社では紙・ウェブの両媒体が補完し合いながら、大林組の情報を伝えています」と勝山さんは話す。