早朝新聞クリッピング 広報効果測定・報道分析

(社)日本パブリックリレーションズ協会加盟

株式会社デスクワン お問い合わせ

ケーススタディー: VAIO株式会社様 (2015年5月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

VAIO株式会社
マーケティング・セールス&コミュニケーション部 広報担当
朝倉美和氏

ソニーから独立、新生VAIO初の独自開発製品『VAIO Z』
「ファンやパートナーとともに
PCの“本質”を突き詰めたい」
開発コード「Shenron」は人気漫画、ドラゴンボールに登場する神龍(シェンロン)から取った。ソニーから独立したVAIOが初めて新規設計した記念すべきモデルとなったのが『VAIO Z』だ。コード名は通常、社外秘だがファンが集う「VAIO meeting 2015」で披露された。VAIO売却の報に最も衝撃を受けたのはVAIOに携わってきたメンバーだった。240人で荒波に漕ぎ出した新生VAIO。揺るぎない羅針盤を手に、よみがえらせたいものはVAIOブランドの輝きだと言う。
初めに朝倉さんとVAIOの関わりについて教えてください。

現在、VAIO株式会社のプロダクト広報とコーポレート広報の両方を担当していますが、これまではプロダクト広報一筋でした。VAIOには1999年から関わっています。それ以前は学校関係にシステムを販売する事業部にいました。

『VAIO PCG−C1』(『C1』)をある展示会で見たのがきっかけで、VAIOのプロモーションという仕事に関心を持ったのです。『C1』は横長でモーション・アイというカメラを内蔵した画期的なモデルでした。

VAIOの魅力を直球でお伝えし、メディアの方に気に入ってもらった上で記事化されるのが私の描くプロモーションです。そうすればお金をかけなくてもできるのではないかと思いました。

VAIOパブリシティー部門の部長に「やらせてほしい」と直訴したのが99年でした。VAIOとの付き合いも長くなりました。今では「わが子」のような存在ですね。

『VAIO Z』の評判が高いですね。液晶を開いた時の反応の速さに驚きました。

「モンスターPC」としての実力と機能美を兼ね備えた
『VAIO Z』

独自技術の「InstantGo」テクノロジーを採用しており、スタンバイからの復帰も約0.3秒で行うことができます。バッテリーの持ちも非常によく、JEITA2.0測定条件で15時間駆動します。

『VAIO Z』が目指すのは、PCでしかできないことを突き詰めていく「究極の道具」です。薄くて軽量であるにもかかわらず、例えば『VAIO Z』はしっかりUSBコネクターを2個用意しています。それはPCとして十分な機能を持った上で薄くて軽く、見た目も格好いいものでなければいけないと思っているからです。

PCを1日中使用するビジネスパーソンにもクリエイターの方にも満足いただけると自負しています。『VAIO Z』は生産力や創造力を引き出すものでなければいけないと考えています。

広報活動はどのように展開されたのですか?

『VAIO Z』発表会。中央が関取高行社長

2015年2月16日に発表会を行いました。発表前には社長や開発者インタビューをたくさん受けました。工場見学のご依頼も続いています。

『VAIO Z』はVAIO株式会社として初めて設計して発売した商品になります。2014年7月1日の会社設立説明会で、「本質+α」という会社としての方向性を社長の関取からお話しさせていただきました。その時には商品の発表はなかったため、「本質+α」というものが今ひとつ分かりにくかったかもしれません。

2月の発表会では『VAIO Z』が「本質+α」を具現化している商品であり、同時にソニーから離れたVAIO株式会社がどこに向かおうとしているのかを明確に示すことができたと思います。発表会前後は取材が集中し、東京と長野の本社を何度も往復して多忙を極めましたが、自分を奮い立たせて乗り切りました。

広報活動においてソニー時代と比べて、何か違いなどありますか?

ソニー時代には春、夏、秋モデルと商品が続き「今回出し切れなくても次にフォローすればいい」と考えてしまうところも正直あったかと思います。

VAIO株式会社となって人数も4分の1に減り、頻繁にしかも大量に商品を出せませんので、一度のチャンスを全力投球で、フルスイングで全社員が取り組みました。

発表会という場はVAIO株式会社の存在をアピールする場でもありましたので、発表会にお越しいただけるよう精力的にお声掛けもしました。来場者数は200人超に及び、これまでにない多くのメディアの方にお越しいただきました。

発表会では「個客視点」「共創」「安曇野フィニッシュ」といった多くの印象的な言葉が聞かれました。

商品企画から設計、製造、そして品質管理までのすべてを長野の安曇野工場で行う「made in azumino japan」や、従来のようにメーカーが一方的に企画した商品を提供するのではなく、ユーザーと一体になった商品開発を重視しているという意味での「個客視点」、ベンダー会社さんや部品メーカーさんと一緒にモノづくりをしていく「共創」というコンセプトを打ち出しました。

「本質+α」を体現するものとして、商品からVAIO株式会社のあり方、社員の行動規範に至るまで、「選択と集中」で本質を突き詰めていこうという宣言でもありました。

広報として大事にしていることは?

