ケーススタディー: 航空自衛隊様 (2013年5月号掲載)
防衛省 航空自衛隊
航空幕僚監部
広報室 広報班
3等空佐
赤田賢司氏
組織や人、装備を親しみやすく
空自広報で人気、実力とも兼ね備えた中心的な存在で、各基地での航空祭や依頼を受けたイベントで展示飛行を行っているのがブルーインパルスです。
隊員たちにとってホームベースに戻れたことは大きな励みになっています。住民の方の「お帰り」という言葉は「ブルー」のパイロットたちにとって何よりもうれしいのではないかと思います。
大震災以降、国民の方々の自衛隊への視線が変わってきました。自衛隊について無関心だった方が、震災後に自衛隊の存在に気づき、自衛隊ってどんなところなのか興味を持つようになってきたように思います。
空自広報の中心的役割を担うブルーインパルス。航空自衛隊の存在を多くの人に知ってもらうために、航空祭や国民的なイベントなどで華麗な展示飛行を披露する。2年ぶりに松島基地へ戻った(航空自衛隊松島基地)
我々の任務だとか、心構えを伝えるいい機会ととらえています。
原作者で作家の有川浩さんが小説を書くに当たって、当時の広報室長がテーマを提供したことがきっかけです。我々の前の担当たちが取材に協力し小説が出来上がっています。この本の端々に我々の考え方や思いが込められています。
広報室は広報班と報道班に分かれています。
広報班が民間企業でいうところの宣伝部門なら、「守りの報道班」と呼ばれるように、報道班が民間の広報に当たり、危機管理やそれぞれの事案の報道対応を行っています。
毎週1回、空自トップである航空幕僚長が定例会見をしますが、発表用の資料作りも報道班の大きな仕事です。毎日の新聞記事のクリッピングもしています。
私が属しているのは広報班で、テレビや小説などへの売り込みやメディアの取材対応、浜松広報館の展示物の整備やホームページの運営などが主な業務となります。
航空自衛隊の組織
意外に思われるかもしれませんが、我々はテレビや雑誌などのメディアに対し、積極的に売り込みをかけています。
自衛隊は始めから、ビハインドというか、知られていない存在から始まっています。その知られていないところから知っていただくということが我々の大きな仕事になってきます。
こちらから自衛隊という“商品”を売り込んでいかなければなりません。民間企業の商品に当たるものが自衛隊では組織であったり装備であったり、そこで働く隊員であったりするわけです。
広報室の入り口のポップなウェルカムボードに気づかれましたか。これ1つでも自衛隊のイメージを変えられるのではと思い設置しました。
戦闘機や戦車、艦艇……。それだけだと一般の国民は目を向けてはくれないと思うんですね。まずは空自がどんな組織であるか、親しみやすくお伝えすることが大切なのです。
取材対応も「来る者は拒まず」です。「空飛ぶ広報室」にも描かれていますが、空自はすぐ飛びつくので「勇猛果敢、支離滅裂」と言われます。空自だけでなく、陸自はじっくり練り上げた企画が持ち味ですし、海自は現在ヒット中のアニメの劇場版「名探偵コナン」の製作に全面協力しています。
ただ、戦闘機の扱いでも茶化すようなもの、我々の存在意義がなくなるようなものは別ですが、それ以外の取材は積極的に受けるようにしています。内容を正確に、誠実に、さらに適時、適切に伝えることを心掛けています。
民間企業と違い、広報にかけられる予算がありません。パブリシティというところからスタートします。スポットCMは打てないけど、番組に協力すればいいという考えです。
報道だとどうしても見る人も身構えてしまい、我々の意図が必ずしも伝わらない。青少年や主婦・女性層にもメッセージを届かせたいとすると、テレビならドラマやバラエティーでの露出が効果的です。
震災以降、自衛隊に関心を持ってもらえるようになったのは“いい風”です。そうした時流に乗っていきたいと思います。
その一方で、自衛隊の存在についてよく思われない方についても我々は目を向けていかなければなりません。なぜなら、反感を持たれる方も我々が守るべき国民だからです。
上空を飛ぶ飛行機を「うるさい」と思われる方にも、ぜひ我々の仕事を知ってもらいたいと思います。知ってもらうと違ってくるはずです。すべての国民に向けて地道に自衛隊を知ってもらう努力を重ねていきたい。
空幕広報室は直接、住民の皆さまにアプローチできません。各基地の広報班が航空祭や納涼祭といったイベントや毎日の基地見学などを通じ、地元への理解を深める取り組みをしています。
組織として人の入れ替えは必要なことで、広報室での勤務も2、3年で異動になります。人脈やノウハウは次へシェアしなければなりません。人との出会いは本当に財産ですよね。1つ1つの仕事がまた出会いであって、次の仕事を生むというか。そういった出会いを大切にしたいですね。
テレビ局の方が「○○さんに紹介されました。こんな企画があるんですが」「いいですね。ここをこう変えたらうち(空自)としてはやりやすいのですが」「それじゃ社内に持ち帰って検討します」と話がつながり、人脈が広がっていきます。広報官としてやりがいを感じています。