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ケーススタディー: 高知県地産外商公社様
 (2014年8月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。
※文章や画像の転載・転用はご遠慮ください。

一般財団法人
高知県地産外商公社
プロモーション戦略局局長
小笠原慶二氏

高知県の異色キャラ、「いごっそう」なプロモーション
「カツオ人間が出るのは高知のため
そこはぶれずにやってきました」
自治体PR花盛りである。PRに欠かせないのがご当地キャラ。メディア露出が増えればイベントにも引っ張りだこだ。そんな中、メディアに自身を売り込むことはせず、SNSの投稿に励む異色キャラがいる。高知県地産外商公社のカツオ人間。「いごっそう」(頑固者)なのか、「戦略」なのか。
カツオ人間は「ゆるキャラではない」と公言されています。カツオ人間のミッションとは何ですか?

■カツオ人間・・・ふんどしをはいた人間の体にぶつ切りになったカツオの頭。地元の菓子・土産の卸会社が2007年に作ったキャラクターだが、そのインパクトを買われ2011年、2012年「まるごと高知」のPR大使に。2013年から高知県地産外商公社特命課長。SNSを中心に活動し県のPRキャラクター的な存在になっている。フェイスブックの「いいね!」はポスト1件当たり平均2000を超える。

カツオ人間がコミュニケーションしたい人は決まっています。ある人をカツオ人間は探しています。それが誰かといえば、高知県を出て行った人。彼らこそが高知をよく知っているので、どんどん高知県をPRしてくれるからです。

カツオ人間は直接PRしません。カツオ人間が出てきたら、「高知の何かを伝えに来たのかな」と思ってもらえばそれでいいんです。

カツオ人間がニラを持って出てきたとしましょう。高知県以外の人には緑の葉っぱを手にしてるくらいに思うかもしれませんが、高知県出身者はわかっています。「ニラは高知が日本一の生産地だよ。めっちゃおいしいんだ。にら塩焼きそばが有名な香南市を知ってるかい」。こんな感じでガンガン畳み掛けてくるのが高知県人なのです。

カツオ人間は、生まれた土地を愛おしむローカルマインドとそこで過ごした時間を懐かしむノスタルジーマインドに火をつけるだけでいいんです。SNSには心にささる風景やソウルフードを出すようにしています。あとは高知県出身者の彼らが県外の人に熱く伝えてくれます。

カツオ人間はコミュニケーションツールであり、人と人をつなぐメディアなので、こちらからテレビのワイドショーやバラエティー番組に出て行く必要がないのです。そこはぶれないでやってきました。

ご当地キャラによるPRが盛んです。出だしは好調でも後が続かず苦戦するケースも少なくありません。

有名なゆるキャラのSNSを見ていると、何のためにやっているのだろうと思うことがあります。フェイスブックでたくさんのページ「いいね!」があるのに、そのポスト(投稿)に対して「いいね!」がほんの少ししか付いていないんですね。

キャラクターの役割を理解されないままに「名前は出てこないけど見たことがある」で終わってしまうことも多いんじゃないかと思います。

ページ「いいね!」が増え、それがキャラの価値や人気の指標とみなされるという風潮がありますが、我々は違う道を行きます。

今のゆるキャラは個性を失っているように見えますね。みんなが我も我もと派手ないでたちに極端なキャラ設定をしていますが、そんな派手なキャラだらけの中にいたら、かえって目立たないですよね。誰が誰だか区別がつかない、そんな状態じゃないでしょうか。かえってシンプルな白シャツが目立ったりして。

ゆるキャラが今どんどん「数の勝負」になってきています。テレビやCMの露出が増えたところでキャラの鮮度はガタ落ちではないでしょうか。白シャツの中で赤シャツを着るのがマーケティングですし、PRなのだと思います。「他のキャラクターとは一緒に出ません」とお断りしているのはそういう理由からなのです。

自治体プロモーションがうまくいくための秘訣は何でしょうか?

KPI(重要業績評価指標)をはっきり決めることでしょうか。それと目的と手段を混同してしまってはいけません。カツオ人間もあくまでも高知県の人、物を伝えるための手段でしかありません。

例えば仕事で新宿に行くとします。とりあえず新宿駅に行くことが目的です。いろんな電車があり車でも行けるとなると今度は行き方が問題になり、どうやって行くか延々議論しているということがあったりしますよね。

行き方を何通りも考えると何だか仕事をした気になりますが、新宿に行かなければ何にもなりません。そこまでいかずに終わってしまっていることが多いのではないでしょうか。

カツオ人間の企画は当初、県に大反対されたとか。

「前例にない」と反対に遭いました。「一体これは何ですか。これをどうするのですか」と。でもカツオ人間のフォルムを見てください。そもそもキャラとしてのポテンシャルは高いですよ。

地元のお菓子・土産物の卸会社さんが2007年に2次元のグッズを作ったのが始まりで、着ぐるみを作ってみたら、平面よりもかわいくなってしまったと。偶然目にした時から、何かに使えないだろうかとずうっと考えていました。

2011年に高知県のアンテナショップ「まるごと高知」1周年のPR大使にしたところ、抜群の集客力がありました。でも1カ月ほど活動してバサッとやめました。それからカツオ人間は行方不明になって……。

それはどうしてですか?

