早朝新聞クリッピング 広報効果測定・報道分析

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ケーススタディー: 土木学会様 (2014年7月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。

公益社団法人 土木学会
100周年事業推進室室長補佐・社会コミュニケーション委員会委員
高橋薫氏
公益社団法人 土木学会
ダイバーシティ推進委員会副委員長
岡村美好氏(山梨大大学院)
公益社団法人 土木学会
社会コミュニケーション委員会幹事長
小松淳氏(日本工営)

土木学会、幅広い土木の魅力をどう掘り起こす?
100周年「一人ひとりが広報担当」
「ドボジョ」が追い風、働く女性 後押し
「山の神」を恐れトンネル内の工事現場に女性が入れなかったのも今は昔。「ドボジョ」の活躍の場が広がっている。「ドボジョ」とは土木系女性エンジニアのこと。国内有数の工学系団体である土木学会は今年100周年を迎える。新しい土木広報の取り組みが幅広い土木の魅力を“掘り起こす”。
気軽に土木を語れる場としてトークイベント「土木a la mode」を2013年から開いています。初回のテーマは「ドボジョ」でした。

高橋: その名も『ドボジョ!』という漫画があると知り、「ドボジョ」で何か仕掛けられないかと思っていました。

出版社に取材協力させてほしいと連絡しましたが連載期間の関係上かなわず……。取材には苦労されたそうで「2年早かったら」と編集の方も残念がっていました。

これで終わったらもったいない。少女漫画の読者という土木と縁遠いイメージがある層にアプローチできるのですから。そこで編集の方をお招きして『ドボジョ!』についてのお話をしていただきました。

主催は土木学会の社会コミュニケーション委員会ですが「ドボジョ」の歴史やデータなどを説明していただこうとダイバーシティ推進委員会にもお声掛けしました。

「ドボジョ」という言葉には耳にひっかかるような新鮮さがあります。「土木a la mode」の模様は日経MJさんで報じられました。これを機に「ドボジョ」がテレビでも取りあげられるようになりましたね。

そしてついに平成25年度の国土交通白書に「ドボジョ」が登場しました。ここまで急速な「ドボジョ」の広がりに私も驚いています。

土木の魅力を掘り起こすという取り組みでは「土木コレクション」が好評ですね。

「リアルドボジョ」も多く参加した土木学会のトークイベント「土木a la mode」

ある時、土木学会の図書館に手書きの図面があると言われて見に行きました。白手袋をしてそれを広げた時、思わず声を上げてしまいました。先人の誇りや緊張感が図面からあふれ出ていました。

この感動を会員だけでなく、この国に生活する人々に伝えなければいけないという使命感で始めたのが「土木コレクション」です。現在、「HANDS」「EYES」の2つのカテゴリーで全国巡回展を開催(http://dobokore.jsce.or.jp)しています。

土木学会は11月に創立100周年を迎えます。100周年広報ではどんな取り組みをされていますか?

『ドボジョ!』(講談社)の作者・松本小夢さんデザインのクリアファイル

土木学会100周年を知っていただくために、ピンバッジ、クリアファイルといった記念グッズを作りました。

会員様の手元に届く『土木学会誌』にグッズを同封して郵送しました。「このピンバッジは何?」「クリアファイルがかわいい」などと会員様、会員様のご家族、一般市民の皆様とのコミュニケーションのきっかけになればいいと考えています。ピンバッジをつけて各地のイベントに来場してくだされば、それだけで「土木を伝える広報パーソン」になっていただけます。

土木の魅力をひと言で表すことはとても難しく系統立てた広報戦略が必要ですが、私は大上段に振りかぶらなくていいと思っています。まずは「ドボジョ」でも「図面」でもいいんです。面白いと思ったものを自分の回りの人に話してほしい。そういう意味で「一人ひとりが広報担当」なのです。

「ドボジョ」という風もあって建設業界でも女性活用の機運が高まっています。岡村先生ご自身、山梨大工学部土木学科初の女子学生だとお聞きしました。

岡村: 入学してから先生に言われて初めて知りました。私よりも先生の方が驚かれたみたいです。

高校時代は理系クラスで、 ものづくりや建築に憧れがありました。土木がこれほど男社会だなんて思いませんでしたが……。

学生時代はさほど困ることはなかったのですが、就職となると違いました。30年以上も前で雇用機会均等法もなく、募集要項には「男子に限る」という記載も珍しくありませんでした。卒論を取った研究室に助手として残り、修士に進む中で研究生活がスタートしました。私はそれから苦労したというよりも苦しかったですね。

「苦しかった」とはどういうことでしょうか?

