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ケーススタディー: 京浜急行電鉄様 (2016年3月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
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京浜急行電鉄
総務部広報課 主席
飯島学氏

「赤い電車」京急・広報のPR“鉄学”
鉄道フェスや電車折り紙でふれあい
「“心の相互乗り入れ”広げたい」
都心と横浜や三浦半島を結び、利用客や鉄道ファンから「赤い電車」と親しまれている京浜急行電鉄。毎年5月に行われる京急ファミリー鉄道フェスタのクイズ大会では、グループ職員やファン、ライバル私鉄の担当者も一緒になって盛り上がる。その様子を“心の相互乗り入れ”と言うのは広報課の飯島学さんだ。利用客・ファンと鉄道会社、さらには鉄道会社と鉄道会社をつなぐ。広報の役割は人と人をつなぐ「連結器」である。
銀色のステンレス車両に赤と白のラインが入った新1000形と比べ、3月にデビューした新1000形1800番台はより「赤い電車」に近いデザインになりました。

実はこの新1000形1800番台のPRは大変難しかったですね。新しい電車のデビューは企業としてもエポックな瞬間なので絶好のPRの機会になりますが、このケースは車両の機能の変更が中心で、お客様にとって大きくサービス向上につながるものではありません。リリースを出してPRすべきか、広報の中でも議論がありました。

リリースを出した理由は2つあります。行政センターのイベントなどで沿線のお客様に京急のイメージについてお聞きすると、京急の電車は「赤い電車」だとおっしゃる方が大変多く、新しい「赤い電車」をこちらから発信すべきだと考えたことが一つ。

さらに、デザインだけでなく、運転台の設計が大きく変更になり、車両部を中心に大きな労力と手間がかかっていることを社内取材であらためて知りました。リリースを出すことでその苦労に報いたいと思いました。

結果的に記念乗車券が即日完売となるなど大きな反響を呼ぶことができました。

■新1000形1800番台…従来の銀色のステンレス車両に赤と白のラインの入った新1000形と異なり、車体側面に「赤い電車」のイメージを踏襲すべく、幅広の赤・白色フィルムでデザインされた。
■歌う電車…「ファ〜ソラシ、ドレミファ〜」。発車時に車体の下から不思議な音階を奏でる。モーターを制御するインバーターの調整音だ。鉄道ファンから「ドレミファインバーター」「歌う電車」と親しまれている。車両の更新によりその数は減少し、数年後にはなくなる見込みだ。

「赤い電車」だけでなく、「歌う電車」も鉄道ファンに根強い人気があります。

当社から鉄道ファンに喜んでもらえるような仕掛けを次から次へ打ち出しているかといえば、そうではありません。当初は、いわゆる「ドレミファインバーター」も当社からはPRしていませんでした。音にまで愛着を持っていただけるファンの存在は本当にありがたいですね。

2月から3月にかけ、特別列車の運行が相次ぎ、多くのメディアに取りあげられました。

くまモンをデザインした「くまもと号」やバレンタイン特別列車である「KEIKYU LOVE TRAIN」も広報課のメンバーが多くの苦労を乗り越え、実現しました。

バレンタイン特別列車では、車両の担当者とハートの模様が入った座席シートの細部まで膝を突き合わせて話し合いました。車両担当も「お客様が楽しんでくださるのなら」と全力で応えてくれました。私たち広報はそういった現場に日々育てられているとあらためて感じました。

今年で17回目を迎える「京急ファミリー鉄道フェスタ」は2万人以上を動員する大型イベントです。利用客やファンとのふれあいの場になっています。

 
親子連れや鉄道ファンが大勢訪れた
昨年の京急ファミリー鉄道フェスタ

初開催は2000年にさかのぼります。私はイベント立ち上げの担当者でした。

2000形2扉車のファイナルイベントに合わせて久里浜工場を一般開放したのが始まりで、「ふれあい電車フェスタ」としてスタートしました。普段は、お客様にとって遠い存在である車両工場とそこで働く職員がふれあえる場をつくりたいという思いがありました。

その後、現場は初め戸惑ったと思いますが、半ば、強制的にお客様と“接続”する仕掛けを作りました。子どもたちに配る「お仕事カード」です。自分の仕事を紹介するカードで、子どもたちが職員に声を掛けるきっかけになるし、普段はお客さまに接する機会の少ない保線や電力といった職場でも、この日に限ってはお客様の方から来てくれます。職員の側もあらためてお客様の顔が見えるという効果があります。

イベントに参加して教わるのはいつも私たちなのではないかと思います。新入社員の研修を行う所長は「職員はこの日一日で、子どもたちや鉄道ファンから憧れの目で見られる存在であることに気づいてほしい」と言っています。

飯島さんは“京急博士”と呼ばれ、ファミリーフェスタのクイズ大会での司会も恒例です。イベントなどPRではどんな点に気を配っていますか?