見ている人はすぐ飽きるだろうなと思いました。「まるごと高知」の2周年でまた戻ってきましたが、そうしたらより盛り上がりました。そしてまたバサッと……。活動せずに何カ月もほったらかしにするんです。新聞の4コマ漫画ではないんだから、毎日毎日やる必要がないじゃないですか。お互いの都合なんです。

我々はやりたい時だけ活動すればいいし、見る側も見たい時だけ見てくれればいいわけです。1度だけのべつ幕なしにカツオ人間にポストを上げさせたことがあるのですが、それはそれで盛り上がるんですけれど、やめたらやめたで誰も困らないよねと(笑)。

SNSではカツオ人間の不満を隠さないところや怠け心といった「人間臭さ」も好評ですね。

カツオ人間は元々そんなに真面目なやつではないから、毎日毎日やっていたら「やらされ感」が募って、嫌になってしまうのではないかな。ちょいちょい言うわけですよ。「局長に文句言われてたまらん」なんてね。

彼は30代で民間のサラリーマンをしています。彼にしてみれば「いつだってやめてやるよ」と思っているはずです。でも、ほめられたら喜びますし、怒られたらへこみます。こういった「人間臭さ」や土佐人気質の「いごっそう」がキャラクターに出ているのかもしれません。

SNSに上げる写真撮影はどのように行っているのですか?

稲で巨大な絵を描くカツオ人間の
「田んぼアート」(2014年7月)

撮影は私とカツオ人間、カメラマン、アシスタントの4人で行っています。

7月に長岡郡本山町の棚田に稲で描いた「田んぼアート」をNHK高知放送局のキャスターとカツオ人間と見に行きました。「田んぼアート」は地元の高知新聞をはじめ、全国紙では朝日新聞と読売新聞でも取りあげていただきました。全国紙の地方支局とのつながりは大事にしています。

イベントは基本、高知でしかやりません。東京ではアンテナショップの周年記念にしかカツオ人間は来ません。といいながら今年の4周年記念にはカツオ人間は1回も顔を出しませんでしたが(笑)。

カツオ人間が県内向けだとしたら、「高知家」プロモーションは県外へのメッセージということになるのでしょうか?

■「高知家」プロモーション・・・2013年6月から行われている高知県の魅力を全国に発信するキャンペーン。県全体を1つの大きな家族に例え、温かな県民性など様々な県の魅力をアピール。2年目の2014年は「高知県のええもん、ぜーんぶおすそわけやき。」をキーワードに高知県民が県外に向けて名所や特産品をおすそ分けしている。

「高知家」プロモーションは完全に県外向けですね。県外の人に高知のヒト、モノ、コトを伝えていくのが目的です。

昨年から始めてまずは高知を知ってもらい「高知家」をマスに対してリーチさせようと取り組みました。ウェブでの活動がメインです。高知県出身の広末涼子さんにもPVに出演していただき、そこにはもちろんカツオ人間を使いました。

そのPV公開で記者会見を開いたのですが、カツオ人間も「高知県が本気を出すらしい」と事前にSNSでティザー告知をガンガン打ちました。ものすごく盛り上がりました。今年はカツオ人間もどうもテンションが上がらないみたいですが。

2年目は「高知家」をさらに知ってもらいたい、高知県をもっと好きになってもらいたいと「おすそ分け」をキーワードにしています。

カツオ人間は「高知家」プロモーションと連動して、まだ撮り切っていませんが「高知のええもんおすそわけ」の「カツオ人間・ザ・ムービー」第2弾が10月に公開予定です。

「まるごと高知」が4周年を迎えました。

アンテナショップには約2000の商品があります。県外で物を売るためクオリティをどう高めるのか県内にフィードバックしています。

例えば、東京で売るためにはパッケージや成分表示をこうしたらどうかと県内の事業者に提案しています。テレビのキー局にも積極的にパイプを作って、多くの商品を紹介していただけるようにしています。

商品のプロモーションはカツオ人間とは真逆ですが、商品が売れるにはテレビで取りあげられることが一番です。テレビに出ることで商品の質が担保されているとみなされるからです。最近では「まるごと高知」で取り扱っている漬物の『ゆずがり』をテレビ番組で紹介していただき売れ行きがぐんと伸びました。通常の10倍以上にもなりました。

最後に、高知県地産外商公社の課題や次に目指すものはどんなことですか?

公社には3つの機能があります。1つ目は外商です。いかに高知の県産品や加工品を東京や首都圏の人に買ってもらうか、これは「高知家」プロモーションとも密接に関わっています。

次にアンテナショップの運営です。県民の皆様にプロモーションの成果や効果をディスクローズしながら進めていきます。

3つ目はテストマーケティングや商品開発で、公社は高知県にも事務所を置いており、担当者は県内を回り新しい商品を常に探しています。高知県の生産者と県外の消費者をつなぐ役割も担っています。

公社は県外に向けて開かれている“窓”です。“窓”としての役割を十分に果たしていきたいですね。その手段の1つとしてカツオ人間があり、彼が嫌になるまでは活動を続けていきたいと思っています。どこまで続くかわかりませんが。

<一般財団法人高知県地産外商公社> 設立:2009年8月3日
公社に転職する前は「ITとマーケティング業界を半々くらいで渡り歩いてきました」という小笠原さん。カツオ人間を初めて見た時、「とにかくそのポテンシャルの高さに目を付けました」と仕掛け人の慧眼が光る。