ケーススタディー: ヤマト運輸様 (2015年6月号掲載)
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ヤマト運輸
広報戦略部 広報戦略課長
藤岡昌樹氏
広報戦略部を新設し積極的に発信
これまで広報業務はCSR推進部広報課として行ってきましたが、4月の組織改正で広報戦略部を新設して、部内に広報戦略課を置きました。広報戦略課は広報と営業部門にあった宣伝部門を一元的に担う組織として立ち上げました。
ヤマト運輸の宅急便は2016年で40周年を迎えます。さらに2019年には創業100周年、その翌年の2020年には東京オリンピックと大きな節目やビッグイベントが立て続けにあります。こうした中で、ヤマト運輸ならではのサービスを今以上にしっかりとお伝えすることが求められていると感じています。
サービスの品質はもちろんですが、実際に荷物を運ぶセールスドライバーの質の高さは私たちが自慢とするところです。われわれのサービスを使っていただくことで、ヤマト運輸の企業価値やブランドの向上につなげていきたい、そのためにも広報と宣伝が密接に連携していきたいと考えています。
新サービスをPRする巨大なクロネコ広告を東急東横線・渋谷駅に3月30日から4月6日まで掲出した
宅急便のサイズを久しぶりに拡充したということもあり、今までにないテイストのPRを目指しました。
『宅急便コンパクト』『ネコポス』の主なターゲットは若年層と想定しており、その若年層に新サービスを知ってもらう必要がありました。
SNSやウェブを通じ拡散されることを狙っての遊び心のある企画でした。
このタイミングでの発表になったのは、昨今のスマートフォンの普及でネット通販などの拡大が進み、通販事業者をはじめとする法人のお客様が「小さな荷物」を送られるケースが増えてきたという状況があります。
お客様からも、よりリーズナブルに運んでほしいというニーズも高まっていました。これまでの宅急便の最小サイズである60サイズより小さなサイズを作った方がいいのでないかと社内でも議論を重ねてきました。
運用に当たってはヤマト運輸のセールスドライバーがしっかりとお届けするという品質を担保することも合わせて、ここ数年社内で新サービスを検討し、3月の発表会にこぎ着けたわけです。
お客様のポストに入らない場合、セールスドライバーは荷物を持ち帰り再配達となると、お待ちになっているお客様にもご迷惑をおかけしてしまいます。ポストに入る厚さについて社内では多くの種類のポストを集め、検証を繰り返しました。
確実にポストに荷物を投函できるサイズを模索し、その結果出てきたのが厚さ2.5センチという数字でした。小さな荷物をもっと手軽に少しでも早くお客様に送りたいという送り主様のニーズと、ポストに投函してくれれば帰りが遅くても受け取れるといった受取人様の声にも応えることができるサービスとなっています。
さらに、お届けしたら投函完了をメールで受取人様へお知らせする機能も付いています。これまで宅急便といえば対面サービスで行ってきました。投函して終わりではなく、投函情報をメールで通知することで、宅急便と変わらない品質でご家庭のポストにお届けしています。
1月22日、国交省の会見室で『クロネコメール便』を3月31日の受付分をもって廃止させていただくことを発表しました。3月3日に同所で新サービスを発表しましたが、1月にお越しいただいたメディアの方やそれ以外の媒体にもお声掛けしました。
「ヤマト運輸は次にどんなサービスを出すのだろう」と期待感をお持ちになっていたのではないかと思います。
羽田クロノゲート:24時間365日体制で
最新の仕分け機も稼働
ヤマトグループはイノベーションを繰り返して成長した企業で、創業以来「3つのイノベーション」を経て現在に至ります。
第1のイノベーションは、1929年に複数の荷物を積み合わせて定期・定区間運行する「路線便事業」を日本で初めて開始した時です。第2のイノベーションは1976年に「宅急便事業」を開始した時になります。さらに第3のイノベーションとして取り組んでいるのが、2013年に発表した「バリュー・ネットワーキング」構想です。
社内でも創業100周年の2019年に向け一丸となって大きな改革を成し遂げようと情報発信しました。その象徴的な存在が羽田クロノゲートです。「バリュー・ネットワーキング」構想は、輸送の多頻度化や24時間365日止めない物流といったネットワークの改革です。