会場には様々な専門的なモノが設置されています。それをクイズにすることで、見学や職員とふれあいの際のヒントにしていただければと考えました。

今、課題が一つあって、本来、焦点が当たるべきモノではなく、私個人がクローズアップされてしまうことがしばしばあります。私は鉄道会社の広報マンで会社をPRする仕事をしていますが、自分自身が表に出て、いわばキャラクター化していくのは本意ではありません。

広報課員はメディア対応、ポスター作成などそれぞれの役割に対して全力を尽くしています。私がたまたまイベントに出る機会が多いというだけなのです。正直、今でも人前でお話しすることに慣れません(笑)。社内にはPR上手も京急に詳しい人間もたくさんいます。これからは後進の活躍も期待したいですね。

鉄道会社が自社の鉄道をPRすることは当然ですが、鉄道ファンには鉄道会社の垣根はあまりなくて、そもそもみんな電車が好きということで共通しているのではないかと思います。ですからイベントでは、京急に限らず鉄道全般を幅広くお話しするようにしています。

ファミリーフェスタのクイズ大会で私鉄各社の皆さんにも参加していただいているのも、鉄道会社同士、鉄道会社とお客様の“心の相互直通”が必要だと感じているからです。色々な鉄道が好きな子どもたちに自社のことだけPRしようとすると、それは“片乗り入れ”であって十分な共感を得られないのではないでしょうか。自社にこだわらず、鉄道会社全体でPRしていくことが鉄道ファンの裾野を広げることになると信じています。

沿線外の方にも京急を知っていただき、それが交流人口の増加につながっていくことが理想です。

反射チョッキとヘルメット姿がトレードマークです。このスタイルには理由があるのですか?

私は入社して駅員や車掌をした後、本社に異動しました。鉄道の営業や売店の管理、安全対策担当を経て11年に広報課に配属されました。あのチョッキとヘルメットは安全対策担当の時にお世話になった上司のものでした。

私はそれまで駅務や車掌といった運輸畑の人間だったので、保線や電気など技術系に詳しくなく、私に手とり足とり教えてくださったのがその上司だったのです。上司は異動の際に、自分の使っていたヘルメットとチョッキを譲ってくれました。以来、イベントやメディアに出る時は着用するようにしています。ヘルメットとチョッキを着け「知ったかぶったりしてはいけない。知らないことは知らないと言ってしっかり調べよう」と自分を戒め、気を引き締めています。

私が京急に詳しいというのではなくて、私に詳しく教えてくれる人が多くいるのだと思いますね。私が敢えて人前に出ているのは、普段は表に出ない職員の思いを私を通じて表に出していく、様々な職員をつないでいくことが広報の使命だと思っているからです。

公式ページで公開している電車折り紙は、飯島さんがワードで作成した折り紙が、もとになっているとお聞きしました。

公式ページでも紹介する電車折り紙

イベントで大人気の電車折り紙。
左は子どもに折り方を教える飯島さん

朝日新聞の地方版にも大きく取りあげていただきました。これは私の個人的なライフワークでもあります。

私自身、子どもの頃から電車が大好きで、幼稚園児だった頃、鉄道模型を買ってもらえず、折り紙で電車を折っていました。広報に異動した時に、「自分が電車好きな原点とは何だろう」と思った時に頭に浮かんできたのが電車折り紙でした。今の大人の力で作ったらどんなものになるのだろうという好奇心もありました。

その折り紙を紹介するコーナーを社内報に連載しています。ペーパークラフトに加えてその車両にまつわる職場へのインタビューも合わせて掲載していますが、いろんな職場で、実際に折って飾っていただいています。記事の反響をこうした形で知ることができるのが何よりもうれしいですね。今では他の鉄道会社から依頼されることもあります。

誰でも使えて簡単に加工できるように、画像ソフトではなくて文書作成ソフトの「ワード」で作っているのがこだわりです。

最後に、広報としての展望や抱負についてお聞かせください。

鉄道会社の現場の仕事は粛々とその日その日に完結しなければならないものばかりです。家に持ち帰ることができないので、常に全力で取り組んでいます。こうした現場の姿勢に私は学んできました。

自社記事のクリッピングや資料作り、イベントでのPR…広報のどんな仕事に対しても常に全力で行うことが京急の、鉄道全体のPRにつながっていくのだと思っています。アイデアが形になり、人と人をつなぐことができるのは広報ならではの達成感ですね。

<京浜急行電鉄株式会社> 創立:明治31(1898)年2月25日
3月某日、飯島さんが向かった先はアイドルのライブ会場。京急の応援ソング「けーきゅーでいこう!−恋のロマンスシート」を歌ったGIRLS4EVER(中学生の4人組アイドルユニット)の楽屋を訪れたのは激励と感謝の思いからだ。「メンバーが4月から高校生になり、活動休止前のライブなので花束を渡しました。彼女たちの一生懸命さに京急も全力で応えていきたい」と話す。