ケーススタディー: ヤマトホールディングス様
(2011年7月号掲載)
宅急便1個につき10円の寄付を決定
ヤマト運輸の全国紙換算値の推移
6年前、ヤマト運輸がホールディングス(HD)体制に移行した際、グループ広報を強化するためにこの部署が設けられました。広報、宣伝、営業が独立した活動を行っている企業が多いですが、当社はあまり広報という概念に縛られず、ヤマト運輸の広報、宣伝等と密にコミュニケーションをとりながら活動しています。
グループ全体で行っている取り組みはHDが、事業会社のサービスや独自のCSR活動などに関することは事業会社が担当するというような大まかな区分はありますが、実際は会議を通じて、どのような形で広報をしていくのがよいかを、事業会社や担当の垣根を越えて話し合っています。
ヤマト運輸の広報、宣伝と、HDの広報担当者が集まる会議は週に1〜2回、各事業会社の広報担当の全体会議は月1回です。自分たちの持っている情報を全て出して「見える化」し、組み合わせやストーリーについて議論したり、テーマごとに情報発信の方法論などを決めています。
私たちが発信したい情報の多くは各事業会社の現場にあります。各担当がそれらをなるべく多く発掘して「見える化」し、情報発信の方法を考えることによって、情報の価値は何倍にも高まります。そのような活動の結果が、今回の評価につながったのではないかと思います。
被災地を走る輸送車両
「救援物資輸送協力隊」の発端は、被災して避難所にいた社員たちの自発的な行動でした。
気仙沼市では当初、倉庫へ次々に運ばれてくる救援物資がある一方、倉庫管理の経験がなかったことから現場が大きく混乱し、避難所まで必要な物資が届かない状況になりました。そうした事実を知った現地のドライバーたちが行政に申し出て、救援物資の管理や配送のお手伝いを始めたのがきっかけです。
この話が本社に伝わってきたのが地震からおよそ1週間後、それを知ったヤマト運輸社長の木川は、社員が自発的に動いてくれたことを誇りに思い、全国から最大500人の人員と車両200台を救援物資輸送協力隊として派遣することを決め、3月23日にリリースを発信しました。
救援物資輸送協力隊の活動が始まり、3月末に社長が現地を視察しました。予想以上の甚大な被害を目の当たりにした社長は、協力隊の派遣だけでは足りないと判断し、検討した結果、社員からの賛同も得て「宅急便1個につき10円の寄付」を行うことを決定しました。
広報ではすぐに4月7日のリリースに向けて動き出しましたが、懸念していたこともありました。一つは、まだ津波の被害を受けて避難している方が大勢いらっしゃる中でリリースするのはタイミングが早過ぎないかということ、もう一つは「1個10円の寄付」がマーケティング手法だと誤解されないかということでした。
私たちには宅配便事業を育ててくれた農業や水産業への恩返しとして、その再生を支援したいという強い意志がありました。ポリシーのある支援をマーケティング手法と捉えられてしまうのは本意ではありません。そうした誤解を生まないために、リリースの文章には、一言一句、細心の注意を払いました。
4月11日には新聞広告を出しましたが、これも支援活動の真意を一人でも多くの方に知っていただくもので、プロモーションではありません。広告の「宅急便ひとつに、希望をひとつ入れて。」というコピーは復興支援におけるグループ全体の真意を伝える言葉として、現在も車両や名刺、支援活動の状況を伝えるホームページやニュースレター等に載せています。
自衛隊と作業するヤマトグループ社員
一企業の寄付の話題なので、大きな露出は期待していませんでした。翌日の記事は小さなベタ記事が多かったです。真意の伝え方としてリリースの他に「トップが語る」ことを選びました。
リリース後は雑誌や新聞のインタビューなどを通じて情報を発信しました。それによって支援活動についての記事が増えたように感じます。特に社説や企画記事の中に取りあげられる機会が増えたのが良かったです。新聞は延べ約100紙、ウェブ約30件、テレビでは「カンブリア宮殿」や「ガイアの夜明け」でも取りあげられました。
テレビはむしろ救援物資輸送協力隊の取材が多かったです。ロジスティック作業の専門家ならではのノウハウを活かし、行政や自衛隊と協力しながらスムーズに物資を管理できた気仙沼での活動が注目を集めました。また、被災地での宅配便再開や、在宅しているかどうかわからない家に配達し続ける社員を追ったレポートも放送されました。
救援物資輸送協力隊の例があるように、現場の力が強いのが当社の特徴です。消費者に訴えかけると同時に、現場の社員が見て勇気づけられるような記事や広告にしようということを、広報も宣伝も大目標にしています。
また、グループの広報力強化のために、今年から記者向けにニュースレターの発行を始めました。リリースとは違った内容で、年間6本くらい出す予定です。その他、法人向けサービスを強化しようと今年1月にビジネスサイトを立ち上げましたが、成果は十分とは言えません。
今後は救援物資輸送や寄付の話題はもちろん、震災後の企業物流に貢献する各事業会社の取り組みや、物流インフラとして被災地の生活を支援し続ける現場の働きを、より深く知っていただくことがテーマになるかと思います。