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ケーススタディー: カルビー様 (2016年4月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
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   カルビー
   コーポレートコミュニケーション本部
   スナックスクールチーム主任
   太田江美氏

カルビーのフードコミュニケーション「カルビー・スナックスクール」
年間800校超す小学校への食育授業
スナック菓子への「誤解」を「理解」に
「多いかな」。『ポテトチップス』がのった秤を確認する子どもたち。出張授業「カルビー・スナックスクール」の様子だ。カルビーは、健康で楽しい食生活をおくるために必要な正しい食習慣を小学生に伝える活動を全国で展開している。活動の主体となるコーポレートコミュニケーション本部は、スナック菓子への「誤解」を「理解」に変えたいと東奔西走。始まりは「食育」という言葉もなかった2003年のことだった。
「スナックスクール」を始めたきっかけや理由から教えてください。

スナック菓子、炭酸飲料水、カップラーメンと聞いてどんなイメージを持ちますか。

スナック菓子の代表である『ポテトチップス』は、当社の看板商品の一つです。原料のジャガイモの品種や製法にこだわり、賞味期限の設定や品質劣化を防ぐために油の配合を工夫するなど品質管理には非常に気を使っています。にもかかわらず、「大人が子どもに勧めたくない食べ物」と悪者扱いされてしまいがちです。

きっかけは、従業員のお子さんが小学校から持ち帰ったプリントでした。「夏休みに食べてはいけないもの」としてカップラーメン、清涼飲料水とともに取りあげられていたのがスナック菓子でした。

従業員からは「私たちは体に悪いものを作ってないのに」という声が上がりました。そこで先生方にアンケートで聞いてみると、子どもたちがよく食べる食べ物で、大人が勧めたくないものとして取りあげたのだと言います。

さらに、「なぜ勧めたくないのか」理由も聞いた結果、最も多かったのが「何となく体に悪そう」という答えでした。お母さん方には夕飯を食べなくなることを懸念する声も多く、学校やご家庭では「スナックを食べない方がいい」という指導が行われていることが分かったのです。

ちょうどその頃、ある新聞記事に目が止まりました。当時、「食育」という言葉もない頃でしたが、学校という場で食の教育に取り組んでいる学校栄養士さんの活動が紹介されていました。すぐにこの栄養士さんに連絡を取り、相談しました。

すると「食べることを禁止するのではなく、正しい食べ方を教えることこそ大人の役割」とのご指摘があり、おやつの食べ方を切り口に、子どもたちの食習慣を見直すきっかけづくりとして、スナックスクールを立ち上げたのが2003年でした。

立ち上げを担ったのは広報部でした。プログラム内容はどのように作っていったのですか?

食に関する積極的な発信ということで広報部が担当することになりました。早速、小学校の栄養士さんからアドバイスを受けながら、プログラムの基礎を作りました。

1回のおやつとして食べる『ポテトチップス』の適量はどのくらいかご存知でしょうか。答えは35グラム、約200キロカロリーです。スタートした頃は適量の35グラムがどのくらいあるのか、実際に子どもたちに測ってもらっていました。しかし、あらかじめ答えを知っていてそれを確認するだけでは、普段おやつを食べ過ぎていたことに気づかないのではないかと思いました。

そこで答えを伏せたまま、1回のおやつとして食べている量を測り、自分や周りのみんながどれだけおやつを食べているのかを比べるゲーム形式に変えました。ここで講師が「適量は35グラム」と答えを示すと「えっ、これだけ」「食べ過ぎているね」と子どもたちから驚きの声が上がります。食育は子どもたちの「気づき」が最も大切だと思いました。

■「スナックスクール」は体験型プログラムが特徴です!

内容は子どもの集中力を考慮して15分単位のプログラムで構成。1つ目は1回のおやつとして食べる『ポテトチップス』の量を測って班で比べるゲーム。2つ目はアニメのキャラクターが登場して「楽しいおやつの食べ方」を学ぶDVD鑑賞。3つ目はパッケージ表示の見方を覚えるという内容だ。体験型であることや継続性が評価され、2012年度のキッズデザイン賞優秀賞を受賞した。
新しい試みでご苦労もあったようですね。

スナックスクールの第1回は、アドバイスを受けていた学校栄養士さんの勤める小学校で行いました。3校目まではその栄養士さんの紹介でしたが、まもなく壁にぶつかりました。4校目からは自分たちで進めたのですが、2003年当時、企業が出張授業するケースがほとんどなく、なかなか授業をさせてくれる学校が見つからなかったのです。広報課長も学校にアポ無しで「飛び込み営業」をしたり、アポ取りの電話営業もしましたが、企業の宣伝や商品の販売と勘違いされ、門前払いが続きました。

こうした状況を変えたのが05年に制定された食育基本法です。ちょうど、この前後にメディアにも取りあげられ、「食育の進め方がわからない」と全国の先生から少しずつ問い合わせが増えていきました。当初は本社のある都内近辺で行っていましたが、04年に当時の広報スタッフが全国を巡り、実施校は32校になりました。全国的にニーズがあることが分かったので、05年には活動を全国に広げました。

そんな中、満を持して全国紙に一面広告を出したのです。大きな反響を呼ぶと思いきや、申し込みがあまりなくて……。

それは意外です。スナックスクールの認知度をどのように上げていったのですか?

