ケーススタディー: いすゞ自動車様 (2015年12月号掲載)
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。
コミュニティーサイトやデザイン展
いすゞ自動車 広報部・三橋英ニ氏、保有事業推進部・関千恵子氏、保有事業推進部・野村圭美氏、デザインセンター・渡辺元生氏、デザインセンタ−・長谷川芳美氏、デザインセンター・前田靖之氏
(写真左から)
「HaKoBu」サイトの一部
野村: 2005年から3年半、トラックのドライバーさんに役立つ情報をA4用紙1枚にまとめ運送会社のお客様に月1回ファクス配信していました。思いがけず反応が多く、20−30件のコメントが返ってくるようになりました。
「もっとお客様と触れ合える場や話せる場があればいいな」と思うようになり、それが08年の「HaKoBu」立ち上げにつながりました。
関: 日常の業務で全国の販売会社の女性と接する機会が多いのですが、販社で働く女性の力をもっと活かしたいという思いもありました。女性が得意なおもてなしの心やセンスといったノウハウを共有していくための「場」をつくりたかったのです。各販売会社をつなぐインナーコミュニケーションツールとしても「HaKoBu」を活用しています。
「HaKoBu」の取材は基本的に私と野村の2人で行っています。全国の販社を取りあげている「全国いすゞ巡り」、女性ドライバーを紹介する「なでしこ★ドライバー」、お子様レポーターと一緒にトラックやバスの疑問を解決する「いすゞチルドレン」の3つが人気コンテンツとなっています。
野村: 公式サイトとの違いや「HaKoBu」の役割については常に問われていると感じています。いすゞの公式サイトがいすゞの「玄関」であるとしたら、「HaKoBu」は「リビング」のように、ゆっくり休んで滞在してもらえるような場所になればいいですね。
「HaKoBu」を立ち上げた理由の一つに「いすゞのことをもっと知ってほしい」という気持ちがあります。「HaKoBu」をどんなサイトにしていくか迷いもありました。
最初の企画として、いすゞ車ブログの主宰者やトラックファンの方にお集りいただき「マニア座談会」を開き、記事にしました。そこで、いすゞへの思いや社員も知らないいすゞのお話を伺い、「HaKoBu」は一方通行の発信でなく読者に寄り添っていこうと、サイトの方向性が決まりました。
関: 今でも座談会に参加してくださった方からいすゞ車を撮影した写真の入った「ラブレター」が事務局に届きます。たくさんの“いすゞ愛”をいただき、ファンの方と一緒になって「HaKoBu」を作っているのだなと実感します。
トラック・バスのファンの方も多いですが、特に撤退してしまった乗用車への熱い思いを投稿から感じることが多いですね。公式サイトでは乗用車の情報はあまり掲載できませんが、「HaKoBu」では乗用車のファンともコミュニケーションを取りながら、彼らの乗用車に対する愛情や思いを汲み取っていきたいとも思っています。
野村: 念願だった「なでしこドライバー座談会」を15年11月末にアップしました。名物企画の「なでしこ★ドライバー」の特別編になります。
4人の女性ドライバーさんにお仕事や理想のトラックなどをインタビューしました。女性ドライバーを多く採用されている運送会社さんのインタビューも既に行っています。女性が働きやすい環境づくりとともに、経営者の視点からも役立つような記事を出していく予定です。
渡辺: デザインセンターは藤沢工場の中にあります。職種はデザイナー、モデラー、CAD(コンピュータ支援設計)で3Dデータを作成するエンジニアの3つに大きく分かれます。
デザイナーだけでもプロダクト、カラー、インテリア、グラフィックとあります。様々なスキルを持つ総勢100人ほどの部員がチームで作業しています。
長谷川: かつては車のデザインは机に大きな紙を広げて手描きで行われていて、デザイナーがどんなことをしているのか、考え方まで周囲の人間にもよく見えていたのだそうです。現在ではパソコンの中で絵を描くようになり、周りから仕事が見えにくくなってしまいました。そういった中で出てきた問題の一つがコミュニケーション不足です。
