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ケーススタディー: 前田建設工業様 (2013年7月号掲載)

※数値等のデータは掲載当時のものです。

前田建設工業株式会社
総合企画部
広報グループ長
岩坂照之氏
前田建設工業株式会社
総合企画部
広報グループマネージャー
堂森宏三氏

前田建設工業「ファンタジー営業部」、“大真面目に遊んだ”10年
アニメの構造物いくらかかる?
独創的アイデアで異業種をつなぐ
アニメやゲームといった空想上の構造物をつくったらいくらかかるのか。そんな難題に取り組む前田建設工業「ファンタジー営業部」。2003年2月にスタートした人気ウェブコンテンツだ。建設業のPRから始まり企画は転がって……。活動10周年となった今春、舞台という形にまで発展した。空想といいながら大真面目に熱くなる面々。その熱が原動力となって異業種の企業と企業をつないでいく。
取り組みは舞台にまでなりましたね。

岩坂: 本当に予想もできませんでした。我々のやってきたことを役者の方が面白くかつ真面目に演じてくれました。『演劇ぶっく』で舞台の作・演出を手掛けられたヨーロッパ企画の上田誠さんと対談までさせていただきました。あまりに異業種なので大変盛り上がりまして。

現在、開催中の「サンダーバード博」への協力を含め、今や弊社の広報活動を超えて異業種とのコラボレーションによるコンテンツ提供が活動の中心になっています。

そもそも「ファンタジー営業部」のきっかけは?

岩坂: 建設会社の広報として、建設業界全体のイメージアップを図るために、どのようなことができるのか考えたのが最初のきっかけです。

私も含めて当時の若手が模索していく中で出てきたのがアニメに出てくる空想上の構造物をつくったらいくらでできるのかというアイデア。ホンダさんの『ASIMO』の前の型である『P3』という二足歩行ロボットがヒントになりました。こうして生み出されたのが2003年2月に始めた「マジンガーZ」の格納庫の話だったのです。

今考えても会社がよく許してくれたと思いますね。会社の看板を背負ってやるので、ステークホルダーの皆様に迷惑をかけないかどうか、その点はずいぶんと検討しました。

1年だけやらせてもらって結果が出なかったらやめますと自分たちで撤退ルールを決めて、コアメンバー5人で会社を説得しました。具体的には1年でホームページ(HP)のPVを倍にしますと。

「マジンガーZ」編が満を持してスタートしました。一気にPV数はアップしましたか?

岩坂: 半年ほど超低空飛行が続きまして。やっちゃったなと思いました。

ところがです。「『マジンガーZ』の格納庫の受注額が72億円」というのがアニメファンの目に止まり、それぞれ自分のHPで紹介してくださったんです。そこから数字がどんどん転がっていくんです。

そうして8月に有名なポータルサイト2つで同時に紹介された日にサーバーがパンクするほどの反響がありました。さらにYahoo!JAPANの「今日のおすすめ」にも掲載されて、メディアからの取材が相次ぐようになったのです。一時は「ファンタジー営業部」の取材対応だけで業務が終わった週もありましたね。

受注は多岐にわたります。テーマ選びの基準は?

「ファンタジー営業部」のトップ画面

岩坂: HPのPVを増やすことを目標にスタートしたので、コンテンツのターゲット層として、ITリテラシーが高く、サブカルチャーに関心のある40代男性をメーンとして想定しました。その上で、アニメの世界観を壊さないということを大事にしています。アニメファンの顧客満足度の追求ですね。

選ぶ際の条件は3つありまして、まずは当社の技術で何とか実現できそうであるということ。2点目は40代の男性に知名度が高いものということ。3点目は通常では発注がなさそうなもの、我々の目から見てもユニークな構造物であることです。

「このアニメの構造物は形が面白そうだ」と実際に検討してみたら、普通のビルと構造があまり変わらないのでボツにしたこともあります。構造物は我々のモチベーションも上がるようなものを選ぶようにしています。

第1弾は地下建造物でしたので、第2弾は地上建造物にしようと「銀河鉄道999」の発進用高架橋に決まりました。そうこうしているうちに、BtoB(企業間取引)企業でありながら一般の方から「ファンタジー営業部」宛にメールをいただくようになりました。

その中で若い世代の方から「『マジンガーZ』や『銀河鉄道999』というアニメをよく知らないので、僕たちにもわかるものをつくってほしい」と言われました。それで第3弾は当時販売中だった「グランツーリスモ4」のサーキット場になりました。

異業種とのコラボも広がっていきました。その転機となったのは?

