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ケーススタディー: マルコメ様 (2015年10月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
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マルコメ
マーケティング本部
広報部 部長
須田信広氏

160年続く老舗の挑戦、マルコメ広報「ここが“ミソ”」
マーケティング・PRは全方位で
「味噌汁は、あったかさつまっている」
創業は安政元(1854)年。160年以上にわたり味噌をつくり続けるマルコメは1982年、業界に先駆けてだし入り味噌を開発、09年には液状タイプの『液みそ』を大ヒットさせた。「新し物好き」の社風は商品開発にとどまらず、マーケティングやPRでも注目を浴びている。折しも和食が13年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録され、今や世界的なブームを巻き起こしているが、攻め続けるマルコメに「追い風」という認識はない。強い危機感こそが原動力だ。
和食がユネスコの無形文化遺産に登録され、世界で一大ブームを巻き起こしています。

和食ブームとは一体どこでのことでしょうか。農林水産省の発表によると、7月時点の海外での日本食レストラン数が前回調査した2年前よりも約1.6倍に増えました。しかし、人口減少の続く国内市場は先細りしていくことが明らかです。

無形文化遺産に登録されたのも日本の食文化が世界に認められたことを意味すると同時に、現在国内で進行している和食離れを食い止めたいという背景もあるのです。味噌の輸出量、輸出額はともに右肩上がりですが、生産量はここ40年で4割減っているのです。

数字だけではありません。小・中・高校で味噌の出前授業をする機会がありますが、「朝食でご飯と味噌汁を食べた人」と聞くと、わずかしか手が挙がりません。

食生活の欧米化が生活習慣病や肥満を招いているという専門家の指摘もあります。日本人に合った食事、低エネルギーで栄養バランスの取れた和食が、もっと見直されるべきだと考えています。

■“ぬくもり”伝えるアニメCM:
14年から『料亭の味シリーズ』で展開するアニメCM。「母と息子篇」「単身赴任篇」に続き15年2月から「夜食篇」=写真は一場面=を放映。「家族の絆を感じていただけるCMとなっています」と須田部長。

和食の基本は一汁三菜です。その「汁」を担っているのが味噌汁です。和食回帰をもっと促すような啓蒙活動、和食の登場頻度が増えていくような取り組みをしていきたいと思っています。

総務省の家計調査では、1年間の1人当たりの味噌購入量は約2キロで、これは1人が家で味噌汁を1週間に3杯しか飲まない計算になります。味噌の平均単価もキロ単価394円で、1年で味噌に使う金額はたったの794円です。味噌は現在、長期低落傾向にあるのです。

家族の健康を願う母の気持ちや家族の絆がぎゅっとつまっているのが味噌をはじめとする発酵食品です。

私たちは今、日本が古くから培ってきたあたたかさを未来へ引き継いでいくという使命感を持って、全方位でPRに取り組んでいます。アニメCMもその一つです。ただ、若者はなかなか振り向いてくれません。

その若者層に向け、積極的に異業種コラボレーションを仕掛けています。

開始1カ月で約3万人が利用した「マルコメ君風呂」

13年に「箱根小涌園 ユネッサン」さんとタイアップした「マルコメ君風呂」は開始わずか1カ月で3万人の方が利用されました。

ユネッサンさんはエンターテインメント性のある企画風呂で定評があり、当社としても味噌汁に触れる機会が増えればと考え、タイアップにつながりました。味噌汁の香りのする湯につかりながら、味噌汁の具の気持ちになってもらいました(笑)。

「やっぱり味噌汁だね」「味噌っていいな」というところに着地するならパッと乗っかるのが異業種コラボのコツかもしれません。

謎のロックバンド「味噌汁's」とのコラボが14年に実現し、話題になりました。

「これまでにない新しい味噌汁」開発プロジェクト第1弾の「味噌汁's」とのコラボ

「これまでにない新しい味噌汁」開発プロジェクト第1弾として、当社社長も共同開発宣言を発表しました。14年9月に行われた野外ライブにブースを出展し、集まったファンに即席味噌汁の味噌の味を決めてもらおうと、3種類の味噌汁を飲んでいただき投票を行いました。

話が前後しますが、5月の「味噌汁's」のデビューアルバムの発売を記念し、タワーレコード渋谷店さんで午前10時から「味噌汁先行試飲会」を開き、味噌汁を無料で振る舞いました。

その日の夜にはZepp Tokyoで「第1回全国お味噌の会」というイベントを行い、ワンドリンクならぬ「ワン味噌汁」をお出ししました。約1000人の来場者に対しおよそ800杯の味噌汁が出ました。10、20代の若者がおいしそうに味噌汁を飲んでいましたね。

プロジェクト第2弾のアソビシステムとのコラボで、「KAWAIIみそ大使」に任命された、モデルで歌手の三戸なつめさん

第2弾は日本のポップカルチャーを発信されているアソビシステムさんと組み、「MISO KAWAII」をテーマに新キャラクター「マルコメちゃん」を誕生させました。アソビシステムさんのワールドツアー「MOSHI MOSHI NIPPON FESTIVAL 2015」にも参画してきました。

こうした若者向けの取り組みはとかく脚光を浴びますが、私たちのスタンスはあくまでも長い歴史と伝統をもつ和食のよさを再認識していただき、味噌汁のよさを知ってもらうきっかけにしてもらいたいということです。