eコマースの伸び、少子高齢化による労働力人口の減少などのいろいろな背景がある中で、物流を「単なるコストではなく、バリュー(付加価値)を生み出す手段」に進化させ、企業の国際競争力向上に寄与することを目指しています。
具体例を一つ挙げましょう。東京―大阪の宅急便では翌日午前中から荷物のお届けが可能ですが、荷物を朝出していただいても夕方であっても、一度ベース(物流ターミナル)で荷物をストックします。だいたい午後9−10時に大阪向けに大型トラックが東京を出て、朝方に大阪の物流ターミナルに着き、それから最寄りの営業所に行って午前中にお届けする、というダイヤ設定をしています。
夜の東名高速などの大動脈ではたくさんのトラックを見かけますよね。この仕組みを変えたいのです。いわば荷物をためて送る「ダム方式」から、その都度送る「五月雨方式」へと変えようという考え方です。そうすることでトラックも夜間に集中せず分散し、作業の平準化にもつながります。
「バリュー・ネットワーキング」構想における3つのキーワードとして挙げるのが「スピード」「品質」「コスト」です。
これまでの物流ではこれらの3つの足し算でしたが、これからは掛け算で評価される時代だと言われています。どの要素も欠けてはならず、荷物をお届けするだけでなく何かひと手間掛け、新しい価値を生み出さないといけないと考えています。
ヤマトグループはシステム開発、決済サービス、家電修理といったさまざまな機能を有しています。お客様に総合的にご提案できる時期を迎え、「バリュー・ネットワーキング」構想に結実しました。
見学コースを設け、ヤマトグループの社員がアテンダントとしてお客様をお迎えしています。アテンダントは入社4、5年くらいの若手女性社員が中心です。
お客様に育てていただいた感謝の気持ちをお伝えする施設としてこれからも多くの方々にご見学いただけるよう、ヤマトホールディングスの広報とともにアイデアを集めていきたいと思っています。
オペレーションは銀座(本社)で考えられたことというよりも現場の取り組みによって広がるということが多いですね。
都市圏での「チーム集配」もその一つです。以前はセールスドライバー1人で朝、荷物を積み込んで自分の担当区域を午後1−2時までに配達していました。いらっしゃらないお客様にはご不在連絡票を入れて、再配達のご連絡をもらって再びお届けするというパターンでした。
「一度で荷物をお届けできる精度をどう高めるのか」という現場の問題意識から生まれたのが「チーム集配」です。お客様は何時まで在宅しているのかという調査からスタートしました。すると「朝10時くらいまではお家にいらっしゃるようだ」との結果が出てきました。在宅率の高い午前10時までに配達するためには、従来のセールスドライバー1人ではなくドライバーを含む数人がチームを組むことによって、午前10時までの配達率を高めようとする試みです。
ヤマトの信念でもある「サービスが先、利益が後」を体現したものでもあります。
「歩くまち・京都」グッドデザインをラッピングした軽商用電気自動車(左)と集配用コンテナ
まず一つは、先ほどの「チーム集配」もその一例ですが、現場の取り組みをさらに吸い上げ、社内外に情報発信していきたいと思っています。また、今後も新商品・新サービスを予定しています。『宅急便コンパクト』『ネコポス』のようにターゲットを絞り、戦略的に宣伝をしていかなければなりません。
また、ここ数年、ヤマトグループでは自治体などと連携して地域活性化を支援する「プロジェクトG」を展開しています。地域と一緒になって高齢者の見守りや買い物支援などを行っています。本業を通じて社会に貢献する、新しい形の社会貢献活動「CSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)」を進めています。
現在、本社が一元的に情報発信していますが、ローカル情報は本社を通さなくても地域ごとに積極的に発信していければいいのではないかとも思います。それぞれのニュースに合った情報発信の仕方を大事にしていきたいですね。
私たちはお客様に育てていただいており、社会的インフラとして、激変する社会環境やお客様のニーズにしっかりと応えていきたいと強く考えています。