ケーススタディー: キッコーマン様(2011年5月号掲載)
ブランドの認知度向上に一役
報道担当 三好糸衣氏
キッコーマン上海万博プロジェクト
料亭「紫 MURASAKI」
グループの経営理念でもある「食文化の国際交流」を進めること、中国でのキッコーマンブランドの存在感を高めることが出展の狙いでした。出展は二つで、一つは日本産業館のキッコーマンブース。コーポレート・スローガンでもある「おいしい記憶をつくりたい」をテーマに、映像とアイアン・アートワークによる展示を行いました。もう一つは本格的な料亭でした。
中国でも日本食に対する関心は高くなっていますが本格的な懐石料理を提供する店はまだ多くありません。万博という特別な機会に日本の食文化の粋を集めた最高レベルの「料亭」を出店し、本格的な懐石料理や伝統的な日本文化の特徴の一つである「おもてなし」を中国の方々に体験していただきたい。それにより日本の食文化への理解を深めていただき、中国と日本の食文化の交流を進展させたいとの考えから料亭を出店することにしました。
料亭「紫 MURASAKI」(以下「紫」)では、日本料理アカデミーにご協力をいただき、京都の名料亭3店から料理人を招聘して、旬の素材を活かした本格的な懐石料理を提供しました。また、仲居によるおもてなし、日本の伝統建築によったしつらいや日本庭園など、料亭全体で日本の食文化を理解していただくことにこだわりました。
プロジェクトの使命は、①料亭「紫」の認知を獲得する、②キッコーマンブランドへの認知・理解を獲得する、③中国の皆様に日本の食文化への関心を持ってもらう、④中国の皆様との「食文化の国際交流」を図ることでした。
開幕前は、料亭「紫」の認知度を上げることが活動の中心でした。キッコーマンブースは日本産業館に入場するとほぼ全員がお通りになるのですが、「紫」は完全予約制でしたので、まずは知ってもらうことが重要でした。10年2月に上海万博への出展に関するリリースを日本で、3月に万博出展及び「紫」の予約開始に関するリリースを日本と中国で発信しました。
また3月26日に、中国メディアと在中国の日本メディアに向けたプレス発表会を上海で行いました。料理人を派遣する京都の名料亭3店の親方や上海大学の学生を中心とした仲居たち、当社役員などが出席し、お抹茶とお菓子をふるまって、おもてなしの雰囲気を味わっていただく演出をしました。
4月には「紫」のスタッフや万博参加者を含む上海大学の学生120名に対し、衛生教育講座を開催し、その様子を取材していただきました。
上海万博プロジェクトの主な活動
5月1日の開幕から多数の日中メディアの取材が続き、多くのメディアに露出したことから、「紫」は上海を中心に多くの人に知られるようになりました。メディアの方に実際に「紫」を見ていただいたり、試食していただいたりして、「紫」を舞台にフェイス・トゥ・フェイスの交流を深めました。
開幕してしばらくすると取材もだいぶ落ち着いたので、「紫」のお客様やメディア以外の方々との交流施策にも取り組みました。7月には中国の著名シェフ20数名を招いて、食の交流会「中日名厨交流会」を開催しました。8月には上海万博のボランティア代表者を「紫」に招き、仲居と交流する企画を行いました。また、上海在住の主婦を対象に開催した食文化体験セミナーでは、支配人が日本料理の盛りつけ方のコツや手まり寿司の作り方を紹介しました。
9月には、中国メディアを日本に誘致して工場などを見ていただくとともに経営陣へのインタビューの機会を設けるプレスツアーを組みました。また、万博の日本産業館のステージではゲームやイベントを行う「キッコーマンウィーク」を開催し、来場者に日本の食文化とキッコーマンしょうゆに親しんでいただきました。
閉幕が近づく10月には、学生が「紫」の仲居や厨房スタッフとして参加し、それをきっかけに衛生教育講座を共同で開催するなど多大な協力をしていただいた上海大学に「キッコーマン“紫 MURASAKI”基金」を創設することを発表しました。上海万博出展を記念し、日中の架け橋となる人材の育成を支援し、キッコーマンの経営理念である「食文化の国際交流」の推進を図ることを創設目的としています。
その後、閉幕に際してお礼のリリースを発信し、万博を舞台にしたPR活動は終了しましたが、「紫」とキッコーマンブランドを一緒に紹介するようなタイアップ記事を料理雑誌に掲載するなど、万博後も余韻を残した広報活動を展開しました。
「紫」のメニューは3000元(約4万円)のコースだけで、上海万博で最も高価格な飲食店ということもあって、当初、メディアの関心は価格に集中しました。メディア対応で留意したのは「3000元」がネガティブにとらえられないようにすることでした。
料亭は料理だけでなく、しつらい、日本庭園、おもてなしなどトータルのサービスを楽しむ場所であることを理解していただくため、試食会や交流イベントなどメディアの方が「紫」を体験する機会を積極的に設けました。また、中国向けの資料やリリースを作成する際に、「仲居」など中国語にない言葉もあったため、説明を添えるなどわかりやすく伝わるように気をつかいました。
様々な施策を行った結果、メディア露出件数は中国944件、日本240件(10年12月9日時点)となりました。多数の報道によって「紫」は万博の中で最も高い評価と知名度を得た飲食店となり、料亭の認知をきっかけに運営母体としてのキッコーマンブランドの認知向上も進みました。
しかし、中国での販売は欧米に比べるとまだ少なく、キッコーマンブランドの認知向上・理解促進への活動は今後も引き続き必要だと考えています。