商品の魅力を伝える材料は、出し惜しみせず出し切って、それをメディアの方に選んでいただければいいと私は考えています。商品広報で他社比較をする手法がありますが、何を基準に比べるのかが難しく、メディアに予断を与えかねません。

メディアの側で商品を比較するのは結構ですが、私は常に自社製品の魅力だけをPRするようにしています。メディアによって情報提供の仕方を変えることはしません。一律に同じ情報をお伝えし、その後で興味を持っていただいた記者の方には追加情報を提供するという形をとっています。情報を取捨選択するのはあくまでもメディア側だと考えます。

商品発表会の直後に「VAIO meeting 2015」でファンに新商品のお披露目をしました。その意図はどんなところにあったのでしょうか?

「VAIO meeting 2015」ではコード名も明かされた

これまでファンミーティングを行っていませんでしたが、VAIOを好きでいてくださる方にVAIO株式会社が元気で頑張っているということをお知らせしたいと思いました。

盛り上がったのは『VAIO Z』の徹底分解ショーでした。VAIOファンは分解好きなんですね。ITライターの笠原一輝さんにも加わっていただき、設計担当者自身が内部パーツと数々のこだわりを解説しました。ファンの熱い視線に期待をビシビシと感じることができたファンミーティングになりました。

話が前後しますが、新会社設立の新聞広告「自由だ。変えよう。」は大きなインパクトを与えました。

あの新聞広告には2つのメッセージがありました。一つはVAIO株式会社の外に向けての決意表明で、もう一つは社内に向けて「一緒に頑張ろう」というメッセージでした。

VAIO事業の売却直後、社内はどんよりと厚い雲に覆われたみたいになり、誰もが先行きを見通せず元気がありませんでした。あのメッセージによって「やるしかない」と前向きになっていきましたね。社内へのメッセージとして大きな意味を持っていたのではなかったかと思います。

設立説明会で配ったプレスキットも話題になりました。『VAIO Pro』をかたどった名刺入れには、『VAIO NOTE 505』(97年発売)など代表的モデルの画像と開発者の思いを綴ったカードが11枚入っていました。

会社設立説明会で配布した名刺大のカード。VAIOの過去モデルを散りばめつつ、今後の方向性を示すものにしたかった」と朝倉さん

最初はリリースという形にしたいと考えていました。一般紙・テレビの記者の方は直近のVAIO製品はご存知でもVAIO20年の歴史を知らない方も多いのではないかと思い、過去の代表的なモデルを振り返りながら、最後のカードで本日VAIO株式会社が発足したことを刻み、VAIOの未来を展望したかったのです。

2014年2月、ソニーがPC事業の売却を発表し、その後、新会社でVAIO事業が再スタートしたわけですが、この間どんなことを感じましたか?

VAIO事業が売却されたということに落ち込み、下を向いていたメンバーも多くいました。とはいえ、VAIO株式会社が発足し、それこそ「自由だ。変えよう。」という言葉に自分を奮い立たせ、元気を取り戻していったように思います。

ソニー時代は大きな船でそれぞれ漕ぐ人、舵を取る人がいましたが、VAIO株式会社では全員がオールを持ち必死に漕いでいる感じです。

2015年3月に量販店で購入して持ち帰れる「個人向け標準仕様モデル」も発表され、ソニーストアやソニーショップ以外でも実機に触れる機会が増えてきました。最後に今後の展望などを教えてください。

VAIO株式会社になり販路も自分たちの見える範囲で展開したいという思いがありました。当初、ソニーストアさんやソニーショップさんといったダイレクト販売に絞ったのはこうした理由からです。

3月から量販店さんにも販売チャネルを拡大しました。今後も適正な価格と台数を維持しながら、お客様とVAIOの接点を増やしていきたいと思っています。

VAIO株式会社も商品もまだまだ認知されているとは言えません。応援してくださるファンやメディアの方を大事にしながら引き続きアピールしていきたいと思います。

VAIO株式会社は荒波にもまれながら船出したばかりです。会社としての取り組みのひとつひとつをしっかりとお伝えし、VAIOファンになっていただけるような広報でありたいと思っています。

ついついVAIOを応援したいという気持ちが前に出てしまい、商品説明も長くなってしまいがちですが(笑)。私自身、つくづくVAIOファンなのだと思いますね。

<VAIO株式会社> 設立:2014年7月1日
開発段階でプロトタイプを公開し話題となった『VAIO Z Canvas』。「外に持ち出して創作活動ができるようにとクリエイターさんとつくり込んでいきました。ソニー時代ではありえなかった手法です。クリエイターさんからのヒアリングを通じ、画面でのショートカット操作など細かいチューニングが可能となりました」と朝倉さん。