プロモーションやPRだけでなく、業界に先駆けて、だし入り味噌や液状タイプのだし入り味噌を発売するなど、チャレンジする社風が根付いています。

『料亭の味(だし入り)』

『料亭の味(だし入り)』をはじめ、当社が先駆けというものは商品だけではありません。一般の方の目には触れませんが大きな革新を行ってきました。

元々、味噌は木樽で出荷し樽を回収していました。その樽を洗って修理して再利用するには大変な手間がかかっていました。それを当社が初めて段ボールにビニールを敷いて味噌を詰めて出荷したところ、流通さんから手間が省けると好評で、この方式が業界内に広まりました。

また、小袋詰め(ピロー包装)の自動充填する機械の開発も当社が初めてです。当時はベタベタしたペースト状のものを充填する技術がなく、2社の技術を合体させて完成させたと聞きます。

こうした業界を主導する革新や新ジャンルの商品が受け、順調に業績を伸ばしてきました。それが2000年頃から踊り場に入ってしまいます。

踊り場をどう脱却したのでしょうか?

『液みそ 料亭の味』

これまでの作り手本位のプロダクトアウト型から買い手本位のマーケットイン型へと転換するため、08年秋にマーケティングチームを新設しました。

商品開発や販売面で踊り場の状態にあったので組織改編でテコ入れを図りました。『液みそ』は翌09年の発売です。『液みそ』の大ヒットによって踊り場を脱することができ、当社にとってもエポック・メイキングな商品となりました。

『液みそ』の開発のきっかけは、通信販売で味噌を液状化して売ったところ通常の商品と比べて10倍も売れたことに始まります。液状化した味噌に需要があることが分かり早速、市販化を検討しました。

消費者調査を行ったところ、通常の味噌は@溶けにくい、扱いにくいA容器にベタベタと付着するB最後まで使い切りにくい――といった不満があることも分かりました。これらを一挙に解消すべく開発したのが『液みそ』だったのです。

『椀ショット 極』

さらにもう一歩踏み込んで、味噌汁を飲む環境まで提案しようと開発したのが、11年発売のみそ汁サーバー『椀ショット』です。これは『液みそ』を取り付け、ワンプッシュでみそ汁1杯分の味噌が出せる機械です。誰でも簡単に味噌汁をつくることができる機械とオフィスや飲食店などでも手軽に味噌汁が飲める機会という“2つのキカイ”をご提供できるようになりました。

『液みそ』のヒットに隠れる形になってしまいますが、同じく09年に発売した『料亭の味 減塩』の存在も大きかったですね。主力商品の減塩版『料亭の味 減塩』は、年間10億円を超える商材となりました。その後に来るのが12年に発売した『プラスこうじ糀シリーズ』です。

『プラス糀シリーズ』もヒットしました。

『プラス糀 糀ジャム』

味噌の原料は大豆と塩、米からつくられる糀です。味噌づくりに欠かせない糀を有効活用したのが『プラス糀シリーズ』です。

当時は塩糀ブームでしたが、当社は塩糀ではなく、糀の持つ甘さに着目して『糀ジャム』からスタートした点がユニークだったと思います。

基礎調味料を発酵食品に置き換える「新・さしすせそ」の「さ」に当たる『糀ジャム』から始まって『生塩糀』『糀の酢』『生しょうゆ糀』『生糀みそ』と、商品アイテムが広がっていきました。こうしたバラエティー豊かな商品群は販促面でも大きな力になりました。店頭で『プラス糀シリーズ』の棚ができ、お客様により目につきやすくなりました。

『プラス糀 米糀からつくった甘酒』

14年2月には『プラス糀シリーズ』から『米糀からつくった甘酒』を出しました。飲む点滴と言われるくらい栄養が豊富で、江戸時代には栄養補給として主に夏に飲まれていました。「昔から伝わる食文化を見直してもっと生活に取り入れていきませんか」とPRにも力を入れました。

14年には「発酵の日」の8月5日(15年は8月2日)に西武ドームで行われた西武ライオンズの主催ゲームをスペシャルデーとして協賛し、特設ブースを設け『甘酒』を販売しました。

そのほかにも観戦チケットのプレゼントに加え、選手への『甘酒』贈呈式などに参加できる感動体験が当たるキャンペーンも行いました。

都心や各地で出来たての味噌汁を振る舞うキッチンカー「マルコメ号」もPRに一役買っていますね。

12年にキッチンカーをつくったのも『液みそ』がきっかけです。『液みそ』をお湯で溶かさずそのまま使ってしまうといった具合に、新しい商品はどう使ったらいいのか分かりにくいのだそうです。試食して初めて使ってみようという気になるという声を聞きます。

キッチンカーを通じて多くの方に効率よく商品の使い方を知ってもらえるので、全国各地のイベントに出動しています。

最後に、発酵食品の魅力発信に向けての意気込みを。

明治政府がドイツから招いたベルツ博士がご飯と味噌汁などの粗食で走り回る人力車の車夫を見て驚嘆したそうです。日本人の体をつくってきた一汁三菜の食生活に返り、健康的で元気になっていただきたい。

「味噌汁's」や「マルコメちゃん」にスポットライトが当たりがちですが、健康的でおいしいモノをつくり、それを広めるための広報・PRでなければならないと思っています。当社はあくまでも味噌などをつくり続けるメーカーなのですから。

<マルコメ株式会社> 創業:1854(安政元)年
マーケティングの前に開発現場を8年、通信販売の立ち上げを3年間経験したという須田部長。「文学部の出身ですが、開発を経験できたことが私の財産となっています。商品がどのように作られるのか、商品の背景や裏側を知っているからこそ、自信を持って“モノ語り”に徹することができるのかもしれませんね」