それに加え、部員構成の問題も表面化してきました。40歳前後の中堅世代が少なく、組織が若手とベテランに二極化されてしまいました。そこでコミュニケーションの活性化や技術の伝承を目的に、若手を中心に09年から「ワーキンググループ(WG)」という課外活動を始めました。
前田: 日常業務での縦割りと違ってWGではデザイナーやモデラーなど大胆なシャッフルが行われ混合チームを結成し、お互いをライバル視しつつ切磋琢磨して行ってきました。
長谷川: 「ペダルカーWG」には、過去最多のメンバーが1チーム約10人の5チームに分かれ、1年半をかけて取り組みました。
「四輪で駆動方法は人力」「車両は全長2000mm×全幅900mm内に収まること」「安全性に配慮」というルールは設けながらも、それ以外は自由で、皆が筋肉痛になりながらボディなどを削りました。
車両製作だけでなく実際にレースを開催しました。観客席では歓声や拍手が飛び交い、その場にいる皆が一緒になって盛り上がりました。
「描く」「見る」「話す」という基礎的な技術を磨こうとスケッチ力の向上から始まり、11年の「ワクワクすることを考えるWG」では小型トラック『エルフ』をペーパークラフトでコマ撮りのアニメにしたチームもありました。
翌年の「感動・創造を考えるWG」では歴代の『エルフ』が描かれたクッキーを製作し、パッケージまですべて手作りで完成させました。この辺りから「もっと多くの人に見てもらいたい」という声がデザインセンター内でも上がり、これまでの成果を“作品”として社外の方に見ていただこうと「こころみ展」を企画しました。
渡辺: 来場者にアンケートを取ったところ厳しい声もありましたが、真剣にモノづくりに取り組む姿勢やデザインセンターの自由な空気感を評価してくださる感想もありました。手応えを感じています。
前田: ペダルカーを製作する際、自分たちで作業工程の進捗状況を管理していましたが、なかなか思い通りにはいきませんでした。車両のスペックを落として期間内に仕上げるのか、それとも期間を後ろにズラしてスペックを維持するのか悩みました。
結局後者を選択しましたが、チームの皆と相談しながら物事を決めていくという普段の業務でできないことをWGでは経験できました。
長谷川: 私は10年目になりますが、会社に入った時には既に乗用車から撤退していました。WGを通じて普段、触れる機会のない乗用車のエピソードやノウハウを先輩から聞くことができました。
次のステップとして、WGで得た経験を「カタチ」にしていくこと、商品にどう活かすのかが私たちの課題です。その課題に挑戦するためにも、デザインセンターからの発信は今後も続けていきたいと思っています。
15年ぶり全面改良『ERGA』
三橋: 15年8月18日に、本社でメディア向けの新車発表会を開きました。15年ぶりのフルモデルチェンジで、来場者数は一般紙や専門誌など20社約40人に上りました。
開発担当から商品コンセプトや特長などを説明し、本社のある大森ベルポートで実車のお披露目を行いました。
新型『エルガ』の路線バスは、ワンステップとノンステップをノンステップに統合する考えで開発しました。ノンステップ部分を拡大するためボディ構造が全面的に見直され、ノンステップ部分の長さや通路幅などを拡大し、広々とした室内空間を実現しています。
静的展示になりましたが、室内やエンジンに至るまで熱心に取材していただきました。
自動車メーカーにとって開発部門は機密性が高く「秘密基地」のような存在ですが、当社のデザインセンターは社外への発信にも力を入れています。また、「HaKoBu」はお客さまご自身がサイトの運営にも関わっていただけるような身近なファンサイトになっています。
いすゞはBtoB企業なので、一般のお客様にもいすゞを知っていただく活動が求められています。一例ですが、15年10月から公式サイトでパラパラ漫画でおなじみの鉄拳さんとのコラボレーション動画を配信しています。トラックドライバーへの応援賛歌になっており、大変好評です。
「『運ぶ』を支え、信頼されるパートナー」として、今後も積極的にいすゞを発信していきたいと思っています。