地道にやるしかないと、再び学校への紹介にアポ取りの電話や訪問を続けました。ようやく授業にこぎつけたら、「企業名を出すのはよくない」とパッケージの社名を黒くマジックで塗りつぶされたこともありました。

しかし、一度実施をすると学校間の口コミの力はすごいですね。授業を受けた先生から他校への紹介も多いですし、同じ学校や先生のリピーターが全体の半数ほどあります。地方紙で取りあげられることもあるので、記事をご覧になって興味を持っていただく学校もあります。実施校は12年度に678校に上り、13年度には700校を超えました。

現在はお申し込みが多く、お申し込みいただいたすべての学校を訪問できなくなってしまいました。そこで、出張授業でなくても、先生ご自身が授業を行えるような教材を作り、12年から提供し始めました。教材提供は毎年100校ほど行っています。

従業員が講師として手弁当で取り組まれていますが、メーカーと消費者が接することができる機会となっています。

当社は地域事業部制を採用しており、各エリアにスナックスクール専任の従業員を置き、従業員が出張授業の運営も講師も行っています。たまに他部署からサポート役が付くこともあります。普段、工場で製造する従業員が出張授業を機に、より品質を意識した商品づくりをするようになったという話も聞きますね。

また、宣伝部門の従業員が自分たちが制作したCMを流して、子どもたちの反応を見て感激したこともあったようです。スナックスクールはお客様との貴重な接点であり、授業は子どもたちだけでなく、講師役の従業員にとっても学びの多い楽しい時間になっています。

さらに取引先をお呼びして一緒に授業をすることもあります。鹿児島県ではジャガイモの生産農家の方を招き、子どもが直接ジャガイモについて学べる機会を設けたこともありました。このように通常の内容にプラスして行うこともあります。

小学生が自ら食との付き合い方が学ぶことができると好評で、2016年4月までに延べ6235校、児童40万人、保護者9万人が参加した

子どもたちの反響はいかがですか?

最近、こんなうれしいことがありました。企業の社会貢献について学びたいと本社を訪問した山口県の中学生が後日お礼状をくれました。そこには「小学生の時に受けたスナックスクールをきちんと覚えています。食を知る良い機会になりました」とあったのです。

スナックスクールを覚えていること、スナックスクールをきっかけに、カルビーという会社を好きになってもらったということがとてもうれしかったですね。その「好き」の気持ちが続くようにしていくことが私たちの仕事でもあります。

食品メーカーの社会貢献活動において「食育」は大きな位置付けとなっています。今後の展開と抱負をお願いします。

最近では、店頭や公共施設など学校以外の場所で行っている食育イベントを通じて、カルビーの安心・安全への取り組みやおやつの楽しさを体験してもらう機会も増えてきました。年間約100カ所で行っていますが、幼稚園から小学校低学年の小さなお子さまとお母様の親子での参加が多いです。

また、企画部署は異なりますが、11年から当社や関連会社の工場が集まる栃木県宇都宮市と首都圏の小学生を対象にお菓子コンテストを実施しています。夢のあるアイデアの中から優秀作品を実際に従業員がお菓子の開発をして応募者と食べるという取り組みです。縁が深い宇都宮地区への恩返しという意味があります。

スナック菓子への「誤解」を「理解」に変えていきたいと始めたスナックスクールは、今では“食を通じて社会に貢献する”というカルビーを象徴する取り組みそのものとなっています。教育ですから大事なことは長く続けていかなければいけません。学校以外での場所で行っている食育活動も活用し、様々な場面でお客様との接点を持ちながら、カルビーファンを増やしていきたいと思っています。

<カルビー株式会社> 設立:1949年4月30日
コーポレートコミュニケーション本部は広報・お客様相談室・食育など様々なステークホルダーとのコミュニケーション全般を担う。同本部は、女性の活躍が目立つ部署でもある。松本晃会長は「2020年までに女性管理職比率30%」「ダイバーシティ日本一」を掲げ、女性の活躍推進を経営戦略の一つに位置付ける。「最近では女性が活躍する企業として当社のダイバーシティ関連の取材も多くなっています」と太田さんは話す。