女性は結婚したら退職する、もしくはメインの働き手ではなくなる、そんな雰囲気が社会に根強くありました。昇進の面でそれを突きつけられます。努力して何とかなるなら頑張ればいいのですが、性別や年齢を理由に受け入れらないのは本当に苦しかったです。

博士号を取ったことと大学という枠から飛び出したことで大きく変わりました。「土木技術者女性の会」など外部の活動が私を支えてくれました。

私の専門は元々、土木の構造工学とか構造力学という分野でしたがユニバーサルデザインにチェンジしました。ユニバーサルデザインに出会ったことで女性や障害者といったマイノリティーの置かれている立場を共感をもって理解することができました。

土木学会ではダイバーシティ推進フォーラムを開いたり女性向けのガイドを出版したりしています。

土木学会創立百周年記念出版の女性土木技術者のためのキャリアガイド『継続は力なり』

女性の労働力率は結婚や出産期に当たる年代に低下し、育児などが落ち着いた頃に再上昇するというM字カーブを描くことで知られています。これは個人の問題ではなく企業や日本の社会全体の問題であるという認識をもってほしいと思います。

ユニバーサルデザインとも重なりますが、誰にも社会に参加する権利があり、社会に参加する機会も同じように与えられるべきなのです。女性だけでなく誰もが働き続けることのできる環境を整えることが急務だと考えます。

土木学会100周年記念として出版された『継続は力なり』は働き続ける女性の背中を押すことが一番の目的です。

多様な分野、経歴の女性土木技術者が仕事における最大の危機をどう乗り越えたのかなど、ロールモデルの情報を提供するだけでなく、アンケートの声やQ&Aを盛り込んだキャリアガイドになっています。すでにキャリアをスタートさせた女性土木技術者、これから土木技術者になることを目指す女子学生、彼女たちを支援する職場や学校でも活用していただきたいと思います。

「ドボジョ」が脚光を浴びるようになって土木のイメージが変わってきました。社会基盤マネジメントでは、これから女性の視点が生かされる場面も多くなってきます。単にダムや道路などをつくるというだけではなく、それがみんなの幸せにつながるのか、多くの人に受け入れてもらうにはどうすればいいかを考えることのできる技術者が求められているのではないでしょうか。


※土木学会「女性会員数の動向」より

土木学会では昨年「土木広報アクションプラン」の最終報告書をまとめました。「伝える」から「伝わる」へ、とのタイトルがあります。

小松: 全国巡回展となる土木コレクションの展示会場ではすべてアンケートを取り、答えるとクリアファイルがもらえるという趣向を加えました。

クリアファイルは地域ごとに8種類あります。美しく繊細な図面などが描かれており大変好評です。スタンプラリーのように各地を回って収集する方もいらっしゃると聞きます。

アンケートは市民の声を測定するための大変有効な手段なのです。例えば、ある現場見学会で何万人達成したというニュースが報じられたとします。その来場者がどのような属性だったのか、広報の意図はどこまで伝わったのかなど広報効果の検証がほとんど行われてきませんでした。

一方的に「伝える」ということに主眼を置いた広報から、受け手である一般市民の立場に立ち「伝わる」広報へと変わるための考え方や手段、手法をまとめたのがアクションプランです。

アクションプランを実践するために広報は何から手を付けたらいいのでしょうか?

7月に国土交通省四国地方整備局の広報担当者にアクションプランとは何か、どう実践していくべきかについて説明させていただきました。

中でも私が強調しているのは記録の取り方、残し方です。記録を残すことで広報効果測定の材料になりますし、他の地方や企業が類似のイベントを開く際の参考にもなります。SNSを通じ自らが情報発信する時代です。そのためには読ませる記事、見せる写真が欠かせません。

土木学会のHPでも画像をふんだんに使ってイベントを記録しています。イベント会場の全景から参加者の表情がわかるものまで「シーンに応じてロングショット、ミドルショット、アップショットを使い分けましょう」とアドバイスしています。

土木学会ではフェイスブックを活用し、一般市民の「土木ファン」を増やそうと取り組んでいます。今後の展開などお聞かせください。

土木学会員向け広報チラシ

土木広報でフェイスブックを薦めるのには理由があります。写真保存枚数に制限がないこと、インサイトという統計機能が充実しているので効果測定に利用できること、既存メディアとの連携が容易であることです。

2011年の試行後、口コミだけで登録を呼び掛けていましたが、2012年の『土木学会誌』5月号にチラシを同封してフェイスブックぺージを紹介しました。さらに有料広告の本格運用で飛躍的に「いいね!」の数が伸びたことで、達成が難しいと思われた当初目標の「いいね!」1万人を今年5月に達成することができました。

土木学会ではこの6月から「土木広報戦略委員会」を立ち上げ土木広報インフラ構築の検討を進めています。幅広い土木の魅力を一般市民、ひいては次世代の担い手にいかに伝えるか、産官学の力を結集して、2015年3月までに土木広報全般の先導役を担う新体制を具体化する予定です。

<公益社団法人 土木学会> 創立:1914年11月 会員数:38,737人
土木学会は「学術・技術の進歩への貢献」「社会への直接的貢献」「会員の交流と啓発」を3つの柱として様々な活動を展開。会員は教育・研究機関、建設業、建設コンサルタント、エネルギー関係、鉄道・道路関係、行政機関、地方自治体など多岐にわたる。