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ケーススタディー: ユーグレナ様 (2015年2月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

      株式会社ユーグレナ
      経営戦略部 広報IR課 課長
      安間美央氏

日本ベンチャー大賞受賞、ユーグレナ社の広報・PR
「食品」「化粧品」「燃料」ビジネス活況
企業理念、社内で今一度共有目指す
オフィスの受付には緑色の液体の入ったフラスコがあり、会議室に入ると「バイオテクノロジーで、昨日の不可能を今日可能にする」という文字が目に入る。世界で初めてミドリムシ(学名:ユーグレナ)の屋外大量培養に成功したベンチャー企業、ユーグレナ社。食品や化粧品を次々と事業化、バイオ燃料の実用化へ共同研究も進む。今、広報が目を向けるのは社内だ。「全社員が企業理念の“伝道者”として自ら行動できるような仕組みをつくっている最中です」。会社をデザインすることも広報の仕事である。
日本ベンチャー大賞の内閣総理大臣賞受賞おめでとうございます。表彰式では安倍晋三首相が「変革の担い手は起業家」と強調されました。

技術系ベンチャーとして、これまでコツコツ積み上げてきたことを評価していただき大変光栄です。引き続きバイオテクノロジーを通じて社会貢献ができるよう研鑽を積んでいきたいと思います。

■株式会社ユーグレナ

2005年5月、出雲充氏が東大の友人ら3人で創業。同年12月に世界で初めてミドリムシ=写真=の大量培養に成功。2012年12月、東証マザーズに上場。2014年12月、東証マザーズから東証第一部に市場変更。東大発ベンチャーで東証一部銘柄となるのは同社が初となる。
「世界の食料問題を解決したい」という出雲充社長の想いから始まりました。

エイジングケアシリーズ『B.C.A.D.』

社長の出雲が学生時代にバングラデシュを訪れた際に目にしたのは貧しさからくる栄養問題でした。出雲は「炭水化物は足りているが、栄養は足りていないのではないか」と考え、栄養素が高く効果的な食材を探していたところ出会ったのがミドリムシだったのです。

それから挑戦に挑戦を重ねて2005年にミドリムシの大量培養に成功して今に至っています。ミドリムシは食品だけでなくバイオ燃料の原料としても注目され、バイオジェット燃料やバイオディーゼル燃料の開発・研究を進めています。

また、ミドリムシから抽出されたエキスにアンチエイジング効果があることも判明し、2014年からは自社化粧品も展開しています。

受付に緑色の液体の入ったフラスコがありました。中に入っているのはミドリムシですか?

ミドリムシです。エントランスを入ると「ミドリムシの会社」だと一目で分かるように設置しています。

ミドリムシは大きさ0.05ミリほどの藻の仲間です。植物のように光合成し、動物のように細胞を変形させて動くことができ、植物と動物の両方の性質を持っているのでビタミン、ミネラル、アミノ酸など栄養素が59種類も含まれています。人間に必要な栄養素をほぼ含んでいると言われているんですよ。

ユーグレナ入りの飲料を飲んだことがありますが、とても飲みやすいのに驚きました。

左:野菜ジュース感覚の『飲むユーグレナ』
右:人気の『ユーグレナ・ファームの緑汁』

抹茶に似た粉ですが、初め抹茶で後は昆布のような深い味わいがあるのが特徴です。

当社の商品に粉末タイプのドリンク『ユーグレナ・ファームの緑汁』があります。『緑汁』は料理に混ぜてもおいしいですよ。

2014年くらいからはヨーグルトやドリンクがスーパーやコンビニでも販売されるようになり、多くの方の目に止まるようになりました。皆様から「最近よく見るようになりましたね」とお声を掛けていただくようになりました。

「ムシ」という言葉には負のイメージもあったかと思います。どんな広報活動を展開されたのでしょうか?

ミドリムシという名前はキャッチーなので、「ミドリムシって何?」という興味をもっていただくきっかけにはなりますね。青虫といったムシの一種と勘違いされる方も多いですが、しっかり説明すれば必ずわかっていただけます。

「ミドリムシは藻類です」とお伝えしながら、「59種類もの栄養素があるんです」いうことと、「実はバイオ燃料として研究も進んでいます」と別の話題も合わせてご提供するようにしました。いろんな事業を手掛けている「ミドリムシ株式会社」の会社説明をしているというイメージでしょうか。

ただ、食べてみようかというところまでは、手に入れる場所も少なかったこともあり、多少時間がかかるかもしれません。未知な食材ということはそれだけ大きな可能性を秘めているということでもあるので、丁寧に説明し、コツコツと理解を広げていくしかありません。今はミドリムシ入り食品を食べた方が「おいしいよ」とおっしゃってくださり始めていると、手応えを感じているところです。

食品に限ったことではなく燃料開発についても言えることですが、一過性のブームにはしたくありません。じわじわ私たちの生活でも日常化していって、ミドリムシがもっと身近な存在になっていければいいと思っています。

