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ケーススタディー: 流山市様 (2014年5月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。

流山市
総合政策部 マーケティング課
メディアプロモーション広報官
河尻和佳子氏

流山市が仕掛ける“民間顔負け”のプロモーション
『恋届』に大反響、イベントも多彩
マーケティング駆使、憧れの街に
“民間顔負け”のプロモーションで人口増加につなげた千葉県流山市。話題の映画「百瀬、こっちを向いて。」のロケ地でもある。映画と連動して打ち出した、恋愛中の想いを受け付ける『恋届』が大きな反響を呼んだ。『恋届』は単なる話題作りではなくマーケティングの一手法。マーケティングこそ流山名産の白味淋のごとく、街づくりに欠かせない“調味料”だ。
『恋届』はネットからも受け付けできますが、窓口に足を運ぶ人も少なくないと聞きます。

【恋届】自分の名前、恋人もしくは恋人になってほしい人の名前、出会った場所と日時などを記入して流山市に届け出る。両想い、片想いに関わらず恋をしているという「想い」のみを受け付けるサービス(5月末終了)。

企画はいつから始めるのかが肝心で、スタートは2月14日のバレンタインデーに決めました。キャンペーンは5月30日までの期間限定です。

サイトからも受け付けているのでわざわざ市役所のマーケティング課まで来られ届け出る方も多くないと思っていましたが・・・蓋を開けてみると400件に届こうかという勢いで、10−20代が7、8割になりました。

訪れた方に話を聞いてみると半数以上が市外からで、北は岩手から南は大分まで、大阪から来られたカップルは『恋届』のためだけに来たとおっしゃっていました。

ツイッターやネットニュースを通じて広がり、行政にあまり馴染みのない若者層にも流山を知っていただきました。サイトへのアクセス数も約10万件ありました。予想をはるかに超える反響に驚いています。

『恋届』に込めた思いや狙いは何ですか?

一部メディアで「少子化対策」と取りあげられましたが、あくまでも映画のタイアップキャンペーンです。

映画「百瀬」は若者の恋をテーマにし、大半のロケを流山で行いました。流山がこれほど多く登場する映画は初めてで首都圏へのPR効果も期待でき、行政としても何か協同できないかと知恵を絞りました。

ただ、映画製作委員会と話を詰めていったのが1月で、『恋届』の実施まであまり期間がなく走りながら進めていきました。役所内でも色々と議論しましたね。反対されたというのではありません。

マーケティング課も設置から10年目になりますし、これまでのチャレンジングな取り組みへの理解はある、そんな素地があったのが大きかった。「映画とのタイアップで市のPRになる」と調整や説得に奔走しました。

映画をはじめフィルムコミッション事業が盛んです。

流山市では産業振興ではなく、PRという視点からフィルムコミッション事業に力を入れています。

流山市は都心に近いという利点があります。「百瀬」のロケ地の決め手となったのは、市内にある高校の屋上から広がる田園風景が監督のイメージとぴったりだったことと、そうした風景が都心からそれほど離れていないということだったと言います。

映画はクランクアップから公開までの期間がテレビドラマと比べて長く、PRも色々と考えられます。エンドロールに市の名前が載るだけではもったいない。映画・市の双方にメリットになり、もっと新しい切り口はないかと模索し出てきたアイデアが『恋届』でした。

さらに撮影にもご協力いただいた流鉄さんにもお声掛けして実現したのが『恋とどけシート』です。現在5種類ある電車の全編成に意匠を凝らした2人掛けシートを設置しました。それが新聞などの露出にもつながりました。流鉄さんはロケ地マップが付いた『一日フリー乗車券』も販売され、売れ行きも好調だったと聞いています。

流山市だけでなく地元企業を巻き込みPRの幅が広がりました。今回の映画タイアッププロモーションは効果が大きく、流山発の好事例として全国に発信できたと自負しています。

流山市は全国に先駆けてマーケティング課を設置しました。その理由は?

