ケーススタディー: リクルート様(2012年2月号掲載)
リクルート 自動車カンパニー
カンパニーオフィサー
長尾吉祐氏
リクルート 自動車カンパニー
メディアプロデュース部
山本祐介氏
車の提供を通じて被災地復興を支援
長尾: 3.11の時、各企業のみなさんもおそらく事業所の状況や従業員の安否確認から始められたかと思います。カーセンサーの事業は、全国約1万2000の中古車販売店さんとの取り引きで行っているのですが、お客様が被災されているかをまず調査しました。やはりお店が被災したり、展示していた車が流されたりというお客様がいらっしゃいました。
山本: 東北地方では『カーセンサー東北版』を出していますが、3月は流通が途絶えてお届けできず、お客様が被災されているので4月の発行ができるのかという状況でした。被災の影響による掲載情報の減少が予想されたためです。
長尾: そこで私たちは3月の掲載料を頂かないということを決断しました。それがお客様への支援の第1弾でした。一方で、津波で車が流されていく映像を目の当たりにし、また、24万台くらいが津波で流されたという情報や、原発事故で確認が十分にできない福島を含めておよそ40万台が被災したという情報も徐々に集まってきました。
私たちは、東北は日常的に車の使用頻度が高い地域なので復興のために必ず車が必要になると考えました。同時に、全国のお客様や『カーセンサー』を利用いただいているユーザーさんからも何かできることはないかとの声が挙がっていたので、『カーセンサー』らしい支援ができないか、検討を始めました。
納車式の様子
長尾: プロジェクトに参加したのはNPO、日本財団、中古車販売店、車両検査機関、自動車業界団体・企業などです。買取業者の方と支援などの話をするうちに「利益が少ないので買い取りを断るが、整備すれば十分使用できる車がある」ということがわかってきました。
従来、そういう車は廃車にされるか海外に輸出されていましたが、それを東北への支援に役立てることができるのではないかと考え、車を集め始めました。提供する車は安心して使ってもらえるように検査・整備に一定の基準を設け、名義変更など車両登録に関する費用もプロジェクトが負担しました。
被災地の中古車ニーズはNPOや日本財団の協力で調査を行いました。集めた車は個人の方にも提供したかったのですが、プロジェクトが動き出した8月頃は避難所や仮設住宅に暮らしている方が多く、車を手にするにはまだ時間がかかると思われました。調査を進める中で、被災地を支援する団体(NPOなど)が緊急に車を必要としていることがわかり、そうした団体に提供することを決めました。
11年8月に第1号車を納車して以来、12年3月までに、58台を寄贈しました。この時期になると、ある一定の役割を終えて被災地を引き揚げるNPOもいますが、そこで役割を終えた車がまた別のNPOに提供されるような循環もできてきています。
被災地で活躍する提供車両
山本: 大変だったのは一番初めの仲間集めでした。私たちは車情報を扱っているのですが、実際に車を移動させたり販売したりする経験が少なく、車を集めるノウハウもよく知りませんでした。
初動では強い思いはあるけれどもどう進めたらよいかが課題でした。買取業者の方や陸送業者の方などに人づてで話を聞いていき、逆にご提案いただいたりしながら枠組みを作っていきました。
また、NPOにも様々な団体があり、それぞれに応じた書類が必要な一方で、どこも急を要していました。プロジェクトに参加してくれていた買取業者の仙台支店がすべてのケースに対応してくださり、寄贈を円滑に進めることができました。
多くの課題がある中で、かなりスピード感をもってプロジェクトを進めることができたのは、専門家の方々がしっかりバックアップしてくれたからだと思っています。
長尾: プロジェクトには多くの団体・企業が参加してくれましたが、さらにユーザーの方が協力できる取り組みとして7月から10月にかけてキャンペーンを実施しました。
中古車販売店を利用したユーザーの方が口コミを投稿するサイトがあるのですが、そこで被災地支援に賛同していただくと1人あたり1000円をカーセンサーが拠出するというものでした。合計7363名にご賛同いただいて、7台の中古の福祉車両を購入し、被災地の特別養護老人ホームなどに寄贈しました。
このキャンペーンによって、業者だけでなく1万人近いユーザーの方に支援の輪を広げることができたことは良かったと思います。
長尾: 発行したのは11年10月でした。支援金が支給され、仮設住宅での生活や仕事などで車が必要になってくる頃だったかと思います。被災地の販売店さんからは通常いただいている掲載料をいただかず、かつ、通常は販売物ですがこの号についてはフリーペーパーとして提供しました。3万部発行しましたが瞬く間になくなりました。
発行の際に意識したことは、被災地では車を取得する際の書類が自治体によって異なるなど、情報が非常に錯綜していたことでした。そこで我々スタッフが現地に足を運んで調査し、被災した車を買い替える際に必要な情報や、被災車両の税金免除・還付に関する申請書類等の情報も含めて提供したところ、非常に好評でした。
現在は支援金の支給などもあって、被災地の中古車ニーズはだいぶ落ち着いてきていますが、復興にはまだ時間がかかると思います。あと2年くらいは何らかの形で支援を続けて行きたいと考えています。