2011年に『みどりラーメン』が話題になりました。この頃からメディアへの露出が増えてきましたね。

ラーメンは多くの方に馴染みのある食べ物で、しかもメディアの目を引きます。

『みどりラーメン』は本郷の東大前にある「山手らーめん 安庵(本郷店)」さんとのコラボレーションで、東大生が通うラーメン店と東大発ベンチャーがタッグを組んだと話題になりました。店長さんが東大出身であったこともあり当社への理解があったこともやりやすかったですね。

お店では赤色の『トマトラーメン』、背脂がのる『ゆきラーメン』があって、次は「どんな色のラーメンか」と商品開発を進めていた矢先だったともお聞きしました。『みどりラーメン』はヘルシーで美容にもいいというストーリーが受け、女子学生から地域のお年寄りまで今も多くの方にご好評をいただいています。

ミドリムシは食品から燃料まで事業範囲が広いですが、受け入れてくださる方の間口も本当に広いと感じます。広報の仕事はミドリムシのさまざまな可能性をお伝えすることだとあらためて思いました。

2011年に広報を設け、安間さんが広報専属になりました。まず取り組んだことは何ですか?

ホームページやリリースを作成しながら、取材対応のルール作りといった社内の広報体制、仕組みづくりから始めました。

また、当社で広報活動をスタートさせた頃、ミドリムシとはどんな生物なのかという簡単な資料を作りました。今でもこの資料を使ってミドリムシについてご説明することもあります。

最近ではメディアの方もこうした基本情報について調べてきてくださっていて、今はどんな商品があるのか、研究の成果や開発の進捗具合はどうかなど、ご質問の内容も変化してきました。それぞれの記者の知りたい内容に合わせて臨機応変にお伝えしていくように変わってきました。

メディア掲載数が増えてくる中で、社会の期待値も高まってきました。ベンチャー広報として、やりがいをどんなところに感じますか?

創業のストーリーや「人と地球を健康にする」という経営理念はこれまでと同様に大切にしながら、さまざまなビジネスを通して社会に貢献していくという姿勢が伝わるにはどうしたらいいのかを考えて取り組んでいます。

当社では食品とバイオ燃料が現在のビジネスの2本柱ですが、燃料分野は創業時にはなかった事業です。ある石油会社の方がバイオジェット燃料になる原料を探していて、ミドリムシの油を調べたのが出発点になり、共同研究が実現しました。「持続可能な炭素循環型社会をつくる」という思いが土台にあって、燃料分野が食品に続いて大きな幹に育っていきました。

さまざまな事業展開や成長過程を体感できるのはとても面白くて、ベンチャー企業ならではと思いますね。

2014年6月のいすゞ自動車との共同研究の発表会には多くのメディアが殺到したそうですね。

ミドリムシの燃料への活用、それが大手のいすゞさんとの共同研究だということで、社会的な関心が非常に高かったと思います。記者発表にはありがたいことに新聞やテレビなど54媒体にお集まりいただきました。当社では共同研究や提携も増えてきました。

他社との協業案件では、お互いに最大限の効果が得られることを目的に掲げて広報も活動しています。

生産工場・研究施設のある石垣島では2012年から社会貢献活動として「みーふぁいゆープロジェクト」に取り組んでいます。

「みーふぁいゆープロジェクト」は社会貢献活動として企業側が提供するという視点だけではなく、日頃からお世話になっている石垣島の皆さんと一緒になって地域を盛り上げていきたいという取り組みになっています。小・中学校での理科実験教室や島内プロバスケットボール大会「ユーグレナカップ」の開催などを行っています。

広報の課題と今後の展開などを教えてください。

企業としてもそうですが、ミドリムシの可能性について皆様により一層、知っていただけるような取り組みをしていかなければなりません。

現在、力を入れているのはインナーブランディングです。今年の広報活動のひとつの軸です。昨年末に東証一部に市場変更をし、また社員も増える中で、これまで以上に飛躍するためには当社の基礎となる足場を今一度見つめて強くする必要があると考えました。

先日は広報主導で、当社で働くことについて全社で話し合う場を設けました。これは企業理念に向かって社員一人ひとりがどう考え、主体的に動けばいいのか、そのための行動指針を刷新するために実施しました。新しい行動指針は今年4月に完成する予定です。

経営トップだけでなく、会社の一人ひとりが広報パーソンだと考えています。今後事業の拡大に伴い会社の仲間やグループ会社も増えていくと思いますが、そのためにも企業理念やビジョンを今一度しっかりと見つめて社内で共有していけるようにしたいと考えています。

<株式会社ユーグレナ> 資本金:48億1069万1000円 設立:2005年8月9日
企業・団体の約100社100人の広報担当者が集う「若手広報担当者の会」(若担会)の2014年度会長も務めている安間さん。定期的に勉強会や講演会を開き、広報のスキルアップに努めている。「『若担会』で培った人脈など横の連携や学びも日々の広報活動にも活きています」と話す。