※『流山市シティセールスプラン』から

マーケティング課の設置は、つくばエクスプレスの開業を1年後に控えた平成16年です。

背景にはどの自治体も頭を悩ませる少子高齢化と人口の減少の問題があります。流山市には主だった観光資源も大企業立地もなく、来るべき高齢化社会を支える住民ービスを維持するために発展し続けるまちづくりの仕組みをつくる必要がありました。

流山市の強みは首都圏のベッドタウンとして発展してきたことだと考え「都心から一番近い森のまち」というブランドイメージを打ち出して、首都圏に住む共働き子育て世代(DEWKS)にターゲットを明確に定め、定住人口を増やすことにしました。

マーケティング課は、共働き子育て世代を中心に人口を増やすというミッションのもと行政にマーケティング手法を持ち込み、新しい発想や切り口でプロモーションやPRを展開してきました。

「プロモーションは「民間顔負け」とも呼ばれ注目されています。

都内の主要駅に貼り出した「母(父)になるなら流山市。」という交通広告があります。市内ではなく市外に出したのがポイントです。「子育てするなら流山」を印象づけるためには流山を知っていただかなければなりません。

広告代理店と何度もやりとりしながら、コピーやモデル探しについては、こだわりました。実際に首都圏から流山市に引っ越してこられた家族にモデルになってもらい、シンプルで分かりやすく「自分事」にしていただけるようなコピーにしました。

自治体にありがちな前のめりでなく「さりげない」メッセージ、そこが一番難しいですね。

自治体がターゲットを絞り込むケースはあまり聞きません。

※『流山市ホームページ』から作成(毎年4月1日時点)

自治体がターゲットを明確に設定すること自体、珍しいことかもしれません。定住人口やイベント開催などによる交流人口の増加、市の発展を続けるための仕組みづくりとして「絞り込む」マーケティングが有効だと考えています。何かを伝えたり届けたりするには対象の設定は不可欠なのではないでしょうか。

流山市の人口は17万人を突破しました。5年間で約1万人増え、年齢別に見ると30代のボリュームが一番高くなっています。他の自治体などから「何か秘策があるのか」とよく聞かれますが、10年をかけて少しずつ変化を積み上げてきた成果だと思います。

取り組みは現在、第1ステージを終えた段階でしょうか。マーケティングは常に結果が問われるのでイベントの来場者数やアンケートの声を公開し市の内外に「見える」ようにしています。

市外向けPRとして1年を通してイベントを開催されています。



流山おおたかの森駅一帯がガーデンに。今年も好評だった「流山グリーンフェスティバル」

共働き子育て世代の定住のためには、実際に流山を訪れ、流山を知っていただくきっかけが必要です。そのためのコンテンツとして季節ごとにイベントを開催しています。都心へのアクセス面からも流山おおたかの森駅周辺で多く行っています。

新緑の美しい5月は「流山グリーンフェスティバル」、8月には子育て中の親も屋外でおソト飲みができる「森のナイトカフェ」、10月は親子学び体験、クリスマス時期には3Dプロジェクションマッピング映像ショーを企画しました。昨年は年間計12万人以上が訪れ、その約半数が市外からの来場者になりました。

イベントによるさらなる波及効果を狙い様々な企業とタイアップも図っています。流山市だけでなく企業側もPRできるWin-Winの関係を築いていきたいと思っています。

秘書広報課でも情報発信やメディア対応をしていますが、広報・PR業務をどのように分担しているのですか?

業務分担は定例の記者会見や市の広報誌といった市内向け広報は秘書広報課、シティセールスにつながる市外へのPR業務はマーケティング課と分けています。

リリース作りにはこだわっています。担当課のリリース案の体裁を整える程度で終わりではなく、情報を媒体によって加工するなど必ずひと手間加えます。例えばテレビ向けにはキャッチーなタイトルを付けるなど、問い合わせたくなるようなリリースにしようと常に心掛けています。

最後に、第2ステージの方向性などについて教えてください。

これまで流山の知名度とイメージを上げるため市外へのアピールに特化してきましたが、第2ステージでは市のブランド化に向けてのマーケティングに地道に取り組んでいきたいと思っています。

今一度、市内の魅力を掘り起こしたい。次世代にわたって住み続けてもらうためにも現在住んでいる方の満足度を上げていくことが大切です。結果として「住みたい街」「憧れの街」といったランキングにも食い込んでいければいいのですが……。

流山名産の白味淋が誕生200周年を迎え5月31日にワークショップ「森のみりんマルシェ」を地元のキッコーマンさんにもご協力をいただき実施しました。

自治体マーケティングに前例はありません。試行錯誤の連続ですが、一からつくり上げる喜びは何ものにも代え難いですね。常に新しい視点、チャレンジする姿勢で取り組んでいきます。

<千葉県流山市> 市制施行:昭和42年 人口:170,784人(平成26年5月1日現在)
マーケティング課員は計5人。うち3人が外部からの公募で採用された任期付き職員。民間企業での経験を生かし市のPRを推進する河尻さん。「好評だったイベントを翌年も内容を変えずに行うのが通常の行政のスタイルかもしれません。でも私はその時々に合わせて中身を変えたい。変化により仕事に創造性が出てきます」