岩坂: 2006年に国際レスキューシステム研究機構というNPOの代表をされている大学の先生から「レスキューロボットを一緒にやりませんか」と電話をいただきました。レスキューロボットというのは、地震が起きた時に倒壊した建物の中でいち早く生存者を確認するためのロボットです。

第1弾から第3弾まで、アニメにしてもゲームにしても元々知名度があったものを題材にしていたから話題になったわけです。ところが実在のロボットと建設会社がタッグを組んでアピールというだけでは話題を呼ぶのは難しい。

当時の広報グループ長が「建設業のPRにはならないかもしれないが、世の中のためになるものだから」と後押ししてくれたこともあり、設定を「ある大富豪が資金を出し、日本の企業が集まってレスキューロボットをつくる」という物語にして、移動用飛行機はANA総研さん、災害救助車はコマツさん、制服も必要だとオンワード樫山さんに協力をお願いして連載しました。

この第4弾は異業種との交流のきっかけになりましたし、「ファンタジー営業部」のターニングポイントになりました。

この第4弾の後には自動車技術会のデザイン部門委員会に招かれて講演をさせていただきました。そこではいち早くスマートシティの提案をしました。この第4弾を機に、アニメ以外で大真面目にアイデア出しができたのは大きかったですね。

第1・第2弾に加え「機動戦士ガンダム」編も書籍化されました。

コンテンツを再編集し書籍化。これまで3冊刊行。
「マジンガーZ」地下格納庫編は第36回星雲賞(ノンフィクション部門)を受賞

岩坂: 「ガンダム」のジャブロー基地を取りあげた際には、サンライズさんが運営する「GUNDAM.INFO」とコラボしました。

分量のある単行本になった理由は、週1回1年間のウェブ連載だったからです。休みなしで、今だから笑って言えますがうなされましてね。

いろんな分野まで攻めていきました。地球の肺に当たるアマゾンの奥地に基地を建設する必然性は何か、生物多様性など環境問題についても考察しました。「バイオスフィア」という巨大密閉空間の中の人工生態系の話も盛り込んで、あちこちに取材に行きました。

そのような中、突然取材がキャンセルになることもあり、仕方なく私がジオン軍のモビルスーツがトンネルを掘ったら……なんてエイヤッで書いた回もありますね。そういった回の方が受けがよかったりすると苦笑いです。

メディアへの働きかけは?

岩坂: PRはほとんどしていません。“大真面目な遊び的なもの”なのでリリースというのもおこがましくて。

「ファンタジー営業部」を始める時も社内告知すらせず、こそっと前田建設のホームページの片隅で始めたんです。それを「建設通信新聞」さんが見つけてくださりコラムで取りあげていただいたのが、最初の露出でした。

「ウェブとその周辺だけ盛り上げればいい」と思っていましたね。リリースを出してという通常の広報手法とは違います。私の中では割り切っています。完全に変化球を投げるみたいな。

ウェブで自然発生的に盛り上がってドーンとブレークした後は雪だるま式どころでない速度で大きくなっていく。これこそがネットの威力なんだと痛感しました。

コンテンツは長文のテキストが主体です。

岩坂: 予算を抑えるために自分たちで作っています。あまりウェブ技術などに詳しくなかったものですから……。外部ライターさんや広告代理店さんが書いているとお考えでしょうが、違うんです。半分以上が建設技術の話なので我々が書いてしまった方が早いという側面もあります。

「ファンタジー営業部」を始める前にウェブの本を読んで勉強しました。その中に書いてあった一番やってはいけないことが「テキスト長文」。それをやろうとしている我々は一体……と途方に暮れました。

「マジンガーZ」の世界観の使用を永井豪先生がOKしてくださったので、禁じ手と言われている長文でも内容は充実させる自信がありましたが、もうこれは勢いですよ。

ドミノ・ピザの月面店舗も話題になりました。

堂森: ドミノ・ピザさんの時は広告代理店さんが間に入ってのご依頼でもありましたので、業界紙にリリースを送り、ドミノ・ピザさんのHPでも動画をアップしました。

動画であればマスに見てもらえるのではないか、ということで前田建設の技術者がプレゼンしている様子をアップしました。業界紙に掲載された記事を見て、一般紙の記者さんからも問い合わせがあり、結果的にさまざな媒体で大きく報道されました。

今後の展開などをお聞かせください。

岩坂: 他の企業からのニーズがあるなら今後もお手伝いしたいと思っています。時々、PRなのか創作活動なのかわからなくなりますが、建設業の技術者だからこんな見方ができるという、そこが面白いわけで建設をベースにした創作から外れないようにしたいですね。

堂森: 我々の企画力に目を付けてもらい、いろんなお話をいただけるようになりました。建設業のPRということを大事にしながらこれからもやらせていただければと思います。

<前田建設工業株式会社> 創業:1919年 資本金:234億5496万8254円(2013年3月末現在)
日本科学未来館で9月23日まで開催している「サンダーバード博」に「ファンタジー営業部」が登場。「サンダーバード」の「トレーシーアイランド」の実現を検討する際に作成したBIMデータ(3次元データ)をアトラクション用に再編集した。
■「ファンタジー営業部」はこちら